鬼哭、花笑み。




ドリーム小説
重い。体がとても重く感じる。
なんだかもう疲れた。
このまま眠っていたい気分だ。
そう、すごく眠たい。
眠っていれば・・・・このまま目を開けなければ会えるのかな?
愛しいあの人に・・・。

『気持ち良さそうに眠ってんじゃねぇよ!』

鬼だ。
うるさい。あんたのことなんか知らないもの・・・。

『あんたな・・・・誰が俺のメシ作るんだ?』

そんなのは別に私じゃなくてもいいでしょうが。

『石ころみてぇな握り飯。俺の他に誰が食えるってんだ』

悪かったわね、石ころで!
まだ上手く握れないんだからしょうがないでしょ。

『だったら、あんたの得意なもの食わせてくれや』

得意なのは・・・得意といえるかわからないけど、おはぎは作れる。

『おう。だったら、それ食わせてくれよ』

・・・・。
意味わかんない、あんたって人・・・。

『だから、早く起きろ。な?』

私は。
私がどうしたいのか、よくわからないよ・・・・。





【6】





自分の目の前で倒れた
そのまま砂浜に体が静まる前に元親が受け止めた。

「・・・・おい」

に呼びかけるも反応がない。
眠っているだけのようには見える。
呼吸が止まっているわけでも荒々しいわけでもない。
そういえば、信親がの体調を心配していたのを思い出す。
あまり寝ていないようだと。
毎日ぼーっとしているだけのに、元親は強引に食事の仕度をするよう命じた。
何かしら体を動かせば腑抜けも抜けると思ったのだが。

「・・・・・・ゆき・・・・」

反応したかと思えば口にしたのが「幸村」だった。
確かにあれからまだそう日は経っていない。
彼女が生きる目的を持ったとしても、ここに居るのは酷なのだろう。
誰もが元親のようにただただ前へ進めるわけではないのだろう。
まして相手は弱い女性だ。
元親はを抱き上げ館に戻る。
一応が寝床にしているのは自分の室なので、そこにつれて行く。

「元親様!!?」

途中、廊下で信親が驚いた顔をしている。

「悪ぃ。布団敷いてくれや」

信親は言われたとおり、先に元親の室へ向かう。

「何があったのですか?」

を布団に寝かせてから信親に問われる。

「さぁな・・・・猿飛はどうした」

「彼は夕餉の仕込みをしてくれています」

忍なのにすっかり厨房でのその姿が定着しているようだ。
が姿を見せなくとも、きっと先ほどのことを思って元親と一緒だと言うのがわかっているのかもしれない。

「嬢ちゃんと俺の分のメシ・・・ここに持ってきてくれや」

「・・・わかりました」

信親は軽く一礼してから室を出た。

「・・・・・あんた・・・・甲斐に帰りたいかい?」

寝ているに問いかける。
佐助には「帰れば?」と平気で口にした。
その後にも同じことを言った。
正直元親は深く考えていなかったのだ。
それなりにここでの生活に慣れた様子の
最初から彼女は自分の命などとる事はできないとわかっていたから。
それでも狙わせたのには、佐助も思った通りのへ生きる目的を与えたかったから。
普通に生活している分にはそんな大層な目的というのはないだろう。
でも、あの時の彼女にはそれが必要だと思ったから。
敵討ちをそのうち諦めても、生きることを諦めることはないだろうと思って。

「俺があんたの大事なものを奪ったのは変わらないんだ」

元親はの頬に軽く触れる。
やはり側に置くのはもう止めた方がいいのかもしれない。
佐助は逆にそのままでいて欲しいようなことを言ったが。

「・・・・けどよ・・・なんで、あそこで怒った?」

帰れば?と言った時には感情を露にしてはいなかったが、元親には怒りを感じた。
自分に向かって投げつけられた盆。
きっと「そうする」とでも答えが帰ってくると思ったのに。

