鬼哭、花笑み。



ドリーム小説
「やめた?」

佐助の前では頷いた。
厨房での食事の支度をする佐助の姿は、すでに長曾我部に馴染んでいる。
大きな桶と言うより盥で大根を洗っている。

「えーと・・・やめたって何を?」

わかってて佐助はに問うてみる。の指がぴくりと動く。

「あの人・・・・を、仇だって狙うこと・・・・」

「ふーん」

佐助は大根の泥を落とす。
さほど興味ないというような感じで、は肩透かしを食らう。

「さ、佐助さん。あの」

「別にいいんじゃない?俺は元々ちゃんに仇討ちして欲しいなんて思っていないし」

「・・・・いいのかな?」

「それはちゃんが一番わかっているでしょ?元々真田の旦那がそういうの願う人じゃないじゃない」

元親に負けたのは己の腕が未熟だったから。
そう言いそうだ。
ただ自分がそこで事切れてしまうのは予想だにしなかっただろうが。

「・・・・」

「俺は前にも言ったよ。ちゃんが以前みたいに笑ってくれるなら場所はどこだっていい・・ってさ」

「うん・・・・ありがとう。佐助さん」

少しだけ涙ぐむ
馬鹿なことをしたんだなって今更思う。憎しみや悔しさがないとは思わない。
でも、それ以上に誰かをこの手で・・・とは思いたくない。

「さーて。そんな事している暇ないよ?ほらほら、食事の準備しないと〜間に合わないよ」

「は、はい!」

沢山泣いたから、今度は沢山笑うんだ。





【7】





元親のうんざりした顔を最近よく見る。
昼餉限定で。

「・・・・なんで、進歩しねぇんだ?・・・・」

今日の昼餉は焼きおにぎりですと出されたのだが。
相変わらず元親にはなんかよくわからないものが並んでいる。

「焼きすぎだろ・・・どう見ても。炭じゃねぇか炭」

こんがり焼けた。じゃなくて、焦げた物体。
他の者たちのは綺麗な食欲をそそるおこげに網の焼き目がついているおにぎりだ。

「まあ・・・ある意味才能っちゃ才能だよな」

毎日どれだけやっても進歩しない彼女の料理の腕前。
逆に次はどんなものが出てくるのだろうかと変な期待をしてしまう。

「それはそうでしょうが、私としては元親様のその胃が気になりますね」

「あぁ?」

炭だと言ってもそれをバリバリ食っている元親。
それは病気になるんじゃないのか?と思わずにはいられないのだが。
彼は不思議と腹を壊すような、体調を崩す気配が見られない。健康そのものだ。

「別に食えねぇことねーからなぁ・・・・」

「普通食べませんよ、流石に・・・・」

あなたぐらいだと信親に言われる。
腹を壊すことがないから、作った本人にやめろと言えない。

「ですが・・・いつか化けるかもしれませんね。その料理」

「?」

信親はいいえとそれ以上は何も言わなかった。
見た目などが悪いものの、今の所味付けには問題はないのだから。

「アニキ。すげー」

炭おにぎりを食べる元親の姿に周りは勇者を見るような目で感嘆していた。



***



「んー・・・・・・高っ!」

はとある店前で陳列しているある物を見ていた。
買出しに行くという者たちに頼み込んで船に乗せてもらいやってきた町。
そこでお目当ての物が見つかったのだが、値段がかなり張り驚いた。

「えー・・・ってか・・・百均でも買える代物なのに、ここたかーい・・・」

時代が時代だからしょうがないのだろうが。
が見ている物が特別値段が張るのかもしれない。

「私の手持ちじゃ買えないなぁ」

ちょっと肩を落としてしまう。
元親と一悶着あったあの晩以降。
一応解決したというのだろうか?あれ以来は普通に別室を与えられた。
甲斐に帰るつもりも今の所なかったので、佐助に頼んで少ないとはいえ、荷物を運んでもらった。
その中にちゃんとへそくりではないが、貯めて隠しておいたお金も持ってきてもらった。
佐助には

「なんで、あんな所に隠していたの?びっくりしたよ」

と笑われてしまった。

「仕方ないから他のを探そうかなぁ・・・でもなぁ・・・・」

これがいいと思った。一目惚れと言っても可笑しくない。

「ただなぁ・・・別にもう必要ないような気もするし・・・・というか・・・・あれいくらしたんだろ」

が魔が差したとかなんとか理由をつけて元親におはぎを作って持っていった。
その時、甲斐に帰れば?なんてことのやり取りで思わずカッとなっておはぎを乗せた盆をおはぎごと投げた。
盆にはおはぎの他に用意しておいた方がいいだろうなとお茶も一緒に乗せていた。
湯呑みはちゃんと元親専用のごついものだった。
元親の見た目と違って渋い造りの物だったのだが、見事にそれは割れた。
割れたことを咎められることも弁償しろと言われることもなく日は過ぎた。
食事の際に元親は普通に別の湯呑みを使用していた。

