千波万波



ドリーム小説
「未来から来ました。未来人です」

茶化したように言ったに、馬鹿にしているわけ?と怒りたくなったが。
それも一瞬だった。
なんとなく、甲斐には、彼がどこか自分達とは雰囲気も考えている事も違うと感じていたから。
言われて、「あぁ、そうか」と納得した部分が出てきた。
に言わせれば、だからなんだ?と言う話で。
今更。と過去の様にしてしまっている。

「甲斐にならもっと早くに話しても良かったなぁ」

と以前なら言いそうにもない事を口にした。
でも、甲斐にとってはそれは良いことで。
氏康が心配していたことが、杞憂に終わりそうだったので。

「俺はな、あいつに根を張らせてやりてぇんだよ」

どこにも定着しないでどこかに行ってしまいそうな存在。
不安ばかりで。
けど、今のはしっかりと北条家に根付いているのだ。





【3】





「あれ…って事は…あんた…こうなることわかっていたんじゃないの!?」

「お。甲斐にしては鋭い」

は笑う。
馬鹿にされたような気もするが、素直に思ったのだ。
未来から来たと言うことは、過去を知っているのでは?と。

「そうよ!あんたが未来から来たって言うなら、こうなる前になんとかできたんじゃないの?」

「秀吉が攻めてこないようにとか?」

「そう!お館様の事とか!」

は深く息を吐いた。

「な、なによ」

「俺にそんな事ができるわけないだろ?」

考えても見ろ。とは甲斐に少し強めに言う。

「俺のどこに、歴史を変える力がある?ここでもただの料理番だぞ。俺の事をお館様は拾って下さったけど、それと秀吉に繋がるものはないし。お館様の延命なんてもっとできやしねぇよ」

そんなにすごい存在ではない。
ここをこうしたら歴史は変わる。などと言う、歴史の分岐点にいるわけでもない。

「そもそもな。自慢じゃないが、俺は言うほど歴史に詳しくない!大きな出来事は知っていても、細かい事は知らん!」

「威張っていう事じゃないでしょうが…しかも情けない理由よね。歴史を知らないって…」

そこまで言われての口角は引きつった。

「逆に聞くけどな。甲斐は歴史をどれくらい学んでいるんだよ。俺のいた時代とここじゃ勉強の範囲に差がありすぎるんだよ」

この時代までとこれからのプラス400年分。沢山歴史上では色々起こるのだ。

「え、それは…」

「ほら。言ってみろ。応仁の乱はなにがきっかけで起こったんですか?室町幕府の歴代将軍言ってみろ」

「え、えとぉ…なんだったかしらね〜」

甲斐は笑って誤魔化す。
の方が甲斐に対し憐みのような目を向けるも、すぐさま真面目な表情に戻った。

「たった一人の小僧に何ができるんだよ。そいつが成り上がっていくなら変わったかもしれないけど、生憎幸村みたいに自分から戦おうとか思わないし」

「まぁ…そんなあんたの姿は想像できないわね」

「それに…人の命なんてどうにもできねぇよ。俺はお館様が病気だったなんて知らなかったし。知っていても、医学なんてわかんねぇし」

「………」

「たらればの話なんてしてもしょうがねえよ。今更」

「ごめん。そうよね。あんたにだけ押し付けるような事言っても困るわよね」

「………」

「ねぇ。この先。北条家はどうなるの?」

「さぁな」

「本当に歴史を勉強していないのねぇ」

「悪かったな」

ひとつだけ嘘を吐いた。
北条家の結末は知っている。
だけど、これを甲斐に話したところでどうなる?
甲斐も戦う力はあるが、歴史を変えるほどの力はない。
詳しくは知らないが、甲斐はこの先とある人物の側室になるはずだ。
だったら言わない方がいい。
けど、自分がいるここは、本来の歴史と同じなのかその辺がよくわからない。
微妙に違うような気もするし、だけども本来の流れと同じであるとも言える。
この先、北条家は滅亡する。天下は秀吉によって統一される。

「こら。一人で悩まないでよ」

「っ!?」

甲斐がの眉間を指で弾いた。
眉間に皺を寄せていたらしい。

「あたしにできることがあったならちゃんと言いなさいよ。あたしだってここを守りたいんだから」

悲観的な顔はしない。
力強い、太陽にみたいに笑う甲斐。

「心強いな、本当」

「でしょ?」

ただ、自分から何かしようとは思わない。
思わないけど、何か手はないだろうか?とは思った。





甲斐に打ち明けてから、数日後。
やはり秀吉は進軍してきているようで、開戦の雰囲気が城内を漂わせていた。

「政兄。ちょっといい?」

か。あぁ、構わんぞ」

小太郎に頼んで、周囲に人が来ないようにしてもらった。
急の知らせな場合は小太郎が呼んでくれるだろうし。
氏政が何やら文を書いていたようだが、筆を置き、の方に体を向けてくれた。

「あのさ。秀吉と戦になりそうだろ?」

「そうじゃな。わかりきったことをどうした」

「戦。回避する気ないの?ただ秀吉の一軍だけじゃない、各地の大名が北条家を囲うんだぜ。あの伊達も秀吉に臣従するって話だし」

北条と同盟を。と言うはずだったが、伊達の方でも領内でごたごたがあったようで、それを理由に攻められても困るので秀吉に従うことにしたらしい。
詳しい理由は知らぬが。

「わしが秀吉に頭を下げろと」

「そりゃあ、男として嫌な事だろうけど。数が数だよ。籠城したってそこから秀吉が諦めるなんてことないだろうし」

甲斐になんとか歴史を変えられないのか?などの話をしたことで。
の中でこのままにはできないと行動に移したのだ。
だが、それで何が変わるかわからない。時期が時期だ。遅すぎるとも思えた。

