伝わる指先。



ドリーム小説
「アニキが特定の誰かと一緒にいるって珍しいよな」

長曾我部軍の若い者たちがそんなことを話していた。
特定の誰かと言われて、若者たちの目は一人の少女に注がれる。

「へ・・・・わ、私?」

「「「「うん」」」」

同時に頷く若者たちに少女は顔を真っ赤にしてしまう。

「そ、そんなことないと思うけど・・・・」

は長曾我部軍の食事係だ。
今の時間、忙しい昼の仕度が終わり、他の係の仲間たちと遅めの昼食を取っていた所だ。
突然の話には箸を銜えたままになってしまう。

「いやいや、俺らがアニキはー?って探した時に大抵と一緒にいるしな」

「そうそう」

「えっと・・・・ご、ごめんなさい」

真っ赤な顔から少し泣き出してしまいそうな顔に変わる
仲間たちに向かって謝り俯いてしまう。

「バ、バッカ!何謝ってんだよ!」

「そうだ、俺ら別に悪いなんて一言も言ってねーだろー?」

「そうそう。と一緒にいるときのアニキが本当に嬉しそうだからさ」

「珍しいなんて言い方しちまって、俺の方が悪かった」

すまねぇと一人が頭を下げる。
は顔をあげると、ニッと笑った仲間たちの顔がある。

「怒らないの?」

「だから、怒る意味がわかんねーよ」

「だって、アニキは皆のアニキだから・・・・」

「あー女ばっかの集まりならば嫉妬しまくりーってのもあるだろうけど、俺ら別にそんなことで腹たてねぇし」

女々しいやつらだと思われているほうが心外だ。
それに、この軍はほぼ野郎ばかり。
アニキでなくても、いつも一生懸命なを仲間たちは妹のように可愛がっていると言うのに。

のこといじめでもしたら、俺らがアニキに叱られるっての」

「だよなー」

「それにさ、アニキじゃなくても俺らだってのこと苛める奴がいたら放っておかないぜ?」

最初は怖い人ばかりだと思ったのに。
本当に家族の一員として認めてくれているようでは嬉しくなる。

「ありがとう」

「いいって。俺らのほうこそ不安になるようなこと言っちまったしな」

急に滅多にしないような会話になったので箸を動かす手が止まってしまうが。
再びそれぞれ食べ始める。

「あ、そうだ。、この後どうする?俺ら買出しに出るけど」

「私も行くよ。私の仕事の一つでもあるもん」

「別に買出しだけなら俺らだけでも平気だぞ?」

「なんで?いつも一緒に行っていたのにー」

急に仲間はずれか?とは頬を膨らませる。
仲間たちは違うと首を横に振る。

「アニキと一緒にいたいならいろってことだよ」

「べ、別に!」

「アニキは一回航海に出ちまうと中々帰ってこないからな」

「そ、それはそうだけど。普段のお仕事疎かにするの嫌だもん。ちゃんとやることはやらないと」

仕事を放っておいて遊んでいるのはアニキだっていい顔しないだろうに。
アニキ、アニキとなどというが、仕事は仕事だ。
が彼らの仲間で置いてもらっている以上与えられた仕事はちゃんとするのだ。
仲間たちはわかってくれたようで、いつものように買出しに行こうと言ってくれた。



*



買出し用の船に乗り近くの町村まで行く。
そこでまとめて買えるだけのものと、日常的に必要なものを買う。
今日は日常的に必要なもの、消費率が高いものだ。
いつも行っていることなのでそんなに面倒ではないと思ったのだが・・・。

「な。なんでアニキがいるの!?」

「俺が居ちゃあ可笑しいか?」

可笑しい。
そうは口に出そうになるが慌てて首を横に振る。
先ほどからたちが「アニキ」と口にしていた男。西海の鬼とも称される長曾我部元親だ。
彼が買出し用の船に一緒に乗っていた。