「俺ぁどうしたいんだろうな・・・・嬢ちゃんによ・・・・」

その答えが聞きたいから早く目を覚まして欲しかった。



***



「病気じゃないとは思うけどね」

厨房でのことを佐助に伝えにきた信親。

「だが、医者に診せたほうが・・・」

「あー多分寝不足だと思うよ?いくらここでの生活に慣れても、流石に鬼の旦那の隣で寝ていられないんじゃない?」

意外にあっさりした態度の佐助。
とは違い、するすると人参の皮を綺麗に剥いていく。

「まあ・・・そうでしょうが」

信親も前に思ったことだ。あまり寝ていないようだと元親に進言したこともあった。
その後佐助も来て、の様子もそんなに酷いものじゃないと思っていたのだ。

「俺らにはね、どうもできないんだ。これは旦那とちゃんの問題」

「そなたはそれでいいのか?彼女をこのまま元親様の側に居させて」

「うん。別にいいと思っているよ。その事は旦那にも言ったし」

ほら、そこ!つまみ食いしない!すっと手裏剣が飛んだ。
いつの間にか料理長並の権限を握ったらしい佐助。

「信親殿は心配?」

「ま。まあそれは・・・」

「どっちの心配してんの?旦那?ちゃん?」

あんたも大概お人好しのような面しているようねぇと佐助は笑う。
信親はからかわれたような感じがしてムッと顔を歪める。
だが、正直そうなのかもしれない。
佐助にこんな話をしている時点で。

「私が心配なのは元親様だ。だが・・・・殿のことも心配だとは思う」

「大丈夫だよ。きっと旦那がなんとかするさ。いや、しなくちゃいけないんだよ」

をここに連れて来た時点で。

「旦那には責任取ってもらわないとね」

「最初に手を出してきたのは殿ではないか・・・・」

すべて元親が悪い。そう佐助に言われたようで信親は面白くない。

「ここに連れて帰ったの旦那じゃーん。最初はそんな気なかったと思うけどさ」

敵討ちなど無駄から帰れとは確かに言っていた。
いつもそんなことを相手にしなかったから。
だから懐剣持たせて命狙えよ。なんて発言をしたことに信親は酷く驚いたものだ。

「・・・・・・」

「そんな心配しなさんなって。俺よりも旦那の事知っているのはあんたでしょうが」

「あ、ああ」

「ところでさ、あんた今ヒマなの?」

「へ?」

「ヒマなら手伝ってよ。ちゃんが抜けただけでもちょっと人手が足りないんだよね〜」

そこにあるジャガイモの皮をむいてよと佐助に言われてしまう。
よりは使えるだろうと思われたようだが、信親も料理などしたことはない。

「わ、私は」

「はいはい。何事も経験だよ、経験」

佐助に有無を言わさず手伝いをさせられる羽目になった。
他の場所ではともかく、厨房で佐助に逆らえる人間はいないと言うことだ。



***



どっぷりと夜も更けた頃には目を覚ました。
じじじと揺れる蝋燭の灯りが目に入る。

「ようやく起きたかい」

ゆっくりと体を起こしたに元親が声をかけた。

「あ・・・・私・・・」

壁に背を着け、片膝を立てている元親。

「昼間ぶっ倒れてからそのままずっと眠っていたぜ」

静かな館内。
今起きているのは数人の見張り程度だろう。

「腹は空かねぇか?昼も夜も食ってねぇわけだし」

「・・・・少し」

「なんだ、少しってのは」

「寝起きだから・・・・そんなにお腹空いてない・・・・」

「そうかい。握り飯ぐらいなら食えるだろ?」

もう用意してあったようだ。
だが、いつ作ったのだろうかわからないくらい冷えきっている。
それでも出された握り飯に手をつける。

「流石にあいつらを起こすのは悪ぃからな」

黙々と食べる
布団の上だか行儀が悪いとか言っていられない気がした。
元親はそんなを黙ってみている。
時間にして今がどのくらいなのかよくわからない。
辺りは真っ暗だし、この室以外見える範囲で灯りは点いていない。
食べ終えて、さあどうしようかと手持ち無沙汰になる。
元親も黙っているから余計に。

