糸し糸しと言う心。




ドリーム小説
織田信長は歴史が苦手、嫌いな人間でも知っている。
超有名人。
以前、テレビで「好きな偉人」を選ぶランキングをやっていた。
時代関係なく、歴史に名を連ねる人たちが、視聴者の投票で選ばれるものだ。
はなんとなく、その番組を見ていた。
100位から発表されていき、中には自分がよく遊ぶゲームの登場人物が出たりもして。
なんとなく「おぉ」と小さく唸ったものだ。
番組の終盤。
残りベスト2が発表される前に、まだ出てきていない偉人。
恐らく、あの人ですよね。なんて司会者がもったいぶらせていた。
にも、その二人は誰なのかわかる。

坂本竜馬と織田信長。

日本人にとって、この二人は特別なものらしい。
番組内の結果は・・・・。覚えていない、忘れてしまった。
確か竜馬が1位だったような?その程度。
は別に、どちらにもそんなに興味はなかった。
興味はなかったが、好感を持てるのは信長ではなく、竜馬の方だ。
彼がもっと長生きをしたら、日本はどうなっていたのだろうか?
それは信長にもいえることかもしれない。
信長は本能寺の変にて、家臣の裏切りに遭いその歴史に幕が閉じられる。
それくらいは、でも知っている。

だけど、興味はなかった。

なかったのに。
今、その信長がすぐ近くにいる。

噂以上の御仁だった。





【2】





もう少し歴史の勉強をしておけば良かった。
なんとなくそんなことを思ってしまうのは、今、居る場所が場所だからだろう。
所謂戦国時代には居る。
だが、少し、いや、かなり自分が知っている歴史とは違う雰囲気を持っている。
織田信長の存在は知っている。
だけど、小姓の森蘭丸がこんなクソガキか?
正室の濃姫や妹の市が一緒に戦場で戦う?
んな、馬鹿な。

しかも二丁拳銃って・・・・。

信長も何やらぶっ放していたよな。とは思い出す。
だが、信長が手に入れた銃は火縄銃と言う奴で、あんな簡単にバンバンぶっ放すものではないはずだ。

西暦何年なのだ?今は。

(えーと・・・確か1500・・・家康が幕府を開いたのが1600・・・)

駄目だ。覚えていない。
まてまて、よく思い出せ。

(関ヶ原の合戦が1603年だったような?・・・だから、1600年でいいんだよな)

信長はそれから遡って・・・・。
あぁやっぱり駄目だ。覚えていない。
は頭を抱える。

「・・・・?」

「あ。市」

「どうかしたの?兄様がまた何かした?」

不安そうな市の顔。
市はいつも信長に怯えているように見える。
仕方ないよなとは思う。
あの織田信長はただただ、周囲から恐れられている。
だけど、濃姫や蘭丸を見ていると、そんな彼に惹かれている者がいるのも事実。
彼らだけにしか見せない顔があるとか?
いやいや、正直そんな姿想像もつかない。
織田家で暮らすようになってまだそんなに日は経っていないが。
滅入るような出来事が度々耳に入ってくる。
よく精神状態が持つなと思える。

「そんなことないよ。ただ色々思い出そうとしていただけだよ」

の隣に市が座る。

「思い出す?」

歴史を。とは言い難いと思ったので、学校で習ったことだと答える。

「がっこう?」

大きく首を傾げる市。
ぼんやりと自分を見る目が、なんだか何とも言えない恥かしさを感じてしまう。

「えっと・・・・学び舎っていえばいいのかな?色々勉強するところ」

「手習いするところ。お寺のような?」

「ま。そんな所。だけど、俺真面目にやっていなかったから、覚えていないんだよ」

カッコ悪いよな。とは苦笑する。

は。いつも、何をしているの?」

「え?」

「そのがっこうで」

そうだなぁと視線を空へと巡る。
何をしていたといわれれば、普通に勉強だ。

「単純に勉強をして、休み時間は友達と喋ってるか、なんかくだらない遊びをしてるか・・・」

部活をやっている奴は昼休みや放課後に練習をして。

「そんな感じ?」

「楽しい?」

「勉強は面倒臭いとか、つまらないとか思ったりするけど・・・学校へ行くのは嫌いじゃないから・・・」

やっぱり楽しかったのではないだろうか?
今、ここと比べると。
何も考えずに笑えていたあの時代を思えば。

「楽しいよ。うん、楽しい」

は笑う。
そんなをぼんやりと市は見る。

「俺は部活に入っていないから、放課後とか休みに日はアルバイトして小遣い稼いでた」

アルバイトの意味も教えなきゃいけないだろうか?
だけども市は聞いてこないので、なんとなくだろうが意味が通じているような気がした。

「ほら。俺が市と出会った、あの戦場。あそこで俺が乗ってたものあるだろう?」

「うん」

「あれも俺がバイトで稼いで買った物。結構高かったぜー。5万円もしたからさ」

そんなに時給が高いアルバイトはしてなかったし、バイト代の全部をそっちにつぎ込んだわけではないので。
買うのに必要分を溜めるのに、数ヶ月かかった。
どうしても欲しいと思ったので、貯金から少しだけ足して。