「へへっ。ちょっと面白そうだって思って便乗させてもらった」

「へ、へー・・・・」

ちらりと仲間たちの方へ顔を向けると、彼らは「俺たちは呼んでいない」と首を横に振っている。
どうやら本当に元親の気まぐれでやってきたようだ。
普段彼は忙しすぎるほどなのに、ふらりと来てしまっていいものかこちらは気になるが。
まあ自分たちはただ買いだしに行くだけだ。
そんなに面白いものでもないと思うし、いつも通りならばなんら問題はないだろう。
そうしているうちに目的の町村へ到着する。
船番を一人残して買出しに出る面々。

「んー・・・ニンジンとごぼうを多めに買って・・・」

「なあ、

「なに、アニキー」

店の人と交渉しながらアレコレ買い物を進めて行く
すでに店の人と顔なじみであるのですんなり済んで行く。
彼らがここらで有名な長曾我部軍の者だと知っていても、恐れられることがないのは彼らの行いによるものだろう。
近隣を荒らしまわる海賊、欲に走った商人などを、弱き立場で苛められる民を助けてくれるのが長曾我部軍だからだ。
買ったものを船まで運んでもらうことを頼み、金を渡す。

「お前さ、あーゆーの欲しくねーか?」

元親が指差したのは綺麗な姉さんが頭に挿した簪だ。
はチラッと見えるが、すぐに目線を他へ向けた。

「いらない」

「なんでぇ。欲しくねーのか?お前だって女じゃねーか」

「だって必要ないもの」

「そうかあ?一本や二本持ってたって損はねーだろ?俺が買ってやるぜ」

「だから、いらないの。挿していても潮でダメなるからいらない」

折角くれるというのだが、元親たちが根城にしている場所ではすぐに錆びたりしてダメになろうだろう。

「その時はまた買ってやるッて」

「いいの。そんな無駄遣いしたくありません」

「いいじゃねぇか遠慮するなって」

「そこまでごり押しされてもいらないものはいりません。っていうか・・・アニキ・・・・」

そこまで強引な理由がわからない。

「だったら他の誰かにあげればいいじゃん」

こうして歩いているだけで元親の姿は、綺麗なお姉さんたちの目を引いて行く。
簪買ってやるよーとでも言えばすぐに我よ我もとよってくるだろうに。

「なんで、知らねぇ女にやらなきゃなんねーんだ?あ?」

急に声音が低くなる元親に少々ビクついてしまう

「そ、そんなに知らないもん!アニキが簪、簪っていうから」

「それじゃあ意味がねーだろうが」

ブツブツと文句を言う元親。
だがは元親に買ったばかりの荷物を持たせる。

「はい!アニキはこれもって船戻る!私はまだ他に用事があるから」

「お、おい!」

元親を振り切って行ってしまう
その後姿に大人げなく元親は唇を尖らせた。
仕方なく言われたとおりに船に戻る元親。

「ほらよ」

船番をしている男に荷物を放り投げる。

「ア、アニキ?どうしたんですか?」

「別にどうもしねーよ」

ふて腐れているような元親にこっちが参ってしまう。

「他の奴らはどうした?」

買った荷物だけは次々と店から運ばれている。
それらを確認しながら船に積み込むが、仲間たちの姿はまだ少ない。

「あいつらは情報収集もしていますんで」

もか?」

?あー。は違いますよ。は個人的な買い物ですよ」

男にはわからないものだろうなんて笑って言われた。
衣服なら別段自分に言えばいいものをと元親はなんとなく面白くなかった。



*



元親を置いて一人、自分の買い物をし始めた
以外はほぼ男ばかり。
いくら彼らが親切だとは言え、頼めるものと頼めないものはあるだろう。
この町にはそんなを心配して手助けしてくれるお姉さんがいたので、その人の所へ向かった。

「あら、ちゃん。今日はこっちの用事?」

「うん。いつも咲姉さんに頼んで悪いんだけどね」

お姉さん。咲は遠慮しなくていいのよと笑う。
彼女の兄弟が元親の配下にいるのだ。その繋がりで紹介してもらった。
の用事はいとも簡単に済む。
残った時間は咲とのんびり会話を楽しむのだ。
だが、急にそうもいかなくなった。

