糸し糸しと言う心。



ドリーム小説
初めて見た、その目。



初めて聞いた、その笑い声。



初めて触れた、その白い手。



物語に出てくるお姫様みたいだ。



そう感じた。



でも、彼女は寂しそうだ。



どうしたら、その寂しさは消える?



どうしたら、闇は消える?



どうしたら、俺は、あなたの、そばに、いられる?





【1】






今、必死こいて逃げています。

「っざけんなっ!!なんで、こんな目に!!」

「待てよ!逃げるのか!バーカ!蘭丸さまが怖いのかよ!!」

「当たり前じゃ、ぼけぇ!逃げるに決まっているだろうが!」

の物言いに追いかけてきている相手、蘭丸という少年はカッとなる。
元々短気な性格なのかもしれない。

「うぉっ!危ね!!」

「逃げるな、この!!」

ヒュン!カツン!
背筋がぞっとする。の真横を矢が飛んでいくのだから。

「止まったら当たるだろうが!そんなもん誰がするか!!」

「なんでだよ!勝負するってことになってんだろうが!!」

「誰が勝負なんかするかよ!大体、無抵抗の人間にすることじゃないだろう!!」

「なにおーー!!」

相手が子供とはいえ油断は出来ない。
なんとか放たれた矢を避けるので精一杯なのだ。
それに、蘭丸は馬鹿正直に走って追いかけてきている。
立ち止まってじっくり狙いを定めれば良いものを、そうしないのは頭に血が昇った証拠だ。

「勝負しろー!信長様の前でカッコ悪くないのか!!」

「うるせー!飛び道具の人間とどう勝負しろってんだよ!バーカ!!」

子供の喧嘩。
そう見えなくはない。

「あ!」

蘭丸の手が空を切る。
背負っていた矢筒に入っていた矢が全てなくなってしまった。

「だったら・・・お望み通りこうしてやるよ!!」

蘭丸はに向かって弓を振り下ろす。

「なっ!」

蘭丸の弓はそれ自体が相手に打撃を与える造りにもなっているらしい。
振り下ろされた得物をなんとかかわす

「はぁ・・・・くっそ・・・・なんだよ・・・」

「逃げ足だけは速い奴だな、お前」

「うるせー。それがなんだ。ある意味自慢できていいじゃないか」

どこがだ。
戦場で敵に背を向けて逃げれば恥なんだぞ。
おめおめと逃げ帰る奴なんてこの織田軍にはいないんだ。
逃げ足の速さなど、なんの自慢にもならない。

「上総介様・・・・」

二人の攻防戦を見ていた織田信長の正室濃姫が信長に訴える。

「あの者は戦う力を持ちませぬ・・・上様がお気にかける意味もございません」

何故あのような狩りを楽しむのだ。

「丸・・・」

腰掛に微動だにせず座っていた織田信長がスッと立ち上がる。
彼が動いただけで、蘭丸も濃姫も、周囲の者全てが息を呑む。

「?」

も思わず立ち止まる。
それが不味かった。
信長は銃をに向け一発放つ。

「っ!!」

避けられなかった。
動けば逆に危ないような気がした。
瞬間頬に熱と痛みを感じた。
は数歩後退するも、すとんと腰を地につけてしまう。

「ふん・・・終わりだ」

「の、信長様!」

マントを翻し、奥へと消えていく信長。
蘭丸がその後を追う。

「・・・・・な、なんだよ。意味わかんね・・・・」

生きている。
けど、生かされた。そう感じた。
背中に嫌な汗がびっしょり流れる。

「ってぇ・・・」

頬を軽く拭うと痛みと鉄の臭いがする。
弾がかすり血が流れていたのだ。

「・・・・・」

「え?」

その頬にそっと触れる白い手。

「えっと・・・・」

「いたい?」

「そりゃあまぁ・・・痛いけど・・・・あ、着物が汚れるよ」

の目の前に座り込む女の子。

「血・・・」

君。いらっしゃい。手当てをしてあげるわ」

濃姫がに来るように言う。
は立ち上がる。

「ごめんなさい。兄様が・・・」

さも自分が悪いかのように謝る女の子。
この子は妹の市だ。
は首を横に振る。

「なんで?なんで姫様が謝るんだよ。姫様は何もしていないだろ?」

「・・・・でも、みんな市が悪い」

「それこそ意味わかんね」

気にするなと。市を置いて濃姫の元へ向かう
少しだけ後ろ髪が引かれる思いをした。



***



、現在高校生。
毎日普通に学校に通い、アルバイトをして小遣いを稼いで、休日には友達と遊んで。
そんな日々の繰り返し。
少しだけ部活に入れば良かったかな?と思ってしまうも、入る時期を逃してしまい。
今更という気持ちもあって、宙ぶらりんだ。

そのはずなのに。
アルバイトを終えて、自転車に乗り帰宅途中。
トンネルを潜れば、そこは戦国時代でした。

へ?なに、その展開。

自分でも思った。
トンネルを抜ければそこは雪国でした。とかなんとか言ってた小説があったよなー。
そんな間抜けなことを思いながら、逃げたのだ。
わけがわからないから。
止まると間違いなく危ないと察したから。

ただっ広い野原に倒れている人、人、人・・・。
斬りあう人。馬上から槍を振り回す人。
あ、テレビで観たことがある。大河ドラマでの合戦シーン。
けど、アレとは違う。
倒れている人は、もう動かない。

怖い。こんなに怖い思いをしたのは初めてではないか?そう思うくらい必死で逃げた。
自転車のペダルを必死に漕いで。
ラン○×ーバーのシティバイクで、戦場をかっ飛ばすとは思わなかった。
思わなかったけど、スピードの出しすぎで、目の前に突然倒れた人を轢いてしまった。
だが、その人は斬られて倒れた人で、もう・・・。

嫌な感触だ。

そう思ったのも一瞬で、自転車が浮いてしまった。
しまった、転ぶ!
夢中でもがいて、転倒を避けようとしたが、更に目の前に人が。
今度の人は生きている。
ぶつかる!

