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戦国スローライフで楽しみます。
多くの人の手を借りてだが、七夕を楽しむことができた。 直政の書いた短冊への願い事は気恥ずかしいものがあるが、直政なりに自分を気遣ってくれたのかと思いたい。 …思うようにしたい。 でなければ、あんな恥ずかしい言葉を平然と書けるわけがないのだ。 「が笑顔でいられるように」 いつものあなたならば、そこは家康様か、お義母様だろうに!とツッコミたくなったが。 折角の厚意を無駄にするのも悪いので、その辺はありがたく受け取ろう。 【6】 前々から自分がいる戦国時代が、歴史で習うような戦国時代とは様子が違うなと感じていた。 どちらかと言えばゲームで語られるような世界に近いかもしれないと。 実際の戦国時代ならば、のような女性は大問題になるだろう。 あの時代の女性達は今の自分とはかけ離れた生活をしていたはずだ。 まぁだが、そんな事は自身はどうにもできないので、目標?としている戦国ライフを楽しむ事にしている。 「色々思うのですが、直政さんってお嫁さんいないの?許婚とかさ」 「…何を突然…」 今日もいい天気だなぁとのんびり縁側で寛いでいた。 お茶と煎餅を用意して、以前は考えなかったなんてことない日常が、ここでは平和なんだなと思わずにいられなかった。 そのの隣に、今日は休みなのか、暇なのかわからぬがごく自然に直政も腰を下ろしていた。 「普通だよ、普通。私のいた時代では別に結婚せずともそんなにうるさく言われないけど。 この時代は色々大変なんじゃないかなぁ?って自由恋愛より親が決めたとか上司が決めた相手との結婚が普通なんでしょ?」 「………」 そう思うと現代人に比べてお手軽に結婚相手が見つかっていいじゃないかと思えてしまうが。 実際、大名レベルの結婚となれば女性は相手国への服従、人質の為の道具で嫁ぐ政略結婚が当たり前のようだ。 稀に男性からの一目惚れと言う形で迎え入れられることはあるらしいが、の知っているような恋愛とは違う女性の自由はないものが多い。 だが、今隣にいる直政は見たところ奥さんがいるようには見えない。 若くして奥さんがいても普通なのだろう? 「あれ?どうしたの?直政さん、黙ってさ」 「…いや…」 「あ!すでに別の屋敷とかにいるとか?私まだ紹介されていないとか? それとも、私が居ついたことで、奥さんとひと悶着遭って別居中とか!?」 家康の頼みと言うか命令では井伊家が引き取っているのだが。 それを奥方が気に入らないとか、変に勘ぐって夫婦仲に亀裂が生じたと言うならば申し訳ない。 今すぐにでも奥方に事情を説明し謝罪するつもりだが。 「実家に帰らせていただきます!とか言われた?言われたならば一緒に迎えに行ってもいいよ。土下座でもして奥さんに誠意見せて謝るから、私!」 「……いつも思うが、お前のその発想はどこから来るんだ?」 「一般的だと思うけど?」 「……思わん」 直政は呆れたように嘆息する。 「あれ?」 「好き勝手言ってくれて申し訳ないが、俺には嫁も許婚もいない」 「は?」 「独り身で悪かったな」 若干拗ねていないか?とこれは珍しいものを見たと言わんばかりの直政の態度には口元を緩めそうになるが、本人に気づかれると不味いので我慢する。 「わ、悪いだなんて思っていないです。私の知っている戦国時代と少々事情が違うようなので…はい」 「そうなのか?」 は頷く。 この先の歴史の全てを家康を始め関係者に話したわけではない。 家康が天下統一しますよ。なんて気軽に言えるわけでもないので。 もし言ったところで、この先まったく別の道に進んでしまう可能性もあるだろうから。 「女性の地位ってのが…思ったほど低くないのでそうなのかな?って」 「ほう」 「政略結婚に関しては普通にあるでしょうけど。なんとなく町中を歩いてみてそう感じたんですよね」 苦労がないとは言えないだろうが。 「いくら家康様の命令とはいえ、私の自由が高すぎるんですよね」 今更と言ってしまえばそれまでだが。 武家の娘ほど家に縛られることはなく自由にやっている。 恐らくその家康の娘よりもだ。 (まぁ実際家康様の娘ならば、他所へ嫁いでもいいようにきっちり勉強しているんでしょうけどね) 自分は政略結婚の重要な道具になりそうな存在ではないので、家康に多めに見てもらえているのだろう。 本来ならば家臣の一人に預けると言うよりはもっと低い地位で強制的に働かされても可笑しくないのだ。 「とりあえず…直政さんに夫婦問題が起こっているわけじゃないなら良かったです」 「わかってもらえて何よりだ」 何がと言いたくなるが、深く追求する内容ではないようだ。 (だけど、良かった…奥さんいないって言われて) は胸を撫で下ろした。 「……は?」 「どうした?」 「いえ、なんでもないです」 は慌ててかぶりを振る。 同時に、何故急に安堵したのだと自問した。 (なんで?何が良かったっての!?別に元々直政さんに奥さんいてもいなくても関係ないじゃん) 自分が安堵する理由がわからなかった。 わからなかった。 本当に? そう考えてしまうほど自分が鈍くないはずだ。 (気づきたくないなぁ…安直すぎないか?私) ちらりと隣にいる男を様子見る。 の気持ちなど知りもしないで、珍しくのんびりお茶を飲んでいる。 (見た目は悪くない。悪くないんだよ。でも、どこか残念なイケメンだって思ってじゃん、私) ほぼ一方的に直政に対し失礼な事を並べてしまう。 (あ〜でも…でもなぁ…) 頭の固い、口煩いぶっちゃけおじいさんみたいじゃん、とまで言い切っていた癖に。 先日の七夕の件や、彼の前で泣き出してしまった件で大分直政に心を許していたみたいだ。 (じゃなきゃ、直政さんにお嫁さんがいてもどっちでもいいわけで…でもいなくて安心したのは…) 単純に考えればもう答えは一つだけで。 (その答えにたどり着くのは良くない気がする!) 他に理由はないか一生懸命考える。 恐らく他人が聞けば、その答えを避けようとする理由に首を傾げるだろう。 だが、の中では、避けたい理由があるのだ。 (戦国ライフを楽しむって決めたじゃん。だからその…) ある意味これも戦国ライフを楽しむための一つでもあってもいいはずなのだが。 は頑なにそれを拒否する。 「どうかしたのか?」 「別に…どうもしませんよ」 だから、その…。 ぐるぐると色々思考を回し辿り着いた答えが。 「そうなんです!」 「?」 「ちょっと安心しました」 「何に?」 「直政さんのお嫁さんに土下座せずにすんだと思って!!」 拳を握って力いっぱいそう答えた。 そうだ。 そうなんだよ、自分。 単純にそうならずに良かったねと。 だから安心したんだよ。 と言い聞かせた。 言われた直政の方は若干を見る目が辛辣で。 「それは良かったな」 と感情と言葉が合っていないような感じだった。 「一人とは珍しいですね。虎松」 いつもならばと二人で縁側にいるだろう息子に声をかけた直虎。 「義母上…」 は稲の所へ行くと出かけてしまったそうだ。 それでも割と長い時間二人で過ごしたのだろう名残があり。 2つ並んだ湯呑に直虎は微笑ましく感じてしまった。 「どうかしましたか?」 普段から己を追い込むような厳しさを持ち合わせている直政なのに、今の彼はどこか覇気が薄い。 まさか何か病にかかってしまったのだろうか?義母として心配になる。 「いえ…」 「具合が悪いなら隠さず言ってくださいね。手遅れがあっては困りますから」 心配する直虎に直政は首を横に振り小さく息を吐いた。 「自分に呆れただけです」 病ではないと直政は言い切る。 「自分に…とは?」 「義母上……どうやら俺は、あのどうしようもない馬鹿を好いているようです」 「どうしようもない馬鹿…え?は?え!?」 どうしようもない馬鹿と言う相手は誰と聞かずともの事だろうとすぐにわかった。 だから直虎にはそれを反対する気持ちはないし。 寧ろ息子に好きな子ができたんだと思う方が嬉しいのだが。 息子の方は照れとか苦悩とか、それらしき感情よりもその気持ちを悔いているような感じだ。 「えと……何があったのですか?」 あまり義母に自分の恋心など素直に話すことってないだろうなと思うが。 どうしても結婚したい相手がいて、悩み親に、と言うより当主に相談すると言うならばわかるのだが。 どうもそう言う風には感じない。 「ただの馬鹿の想像なんですが…すでに何か月もここで暮らしているのに、嫁の姿がないのは別居中なのかと」 「まぁ」 「しかも別居理由が自分の所為ならば、事情を説明して土下座もするからなどと言われて」 直政はそんな事はいつもの突飛なの発想だと思っていたが。 嫁がいたならば、そんな事を平気で行うのかこいつは。と呆れたものだ。 だが、どこかで別居中の嫁が自分にいると思われていたことに少しながら直政の気持ちに波が出たのだ。 「あくまであいつの想像なのに。そう思われていたことが無性に悔しくて…」 「まぁまぁ」 「自分が何故そう感じたのか、真面目に考えてみたら…」 「さんを好きになっていたと!」 直政は深くため息を吐いた。 「虎松?」 「義母上…大声で言わないでください」 「あ、すみません」 確かに恋心など多くの他人に聞かれたくはないだろう。 だが、井伊家に仕える者達ならば他言することはないだろうし、直政の味方だと思えるのだが。 直虎は姿勢を正し、優しく直政に言った。 「折角の想いですから。そう悪く言うのは良くないですよ」 「………」 「私としては虎松にその想いを大切にしてもらいたいです」 「………」 直政は答えない。 答えないが、その耳が少し赤く染まっている所を見れば…。 そう悪い反応ではないのかもしれない。 突然の両片想い万歳w
20/02/23
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