「五万円?どのくらいするの?」

そこの説明?
この時代の金のことなんかもっと知らないぞ。
一両を円に換算して・・・・いや、知らないって。

「え、えーと・・・・まぁ、そこそこ。ここと俺のいたとこじゃ違うから説明しにくい」

「・・・・」

「ま。あれだよ。俺が汗水流して頑張って稼いだってくらい価値はあるものかな」

それで通じるかな?と思ったが、市が柔らかく笑った。

。がんばったんだね」

「え、う、うん。頑張った。かな」

自分が欲しくてアルバイトをしたのだから、頑張って当たり前だと思う。
思うけど。まさか、今そんな風に言われると思わなかった。

「あー・・・・えとさ。乗ってみる?運転は俺がするし」

「いいの?」

「荷台がついているから、二人乗りできる」

本当はしちゃいけないことだけど。
この時代自転車に関する法律、ルールなどないだろう。

「誰かに許可貰って、外行こうか」

「うん」

許可を貰うなら信長からだろうが、あのおっさんが許可なんぞくれるか?
だけど、こっそり抜け出すわけには行かないし。
元々悪いことをするわけじゃないから、こっそりするつもりはない。
濃姫にでも聞いてこようか。
そして彼女経由で信長に言ってもらえればいいだろう。
正直、信長と顔をあわせることはあまりしたくないのだ。



***



・・・」

「市。怖い?大丈夫か?」

許可はあっさり下りた。
濃姫経由であったが。
濃姫から、あまり遠くまで行かないようにと心配はされた。
織田家の姫を連れ出すわけだから、用心はしている。
あまり遠くにいけるほど、現在地をわかっていないので大丈夫だろう。

「平気。怖くないよ」

しっかりとの腰に手を回している。
普通ならしないことだが、荷台に座布団をくくりつけて、市に負担をかけないようにしてみた。
アスファルトがあるわけじゃないから、普段よりも走りにくい。
だけど、も男だ。
市という女の子の前でカッコ悪い姿は見せてなるものかと、ペダルを漕ぐ。
ちょっとだけ、ここが海沿いだったら、なんか画になるのでは?
などという淡い期待をしてしまう。

「やべっ!坂だ!市しっかり掴まってろよ!」

「う、うん」

少し余計な事を考えていたので、急に下り坂になったことに慌てる。
だけど、気持ちいい。
突っ切る爽快感。
館の中で閉じこもっていたから、久しぶりに訪れた開放感に笑みが零れる。

それは市も同じだった。
馬でも御輿でもない乗り物。
南蛮渡来のもの?としか市には想像がつかないもの。
だけど勝手に動くわけでもなく、が漕いで動かしているもの。
時折聞こえる、荒い呼吸にに負担をかけてしまっていると申し訳ない気持ちになる。
これも全部、市が悪い・・・。
そう自分を卑下してしまうような。
だけど、下り坂を早い速度で下っていく時、が声をあげた。
悲鳴じゃない声。

「あはははははっ!気持ちいいーーー!!」

うん。市もそう思う。
頬にかかる風がとても気持ちいいから。

「はー。すっきりした・・・・あ。市平気か?怖くなかった?」

ブレーキもかけずに下りきったから。
自転車を止め、市に声をかける。
市は平気だと頷いた。

「よっしゃ!まだまだ走るぞー!」

がペダルを踏み込んだ。



***



と市が出かけてから数刻。
濃姫は室で外を眺めていた。
が市と外に行きたいと言い出したとき、とても驚いた。

『逃げるとかじゃなくて。気分転換したいっていうか・・・市を自転車に乗せてあげたくて』

自分の為と言うより、市の為。
そう言っているように濃姫には感じた。
が留まるようになってまだそんなに経っていない。
だけど、少しずつ。
市の表情に変化が出てきたのを濃姫は見逃さなかった。
以前の市はほとんど室から出ることもなく。
人の顔色を窺うような、信長に怯える人形のような子だった。

(けど、君には自分から歩み寄っている・・・)