「どけっ!」

反射的にそう叫ぶも、人をまたも轢いてしまった。
背中から。

「うわ・・・す、すみません」

死んでいないよな?と倒れた人を気の毒に思ってしまう。

「あの・・・・ありがとう」

「へ?」

人を轢いてお礼を言われるとは思わなかった。
見れば、倒れている人のすぐそばに女の子が座り込んでいたから。

「・・・・・・」

見かけによらず物騒な武器を手にしている。
この子も戦っていたというのか?だったらこのまま去った方が無難だろう。
状況がわからないまま、万が一襲われたら嫌だ。
なのに、座り込んだ彼女が気になった。
武器を持つ手が微かに振るえ、手の甲から血が流れている。

「あ。えっと・・・・あ、怪我、してる」

は自転車から降り、女の子前にしゃがむ。
そしてポケットからハンカチを取り出し、彼女の手を取りハンカチを巻く。

「・・・・・?」

「応急処置って奴?なんか見てらんないし」

そこへ「姫様」と呼ぶ声が。甲冑を身に纏った、いかにもごついオジサンたちがやってくる。

「姫様。ご無事ですか!?」

「貴様、何奴だ!姫様に何をした!!」

「え!いや、俺は・・・」

逃げようにも刀や槍を持った男たちに囲まれる。

「違う。この人、市を助けてくれた」

その一言でスッと向けられた刃が下ろされる。

「姫様、ここは一旦陣へ戻りましょう。戦は我らの勝ちでございます」

「さ。そなたも」

はこっそり自転車を引きその場を離れようとしたが、男たちに逃げ道を塞がれてしまった。
これが市との出会い。

彼らの言うお館様があの織田信長であったのには驚いた。
しかも噂というか、史実以上に恐ろしい男のようで。
市は彼の妹だった。
こちらは史実と変わらぬ美しいと評判の子だった。
けど、気の強い女性。そういうイメージを持っていたので、無口な姿に違和感があった。

市を助けた功績(?)により、織田家に身を置くことになった
信じてもらえるかわからないが、近い人だけに自分の身の上を話した。
の身形、その時はアルバイト帰りとはいえ、パーカーの下には学ランを着用していたし。
自転車など見たこともないモノのお蔭で多少は信じてもらえているようだった。

それから数日経った時に、信長に突然彼の小姓である森蘭丸との手合わせを言い渡された。
向こうは弓という飛び道具を持ち、は無手。
戦えるか!とは逃げまくっていたのだ。
そして結果は先ほどの通りだ。

「ありがとうございます。濃姫様」

切れた頬に塗り薬を塗ってもらった。
濃姫自ら。
彼女はが気を許せる数少ない人だ。
濃姫も「君」と気兼ねなく呼んでくれる。

「大変だったわね。君も・・・」

「いえ・・・なんつーか、これだけの怪我ですんで良かったかなって」

濃姫は目を細くし笑む。

「でも、戦わなかったら、あのまま上様が飽きなければ、君は・・・多少は立ち向かうべきだったんじゃなくて?」

「嫌ですよ。そんなの」

「え?」

「だって、斬って、殴って。そんなの痛いじゃないっすか」

だから逃げる。
相手だって嫌な思いをしないだろうし、自分も痛くないから。

「でも、相手はそんなこと考えないわよ?」

「多分、濃姫様たちと俺の感覚が違うんですよ。俺は武器を持って戦って生きてきたわけじゃないから」

「だから、相手のことまで考えてしまうのね・・・それじゃあ生きていけないわよ」

悲しそうにを見る。
だがはきっぱり言い切った。

「生きますよ。何が何でも。俺のやり方で」

このままここで一生を終えるつもりはない。
元の場所へと帰れるものなら帰りたいのだから。

君・・・」

帰れる日が来るといいわね。
濃姫はそう思わずにいられなかった。



***



改めて濃姫に礼をいい、室を後にする。

「あー・・・脚だるっ・・・・明日筋肉痛になりそうで嫌だな」

明日も今日みたいな目にあわなければいいのだが。

「・・・・・」

柱に寄り添い、を待っていたかのように市がいる。

「姫様?」

「・・・・もういたくない?」

「痛みは多少あるけど、濃姫様が薬塗ってくれたから」

もう大丈夫だと笑ってみせる。
その言葉に市はふわりと笑んだ。
あ。そんな顔をするんだ。純粋に思った。
いつもそういう顔をすればいいのに。
彼女は信長の影にどこか怯えているようだ。

「ごめんな「姫様の所為じゃないってさっきも言った。なんでもかんでも自分の所為にするなよ」

「でも、あなたが」



は市の前に立つ。

「俺の名前。でいいよ、あなたとかじゃなくて、名前で呼んでよ」

あぁお館様の妹君に対して無礼かなと思いながら。
だが市は頷く。



やんわりと口にした。

「姫様」

市は首を横に振る。

「市。も市のこと、名前で呼んで・・・・」

「うん。市」

早く戻りたいはずなのに。
まだもう少しここに居てもいいかなって思えた。
彼女が柔らかく笑って、自分の名前を呼ぶから。








19/12/31再UP