アイネクライネ。



ドリーム小説
直虎にとって、北条の姫、春との出会いは多くの意味で大変喜ばしいものだった。
春の話相手と仕事上の付き合いのような感じを当初はしたが。
直虎自身が、江戸でそんなに知り合いがいない為、知り合いが増えるのは嬉しい。
何より、今までずっと探していた相手、に再会できたのが嬉しい。

毎日とは行かないが、春の都合に合わせて北条の屋敷にお邪魔するのが、最近の楽しみだ。

だけど。
春の話し相手になるのが一番の目的なので、肝心のとはそんなに顔を合わせる事がない。
それが少し残念だった。





【6】




「まぁ!直虎さんも戦場に出られていたのですか?」

「はい。井伊家当主として…一応ですけど…」

女子二人が楽し気に話をしているが、中身が戦場の事など少し変わっている。
が、直虎も春も、自身が戦場を駆ける身だったので変わっているなどとは思わないのだろう。

「今は家督をとら、…直政に譲ったので、私は隠居の身ですけど」

うちの子は強いですよ。などと直虎はなんとなく息子自慢をしてしまう。

「家康様は直政様は勿論、他にも優秀な方々がお仕えしていますものね。武勇も色々聞いていますよ」

「はう〜どんな武勇でしょうか?少し心配です」

「まぁ、直虎さんってば」

直虎が春と会うようになってから、出会った当初は「春姫様」と呼んでいたが、今は「春さん」に変わった。
春の方も、「直虎さん」と呼んでくれる。
頼まれたからなどの、当初の理由は関係なく良好なようだ。

「失礼します」

昔から北条家の女中をしていたという多喜が入って来た。

「姫様、直虎様。お待たせしました」

多喜は皿を二つ、二人の前に並べた。

「白玉団子だそうです」

「きな粉をまぶしてあるんですね〜美味しそうです」

お月見で出すような小さな真ん丸な団子ではなく、少し大き目なものだった。
春と直虎は遠慮なくそれを食べる。

「はう〜中に餡子も入っています〜」

「出来立てみたいね。ほっこりするわ」

春にも直虎にも味は好評だった。

「それで、は?」

春は多喜に聞く。
これを作ったのは彼だろうから。

「少し前に出かけましたよ。もうすぐ味噌が無くなるとか言って」

多喜は二人に茶を淹れてくれた。

「そう」

がいないとわかると、少しだけ直虎は目を伏せた。
それも一瞬で、すぐに美味しいと白玉団子を頬張って。
多喜も下がり、再び二人きりになる。

「直虎さんは…にどうして会いたかったの?」

「へ?」

「直接聞くのは失礼かな?とは思ったんだけど。あと、はあの性格だから自分の事はほとんど話さないから、いくら聞いてもはぐらかすだろうなって」

「え、えと、あの」

もしかして春は機嫌を悪くしたのだろうか?
ここへ来る目的が春ではなく、だと思ったのだろうか?
確かに、当初はそうだったかもしれない。
に会うきっかけができたから。
だけど、今は春と居る時間は悪いものではないから。

「ごめんなさい。困らせるつもりはなかったのだけど、私、あなたがと話していた所を見ていたから」

それは、江戸に来て再会した時のことか。

「あの時、直虎さんはにずっと会いたかった。って言ってたの聞いていたから」

なんとなく恥ずかしくなった。
人に言われると本当恥ずかしいものだ。
だけど、春が茶化すような性格ではないのは、ここに来てからわかったつもりだ。

「それはですね…小田原で、私はさんに助けてもらったんです」

直虎は、と出会った日の事を春に話し始めた。
北条家を攻める秀吉の天下取りへの総仕上げとも呼べる戦。
息子が心配でつい、小田原まで来てしまったが、その息子にばれないようにと山の中を通ってみれば、獣用の罠に引っかかてしまった。
情けない気持ちでいっぱいだったが、その直虎を助けてくれたのがだった。

「だけど、あの時の私はさんにお礼をちゃんと言えないままで…」

「そんな事があったのね。ちっとも知らなかったわ」

本当自分の事は何も話さない人だと春は嘆息した。

「一応敵軍の陣地ですよ?そこにお友達がいるからと平然とさんは入っていって」

の友達?」

「えと、真田幸村さんです」

「あぁ。今でも文でやり取りはしているわね」

「あの時は、幸村さんも、さんの事を心配していました」

「だけど、本人はなんでもない顔をしているのよね」

「みたいですね」

二人して笑ってしまう。
あれからもう数か月経つ。

「春さんは、今の生活に慣れましたか?」

「えぇ、そうね…前が賑やかすぎるくらいだったけど…慣れた方かしら」

春が楽しそうならばそれで良い。

「直虎さんは?」

「はい?」

「江戸での生活。慣れたかしら?」

春自身は長年住んでいたのは小田原であったが、江戸も北条家の領地だった。
なので、そんなに不便だとか、慣れないなどという認識はなかったそうだ。
だが、直虎は違う。
生まれ育った場所から遠く離れたこの地へやって来たのだ。
直虎の方が大変だったろう?と春は言いたいらしい。