「お、おやめください!」

「うるせー!酒持ってこいやー」

数人の男たちが暴れている。
店から聞こえる悲鳴。
咲とはチラッと覘く。

ちゃん。危ないから行きましょう」

「でも・・・」

「私たちじゃ何もできないもの・・・・あいつらここ最近暴れている山賊よ」

咲はの手を引く。
確かにには山賊たちを抑えることはできない。
誰か代わりに抑えてくれる人が現れればいいのだが・・・。

「あ、じゃあ私アニキ呼んでくる。アニキなら」

元親や長曾我部軍の者ならば山賊など一捻りだ。
この手の輩を彼らは嫌う。
そうは言いたかったらしい。だが運悪くその会話が山賊たちに聞こえてしまう。

「あ?誰を呼ぶって?」

「きゃあ!」

の腕を掴んでグッと引き上げる山賊。

ちゃん!」

を助けようとするが咲は山賊の一人に突き飛ばされてしまう。

「咲姉さん!」

「俺らはただ酒を持ってこいと頼んだだけだろ?どこが悪いんだ」

「は、放してよ!」

宙ぶらりんになってしまう。脚をバタバタさせるも空を切るだけだ。

「だ、だから。お酒は。今日の仕入れ分は売り切れてしまったので。ないものはないのです」

店の主人が説明しても山賊たちは聞かない。

「まったく面白くねぇな」

「酒がねぇんじゃ仕方ねぇな・・・・こっちの姉さんたちでも貰って行くか」

「高く売れるんじゃねぇのか?」

身震いするような汚い笑いが充満する。
気を失った咲を軽々と持ち上げ、尚且つの腕も掴んだまま店を出て行く山賊たち。

「放せ、放せてってば!いや、嫌だって!」

何とか抵抗するだが、その声が耳障りだったようで山賊がの頬を強く叩く。
叩かれた拍子には地面に転がり込んでしまう。

「・・・・・っく・・・・」

涙が出るも、その先をどうしていいかわからない。
自分はともかく咲は完全に巻き込まれただけだ。

「アニキ・・・・」

最初から元親と一緒だったらこんなことにはならなかったのだろうか?
叩かれた頬は痛い。
その拍子に口の端が切れてしまって口の中は鉄の味がする。
転んで脚に擦り傷もできてしまっている。
涙と砂埃で顔はぐしゃぐしゃだ。

「ほら歩きやがれ」

「い、いたっ」

の髪を掴んで立たせようとする山賊。
そこに静かな怒りに満ちた声が響いた。

「おい・・・・てめぇら何していやがる・・・・」

「あ?」

自分たちよりガタイのいい隻眼の男が睨んでいる。
一瞬体が引いてしまうも、相手は一人だと山賊たちは刀を抜く。

「ア、アニキ・・・」

ボロボロのに眉間に刻まれた皺が一艘深く刻まれる。
元親は騒ぎを知った町の人に呼ばれて来たのだ。
襲われた人の中にがいることを、が元親の仲間だと知っていたので。

「さっさとその薄汚ぇ手を放せ」

「うるせー!てめぇこそ、これ以上近寄るんじゃねぇよ!」

「俺ぁ、放せって言ってんだよ。俺の大事なもの傷つけられてタダじゃすまさねぇぞ」

元親からの大事なものという言葉には嬉しくなる。
だがそんな嬉しさよりも元親の怒りは頂点に達したようだ。
元親は一歩、また一歩と近づいてくる。

「お、おい。近づくな!近づくと」

「ああ?」

元親に凄まれて尻込みしてしまう山賊。
重い荷物でしかなくなっていた咲は放り投げだされ、あとはのみなのだが。
は生憎山賊たちの中でも気の強い、彼らの頭である男に捕まっていた。

「おい、おめーら。なにしていやがる早くやっちまえ!相手は一人だ!」

「お、おう!」

男の怒声に山賊、その手下たちが元親を囲む。

「アニキ!」

「ちょっと待ってな。今すぐ助けてやるからな」

頼もしい。
その一言で安堵してしまうが、それも一瞬だった。
元親はただの山賊、しかも下っ端相手になど苦労することもなくいとも簡単に伸していく。
ただ、はそれを目の当たりにしたのが初めてだった。

