合縁奇縁



ドリーム小説
政宗がの室に行ってからしばらくして、奥州への使いを出した小十郎が幸村たちの下へ戻ってきた。
佐助も同じように戻り、今、この室内には幸村、慶次、佐助、小十郎と少しばかりむさ苦しく感じてしまう。

「佐助。お館様は?」

「まあ色々考えているみたいだけど、他の奴を各地に探りへいかせたよ」

佐助が行けば一番早いのだが、佐助はあえて残された。
この先のことを考えてのことらしい。

「なんだかなー・・・・俺、虎のおっさんと喧嘩しにきただけなんだけどな」

慶次はごろりと横になり肘枕をしている。
本来の目的が段々遠く離れて行く。

「幸村は独眼竜の兄さんとやって満足しちゃったみたいだし?今、俺と喧嘩する気ないだろ?」

そうは言われても幸村は返答できなかった。
満足したかは正直わからない。
ただ、のことを思えば満足してしまったのかもしれない。

「それでさ、アンタらはいつ奥州に戻るの?ちゃん怪我しちゃったからしばらく動かせないでしょ?」

「・・・・・・できれば・・・今の状況を思うとすぐに奥州へ帰りたいのだが、政宗様が・・・・」

のそばを離れるのを嫌がりそうだ。
二人の間で今、どんな話が出ているのかわからない。

ちゃんのことは心配いらないと思うけどね」

「そ、そうでござる。政宗殿がご心配にならぬよう、我らでちゃんと・・・・ちゃん・・・と?」

「な、なんだ?」

幸村たちにのことは任せて欲しいと言いたかった。
の怪我は軽くはない。
最低でも一月は甲斐に残らねばならないだろう。
政宗がどう思うかはわからないが、信用されずとも、それなりに誠意を見せるつもりだった。
そう言いたかったのだが、幸村たちは次の言葉が出てこなかった。
それは、の寝ている室の方から何やら怒鳴り声が聞こえてきたから。

