鬼哭、花笑み。



ドリーム小説
「とりあえず。考えといてよ」

佐助に甲斐に戻らないかと言われた
突然すぎてすぐに答えがでなかった。

「う、うん・・・・」

「ごめんね。困らせるつもりはないんだけど、俺は・・・やっぱりちゃんに敵討ちして欲しくないんだ」

別にまた失業するのが嫌だからじゃないよ?なんて冗談交じりで言う佐助。
単純にだ。
そういう血生臭いこと。闇に縛られる真似はして欲しくないのだ。

「佐助さん・・・」

ちゃんが真田の旦那の隣で笑っていた頃と同じようにまた笑ってくれるなら・・・」

手際よく米を握っていく佐助。
その横顔をは淡々と見てしまう。

「笑ってくれるならば、場所はどこだっていいんだよ」

「・・・・・」

隣にいるのが誰であっても。
もう、彼女が想う人はいないのだから。





【4】





昼。というより、佐助がほぼ作った食事が元親たちの前に並べられる。
食事当番だった者たちによってだ。
と佐助は元親たちが食事をする広間には姿を見せていない。

「握り飯に、味噌汁・・・・に沢庵ね」

沢庵と味噌汁の具材が妙に歪なのが気になるが。
温かい飯というのはやはりいいものだ。
それに急に食事の仕度を、半端じゃない人数分を頼んだのだ、これはこれで十分だろう。

「夕餉はどんなものが出てくるのか楽しみじゃねぇか」

「元親様・・・・」

はあと元親の側で溜め息をつく信親。
に対し、毒でも盛れば?なんて平然と言ってのけたことをまだ引きずっているようだ。
一応、他の者を見ると彼らが具合を悪くする様子がないのでそれらしい心配は必要ないだろう。

「それで?嬢ちゃんはどうしたんだ?」

「忍の兄さんと別で食うそうですよ」

「へぇ」

「この飯も、ほぼ忍の兄さんが作ったんですよ。本当忍って何でもできるんだなぁ」

なんて笑っている食事当番だった者たち。
そういえば、を厨房にと伝えたとき、佐助が妙に慌てていたのを思い出す。
歪な野菜たちを見て、の料理の腕前はかなり低いのだとわかった。

「違う意味で命とれんだろうな・・・・」

ポツリと呟きながら、歪な沢庵を一切れ口に放り込む元親だった。



***



佐助と昼餉を食べた
佐助はその後どこかに行ってしまった。またあとで夕餉の準備をする際は手伝うからと言い残して。
一人元親の私室の縁側に腰掛けている
はずっと佐助に言われたことを考えていた。

(甲斐に帰れば・・・・他にも知っている人はいるけど・・・・)

信玄や幸村が眠っているかと思うと重い腰になってしまう。
いや、それを理由にした。
は自分がここで何をしているのだろうかと思った。
何も出来ていないことに悔しく思ったりもした。
だけど、わからない。
を理由をつけて生かした元親が。
本当に彼に言えば甲斐に帰らしてくれるだろうか?

(多分・・・帰してくれるだろうな・・・)

別に自分がいてもいなくても元親には関係ないのだろうから。
好き嫌いで言えば、きっとは元親が嫌いだ。
仇であり、何を考えているのかわからない人だから。
そしてかなりの自信家だろう。

(本当・・・どうしたいのかな、私は・・・・)

あの晩。幸村の亡骸を前に敵討ちを誓った自分は、本当に自分なのだろうか思ってしまうくらいだ。
もし、そう誓って動かなかったらどうしていただろうか?
為政者が信玄から家康に代わっていくのをなんとなく見ていたのだろうか?
もう真田の邸には居れなかっただろうから、どこか自分で別の場所を捜し求めていたのか。
ただただ泣き続けていただろうか?
今となってはわからない。
今も迷っているのだから。

