鬼哭、花笑み。



ドリーム小説
「松永久秀?知らねぇな・・・・」

届いた書状に書かれたいた名前に元親は小首を傾げる。
この辺りでは聞かぬ名前だ。
だが元親はその中身を読み目つきが鋭く変わった。

「面白ぇことしてくれるじゃねぇか・・・・鬼の左目が欲しいってか」

趣味が悪いと吐き捨てる。
松永からの書状には元親の隠されている左目が欲しいと書いてあった。
物々交換をしようではないかと提案を持ちかけている。
左目が欲しいといわれても、物ではない。
そう簡単にはいそうですか。と取り出せるものではないのだ。
馬鹿馬鹿しい、正気の沙汰とは思えない趣味だと松永のことをそう判断する。
相手にするだけ無駄だと。
破り捨ててしまおうかと思ったのだが、元親が逃げないようにと人質をとった事が書かれていた。

「・・・・・卿が来ぬなら・・・・預かっている少女の命もらうとしよう・・・・だと」

一人の少女。
佐助がの姿が見えないとずっと探していた。

「おい!猿飛はいるか!」

元親は書状を握りつぶし立ち上がる。

「はいよ!鬼の旦那。何か御用で」

佐助が姿を見せる。

「嬢ちゃんは見つかったのかい?」

「・・・・いえ。どこを探しても見つからなくて」

元親は舌打してしまう。

「松永って野郎が嬢ちゃんを攫ったらしいぜ」

「えぇ!?」

ほらよ。と佐助に潰してしまった書状を見せる元親。
佐助は素早くそれに目を通す。
佐助の顔が段々と歪むのがわかる。
自分の手落ちだと佐助は思った。





【9】





一通り読み終えた佐助は書状を畳み元親に返す。
腰に手を当て、空いた手で頭を掻く。

「あー・・・・まずいなぁ。旦那、俺が以前した話覚えています?」

「話?」

「妙な噂ですよ」

「ああ。非道なやり口で宝を奪うって奴らのことか」

聞いたのはほんの少し前だ。
各地でちらほら耳にする非道な仕打ちをする軍。
ただの賊かと思えば統率されている正規の軍だそうだ。

「どうもそいつらを率いているのがそこに名前のある松永久秀らしいんですよ」

「なに?」

「ようやく情報が集まってきたんで、旦那に知らせようかと思っていたんですけど・・・」

まさかがすでに奴の手中にあるとは思えなかった。

「にしても、なんで旦那の目が欲しいんですかね、この男・・・・」

佐助は素朴な疑問を口にする。
今までこの男が奪ったとされるものを思えば、左目が欲しいなどとは意味がわからない。
佐助の質問に元親は答えようとしない。
ただ。

「正気じゃねぇんだろ?どうでもいい。今は嬢ちゃんを迎えに行かねぇとな」

元親はすぐに出ると歩き出す。

「ちょ!ちょっと待ってくださいよ、旦那!」

慌てて佐助は追いかける。

「あ?」

「まさか一人で行くつもりじゃないでしょうね!?」

「野郎どもを連れて行く気はねぇよ。俺一人で十分だ。お前も別に来なくていいぜ」

何を馬鹿なことを言うのだ。
だが元親は止まらない、いつもと変わりない様子には見えるのだが、沸々と彼が怒りに燃えているのがわかる。

「あーもう!」

一人で行ってしまう元親に、信親や、他の者たちにも呼びかけなくてはならないと佐助は急ぎ行動を起こした。



***



奈良・東大寺。
荘厳豊かな大仏が鎮座しているそばに、は柱に括りつけられていた。
のそばを厳つい男が静かに立っている。
その側に黒い影も見える。

「そろそろ鬼が来ると思うのだが・・・・」

「あんた!馬鹿じゃないの!?あいつが来るわけないでしょ!私は人質としてなんの価値もないんだから!」

男、松永久秀はには顔を向けずに、静かに笑う。

「価値がないかは、卿ではなく、鬼が決めることではないか?それに鬼の性格を考えれば彼は必ず来るだろう」

