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糸し糸しと言う心。
甲斐武田と尾張織田は刃を交えることになった。 織田の侵攻を許すまじとする信玄は長篠に陣を張る。 「まだには早い・・・・もう少し時間があれば良かったが」 「でもここまで来ちまったし・・・・」 最初から織田との戦には自分も連れて行けと幸村に言っていた。 いきなりの戦場には幸村もあまりいい顔をしなかった。 「戦いが始まれば、それがしはお前のことなどかまってはおれぬのだぞ」 「守ってくれなんて頼んでねぇよ」 「!」 「言ったろ。魔王から市を奪うって」 「それがしも言った。命を無駄にすることは許さぬと」 今のの命を預かっているのは幸村だ。 だから、無謀なことはして欲しくないのだ。 「俺は何が何でも生き残る」 「戦を甘く見るな!」 平行線を辿る二人に佐助が割って入る。 「はいはい。わかりましたから、熱くならないの。、旦那も心配して言ってんだよ。 無理に戦に出る事はないよ、本陣で待っていてくれないか?」 佐助まで出陣を許可できないと言い出す。 確かに戦う力がない。一度も人を斬った事はない。 「でも!」 「あーだからさ。俺と旦那でそのお姫さんを連れてくれば問題ないだろう?」 捕縛できればこちらとしても戦が楽になる。 彼女が戦場にいると、織田は他の武将を一切出してこないのだ。 戦力を削ぐ事が出来る。 それに今回はそれ以外にも何かありそうなのだ。 「そ、そうだ。それがいい!それがしがお市殿と話をつける。の事を話せばきっと」 「無理だって・・・」 の顔が曇る。 「佐助さん言ったじゃん。市の心が壊れているみたいだって・・・そんな状態で幸村の言葉なんか聞くわけないよ」 「だが」 「俺が行くって決めたんだ。俺が自分で市に会わないと」 「「・・・・・」」 の決意は固い。 すでにここが戦場でもあるのだ。いつ戦いが始まっても可笑しくない緊張感に包まれている。 「そうか・・・・」 幸村は悔しそうに拳を握る。 「ごめん。幸村・・・・せっかく心配してくれたのにさ。俺」 「いや、いい。それがしも謝らなければならぬ」 「は?・・・・・ぐっ・・・・・は・・・・ゆき・・・・」 幸村はの腹に一発拳を当てた。 息ができず、蹲る。 そのまま気を失ってしまった。 「すまぬ。それがしはやはり今のお前を戦場に出しとうない」 「旦那・・・・もっと優しく寝かせてやんなって。言ってくれれば俺がやりましたよ」 忍の術なり薬などを使って眠らせるなど造作もないことだ。 けど、幸村は自分での意識を飛ばした。 「旦那が悪者になる必要ないじゃん」 「・・・・・」 「お市殿と話ができればいい。それでこちらに来る意志があるのならば尊重する。それだけだ」 「その意志がなければ?」 「お館様ご上洛の邪魔になるなら斬る」 【9】 朝の教室。自分の机にカバンを置いた。 「おはよう、。数学の宿題、ちゃんとやった?」 「あ・・・やべ。やってねぇ・・・」 昨夜はアルバイトの上がりが遅くて、かなり疲れていて帰宅後すぐに寝てしまった。 「うふふ。仕方ないから市のを見せてあげようか?」 「マジ?頼むよ、市」 両手を合わせて頼み込む。 「いいけど、もう授業始まるよ?」 時計を指差す。HRを間にいれても写す時間は足りない。 「うわぁ。やべぇ、どうしようー」 「やっていないのなら、やっていないと素直に言え」 力強く肩に腕を回された。 「幸村〜お前、仲間を増やそうとしてんだろ?」 「やっていないお前に言われたくない。素直に忘れましたといえばいいんだ」 「それで二人して放課後居残り決定だね。いやー相変わらず仲がいいね、妬いちゃうでしょ?市ちゃん」 「うるさいぞ、佐助!」 