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伝わる指先。
あれから、仲間達が心配してしまうほどに二人が近づくことはなかった。 いや、元親がに近づかないのだ。 に問うても彼女はなんでもないと首を横に振るばかりで、仲間たちにはどうすることもできなかった。 【2】 「ありがとう。ごめんなさい」 それだけ。それだけを元親に言いたいのに、あの日見た元親を思い出すと怖くて。 いつも自分はアニキと周りから慕われ笑っている元親の顔しか知らなかったので・・・。 仲間たちは恐らく知っている顔だろう。 彼らは元親と共に航海に出たりする。 その際、荒らしまわっている海賊たちと戦闘するとも聞いていたわけだし。 「・・・・・バカだなぁ、私」 だからと言って元親が悪いわけではないのに。 勝手に理想像を作っていたのだろうな。 「アニキに謝ろう。それでちゃんとお礼を言わないと・・・」 が元親を怖がったと知ったとき、元親はさも自分が悪かったように言った。 元親は悪くない。 むしろを助けに来てくれたのだ。 仲間だと、仲間を傷つけられたと怒って。 「そうだ。うん。謝ろう」 一人海が見える岩場で考え込んでいた。 だが結論はあっさり出た。 そう思い元親の下へ行こうとしたのだが・・・。 「なに、あれ・・・・」 見慣れない大きな船がこっちに向かっている。 「・・・・・1、2、3・・・・・なに」 ただの船ではなさそうだと雰囲気からわかる。 目を凝らせば船上には武装した兵の姿が。 「み、味方じゃない・・よ、ね・・・」 突然の出来事に動揺してしまうが、ここにいてもしょうがない。 は急いで根城へと戻った。 がそれらを発見したように、すでに仲間たちにも確認済みだったようで中は慌しい。 「!危ねぇから隠れていろ」 「隠れるって、どこに・・・」 「アニキのところに行け!あそこが一番安全だ」 の肩をポンと叩いて促す。 どの面して元親の下へ行けるのだろうか。 謝ろうと思っていた矢先に。今向かって謝ってもなんだがその場を繕うだけのような気がして。 だが仲間の一人がの腕を掴み歩き出す。 「ボサボサするな!ここは危ないんだよ」 「・・・・う、うん」 元親のいる場所へは連れて行かれる。 「アニキ!」 仲間の声に元親は振り返る。 の姿に少しだけ苦渋が見える。 「アニキ、もう奴ら上陸してます」 「おう。おめぇら、気を抜くなよ。相手はあの毛利だ。何があるかわかんねぇ」 調べさせると、攻めてきたのは中国地方を治める毛利元就の軍であった。 毛利軍とは直接戦ったことはないが、強いという話はよく聞く。 それに毛利元就という人となりを耳にすれば嫌でもその強さが身に沁みる。 「はい。、アニキのそばにいろよ」 「う、うん」 バタバタと去っていく、戦場となる場所へ向かう仲間たち。 初めてのことには所在を失くしてしまう。 「。俺のそば離れんなよ・・・・怖いだろうが、少しだけ我慢してくれや」 「・・・・・怖いって・・・アニキ、あの」 どおんと轟音が響いた。 本格的に戦いが始まったようだ。 長曾我部軍は密かに南蛮の技術などと取り入れている。 その成果として大きなカラクリ兵器を完成させた。 轟音はその兵器からのようだ。 は耳を塞ぎたくなる。 本当ならば元親の側が一番安全だとわかっていても、またあの怖い姿を見るのかと思うと不安になる。 それは元親もそうなるだろうと思って、先ほどそう言ったのだ。 (違う。そうじゃない・・・そんなんじゃ・・・・) はギュッと拳を強く握った。 * 戦況は毛利軍に傾いていた。 普通ならば簡単に負けるはずがない長曾我部軍なのに、悉く破られ撤退の知らせを受ける。 そうなったのは、大将である毛利元就自らが出陣、先陣を切っているからだ。 彼の強さは並ではない。 だから元親は奴に手を出すなと命じるのだが、元々元親をアニキと慕う者ばかり。 元親の下へ行かせてなるものかと戦い挑んでいくのだ。 「くそっ・・・・あいつら・・・・」 逃げろと言っても聞かない。 元親は苛立つ。 大切な仲間が元就一人にやられているのだ。 「、ここも危ねぇだろう。隠れて言いてぇところだが、生憎そんな場所はねぇな・・・・」 さてどうしたものかと元親は頭を掻く。 「アニキ!奴ら、そこまで。うわ」 入ってきた仲間の体が崩れ落ちた。 「おい!」 毛利軍の兵士が数名雪崩れ込んできた。 その後方には独特な、烏帽子のような特徴の兜を被った男がいた。 「西海の鬼よ。海の藻屑と消えよ」 兜も独特だが、持っている得物も変わったものだった。 大きな輪だ。外側に刃がついた円形の刃。 「。離れていろ。どこかに隠れられるものなら隠れていろ」 「アニキ」 元親の目は、表情はもう変わっていた。 大事な仲間が沢山傷ついた。 突然攻めてきた理由がわからない。 いや、領土拡大の為という単純なものかもしれない。 それに毛利は水軍を操るという面でも長けている。 同じように海上での戦いを得意とする長曾我部に対し、邪魔だと思っていたのだろう。 