「おらよ!」

向かってくる山賊たちを容赦なく叩き潰す元親。
身体中痛めつけられた山賊たちは悶え苦しんでいる。

「・・・アニキ・・・」

「ちっ。役に立たねぇ奴らだ」

頭はすらりと刀を抜く。
素手で武器など持っていない元親。拳で倒せた手下たちとは違うようだが。
頭はを放し元親に向かって刀を振り下ろした。

「へっ。そんなんじゃ俺に一太刀も浴びせられねーぞ?」

余裕綽々に元親は笑みを浮かべる。
振り下ろされた刀を簡単に避けて尚且つそれを払い飛ばす。
音を立てて地面に突き刺さる刀。

「ここらでデカイ面されると、こっちもいい迷惑なんだ。遠慮はしねーぞ」

元親は頭を叩きのめす。

「ア・・・アニキ・・・もう・・・・」

怖かった。
自分を助けてくれた人なのに、相手を傷つけているだけにしか見えなくて。
これが西海の鬼と言われる男なのだろうか。
頭がやられていることで、逃げ出さずに頭を守ろうと倒れていた手下たちがのろのろと立ち上がる。
何度も元親に挑むが、元親のほうが強かった。
ただの山賊では到底敵う相手ではない。
今まで彼はたった一人でも何十、何百人も相手に戦ってきたのだ。
わかっている。
わかっているのに、そんな元親の姿を見るのが嫌だった、怖かった。

「アニキ!もうやめてー!」

?」

元親がの声に振り返るが、その時すでに山賊たちは誰一人として立ち上がる様子はなかった。

「助けてくれたのは嬉しいけど、これ以上やったら・・・死んじゃうよ・・・・」

「何言ってやがる。お前をひでぇめにあわせた奴だぞ」

この程度じゃ腹の虫が治まらない。
仲間を傷つけられて黙っていられるものか、しかもその仲間はだ。
戦う力もない弱い女子に乱暴にするなど、元親には考えられない。

「私は、私なら大丈夫だから・・・もういいよ・・・・」



元親がの前にしゃがみこみ、その頭に手を乗せようとした。

「っ!?」

その瞬間微かにの体が強張った。

・・・?」

「あ、あ。咲姉さん!」

は慌てて気を失ったままの咲のそばへ駆け寄る。
が呼びかけながら体を揺すると咲は気がつく。

「っつ・・・ちゃん?私・・・・」

「ごめんね、ごめんね。咲姉さん。私の所為で」

咲はゆっくりと体を起こす。
多少あちこち打ち付けたようで痛みはあるが平気のようだ。

「大丈夫よ。私ならば、でも・・・・あ、元親様が助けてくださったのね」

兄弟たちがアニキと慕う男のおかげとわかると咲は深々と頭を下げた。
元親は歯切れ悪くも咲に「おう」と答えた。




根城へ戻る船の中。
傷だらけだったを見て仲間達が何事かと騒ぐが、はただ「転んだだけ」と笑って答えていた。
一部の仲間はが山賊に襲われたことを知っていたが、元親が助けに行ったので大丈夫だろうと踏んでいる。
だが、はその元親に近寄る気配がなかった。

(アニキにちゃんとお礼を言わないと・・・)

でも怖かった。
元親を恐れている自分がいる。
元親は自分と咲を助けてくれたのに。



「ア、ニキ・・・あの。さっきは」

助けてくれてありがとう。
そう言いたいのに。言葉がでない。
元親が手を伸ばそうと、に触れようとすると彼女は目をギュッと瞑り少しだけ体を固くさせた。

・・・お前」

「あ、あの」

「俺が怖いのか?」

「・・・・」

「そうか。悪かったな、怖がらせちまってよ・・・」

それきり元親はに背を向け離れてしまった。

「アニキ・・・」

そうじゃない。
怖かったけど、それでも・・・・

「ごめん、なさい・・・」

言葉が上手く出ない自分が悔しかった。








19/12/31再UP