「・・・・あんたは寝ないの?・・・・あ、邪魔ならどくから・・・」

室内のど真ん中に自分が寝ていたことに気づく。

「なあ・・・」

「?」

「なんで俺の命狙ってこねぇんだ」

「べ、別に・・・・」

とてもじゃないかそんな機会を伺っているとは思えない。
最初からやる気がないように思えるから。

「同じ室で寝ていても、あんた・・・俺の首とる気配がない」

は目をそらす。
元親はいつの間にかの前にしゃがむ。

「ほら・・・・今、ここを突けば簡単に願いが叶うぜ?」

茶化しているわけでもなく、元親は真剣な目でを見る。
ここと言われた心の臓を指差して。

「こいつでよ」

にあの懐剣を持たせる。すでに鞘から抜き刃がむき出しになっている。

「ちょ!」

「それともここ掻っ切るか?」

に懐剣を握らせその上から元親がの手を掴み、その場所へと誘導する。

「や、やめてよ!」

元親は自分の首筋に刃を当てる。
少し刃が食い込み赤いものが滴り流れた。

「離して!嫌だったら、嫌!!」

グッと強く掴む元親。
下手に動くとその勢いで本当に斬ってしまいそうでは動けない。

「なぜだ?本当はそうしたいって思ってんだろ?」

「嫌っ!そんな事できるわけないじゃない!」

懐剣を握る手が震える。
怖い。そんなことしたくない。それが本音だ。

「だ、だって。そんな事しても幸村君帰ってこないもん。喜ばないのわかるし」

目元が潤み視界がぼやけてくる。

「人を傷つけるの、なんて・・・・本当は嫌だもん・・・」

だったら何故あの時敵討ちなどしようと思ったのはわからない。
大事なものを奪われた時に泣き寝入りするのが嫌だった。
わかっていますと物分りのいい自分が嫌だった。
それと・・・。

きっと、敵討ちだと言いながら、相手に斬られることを願っていたのかもしれない。

自分で事を起こすのが怖くて、意気地がないから・・・。

「わ、私・・・あんたに嫌なこと押し付けた・・・」

ボロボロと涙が零れる。

「・・・・・」

「なのに、あんた・・・いつも人のこと世話を焼くし・・・・笑いかけるし・・・・」

周りが元親をアニキと慕い、幸村に仕えていた佐助ですら楽しげにしているのを目の当たりして。
段々この男が憎めなくなっていた。
嫌いだと思っていたのに。
だから。甲斐に帰れば?みたいな話を持ち出された時、きっとすごく悲しかったのだ。

「甲斐に帰れって言うなら、か、帰るから・・・この手離してっ!!」

帰りたくないと思っている自分がいた。

「別に、俺は・・・・・あんたの好きにすればいいさ・・・・帰れなんて言わねぇよ・・・・」

元親の手が緩んだ。
はその隙に手を引き懐剣を手放す。
嫌な感触が手に残り震えてしまう。その震えを必死で止めようと強く胸の前で握り締める。

「悪かった」

「・・・・・」

「いつでもいい・・・・今度はあんたが作ったおはぎちゃんと食うから・・・いや、食わせてくれや」

元親の言葉には泣きながら何度も頷いた。




眠っていた時、夢に出てきたのは幸村君じゃなくて、鬼だった。
早く起きろって何度も起こしに来た。
ずっと眠っていれば、幸村君が迎えに来てくれるんじゃないかって思ったのに。
眠っているのが嫌で、鬼が来たなら仕方ないかと目が覚めた。

目が覚めて、やっぱり側にいたのは鬼だった。








19/12/31再UP