だが理由など元親にはどうでも良かった。 今は目の前の敵を倒すのみだ。 「おらっ!」 向かってくる兵士など元親の敵ではない。 その戦いを黙って見ている元就。 「はっ!鬼との戦い方を知らねぇんじゃねーのかい?」 「・・・・・」 「どうした、どうした!そんなもんか?」 簡単だ。 こんな弱い兵士など相手にもならない。 元就を倒してしまえば簡単に終わる。 そう元親は思った。 元就の強さもわかっているが、力という点では元親の方が上だろう。 元親の強さに毛利軍の兵士は後退し始めるが元就の言葉でジッと堪える。 「下がるな。下がれば死があると思え」 「ひっ・・・」 突きつけられた刀に兵士たちは恐れを抱く。 目の前で暴れている元親よりも、後ろに控える元就の方が怖いのだ。 兵士たちは一斉に元親に立ち向かっていく。 「へっ。何人来ようが無駄だって・・・」 「も、もとなり・・・さま」 うち一人が元親の前で体勢を崩した。 元親も気づくのが遅かった。 「っ!・・・て、てめぇ・・・・」 元就が味方の兵士ごと元親目がけて突き刺したのだ。 味方の体を貫通し、元親のわき腹へと刃は刺さる。 「アニキ!」 「く、来るな!」 片膝を着くも、元親は他の兵士たちをなんとかなぎ倒す。 「自分の部下ごと・・・てめぇは・・・」 「我の駒だ。我がどうしようと貴様には関係ない」 「くそっ」 思っていた以上に傷は深いようだ。 元親は上体を崩し吐血する。 「アニキ!」 元親に止めをという時に間一髪で信親など仲間達が到着する。 元就を何とか足止めしようと奮戦する。 その間には元親の下へ駆け寄る。 「アニキ、しっかりして!」 傷を負った場所を止血するために簡易的だが治療する。 「。西に船が止めてある。そこにアニキを連れて行け!」 「わ、わかった」 なんとか元親に肩を貸しながらは必死にその場から逃げる。 「アニキ。もう少しだからね」 「・・・・・・・」 仲間たちの話では、別の隠し砦に撤退しようと決めたようだ。 元親がこの様子ではそうするしかないだろう。 この辺りにはいくつもの長曾我部軍の砦がある。 「アニキ!!」 言われた場所に辿り着くと、出航準備を整えた仲間たちがいた。 無傷だというものは居らず痛々しい姿だ。 「みんな!アニキを」 船に乗せようという時、仲間たちを振り切り元就が突撃してきた。 「やばい。早く!」 にも元就の姿を見えた。 早くしないと思い、仲間たちに元親を預ける。 「?」 「早く行って!」 半ば強引に船を蹴飛ばし岸から離れさせる。 の目を見て仲間は苦渋の決断を迫られた。 へ手を伸ばせばまだ間に合うが、彼女は背を向けた。 「ば、バカ!お前」 さらには元就の前に立ちふさがろうと両腕を広げる。 それを合図に仲間は船を走らせた。 「!!」 「私、戦うアニキの姿怖かったけど、もっと怖いことがあるから」 寸前に迫る恐怖には逃げたいが、動くことはしなかった。 それは恐怖のため足がすくんでしまったためでもあろうが、それだけではない。 一番の恐れたことを見たくなくて。 は声を張り上げる。 「アニキがいなくなっちゃうのが、一番怖いから!」 大量の血を吐いた元親を見て、体が崩れていく元親を見て。 元親がいなくなってしまうことが怖かった。 「、まて」 元親は手すりに手をかけ船から飛び降りようとするが、部下に抑えられる。 「放せ、俺は、を」 「アニキ・・・すみません」 「おい・・・!」 元親の目に映るもの。 の前に立つ元就の姿。 「そいつに手を出すな!毛利元就!」 傷の痛みも忘れて咆哮する元親。 だが船はどんどん岸から離れていく。 「アニキ!」 数人がかりで元親を抑える。 「お前ら、船を戻せ!を置いて行けるかっ!」 だが今戻れば元就に完全にやられてしまう。 誰だって本望ではない。 を大事に思っていた。 妹のように、仲間として。 だが、彼女は元親の脱出を優先させた。 己の身を挺して。 「・・・・・娘。何ゆえ邪魔をする」 「・・・・・」 「我の邪魔をすれば、我は娘とて容赦はせぬ」 「でしょうね・・・・平気で味方を傷つける人だもの。アニキとは大違い」 元就から発せられる殺気だろうか?それがにもぴりぴりと感じる。 怖い。 もう自分はダメだろうと思う。 だが、動かない。 絶対に、盾となって元親の下へ行かせないように。 「あんたを前にして死んじゃうかと思うと怖い。でもアニキを失う方がもっと怖い」 泣くものかと堪えながらも声はかすれる。 それでもはグッと奥歯を噛締める。 「そうか。だが我の邪魔をしたのだ」 そうして元就は刃を振り上げた。 (アニキ!) ギュッと目を瞑る。 「!!」 元親の目には袈裟切りにされたが映った。 船はもう元就でも追いつけない場所まで来ていた。 それは同時にを助けることもできない位置に来ていたことになる。 いとも簡単に崩れ落ちた。 急に心臓が早鐘を打ち始める。怒りが湧き起こるが何も出来ないでいる。 元親の意識も薄れていった。 19/12/31再UP |