「なんだぁその指」

上から呆れている声が降ってきた。

「!!?」

は咄嗟に指を隠す。数箇所包帯が巻かれた指だ。
元親はの隣にどさっと腰を下ろす。
片膝に肘をつき、空いてる手で強引にの腕を掴み伸ばした。

「な」

「歪な沢庵見て、料理できねぇんだなと思ったが、ここまで酷かったか」

「い、歪で悪かったわね!」

放せと言わんばかりには腕を押し戻そうとする。

「なんで言わねぇんだ?料理ができねぇならできねぇって言えよ」

茶化す顔でもなく、真剣に元親が聞いてきた。まっすぐに顔を向けて。

「べ、別に・・・・だ、だって馬鹿にされると思ったし」

「誰があんたを馬鹿にするって?」

「あんたが・・・・」

掴んでいたの腕を離す元親。

「しねぇよ。馬鹿になんか・・・・。大体、自分が食うものを作ってもらおうって頼んでんのによ」

の目が大きく見開く。

「それであんたがケガしてりゃ世話ねぇな」

包丁もろくに使えないお嬢様だったんだと元親は言う。

「べ、別にお嬢様じゃないもん・・・ただ、向こうではやってくれる人がいたから」

真田の邸に居たのだったなとの言いたいことがわかる。

「何かちゃんと作れるものってあんのかい?」

その腕前じゃなさそうだと思いつつ聞いてみる。
だが意外にもはあると言った。

「おはぎ・・・・は作れる。見栄えはちょっと悪いけど・・・・」

「へぇ」

「ゆ・・・・・・」

何か言おうとしたが、の唇が震えているのに気づく。

「気が向いたら作ってみてくれや。料理が下手なあんたが唯一作れるっていうおはぎに興味あるしな」

元親はそういい立ち上がる。
信親がやってきたのが見えたのだろう、から離れてどこかに行ってしまう。

「・・・・・・っく・・・く・・・・」

胸が痛くなった。
元親に言おうとした言葉。

『幸村君に作ってあげたんだ』

と言いそうになった。
必死で泣くのを耐える。
まだ。まだだ。
幸村がそばにいないことを実感してしまう。

見栄えが悪くとも、美味しいと言って沢山食べてくれた。
これからはずっとが作ったおはぎを食べるのが楽しみだと言ってくれた。

それがもう。ないのだ。

「ふっ・・・・・ひっ・・・・・」

耐えられなくなった。
涙がボロボロ留まることなく零れ落ちていく。
ポツポツと着物にしみを作っていく。
でも誰かに見られるのが嫌だったから顔を隠して泣いた。
きっと佐助がこの姿を見れば心配するだろうし。



「くそっ」

が泣くとすぐにわかったからその場を離れた元親。
元親の姿がなくなると思い出したようにわっと泣き出した。
元親はすぐ近くに身を隠していたのだ。

『ゆ・・・』

実にわかりやすい。
「幸村」と言おうと思ったのだろう。
そして幸村との思い出が蘇ってきてしまい泣きそうになったのだ。

「元親様・・・・」

「理由はどうあれ、女の涙ってのは慣れないものだな」

「だったら、あの娘を側に置くのはお止めくだされ。そうすればそんな苦い想いをせずに済みます」

「・・・・そりゃあそうなんだろうがよ」

軽く頭を掻く元親。信親は珍しく厳しいことを言ってくる。
元親の方がを側に置くと言ったのだ。
じゃあさようならと放り出すのは性分に合わない。

「元親様よりも、あの娘にとって酷なのですよ。あなたが側にいると言うのが」

「・・・・・」

「気まぐれか何か知りませぬが、後で痛い目を見るのは元親様ですよ」

「へぇ・・・そりゃどういう意味だい」

「ご自分で考えなされませ」

「・・・・・」

なんとなく信親の言いたいことはわかる。

「ただよ・・・・気まぐれなんかじゃねぇよ」

懐剣を持たせて、自分の命を狙わせることで彼女から死を遠ざけさせようとした。
別に敵国の者から自分が以下にどう思われようが関係なかった。
恨むなら恨めばいい。
憎いと思うなら憎しみを向ければいい。
のように敵討ちをしたいのならばすればいい。

だからと言って、それをすんなり受けてやられる真似はしない。
きっとの時と同じようにするだろう。
するが、今回のようなことはしないと思う。

何故だろう。側に置いたのは。



***



料理は苦手だが、佐助指導のもと。なんとか毎日食事の仕度をしている
手伝っているというのが周りから見た感想だ。
なにせ、まだ彼女が一人でというのまでには行かないのだ。
昼餉は握り飯というのが最近の定番になりつつあり、皆で幾つも握っていく。
中でも、の不器用さは目立った。

