千波万波



ドリーム小説
「幸村の父ちゃんかぁ…行ったところで会ってもらえるか…」

氏政の命で、忍城近くに布陣しているらしい真田昌幸に文を届けてほしいと頼まれた
氏政なりに秀吉に対し一泡吹かせようと思ったらしく。
手を貸してくれそうな相手として、真田昌幸を選んだようだ。
ただ、この御仁はこちらが思っている以上に一癖どころか二癖もありそうな噂を聞くのだが。
息子の幸村ならば友人でもあるので、話が通りそうなもうのだろうが。
父に反してこちらに付くと言うのは考えにくい。

「ま。行っていないとわからないか」

最悪な事を考えれば、生きて小田原城に戻れないかもしれないのだが。
相手にしてみれば、など利用する価値もない小物だろうから。

「これで何かが変わるならばいいけどな…」

も知っているこの先の展開。
どう足掻いても秀吉の天下になるのだろうが、できれば北条家はこのままならばと願いたい。

1日で忍城に着く。なんてのはの足では到底無理で。
休まず歩くなどもってのほかで。
こんな事になるのならば、馬の乗り方ぐらい覚えておけば楽だったなぁとぼやいてしまう。

小太郎が供にとつけてくれた犬がいなければ、ただ歩くだけと言うことに嫌気が差していたかもしれない。

「お前が居てくれて良かったよ。マジでさ」

犬の頭を撫で笑う

「いくら幸村のダチだからって…俺が行くのっておかしくないか?」

こんなのは小太郎など風魔の忍びが出向いた方が時間もかからないだろうに。
そう言えば、同じことを氏政に言ったが、彼はその理由を特に詳しく話してくれなかった。
甲斐とも話をしたのだが、実は自分は囮で誰が別の人物が本命の文を届けるのではないか?と。

ただ、甲斐もそう言う事情ならば、別の人を使ってやるはずだと。
を囮に使う事はないだろうと否定した。
血の繋がりはないが、弟だと扱ってくれる氏政なのだから。

早く行ってパパッと用事を済ませよう。





【4】





「………」

「姫様?」

小田原城を出た甲斐はなんとなく、馬上から後ろを振り返った。
それを見た家臣がどうしたのか?と問うた。

「うん…別に…」

秀吉による北条家包囲網は着実に行われ、北条家の支城が豊臣側との戦を始めたと報告が入った。
本格的な戦になるとわかり、甲斐は成田家の居城である忍城で豊臣軍と戦うことなり小田原城を出た。
は氏政の命で真田昌幸に会いに行くと城を出ている。
すれ違いになってしまったかと、少しだけ残念な思いがした。

(あいつ…ちゃんと帰って来れるわよね…)

難攻不落。そう呼ばれる小田原城だ、そう簡単に落ちやしないだろう。
きっとはすぐに戻って来るだろうから、これと言って心配することはないだろう。
だけど、なんだろう?
なんとなく、後ろ髪が引かれる感じがする。

最近になって、の素性がわかった。
本人が聞かせてくれた事は、甲斐の想像以上のものだったが。
彼は秀吉との戦が起こる事を知っていた。
だけど、北条家のこの先は知らないと言っている。
未来を知っていても、たった一人の力ではどうにもならないと。

(最近は…氏政様に何か言っていたようだけど…それって)

なりに秀吉との戦をどうにかしたいと思ったのだろう。
それって。
この先あまりよくない結果だから、なんとか変えようとしているのだろうか?
小難しいことは甲斐にはわからない。
だけど、簡単に敗けるつもりはない。

「折角、根が張ったんだもんね」

「姫様?」

「なんでもない!気合入れないとね!」

甲斐自身、やれる事に限りはあるが。
が北条家に根付いてくれた。
その根を豊臣などに刈らせないためにも。
この戦。敗けるわけにはいかないのだ。





予定よりも大分遅く真田が陣を張っている場所に到着した
その場所を見て唖然とした。

(がっつり戦の準備中じゃん…)

という事は、ここらに居る人達は滅茶苦茶殺気だっているのではないだろうか?
いくら氏政の頼まれごととはいえ、敵陣の中に入り込むのは自殺行為ではないか。
は嘆息し、思わずしゃがみこんだ。
そのの隣に同じようにしゃがみこんだ供の犬の背中を撫でて。

「さぁて、どうするよ。場所はお前がわかるって言っても、俺は入れないぞ?」

犬の方に顔を向けると犬は首を傾げる。
所詮犬は犬か…。

「あれれ〜?こんなところで何をしているのかなぁ?ちん」

「くのちゃん!」

これは運が向いてきた。
くのいちの声が聞こえる。
だけど姿は見えない。
一応警戒されているという事だろうか?