「・・・・政宗様・・・・殿・・・・・まったく」

小十郎は苦虫を潰しながら立ち上がった。




【25】




が目覚め、政宗は彼女を強く抱きしめた。
お互いに温かい血が通っていることに安堵してしまった。

「またお前を失うのかと思った。黙っていなくなるなよ、馬鹿野郎」

「・・・・ご、ごめん」

「遺言みてぇなこと言いやがるし」

「だ、だって」

「許すも許さないも、それは俺の方じゃねぇか・・・・」

が自分を見限ったと思ったから。
そうさせた自覚はある。

「政宗・・・・あの・・・・・傷口が痛いんですけど・・・・」

そろそろ解放して欲しい。
話すのならばもう楽な姿勢にさせて欲しかった。
だが政宗の力は緩まない。

「うるせーお前の指図は二度と受けねぇぞ」

「指図じゃなくて、お願いなんだけど・・・・・マジで痛いから離れて」

「嫌だ」

「傷口が開いたらどうしてくれるわけ・・・・・あ、い、痛い・・・・・マジで・・・・」

の顔が歪む。
政宗は渋々を解放した。

「はあ・・・・・」

「・・・・・」

は布団の上だが、可笑しなもので互いに向かい合って座っている。
だが沈黙が続く。

「・・・・・・あ、あのね。政宗」

「?」

「喜多さんと成実さん元気?」

政宗のこめかみがピクッと動く。

「他に聴くことねぇのかよ」

聴くことがそれか?と。

「だって・・・・・お二人にはよくしてもらったのに、私何も言わないで逃げてきちゃったから」

「成実は相変わらずだ。喜多は・・・・お前がいなくて悲しんでいる」

「・・・・・・」

は少しだけ俯く。
喜多だけには何か言えば、残しておけばと思った。
一番身近にいて、一番親身になってくれたのは喜多だったから。

「喜多さん・・・・そっか」

「別に気にすることねぇだろ。が戻れば喜多は喜ぶ」

喜多の悲しみはそれで消える。
は顔をあげる。

「私。奥州に戻ってもいいの?」

「何、当然のこと聴いてんだ。俺はダメだなんて言ったか?」

不安だった。
もうあそこには自分の居場所がないと感じていたから。

「・・・・・だって、戻って来いなんて政宗一言も言っていないじゃない」

「そうだったか?」

「幸村様に言われたから来たみたいな言い方した」

は面白くなさそうに政宗を軽く上目で睨む。

「目的は私じゃなくて、幸村様との勝負なんでしょ?
そうよね、以前幸村様が奥州に来たとき私が邪魔しちゃったし・・・・もう私は大丈夫だから続きやれば?」

の物言いに政宗はカチンときた。

「目的は真田幸村じゃねぇよ。何の為に俺がわざわざ甲斐に来たと思っていやがる」

なんだか雲行きが怪しくなってきた。

「わざわざ?思っていやがる?頼んでなんかいないっての」

「なんだと?」

「とりあえず。私はもう平気なんで早く奥州帰れば?領主さまが何しちゃっているわけ?」

「迎えに来てやったのに豪い言い草だな・・・おい」

「来てやった?」

「おう。この俺様が直々にだぞ」

お互い口許がぴくぴく動いている。
元々素直じゃないのがこの二人だ。
言い換えれば、は政宗が領主の仕事はどうした?と言いたいに違いない。
政宗だってちゃんと本音を言うつもりで来たのだが。
いや、政宗はある意味自分に素直なのだが言葉が足りないのか?

「絶対、私なんかのためじゃないでしょ!幸村様と勝負がしたかっただけの癖にー!」

「An?真田幸村は関係ねーって言ってるだろうが!」

やはりというか。
よく東の館で見られた光景が繰り広げられてしまった。

「だったらなんで着いた早々に幸村様に勝負申し込んでいるのよ!」

「それはケジメをつけなきゃいけねぇと思ってだな・・・色々あるんだよ!色々!」

「色々って何よ!私のことなんか、まったく見ようともしなかったじゃない!」

「An?他の男と仲良くランチしている姿なんか見て楽しいかよ!」

「普通に幸村様とお昼食べてただけでしょうが!」

「事ある事に幸村、幸村って・・・・俺の知らない所で真田幸村と随分仲良くしてたみてぇじゃねーか」

「だって、幸村様はお優しいもん!どっかの馬鹿みたいに阿呆なことしないし!」

「どっかの馬鹿って俺のことか?あ?」

揉めている部分が段々ずれてきている。
だがそんなくだらない言い争いも小十郎の出現でピタリと止まる。

「政宗様!殿!何を騒いでおいでか!ここをどこだと思っておられますか!」

勢いよく開いた襖から鬼のような形相の小十郎と、その背後には苦笑している幸村たちが。

「小十郎。俺が悪いんじゃねぇが」

「違います!政宗が悪いんです!」

まるで親に言い訳する子どものようだ。
だがには大人しく養生しろと、政宗には他所の邸でみっともないと軽く説教をした。
反論しようとしても小十郎の睨みに逆らえなかった。

「幸村殿。お騒がせして申し訳ない」

小十郎は邸の主である幸村に頭を下げる。

「あ、い、いや。別に良いでござる・・・・あ、殿も元気なようで何よりで・・・」

政宗がそばにいると本当は違うなと幸村は笑った。
にしてみれば、政宗とのやり取りは日常茶飯事かもしれないが、それを幸村たちの前で見せてしまったのが恥かしかった。



*



絶対安静と言われているは再び横になった。
血で汚れたままは衛生上良くないと政宗はようやく着替える。
今夜は真田邸で一泊し、翌朝には奥州へ戻ることになった政宗と小十郎。
今日明日で米沢に到着できるわけじゃないので、長居は無用となった。
は傷を治してから幸村たちが同行して米沢まで送り届けることが決まった。
だから、またしばらくの間お別れだ。
夜も更けたころ、の室に政宗が訪れた。

