鬼哭、花笑み。



ドリーム小説
「素晴らしい・・・隠された鬼の左目が金だとは」

薄暗い堂の中。
唯一の灯りである蝋燭の炎が男の顔を照らす。
男が欲しているそれが目の前にあるかのように、恍惚の笑みを浮かべている。
男は欲しいものの為にならどんな手段も選ばない。
そう。男は新たに欲しいものが見つかった。
それを目にしたのは偶然だった。
最後まで知らぬまま朽ちてしまうところだっただろう。
でも、今は知った。
どうしても欲しい。
欲しいなら奪えばいい。
すぐに終わってしまうのが人の生なのだ、己の欲望に従って何が悪い。

闇夜に紛れて男の側に影が一つ。

「卿にかかれば容易いであろう・・・・鬼をおびき出す道具を」

影に命じる。
鬼をおびき出す為ならばどんな手も使えばいい。





【8】





「あんたも行くかい?暇だろ?」

昼餉の準備にはまだ余裕がある。
暇そうにしていたに元親が声をかけた。

「行くってどこに?」

「どこって場所でもねぇな。単純に散歩だ、散歩」

潮風に晒されるのも気持ちいいもんだぜ。
元親が二カッと歯を見せて笑う。

「まあ・・・別に良いけど」

暇だし。ごろごろしているのもどうかと思うので付き合う。
波打ち際をただただ歩く。
元親の後ろをのんびりと。
隣に並ぶこともなければ、話しかけることもない。
それでも、そういう雰囲気は悪くない。

(夕方に来るとまた違う景色に見えるんだろうなぁ)

キラキラと海面が陽の光に反射している。
いつぞや元親の室から見えたのと同じ海ではあるが、気分があの時と違う。
海を見ただけで幸村のことを思い出し泣いた。
今も多少は胸に痛みを感じることはあるが、もう幸村のことで泣くのはやめたのだ。
笑った方がいい。
きっとその方が幸村も喜んでくれるだろうから。

(あ。そうだ・・・・)