「くのちゃん。頼みがあるんだ」

「あたしに?」

「あぁ。俺、幸村の父ちゃん。昌幸様に文を届けてくれと頼まれたんだ」

「昌幸様に?ふーん」

「あ。ここにあるから、くのちゃんから渡して貰えるなら…」

北条家からの文などもっと警戒されるだろうか?
だが、くのいちはの前に姿を見せてくれた。

「ま。ちんが人を欺くなんてのはできないよね」

文は自分で届けて。と陣の案内役をくのいちは買って出てくれた。

!お前がどうして」

真田の陣に入ると、やはりと言うか、当然幸村も居た。
いるはずのない友の姿に幸村は驚いている。
は幸村には苦笑だけ向けると、すぐさま真正面にいる昌幸に頭を垂れた。

「北条氏政の使いでやってきました。突然の来訪お許しください」

「北条の?はて、わしに何用か」

頭上から発する昌幸の声で押し潰されそうな感覚に囚われる。
戦場などは初めてではない。
氏康の供で何度も行った事はある。
だが、あれは周りに守られていた、味方の陣だから。
そばに幸村やくのいちという友が居ても、ここは敵陣だ。
昌幸の機嫌を損ねれば、首が一瞬で刎ねられてしまうかもしれない。
そんな緊張感に襲われる。

「詳しい事は、主からの文を」

懐から文を取り出し、直接ではなく、そばにいた家臣に手渡す。
家臣が昌幸に文を渡す。
昌幸はその文をじっくりその場で読み始める。
その時間が短いようで長くも感じる。
中身は秀吉に一泡吹かせる為の策略を持ち掛ける内容だろう?
今頃になって思ったのだが。
それを昌幸が一蹴してしまえば、自分はどうなるのだ?

(あ…軽く考えすぎていたかも…)

万が一秀吉の耳に入れば、不味くないか?

「そなた…名を何と申す」

「…と」

。そなたは氏政殿から何を命じられた?」

「え?おれ…いえ、私はただ昌幸様に文を届けてほしいとだけ…中身までは知りません」

嫌な汗が出て来た。
これは完全に何かを疑われ、最悪な展開に向かっているのではないか?と。

「そうだろうな…知っていたら、そなたはここには来ないだろう」

「え?」

は初めて頭を上げた。
昌幸はそばにいる家臣に耳打ちをすると、氏政からの文を火にかけてしまった。

「ちょっ…」

交渉決裂か。
どうやってここから逃げる?
小太郎のような忍びでもない自分は相手を煙に巻く事はできないし。
甲斐のように戦う力もない自分には、この場から強引に逃げることもできない。
だが。

。氏政殿の頼みしかと引き受けよう」

昌幸の返答はそうではなかった。
その言葉には安堵し、盛大に息を吐いた。

「では、殿。こちらへ」

家臣がに着いてくるよう言った。

「え、あ。いえ。俺はこのまま小田原に戻ります」

「まぁ良いですから。お疲れでしょうし」

確かに小田原から休憩を挟んで来たとはいえ、初めて知らぬ場所までやって来た。
すぐに帰りたい気持ちはあるが、体がそこまでいう事を聞かないだろう。
家臣の案内を素直に受け、その場を離れた。



がその場を離れたのを見て、幸村は父のそばによった。

「父上。氏政殿からいったい何を」

「なに。大したことではない」

「しかし!北条からの申し出など。もし秀吉様に知られでもしたら」

幸村にとっては初めて得た友と言ってもいい。
だが、今は敵同士だ。
敵同士になってしまうのは心苦しいが、それとこれは別だろうと割り切っている。
いや、つもりなのかもしれない。
こういうご時世だから、友と戦わねばならない事は承知している。
だけど、まさかここでと再会するとは思わなかったから。
割り切っている気持ちが揺れているのかもしれない。

「今更、北条と組んでも何もならんよ」

「…父上、それでは…」

「まぁ…博打は嫌いではないがな」

昌幸は笑う。

「父上。は、をどうするおつもりですか?あいつは武器を持たない、戦う事をしない。
そんな友を手に懸ける真似など、私には」

幸村は拳を握る。
北条からの申し出を拒否し、使者としてやって来た者を斬り捨ててしまうことはないわけではない。
父は策の為ならば、味方を騙してでも冷酷な事を行う人だ。
それが真田の為ならばと。

「お前が思うようなことはせんよ」

昌幸は幸村の肩に手を置いた。

「しかし、父上は氏政殿の頼みを聞くと…でも、北条とは組まないとも…」

「あぁ。氏政殿の頼みは聞く。北条とは組まんよ」

「それは、いったい…」

「氏政殿は、優しいと言うか、甘いと言うか…だな」

その後父から聞いた話に、幸村は複雑な思いを抱くのだった。





真田が敷いた陣から少し離れた場所に、は案内された。
少し離れた場所に忍城が。
ただ、ぼんやり浮いているように見えるのは何故だろうか?
豊臣側に着いた大名達の旗も見える。
忍城はすでに囲まれているのだろうか。

殿。どうぞ、お寛ぎください。昌幸様より、丁重にもてなすように言われております」

家臣がそのような事を口にすると、は眉間に皺を寄せる。

「俺をもてなすって…俺は別に客じゃないです。少し休ませていただけるだけで十分で」

「あなたはしばらくここに留まるようにと」

「は?」

「あぁ。捕虜ではないのでご安心を」

ちゃんと寝床も食事も用意をすると彼は言う。
本当にただもてなすだけだと。
意味が解らないと彼を問い詰めると。

「私はただ、昌幸様からそのように言われているだけですので」

だから、はここから出る事はできないのだと。

「昌幸様は、政兄の頼みを聞くと」

彼は静かにかぶりを振った。

「ちょっと待ってくれ!」

「すみません。今、しばらくはこのようにと」

ここは真田が使用している宿営地のようだ。
今しばらくは、彼がを看視し着くようだ。

「意味わかんねぇよ…」

結局、昌幸が自分をどうしたいのか意味がわからないままだった。







19/12/31再UP