それはの方が知っているのではないか?そう松永は問いかける。

「・・・・・」

松永の側にいた影が動く。

「ああ。来たようだ」

影は無言のまま消えた。

「私の前にたどり着く前に朽ちればそれまで・・・と言う話だ・・・」

は強く唇を噛んだ。
まさか自分が元親をおびき寄せる為の人質になるとは思ってもみなかった。
気ままに外に出るようになってから、ちょっとした散歩が日課になっていた。
別に行き先は決めずに何気なく海を見ながら歩くそれだけだ。
毎日同じに見える海は自分の気分次第でまったく違うように見えるから不思議だ。
そろそろ昼餉の準備に向かわねばと思っていた時、一瞬で気を失った。
何が何だかわからぬまま、気づけば見知らぬ場所にいたのだ。
そして柱に括りつけられている。

(なんで、来るのよ・・・・私のことなんか放っておけばいいのに・・・・)

素直な気持ちを言えば、こんな自分でも助けに出向いてくれただけでも嬉しい。
でも、その所為で迷惑をかけてしまったかと思うと・・・。

(ごめん。本当ごめん!)

自力で脱出可能ならば良かったが、それも敵わないようだ。
が今いる、本殿からは外の様子はわからない。

「震えているようだな・・・・」

見もしないで松永がいう。
震えている?そうかもしれないが、なぜにわかるのだろう、この男は。

「そう怯える必要はない。仲良くしてくれ」

仲良く?急に友好的なことを言い出す松永をは眉を顰める。

「何を「何・・・卿が死にゆくまでのほんの少しの間でいい」

背筋が凍る思いだ。
人質だと言っても、人質としての価値はないと言われているようなものだ。
さっきは元親が決めるものだと言っていたのに、松永にしてみれば別にどちらでもいいのだろう。

「・・・・何が目的なの?わざわざあいつを呼びつけるなんて」

松永が素直に話すのか微妙だったが、暇つぶしなのだろう彼は答えてくれた。

「卿も見ただろう?」

「?」

「鬼の左目だよ」

「左・・・・目・・・・・」

酷く心臓が波打った。

『アンタだけ特別だ』

『は?』

『他の誰にも見せねぇ、左目。アンタの前でだけなら見せてやるよ』

ちょっとした湧いた興味で元親にせがみ見せてもらったもの。
元親の左目。
普段はわからないが、眼帯を外せば出てくるのは生まれつきだという綺麗な金目だった。
松永はどこで知ったのだろうか、元親の金目を。
ほぼ外したことのない眼帯、左目が金目であることをほとんどが知らないはずなのに。
そこから考えられるのはたった数回とはいえ、自分が眼帯をはずしてくれと頼んだ時のみだ。
松永は偶然その時に遭遇したのだろう。

(わた・・・・私の所為だ・・・・)

自らが招いたことだったと激しい衝撃を受けた。
それを知ってか知らずか、松永は淡々と話す。

「欲しい物は手に入れておくといい。例えどんな手を使ってもだ」

「それが・・・・人質をとるようなやり方でも?」

「そのようなことは別に重要ではない」

今からでも遅くはない、元親は引き返してくれないだろうか?



***



「まったく可笑しなものを置いときやがって・・・・」

元親は粉々に壊れた、元親が壊した香炉を見る。
怪しげなもので、そこから焚かれたものが傷ついた兵士たちの傷を見る見るうちに癒していくのだ。
どんな仕掛けがわからないが、倒しても倒しても傷を癒し立ち向かってくる兵士。
持久戦になればこちらの不利になるのは承知なので、元となっている香炉を破壊しにかかった。
するとどうだろう、不死身のように見えた兵士たちは元親が手を下さなくても次々と倒れ始めた。
傷が癒されるのはあくまで香炉が機能している間だけ。
その香炉がなくなれば、蓄積されたダメージは体に帰ってくるようだ。