「一応お殿様って奴だし・・・・安いのは使わないよね・・・はあ」

「あれ。嬢ちゃん、そんなところで何してんだ?」

買出しに出ていた者たちが荷物を抱えていた。

「あ。すごい量だね」

「まあ、あれだけ人数いりゃあよ。それに猿飛の兄さんに色々頼まれたし」

本当佐助は前以上に厨房事情に詳しくなっているようだ。

「ふーん」

「それで、嬢ちゃんは何していたんだ?」

「え。あ・・・えーと・・・・」

隠す必要はないのだが、なんとなく口に出しづらく口篭ってしまう。

「あ?」

普段陽気な彼らでも、やっぱり少し凄まれると怖い。
本人達にはその気はないようではあるが。

「え、えーと・・・・湯呑み。見ていたの、ちょっといいなぁってのがあったから」

その迫力に負けて答えてしまった。
湯呑みといわれて、つい彼らもそれに目を向ける。
こんなものがどうした?と大半は思ったが、そのうちの一人が気づく。

「あ。アニキの湯呑みに似ているよな」

「アニキの?・・・・そういや、最近アニキ別の使っているよな」

目ざとい。そんなところまで気づくのか?は感心してしまう。

「わ、私がこの前割っちゃったから」

「嬢ちゃんが!?」

ただ元親と色々ありました云々は言わない。
彼らの方も聞いては来ないし、何より割ったと言って普通にがドジを踏んだと思ったようだ。
それに元親がそれに関して怒ったようなことも聞かれないので。
前から思っていたが、この長曾我部軍はサバサバというかあっさりしすぎていない?
逆に心配になってくる。
元親の言葉に異論反論唱えずこうと決まると同じようにノリノリで楽しんでいるようだから。
家臣に疎まれるような主君よりはいいとは思うが。

「だから、割ったお詫びというか・・・まあ・・・そんな理由で新しいのをって思ったけど」

高いと思って諦めかけていた。あと。

「今普通に他のを使っているし、わざわざいらないかなぁとも思ったし」

男達は顔を見合す。そして懐を探り始める。

「・・・・俺、このくらいなら出せる」

「俺はこれだけ」

「お前らしけてんなぁ、俺はその倍出せるぜ」

などなど。

「で。嬢ちゃんの予算は?つーか嬢ちゃん中心で買わないと駄目だな」

「は?」

つまりだ。彼らはカンパしてくれるらしい。足りない分を補ってくれると。

「え。い、いいよ。だって、別に」

「アニキにあげたいって思ったんなら、そう思える時にやるべきだ」

「そうだ、そうだ」

「じゃ、じゃあ・・・一応これ全部」

「よしよし。じゃあ買おうぜ。オヤジー!そこにお置いてある湯呑みくれー」

ズカズカと店の雰囲気にそぐわぬ男達が入っていく。
店主もびっくりしたようだが、客でちゃんと金もあるので丁寧に応対してくれた。



***



「うわ・・・なんか緊張する・・・」

盆に乗せた真新しい湯呑み。
以前元親が使っていたものと似ているもの。
一応あの時の再現ではないが、同じく盆には自分で作ったおはぎも付け足した。

「いらないって言われたらどうしようかなぁ・・・・でも、他の皆も出してくれたものだし」

ブツブツ元親の室に続く廊下で立ち往生してしまう
買った湯呑みを彼らはに託した。
あくまでからの・・・ということらしい。
でも、皆で用意したと告げるつもりだが。

「なんで、私、こんなに考え込むんだか・・・パパッと置いて、パパッと戻ればいいじゃん」

先日まで仇だとか言っていたのが嘘みたいだ。

「・・・・本当、いいのかな、私こんなで・・・」

誰もがを咎めない。

「ね・・・幸村君・・・」

好きだった人を倒した相手のそばにいることに。

「何突っ立ってんだ?アンタ」

「いぎゃあ!!」

「おっと」

元親に後ろから声をかけられ驚き持っていた盆を落としそうになる。
寸前で元親が盆を支える。

「び、びっくりさせないでよ!!いきなり声かけないでよ!」

「普通そんなもんじゃねぇのか?」

「う、うるさいな・・・あ、あーちょうど良かった。はい、これ持って室行けば」

そのまま元親に盆を持たせる。

「おいおい。なんだい、こりゃあ」

「・・・・おはぎ。見えないだろうけど、おはぎ」

やはり見た目で引っ掛かるか。
これだけは幸村だって美味しいって食べてくれたんだぞ。

「いや、そりゃわかるって。俺が言いたいのは」

「いいから、それ持って室帰れ。黙って食え」

返品は受け付けないとは元親に背を向ける。

「だから待てって・・・・」

元親は右手で盆を、左手での腕を掴んだ。

「暇だろ?ちょっくら俺の相手してくれよ」

「え、わ、私は・・ってちょっとー!!」

有無を言わさずを連れて行く元親。
天気もいいので、縁側でのんびりお茶だ。
元親には言うほどおはぎの見た目が悪いとは思っていない。
インパクトだけならば、昼餉に出てくる握り飯に敵うものはないだろう。