「あ〜そんなに強く握らなくても大丈夫だって」

ガッチガチの握り飯ができる。

「・・・・食べる時、それじゃあ大変だよ?硬くて」

誰が食べるのだろうと怖くなる佐助や食事当番の者たち。
はそれをジッと見つめるが、しばらくしてとある人への皿に置いた。

「うわ、うわっ!嬢ちゃんそれはまずいって!!」

「そ、そうだ。アニキにそんなもの食わすな!」

元親や信親など軍の上の者の膳はちゃんと一人分ずつ用意される。
下の配下の者たちは大皿に盛ったものを取り合うように食べている。

「せめて自分で食おうぜ」

「アニキの歯が折れるって〜!!」

周りの正論ではあるが酷い反応には頬を膨らます。

「絶対、食わす」

「おいおいおい〜ちょっと猿飛の兄さん。なんとか言ってやってよ」

「えー・・・うーん・・・まあいいんじゃないの?」

佐助に助け舟を求めるも、案外薄情というか放置することが多い性格だったためにあっさり却下された。

「これもある意味敵討ちっちゃ敵討ちだよね」

と平気で口にする始末だ。

「はい。次」

ガッチガチの握り飯が容赦なく元親の皿に置かれていく。

「だからさ。そんなに力を入れなくていいんだよ?こうね、こう多少は空気を含ませて・・・あ」

「普通に握っているんだけどなぁ・・・・なんでかな・・・・」

しかも綺麗な三角形にはならない俵型に近い。

「流石に鬼の旦那が気の毒になるなぁ・・・実験台って感じ?」

ガッチガチの握り飯三個目が置かれる。
コレを見て元親はどう反応するのだろうか?
普通ならば「なんだこりゃ!?」と怒りそうなものだが。
しかも他の者の握り飯は佐助が握った綺麗な形のものだ。

「ま。握り飯じゃ歯が折れることはないよ・・・多分ね」

食べられないようならば、誰かのと交換するだろうなと思いながら。
まあその誰かさんには少々可哀相な気もするが。



「・・・・・・・俺に石を食えってか?」

恐る恐る元親の前に置かれた御膳棚。
海苔が巻いてあるので、元親にはそう見えたようだ。
ガッチガチに握った、元親の言う石の塊のような握り飯が三個ほど目の前に。
作った当の本人は相変わらずこの場にはいない。
誰か交換しろと元親が言えば、きっとアニキ大好きな彼らは泣く泣く交換に応じるだろう。
でもその握り飯を誰が作ったのかは一目瞭然なので、元親はそれに手を伸ばした。

「あ、アニキ!!?」

「・・・・・食えねぇこともねーが・・・・なんつーか・・・・・汁物がねぇと食えねぇな」

思わず元親の反応をマジマジと伺ってしまう周囲。

「アニキ。流石です!!」

食事で出る感想じゃないとは思うが。

「味も悪いってことはねぇ・・・ガッ!!」

ガリッと何か塊を噛んだ。

「「「「「アニキ!!」」」」」

一斉に何事か元親に詰め寄る。

「たいしたことじゃねぇよ。一々反応するな」

単純に塩の塊があっただけだ。

「・・・・・・握り飯でこれじゃあ、おはぎはどうなんだかな・・・・」

などと思わず呟く元親。
その呟きは誰にも聞かれることなく、元親は二個目の石のような握り飯を頬張った。



その話を夕餉の準備中に聞いた
一緒にいた佐助もびっくりだ。

「へぇ。鬼の旦那やるぅ〜俺様でも食べるのに一瞬躊躇したのになぁ」

「さ、佐助さん、酷い!!」

「あはは、ごめんごめん」

自身は佐助が握った綺麗な三角形の握り飯を食べたのだ。
少しばかり元親に対してバツが悪く感じる。
誰かが言うとおり、普通ならば握った本人が食べるべきなのだ。

「変な人・・・・」

憎まれ口というか、苦し紛れにはそうとしか言えなかった。









19/12/31再UP