「そういう佐助さんは宿題やったんだよね?」 「んふふ〜俺様もやっていないよ。けど、ちょーっと用事があるから授業パスね」 教室から出ようとするのを必死で二人は止めた。 仲間を逃してなるものか。 だがはそれもいいかと頷く。 「俺もサボろうかな」 「あーそれがいい。、そうしよう。二人で食堂行かない?俺様朝飯食っていないんだ」 「二人共!ダメだぞ!」 「どうでもいいけど、本当に写す時間なくなるよ?」 「あーもうーどうしようー」 馬鹿なことをやっているな。 そんな風に思った。 でも楽しい、今頃みんなどうしているんだろうなって。 市と、幸村と、佐助さんと・・・・? あれ、なんで市と幸村がいるんだ? なんで、普通に学校通っているわけ? 「」 優しく微笑んだ市。 夢か。 夢なんだ。 だって、皆が俺の同級生ってありえないって。 そうだったらいいなって願った事なのか・・・。 もしそういう出会いだったらって・・・。 「でも、夢にしなくてもいいことだよな。今からでも遅くないって」 早く、起きろ。 早く起きて会いに行け。 でないと、後悔するぞ。 「・・・・・っう・・・・・くっそ・・・・」 体を起こす。本陣の一角で寝かされていたようだ。 「幸村の奴・・・・」 わかる。自分を思ってのことだ。 けど、それではダメなんだ。 市には自分で会わないと。 「戦・・・・どうなって・・・・」 本陣といえども、ほとんど人の姿はない。 あちこちから喊声は聞こえる。 もう戦は始まっているようだ。 は駆け出した。 先陣として最強を誇る武田騎馬隊が出た。 それに対し、織田は市のみを出陣させる。 「血をわけた妹を戦に出そうとはな。尾張の・・・そなたのやろうとしていることが分からぬ」 信玄は歯がゆく感じる。 兄弟が戦に出る事はある話だ。だが守りもつけずにただ一人を戦場に放り出すなど。 それでも市一人に騎馬隊が崩されていく。 「市・・・こんなところで何をしているんだろう・・・市のせいで長政さまは死んでしまった・・・」 半分虚ろな目。 何をしているのだと自分で問いただしても、やっていることは殺戮。 後ろからは騎馬隊の侵攻を防ぐ為、市の援護の為と鉄砲隊が発砲を開始した。 市もいるのに。 当たればただでは済まないのに。 「我が騎馬隊がここまで押されるとはな・・・」 「お館様!それがしが参ります!!」 「うむ。この修羅の道突破してみせよ、幸村!」 幸村の真田隊が出る。 幸村の部隊は精鋭揃いだ、鉄砲の雨にもなんなく対処していく。 「お市殿でござるな!」 「・・・・・」 幸村と市は対峙する。 「このまま投降してくださらぬか」 「・・・・・長政さまは怒っている。市が頑張らなかったから、きっと地獄で市を恨んでいる・・・・」 幸村の声など市の耳には届いていないようだ。 それどころか得物を振りかざしてきた。 「お市殿!!」 「ごめんなさい、長政さま。市が、市がすべて悪いの・・・・」 市の猛攻を幸村は必死で防ぐ。 反撃に移るのは簡単だ。 だが、女性に手を上げるというのが、幸村には簡単にできない。 「しかし、このままでは・・・・、すまぬ」 「?」 幸村のその呟きに市の反応がかすかに鈍る。 幸村はそれに気付き市に再度呼びかける。 「お市殿。が待っている。それがしと来てくださらぬか!」 「・・・・・・・・・・」 市の脳裏に浮かぶその青年。 『俺・・・・・・え・・・・』 『な、ん、で・・・・うぐっ!』 市の目の前が真っ赤に染まる。 血に塗れて倒れている青年の姿。 「なぜ・・・・お前が、その名を口にするの・・・・」 嘆くかと思われた市の顔から狂気を感じた。 ピリっと毛が逆立つのを幸村は感じる。 「お市殿・・・」 「は、市のせいで死んだのに・・・・・・・・軽々しく呼ばないで・・・」 「ち、違うござる!