は少し早足になり、前方を歩く元親後頭部に手を伸ばす。

「あ?なんだ?」

もう少しという所で元親に察知された。
首だけで振り返る元親。

「ちっ」

「あ?舌打ちしたか、今」

「した」

「なんだい」

「それ」

「?」

が指差したものは元親の左目を覆っているもの。

「とってよ、それ」

その下に隠しているものが見たいと思った。

「どーすっかなぁ」

「なんでよ。特別に見せてくれるって前に言ったじゃん」

「ああ、そうだったな・・・物好きだな、こんなのが見たいなんてよ」

眼帯を外すと急に差し込む光に顔を歪めてしまう。

「視力悪くなるよ」

風呂と就寝時以外は外さないでいるから。

「こっちだけで慣れてんだよ」

「そんな慣れはよくないって」

そう言っては元親が握っている眼帯すら奪ってしまう。

「おい!」

「しばらく眼帯禁止ーじゃないとお昼にとんでもないもの食べさすから」

にししとは笑う。
とんでもないもの、見た目のことならば毎日食っている。

「色が違うと言っても、見えているものは変わらないでしょ?」

元親を見上げる
を見下ろす元親。

「・・・・そりゃそうだ」

「だけど・・・・私が勝手にそう思っているだけだどね」

「?」

「今まで隠してきたってことは、少なからずアンタにとってあまりいい事なかったってことでしょ?」

閉鎖的なお国柄ならば、目の色が違うと言うだけで差別や侮蔑されることがあったかもしれない。
どこから来るのかわからないが、いつも自信に満ちている鬼が隠すのだ。

「いや・・・そうでもないさ。ただ知らねぇだけさ」

「知らない?」

「周りに騒がれる前に、この目は父親の命令でずっと隠してきたからな。
知っているのはごくわずか。あいつらでさえ、知らねぇのさ」

左右瞳の色が違う息子に対して徹底的に隠すことを命じた。
反抗や疑問など思うこともあったが、自分の面を見て納得させた。

「こうして隠してんのも、俺に似合っていいだろ?鬼っぽいじゃねぇか」

何かあると思わせられるなど。

「嫌に思うこともあるが、今はそうでもねぇ。アンタの言葉が俺を楽にさせてくれた」

「私は・・・・無責任に言ったかもって・・・」

「でも、気味悪がることなかった。この目のことを知っている奴でも、んなこと言ったことなかったしな」

だから自分でも自然と目を背けていたのかもしれない。
そんな目を見ては「綺麗だ。似合う」と口にした。

「ありがとな・・・・」

風が吹く。
心地良い風が吹き抜けていく。

「別に・・・・き、きっとさ。アンタをアニキって慕うあの人たちだって同じこと言うかもしれない」

瞳の色で元親から離れるような真似はしないだろう。

「崇拝に近いし。幸村君も随分お館様のこと慕っていたしなぁ。いつも犬みたいにお館様のあとくっついて」

はくすくすと笑った。
元親は一瞬呆気に取られる。

「お館様の言うことが絶対なんだもん。きっと、お館様に凍った湖の中泳げって言われたら泳いだだろうな」

目に浮かぶと楽しそうに笑う。

「アンタ・・・」

「なに?」

「泣かないんだな・・・真田の名を出しても」

目を細めを見る元親。

「泣いて欲しいわけ?」

「ば、バカ言えっ!んなのこと言ってねぇよ」

笑い続ける
この短期間に彼女は変わったようだ。
いや、きっとこれが本来の彼女の姿なのだろう。
佐助が元親に言った「が以前のように笑っていてくれるならばいい」とはこういうことなのだろう。

「沢山泣いたから、もう泣かないって決めたの。多少こう・・・この辺りがさ、幸村君のことを思い出すと
痛く感じることもあるけど、笑っていたほうがきっといいって思うから」

「泣きたい時は泣いた方がいい・・・」

「そりゃあ、悲しかったら我慢しないよ。でもいつまでもメソメソするのとは違うもの。
今、ここでの生活悪くないよ、結構楽しいし。アンタにも感謝しているから・・・仇討ち止めてくれてありがとう」

自ら命を絶とうとした自分を引き止めてくれてありがとう。

「・・・・・」

元親はに背を向け後頭部を掻く。

「アンタに礼を言われるのは、なんか可笑しなものだな。アンタから大事なものを奪ったのは俺だぜ?」

「そんな事言い出したらキリがないし、本末転倒だっての」

戦だから、仕方ない・・・そう考えている。
お互い命を張って戦ったのだから。

「アンタはお館様と幸村君に勝ったんだから、そのことを肝に銘じてちゃんとしなさいよね」

それは常日頃から元親が思っていたことだ。
倒した相手の魂背負って前に進む。

「へっ。そんなことはわかってるさ」

「ならば、よし・・・・幸村君が望んだ、お館様の天下・・・アンタが変わりにちゃんととりなさいよね」

そのくらいのことを背負えと言ってみた。
無茶振りだと思ったが。

「おうよ。約束だ」

元親のその大きな背中。
前を向いていてくれて良かった。
明るく言うつもりだったのに、やはりというか、涙腺が緩んだ。
泣かないようになんとか歯を食いしばる。

「言ったろ・・・・・泣きたい時は泣けってよぉ・・・・」

見られたくないなら、このまま振り向かずにいるから。
だけど、泣いているを一人置いていく真似はしないから。



***



「ま。今の所はどこも己の領地を護るのが精一杯かな」

佐助による元親への各勢力の近況報告。

「そうか。まだまだ乱世って奴だな・・・・甲斐はどうだ?」

佐助はそこも見てきただろうから、元親は問う。
今、あそこは一時期同盟を結んだ徳川が治めている。
友情のようなものが元親と家康の間で成立していたのだが、だからって文などとやりあうようなことはない。