「………」

「ごめん。政とか戦とか、駆け引きなんかもわからない俺が偉そうに言えるわけでもないんだけど…俺は、このままだと北条家が…その…」

「敗けるか」

「………勝つ見込みはない、とは思う…」

「だろうな。わしもそう思う」

普通ならば怒って斬り捨てられるところだろうが、氏政は気にした風もなくはっきり口にした。

「前にも言ったが、だからと言って、北条の民を秀吉に託そうとは思わん。数で圧倒し数で物言わせ従わせるやり方がいいとは思わん。だが、それもやり方の一つなのだろう」

氏政にしてみれば複雑な心境なようだ。

「男として、武士として。その数に対し、どこまでできるのか試してみたいと思ったんじゃ」

「政兄。無茶だろ、それ」

「無茶でもやるのさ。秀吉に一泡吹かせたいとな」

あぁ、この氏政の顔。
どこかで見たことがある。
氏康が不敵に笑う。それにそっくりだ。

「そんなとこ、似なくてもいいのに…」

確かに過去。不利な状況でも戦をひっくり返した事のある相模の獅子氏康。
北条の民の為ならば、無茶でもやり通した。

「政兄には政兄の考えがあるのはわかるし、邪魔するような事言ってごめん」

「構わんさ。別角度から物を言ってくれる者がいるのは嬉しいし、考えることもある」

「?」

氏政は先ほどまで書いていた文らしきものに、さらに一筆書き加え。
それに封をし、に渡す。

「お前は真田殿と懇意だと聞いた」

「えと、幸村?まぁ、この状況だし、最近はやり取りねぇけど」

「これを真田殿のお父上。昌幸殿に届けてほしい。、お前にな」

「は?俺?そんなの小太郎さんとか風魔の人が」

突然の申し出に意味が解らない。

「真田とは色々含めて浅からぬ仲だしな。わしの提案に乗ってくれると思うのだ」

氏政は秀吉に一泡吹かせようとするために、真田家に協力を願い出たのだろうか?

「今ならまだ城の出入りに厳しい目はない。そう難しくなく、真田殿の元へ行けるだろう」

渡された文にあまりいい顔はできないが、氏康がに頼むと言うのだ。断れきれない。

「わかったよ」

「すまんな。すぐさま出立してくれ」

お前が頼りじゃ。と氏政はの肩に手を置いた。






「どこに行くの?

旅に行く準備をし終えたに甲斐が呼び止めた。

「ん〜幸村んとこ。政兄に頼まれてさ」

「へぇ。幸村様のとこと言うか、真田家は秀吉に従っているでしょ?ちょっと危なくない?」

幸村が。と言うより、その道中という意味らしい。

「まぁ…向こうがどう思うか…もしかしたら、政兄が俺を囮に使って、本命は別の人がって事もあるかなぁとは思うけど」

「否定できないけど、氏政様はあんたを囮に使う気はないと思うけどね。弟なんだし」

「実際は弟みたいな。だろ」

「そうかしら?まぁどの道気を付けて行きなさいよ」

「あぁ。用件済ませてすぐに帰って来るし」

旅人と言うほどの支度でもない。軽装だ。
それじゃあと、城を出る。
誰かが着いてくる気配はないので(自分がそこまで敏感とは思わないが)問題ないだろう。
とりあえず、行先は真田家。
ただ本拠地信州ではなく、すでに真田家は秀吉の命を受けて進軍しているらしい。
なので、忍城の方へ向かえと言われた。

小一時間ほど歩くと、茶屋があったので、そこで一休みをするかと縁台に腰かけた。
団子を注文しのんびりと食べてしまう。

「休憩にするの早かったかな…」

小田原から忍城までは徒歩で丸1日ぐらいはかかるらしい。
途中で開戦して巻き込まれたらかなわないなと思うも、自分みたいな奴が間者とかに思われないだろうなと苦笑してしまう。
そもそもほとんど小田原から出たことがないのだ、周りは自分の事など知らないだろうに。

「ん?うぉ!!?」

のんびり団子を食べていると、何かの息が顔にかかったので、何かと思えば。

「お前!」

大きな犬がの団子目当てに飛びついてきたのだ。

「ま、待て!!?」

そのまま勢い余って縁台から落ちてしまう

「くくくっ。仔犬同士じゃれあって楽しそうだな」

姿は見えないが、その声は小太郎だ。

「こ、小太郎さん。こいつ」

「氏政が仔犬のお使いを心配してな。供にそいつを連れて行くがいい。行先もわかっている」

「お、お使いって」

「あら!お客さん、大変!!どこの犬よ!!」

茶屋の娘が驚いて顔を出す。
に襲い掛かったと思い、追っ払おうと竹ぼうきを掴んだ。

「あ!大丈夫っす!こいつ、俺の事を追いかけて来ただけなんで」

「お客さんの犬?」

「そ。そう。留守番させておこうと思ったけど、着いて来ちゃったんで」

娘は笑う。

「そうみたいね。すごい尻尾を振ってるし」

「お、お騒がせしてすみませんでした」

は体を起こし、埃を払い改めて縁台に腰かけた。
犬はちゃっかり落ちてしまった団子を食べてしまっている。

「休憩にならねぇし…」

でもまぁ、一人旅はちょっと寂しかったりするので、ちょうどいいかと思った。
元々長旅になるわけでもないので。









19/12/31再UP