「私は…もし、都での暮らしになっていたら、慣れずに慌てていたかもしれません。けど、江戸は私にはちょうどいいくらいの過ごしやすい場所です」

もう一口、白玉団子を食べる。

「春さんともお知り合いになれましたし、こうして美味しいものも頂けるので、毎日楽しいです」

「私はついで。じゃないかしら?直虎さんはに会えればいいのでしょうし」

「そ、そんな事ないですよ〜春さん、意地悪言わないでください〜」

「うふふ。ごめんなさい」

春もまだ残していた白玉団子を食べる。

「本当、美味しいわね」

「はい。美味しいです!……だから…ではないですが…」

直虎は皿の白玉団子を少し寂しそうに見た。

「多くの皆さんが、さんのお菓子を待っているのに、私は待つ事なく食べられるのが申し訳なくて…」

不定期でしか開かないというの店。
それがどこにあるのかは直虎は知らない。
しかし、直虎がと再会した日から、店が営業している話は聞かない。

「それだと、私も皆に羨ましがられてしまうまね」

「い、いえ!春さんはまた別です」

「ありがとう。でも…そうね…あの店はの気分次第だから…」

「今、こうしてお菓子を作ってくれるじゃないですか。それと違うものなのですか?」

何気なく疑問を口にする直虎。
今食べている菓子も、店で売っているだろう菓子もが作っているならば、そんなに違いなどないだろうに。

「………」

春は困ったような顔をし茶を飲んだ。

「ご、ごめんなさい!理由があるのですよね。さんにも」

「私達には違いはないようでも、には同じには思えないのでしょうね…」

春が少しばかり遠くへと目線を向けた。

は、もうお店はやらないかも」

「え?」

「店を出す事にそんなに執着していないから。私もそれはどちらでもいいし」

それでは待っている人達が…と直虎は思ったが。
何故が店を出したなどの理由を直虎は知らない。
その辺の事情は春としか知らないだろうし、知り合えたからと言って、突っ込んで話を聞くわけにはいくまい。

「まぁ…待ってくれていると言う人達には悪いけど、がこうして作ってくれるだけでも私には十分だわ」

そんなものなのか?
長い付き合いであると春ならではなのか。
新参者の自分にはわからない、知らない事ばかりで少しだけ寂しく感じる直虎だった。





「最近の義母上は楽しそうですね」

ある日、直政にそんな風に言われた。

「え?そうですか?」

「春姫様の元へ行くのが楽しいようで」

「はい。楽しいですよ。春さんとはいろんなお話ができますから」

「それは、に頼まれた俺としても良かったですよ」

女性の扱いに長けているわけでもないし、女性の相手は難しいとさえ言っていたそうだ。

「以前は、家族当然のような仲の者が居たらしいのですが、その者は関西へ移ったとの話なので」

親友とも呼べる者だったので、春は相当寂しい思いをしているのだろうとは心配していたらしい。

「元々北条家は身内に限らず、家臣も、使用人も、民さえも、家族と括ってしまうほどの絆があったようで。それをを見ていたら納得しましたよ」

「そうですね。私達よりも家康様の方が苦労しそうですね。虎松。しっかりと家康様を御支え下さいね」

「勿論です」

「にしても…」

しっかりと頷く息子だったが、江戸の来たばかりの頃に比べて随分落ち着いたようだ。
少し前は難しそうな顔ばかりしていたのに。

「虎松は、さんと仲良くなったのですね」

「仲良く…と言われるほどではないと、思うのですが…」

「なっていますよ。私の知らないうちにこっそり会っていたようですし」

「こ、こっそりとは…人に誤解を与える様な発言はやめてください」

確かに、そこの部分だけ聞けば人様に疑われるような仲に聞こえるかもしれない。
だけど、と出会ったのは自分の方が先なのに、仲良くなったのは息子の方が先のようだ。
それは少しどころか、かなり羨ましい。
自分はまだ数える程度しか話せていないのだから。








19/12/31再UP