「松永って奴は本当に趣味が悪いようだな・・・・嬢ちゃんも無事ならいいんだがよ」

元親は本当に一人で指定された寺、東大寺へとやってきた。
佐助が止めるのも聞かずにだ。
相手が端から待ち構えているのは予想済みだったが、手下たちを引き連れていくつもりはなかった。
きっとが長曾我部軍で攻めるのを好まないと思ったから。
松永が欲しているのは自分の左目。
今までずっと隠していたもの。それを急に欲しいと言ってくるのは、彼がその存在を知ったからだ。
元親は常に父親の言うとおりにその左目を隠し続けてきた。
知っているのは片手で数えられるほどだ。
それを最近破り、公に見せたのはだけだ。
と二人でいるときだけはこの左目を隠さないと約束した。
物好きなものだと元親は思ったが、どこかそのの言葉行動が嬉しかったのだ。
人質となったは、きっと松永が欲しているものがなにかと判れば、自分の所為だと責めるだろう。

「とっとと嬢ちゃん助けて帰らねぇとな。夕餉までには・・・流石に帰れねぇか」

場の雰囲気に似つかわしくない明るさで先を進む。
寺だというのに、僧の姿など全く見当たらない。
いるのは武装した兵士たちのみだ。松永久秀という男は神や仏に祈るような真似はしないのだろう。

(ま。俺もそんなもん信じちゃいねぇがな)

兵士たちの猛攻を退け再び開けた場所に出たと同時に元親の前に忍が使う手裏剣が飛んでくる。
元親はそれをかわせば手裏剣は地面に突き刺さる。

「おいおい・・・・危ねぇな・・・・」

小さな竜巻が発生したかと思うと黒い影が姿を見せる。

「・・・・・・」

無言で背中に差してあった刀を構える影。

「今度はアンタが相手ってかい?・・・・中々楽に通しちゃくれねぇもんだな。欲しいものがあるって呼びつけておいてよ」

だがここを通らねばを取り戻すことができないのだ。

影が元親に突進してくる。
元親も得物の碇槍を振り上げようと手に力を込める。
だが、二人の間に違う影が割って入ってきた。

「やーっと追いついたー。まったく、一人で行くのやめてくれません?」

佐助が使いの鳥でここまで元親を追ってきた。

「猿飛、お前・・・・」

「旦那の気持ちもわかるけど、俺だってちゃんを助けたいって思うんですよ、勿論他の奴らもね」

信親などに状況伝え、佐助の隊だけでも先行してここまでやってきたそうだ。
あちこちにいる松永の兵の中に忍がいることに気づき。
佐助は微動だにしない影に口の端を緩める。
だが相手を見て酷く緊張もしていた。

「さーて。伝説の忍の相手は俺がさせていただきますよ。旦那はちゃんの下へ行ってください」

伝説の忍。二人の目の前にいるのは忍たちの間でも有名な存在のようだ。

「いいのか?伝説が相手なんだろ?」

「かまいませんよ。風魔を倒して今度は俺が伝説になっちゃいますから」

そんな余裕は佐助にはないが、大口でも叩いて気分を高揚させねばやっていられない。
元親は呵呵と笑った。

「そりゃあいいな。鬼のそばには新しい伝説の忍がつくなんてよ。じゃあ遠慮なく行かせて貰うぜ」

「どうぞ、どうぞ」

伝説と呼ばれた影、忍は元親が通りすぎても追撃しようとしなかった。
元親よりも佐助を敵とみなしたようだ。

「猿飛!」

元親は一度立ち止まる。

「なんすか?」

「お前ぇも無茶するんじゃねぇぞ・・・今は俺がお前の主なんだからよ」

「・・・・・了解」

主の命には従う。それが忍だ。
佐助の返事に元親は再び走りだした。

「さーて。ちゃっちゃと終わらせますか」

佐助は得物を構えた。
無茶をするなと言われたが、伝説相手の戦いだ。そう簡単には行くまい。



本殿の扉がギィっと音を立てて静かに開いた。

「よぉ。松永さんよ、来てやったぜ」

碇槍を肩に担ぎ元親が仁王立ちしている。

「よく来てくれたね・・・」

松永は宝物が到着したと目を細め笑う。
は嬉しさと同時に来ないで欲しかったと悔しさが芽生えた。









19/12/31再UP