「・・・・・・ど、どうなの、かな?」

は黙って食べた元親の反応が気になった。
一つ食べ終わり指についた餡子をぺろりと嘗める元親。

「悪くねぇな」

「・・・・」

「なんだ?不服か?今まで食ってきたアンタの握り飯の方が美味いと思ってよ」

意外だとは瞠目してしまう。
自分でも何の嫌がらせだろうと思ってしまう出来の握り飯の方が美味いと言われるとは思わなかった。

「味オンチ?」

「んだよ。失礼な奴だな。そんなわけねぇだろうが」

でも舌が麻痺でもしたんじゃないのか?と冗談にも思った。
の反応が面白くないと言った感じだが、元親はそれでも普通に二個目に手をつける。

「アンタ、今まで自分で作ったものの味見とかしねぇのかよ」

「んー・・・それはした」

けど、基本的に味見をしたことがない。料理が苦手な者に多く見られることだ。

「ま。別にこれも悪くねぇけどな」

「・・・・結構、甘党?」

「あー・・・別にそこまで考えたことねぇな。あれば食うしよ」

「やっぱ、あんたってよくわかんない」

「へへ・・・そうかい」

は呆れながらも隣でおはぎを食う元親から目を離さない。

(変な人)

出したおはぎをすべて食べると、湯呑みへと手を伸ばした。

「そういや、この湯呑み・・・・」

「・・・・前の、私が割っちゃったから・・・・一応悪いと思ったし、だから弁償ってことで」

以前使っていた物とよく似ている。
別に好んでとか深いおもいれがあるものではなかったが。

「別にあんたが悪ぃわけじゃねぇだろうが・・・・それに結構上等な物じゃねぇか」

「お金の心配?まあ私一人じゃ買えない代物だったけど・・・他の皆が足りない分出してくれたから」

むしろその金額の方が多いような気もするが。

「だから、皆に礼を言った方がいいかもね」

その方が彼らも喜ぶだろう。

「ありがとな」

「は?」

「あとであいつらにも礼は言うが、アンタにも言うべきだろう、普通はよ」

「・・・・だから、別に。元々割ったの私だって・・・」

「いいんだよ。俺がアンタに礼を言いたいって思ったから言うんだよ」

その真新しい湯呑みに口つける。
なんだか機嫌よくお茶を飲む元親にはやっぱりわからないと首を傾げた。

「一つ聞いてもいい?」

「おう」

隣にいるからだろうが、なんとなく気になっていたもの。

「なんで、左目隠しているの?独眼竜みたいな理由あるの?」

元親は左目を衣装と同じ色の布で当てている。顔の左側はほぼそれで隠されている。

「・・・・・・いや、別に」

元親の声音が少しだけ低くなった。
何か聞いてはいけないことだっただろうか?

「あ・・・・ごめん。なんか触れちゃいけないことだったんだ」

スッと元親から目をそらす。

「悪ぃ。そんな深刻なものじゃねぇよ・・・・・ほら」

するっと布を外した。

「え?」

「・・・・・これが理由だ」

元親が隠していた理由。

「金目・・・・怪我か病気で?」

左目は金、右目は青。瞳の色が違っている。

「いや・・・・生まれつきって奴だな」

「なんで隠すの?なんか違うもの見えたりするわけ?霊力でも貯めているとか」

「あんたの発想面白いな。気味悪ぃとか思わねぇのかい?」

質問を質問で返すなとは少し唇を尖らせる。

「別に。そんなことないけど・・・・鬼が何言ってんだか」

はふふっと笑った。

「あ、ごめん。無神経だよね・・・・たださ、別に気味悪いとか思わないし、綺麗じゃん、その目。髪の色にもあって」

似合うとポロッと本音が出た。言った自身が驚くくらいに。
さらりと出た言葉にあえて気づかないようにそ知らぬ顔をする。
元親も何も言わなかった。
ただ、口の端が緩み笑みは浮かべている。

「いー天気だよな」

「そ、そうだね」

久々に両目で陽を見た。直前前覆っていたのだ眩しいくらいだが気分は悪くない。
それでもまたすぐに左目を隠す。

「・・・・・勿体ねぇと思うかい?」

「ま、まあ多少は・・・・」

だがが知らない元親の過去に色々苦労があったかもしれないと思うと、余計な口出す理由はないと感じる。
気味悪いなどと言っていたので忌み嫌われる出来事があったのかもしれない。

「アンタだけ特別だ」

「は?」

「他の誰にも見せねぇ、左目。アンタの前でだけなら見せてやるよ」

「変な人」

「へへっ、そうかい」

でも不思議と嫌な気分はしなかった。お互いに。







19/12/31再UP