「政宗?」

「どうせ朝にはここを出るんだ。一晩ここに居させろ」

寝ているのすぐそばに腰を下ろした。

「でも。それだと明日大変だよ。ちゃんと寝ないと」

「平気だ」

「ダメだって」

また言い争いになるかと思われたが、が掛布をめくった。

「えーと・・・・・ここで寝る?」

一緒に寝ようと。
政宗は小さく笑い、素直に布団の中に体を滑り込ませた。
祝言を挙げた晩からよく二人で一緒の布団で寝たものだ。

「怪我さえしてなきゃ、抱いちまうんだがな」

今まで馬鹿みたいに我慢していたこと。

「ば、馬鹿じゃないの・・・・バーカ」

「くくくっ。そうかい?俺はずっとそうしたいって思っていたんだけどな」

肘枕をしながら、政宗は空いた手での頬に軽く触れる。

「馬鹿みてぇに我慢したのが悪かった」

「私はそれになんて答えていいかわかりませんが?」

「なあ・・・・」

政宗の声音が優しいものへと変わる。

「遅いかもしれねぇけど、ちゃんと言わせてくれ」

「何を?」

「coolじゃねぇが、言い訳って奴だ」

「聴く」

聴く。いや、聴きたいのだろう。
今までずっと何も言わなかった政宗の言葉を。

「小十郎たちとお前を保護してからずっとだ。ずっと俺はお前の意見や気持ちを無視して自分の好きなようにしてきた」

何をするにも、子どもかと思われてしまうが、自分の思い通りになるように。
他の誰かにを盗られるのを恐れてだ。

「祝言挙げた時には小十郎や成実には散々説教されたな」

他家との政略結婚を思えば似たようなものじゃないか。
最初が悪かろうが、相手が嫁いだ家のことを考えれば済むことだ。
大名の考えなのだろう。

「それでも、はいつも俺のそばにいてくれたからな。俺はお前に甘えちまった」

違う。
は口に出さないがそう思った。
自分が政宗に甘えていたのだ。向けてくれる想いにちゃんと答えもせずにいて。
それをどこかで当たり前のように感じてしまっていて。
だから猫が嫁いできたときから、その想いが自分だけに向いていないことを妬いていたのかもしれない。

「怖かった。周りが早く世継ぎだとか急かすと。また無理矢理にでものことを抱いちまったらと思うと」

もし。
あの頃、政宗の身に何かあれば。
伊達家の存続にかかわるような事が起きたとしても、政宗には弟がいる。
小次郎が伊達家を継げばいい。
あれは聡い。感情に流されるような自分とは違う。
だから世継ぎなど深く考えていなかった。

世継ぎなどよりも、との関係が壊れることの方が重大だった。

「結果的に、猫を側室にとしちまったから、もっと悪い方向に行っちまったけどな」

猫御前の性格にも少々問題はあったのかもしれない。
結果的にを孤立させてしまうようなことになったから。
それでもは我慢してくれていた。
そんな彼女に合わせる顔がなくて、ずっと自由にさせたという名目を作るが会うのが怖かった。

「情けねぇ話・・・に嫌われたくなかったんだな・・・ん。どうした?」

政宗胸板には頭を預ける。

「馬鹿政宗・・・・・嫌いだったら、膝枕してやったり耳掃除してやったり、こうして触れさせなんかしないわよ」

「・・・・・・」

「私が。政宗に甘えていたの。政宗優しいんだもん。私、わがままでずるい子だよ」

政宗はの背中に手を回す。

「自分で自分の居場所壊して。逃げて。またこうして政宗に甘えている・・・・から」

自分も素直に気持ちを言葉にしなかったのがいけなかった。
自分の気持ちに気づく少し前、成実に忠告されてはいたのに。

「成実に言わせると、俺たちはお互い素直じゃないらしいからな」

その所為で随分遠回りをしたようだ。

。帰ってくれるよな?俺のところに」

「・・・・・・」



昼間は喧嘩腰になってしまったが、政宗が迎えに来てくれたのは事実だ。
それはとても嬉しい。
戻ってくるなと拒絶されなかった。
だがまだ不安が残る。
その所為で即答できなかった。

「・・・・・・ダメか?俺より真田の方がいいか?」

「ゆ、幸村様は関係ないよ。違う・・・・・私は・・・・・私の方が」

「帰ってこい。明日は一緒に帰れねぇ。それは仕方ねぇ。だから米沢でお前の帰りを待つ」

「政宗・・・・」

「帰ってこい」

まだ誰かに何かを言われる。
陰口を叩かれるのが怖い。なぜ、戻ってきたのかと思われるのが。
でも。政宗と離れるのはもう嫌だ。折角心が合わさることができたのに。

「待っててね。必ず政宗の所に帰るから」

「ああ。待っている」

自然と二人は口づけを交わした。
そしてしばらくの別れを惜しみながらも眠りについた。





翌朝。政宗と小十郎は奥州へと帰って行った。








19/12/31再UP