はまだ」 「うるさい!!」 逆上するとは思わず幸村は戸惑う。 心が壊れちゃった感じがするよ。 そう佐助が偵察で見た市の事を例えた。 確かに、聞く耳持たない。自分の世界に、殻に閉じこもってしまった。 そして全て自分の所為だと悲観している。 実兄には逆らえず戦場に放り出されて。 (それがしが間違っていたか・・・しかし、すまぬ。それがしは) 市を敵と見做し打ち倒さねばならない。織田にはまだ控えている武将も多い。 戦は終わらないのだ。 幸村は二槍を構える。もう手加減はしないと。 「市ぃ!!」 幸村と市の動きが止まる。 肩で息をしているがその場に現れたのだ。 「!そなた何故来た!」 「馬鹿幸村!余計な真似すんじゃねぇよ」 どけと幸村を押す。市の前に立った。 「ごめん。遅くなった」 「・・・・・・」 「俺、生きているよ。ちゃんと・・・・だから、市の事迎えに来た」 「・・・・・は、市のせいで・・・・」 「市の所為じゃないって。なんでそう自分の所為にばかりするかな?」 ほら。生きているよ。とは市の頬に手で触れる。 カランと得物が落ちる。の手に自分の手を重ねる市。 「・・・・本当に、?」 「あぁ。本当に俺。死にかけていたの、幸村に助けてもらった。だから俺はここに居るんだ」 スッと市の目から涙が零れる。 「、!」 市はに抱きついた。 は市を強く抱きしめる。 「ごめん。もっと早く市のこと迎えに行けば良かった」 やっと会えたと、その存在をしっかりと感じられた。 「市は何をしておるのだ・・・・」 信長は一向に状況が変わらないことに苛立つ。 先陣として放り込んだ市が戦況を変えるのがいつものことだが、今回は中々そうも行かない。 本陣からゆっくり進み出て、己の目で状況を見れば。 市が戦いを放棄している。 市を抱きしめている男が信長の目にも映る。 「君・・・・」 そばにいた濃姫が呟く。 生きていたのねと、安堵するも。 信長の事を思うと、余計な事が言えない。 「使えぬモノはいらぬ。斬り捨てよ」 信長の命に周囲は頷く。 さらには鉄砲隊に攻撃を止めぬようにも命じられた。 「撃てー!撃てー!」 「しまったっ!」 市を標的に攻撃をしかけてきた織田軍。 市を必要としないと信長が決めた事を知る。 銃弾の雨が容赦なく市とに降って来る。 逃げ切れない。さっさと市を連れて行けば良かったと後悔しても遅い。 せめて市だけでもと、は自分が盾になろうと市を抱く手を強めた。 「!」 「・・・・・・?」 「馬鹿はどっちだ。死ぬつもりはないとそれがしに言ったのは嘘か!?」 「幸村・・・・」 幸村が槍で銃弾を弾いてくれた。 「勝手なことをしたのは詫びる。だが、お前の命はそれがしが預かっていると言ったであろう! 勝手に死ぬ事は許さぬぞ!お市殿と会えただけで満足するな!生きて帰ってこそが大事だろうが!!」 「あは、ははは・・・そうだな」 「しかし、この銃弾をなんとかせねば」 幸村とていつまでも防いでいられない。 「はいはーい!そこは俺様にお任せを」 佐助が姿を現す。 「いざ!霧隠れの術!」 佐助が印を結ぶと辺りが薄暗くなる。 霧は周囲を覆った。 これでは敵味方がわからぬと銃弾は止む。 「しばらくは持つよ。、お姫さん連れて本陣へ戻んな。こっからは俺達の仕事だよ」 「佐助さん・・・・」 「お姫さんもそれでいいかい?織田に戻るってんなら構わないけど?」 市はかぶりを振る。 「市。と一緒に居る・・・・」 「お市殿。信用してよいか?我らに牙を向くなら次は容赦せぬぞ」 市は頷く。 「市、行こう。不安はあるだろうけど、俺がついている。大丈夫」 は市の手をしっかり握って立ち上がる。 もう二度とこの手を離すものか。 二人は駆け出した。 19/12/31再UP |