「しっかり家康公が治めてくれているようだよ。元々他国が攻めにくい場所でもあるしね」

豪族同士の抗争のようなものは幾つもあったが、他国から直接侵攻してくることは
信玄が治めている間はなかった。
武田信玄という男の存在が大きかったとも思われるが。

「ただねぇ・・・・」

佐助が浮かない顔をする。

「ちょっと妙な噂を耳にしたんで」

「妙?」

「非道なやり口で宝を狙うっていう輩がいるようなんですよ」

「賊じゃねぇのかい?」

佐助も未確認な部分が多い為に上手く説明はできないでいる。

「賊ではない、正規の軍。みたいですよ・・・・金目の物を狙うとかじゃなくて、その家々の家宝のようなものを狙っているとか」

その為にならば、その家の者の命を簡単に奪う。
宝を狙うというのは海賊のようなものである、元親にも覚えはあるものだ。
だが、人の命を奪ってまでのようなことはしない。
戦での戦利品ならばないこともないが、その家に押しかけるなど。
元親がその輩と関わることになるかはわからないが。

「北端の方で村を焼き討ちしたって話も、そいつらの仕業じゃないかって話なんですよね」

「・・焼き討ちか、ひでぇことしやがるもんだ・・・」

魔王と呼ばれた男がそのようなことを平気でやった話は聞いたが、彼はもういない。

「俺らの方でも色々探ってはいますんで」

「ああ。頼む」

お安い御用だと佐助は笑う。

「さてと。俺はこれから次のお仕事にかかるんで、失礼しますよ」

「次の?」

「昼餉の準備。今日はどんな握り飯が出てくるか楽しみじゃないっすか?旦那」

ちっとも上達しない見た目の酷い握り飯。
元親は苦笑する。

「教え方が悪いんじゃねぇのかい?」

「こればかりは、俺でも無理なんすよねぇ〜」

期待していてくださいね。と言い残し佐助は姿を消した。

「さーて。どんな物が出てくるのかねぇ」

元親はその場に横になる。
だけど。

「・・・・・?」

元親の前に出されたのは皆と同じ綺麗な形の握り飯。

「普通じゃねぇか・・・上達したのか?」

マジで?と周りも驚く。
普通の握り飯なのに、思わずそれを中心に囲ってしまう面々。

「アニキの腹にようやくまともなものが〜」

「良かったっすね、アニキ!!」

どんな喜び方だと元親は思う。

「ほら、食べてみてくださいよ。アニキ!」

「あ、ああ・・・・」

握り飯を食べるだけでこんなに急かされるのはなんだろうか。
一つ手に取りかぶりつく。
まあ、まずくはない。
いたって普通の握り飯だ。
今までのことを思えば、まともな物が食えた〜と喜ぶところなのだろうが。
元々が握ったものは見栄えが悪いだけで、食えないこともないのだ。
ちょっと拍子抜けな気がする。

「なに、騒いでンの?」

佐助が顔を出す。

「猿飛の兄さん!だってさ、アニキにようやくまともな握り飯が〜」

「嬢ちゃん、進歩したんすね!!」

「・・・・・」

佐助は「んー」と首を傾げる。

「どうした?」

元親が尋ねる。

「いや・・・誰かちゃん知らない?昼餉の準備にも姿見せなくてさ」

ポリポリと頭を掻く佐助。

「いねぇのか?」

今、元親が食べている握り飯は、普通に佐助たちが握ったもののようだ。

「うーん・・・室にもいなくてさ」

どこ行っちゃったんだろうねぇと佐助はそのままその場から出て行った。
まだを探すのだろう。
普段は館内にいる
最近はちょこちょこ散歩程度だが出歩くようになった。

「そのうち帰ってくるだろうよ」

元親は食事を再開させた。
そのすぐ後に、元親の下に「松永久秀」と名乗る男からの書状が届いた。









19/12/31再UP