良い事ではないだろうか?
市は知らぬうちに、無意識に感じ取っているのだろう。
という青年が、今まで出会った人と違うと言う事を。
遠き未来から来た。などと最初は度肝を抜かされたものだが。
彼の立ち振る舞い、考え方、手にしていたもの。
どれも、自分たちとは違う。
戦に対する考え方も。

『生きますよ。何が何でも。俺のやり方で』

でも、危うい。
殊更、信長のそばでは・・・。
は逆に全てを断たれてしまったとき、生き抜けるのだろうか?
武器を手にして戦う自分たちでも、手折れてしまいそうになるのに。

「・・・・・」

いけない。
そんな事を考えては。
濃姫はかぶりを振る。
市の為にも、どうか手折れないで欲しい。

(私にできることがあれば・・・・)

守ることができるなら、その力は惜しまないから・・・・。



***



どこまで走っただろうか?
そんなことはわからない。
けど、近くに綺麗な川が流れていたので、そこで休むことにした。

「はー。さっぱりするー」

惜しげもなく川の水をすくって顔を洗った。
とてもじゃないが、自分のいた時代じゃ出来ないことだよな。
綺麗な川は田舎の山奥にでも行けばあるだろうが。
少なくともの住んでいた地域では無理な話だ。

「あ、やべ・・・」

拭く物を持っていなかった。首をニ、三度振るも、雫が滴り落ちる。

「はい」

すっと差し出された手拭。
市がそれで拭く様にと出してくれた。

「ありがとう」

手拭の一つも持っていない自分。だらしないなと思いながらも、それを遠慮なく受け取る。
顔につけた瞬間。
ふわりと、良い匂いがした。
香の匂い?
それとも市の?

(うわ・・・俺、変態じゃんか・・・・アホか)

間抜けな考えも一緒に拭ってしまえ。
はどっかりと座り込む。

「あれだなー。弁当とか持ってくれば良かったよな。こんな空の下で食ったら美味いよな」

「そうなの?」

市は首を傾げる。
いつもと変わらない空だと思ったから。
でも、と一緒にいる今は、その空も少し違うように見える。

「絶対美味いって。な、今度は弁当持って出かけようぜ」

「今度?」

「あ。市が良ければ、また今度こうして出かけよう」

「うん。行く。と一緒なら、市も行く」

お弁当持って、目的地なんか決めないで好きに走っていこう。
きっと楽しいはずだ。

「あ。そうだ・・・・電池はまだあったから・・・・」

「?」

は懐からごそごそと何かを取り出した。

「携帯」

「?」

が取り出したのは携帯電話だ。
残念ながら電源は入るものの、家族や友達と繋がることはなかった。
は市の隣に移動する。
そして携帯をちょうど二人の中心に当たる部分にかざす。

「市。少し眩しいかもしれないけど、ちょっと我慢してよ」

確かに眩しい。
その長方形の薄い箱のようなものから眩しい光が見える。

「市、笑って」

どこに向けて?よくわからない。
けど、隣にいるの視線がその箱に向いていたから、市も真似してその箱へ顔を向ける。

「撮るぞー」

その瞬間、カシャと音が聞こえた。

「おー中々いいじゃん。ほら、市、見てみ」

は撮った画像を市に見せる。

と市がいる」

薄い箱の中にいるもう一人の自分の存在に、市は驚いてしまう。

「これは、写真。こうやって、思い出を撮るものだよ」

「思い出?」

「そ。思い出。今日、俺と市が楽しかったなって言う思い出を撮ったんだよ」

待ち受け画面に設定しておこうと、は機嫌よく携帯電話をいじる。

「プリンターないし、市が携帯を持っているわけじゃないから、転送もできないんだけどなー。
けど、電池が切れる前になんか撮りたいって思ったからさ」

の言っている意味が市にはまったくわからない。
それも全部の居た場所が、市のいる、こことは違うからだろう。
は電源を切る。

「消えちゃったよ・・・思い出」

「ん?あぁ、電池もったいねぇから電源切ったんだ。消えてないよ、この中にちゃんと残っているからさ」

携帯電話を懐へとしまう。

「でもさ。ま、一緒に遊んだ思い出は消えないよな。きっと写真って思い出を思い出す為のものなんだろうな」

あの頃は楽しかったね。こんなことがあったねと。

「?」

「昔の人は写真がないから、記憶に残すのだろうけど」

残った?今日の俺との思い出。
が市にそう問いかける。
今日の思い出。
普段は考えたこともない。
だけど、今日の、この出来事は。

「うん。残った。市の心に」

鮮明に焼き付けたくらいだ。

は?市との思い出残った?」

「おう。ばっちり」

にししと笑うが、市にはとても愛しく感じた。








19/12/31再UP