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合縁奇縁
「おい!死ぬなよ、!死んだら俺はお前を一生許さねぇぞ!」 を抱えながら政宗は叫んだ。 に向かって、そんな彼女を連れて行くなと天に向かって。 「政宗殿!こちらへ!我が邸へ!」 幸村は引き返してきた。 すでに邸に医者を呼んであるようだ。 佐助や小十郎も一緒にいる。 「どけ!邪魔だ!」 政宗は立ち止まることなく真田邸へと向かった。 【24】 医者以外は室内から追い出された。 政宗の強い殺気にも似たものの所為だ。 のそばにいると言って聞かない政宗。 だがそばにいてそんな気をバシバシぶつけられたら医者も診難い。 誰がなんと言おうと政宗は言う事を聞かないだろう。 だが、信玄公の一言で彼はあっさり引いた。 「奥方のことが心配なれば、邪魔はしないことだ。そんなんでは助かるものも助かりませんぞ」 医者は武田の者だが、別にどうこうすることはない。 信用してくれと。 「それよりも、話していただけないか。何が起こったのかを」 「・・・・・・」 政宗に問うても彼は答えない。 だから同じ場所にいた幸村に問う。 「幸村よ」 「お館様・・・それがしにもよくわからないでござる」 だが、彼も困惑している。 暗い雰囲気になるところを佐助がパンと手を叩き壊した。 「とりあえず、別室で待ちましょうや。それと、独眼竜の旦那、着替え用意させますよ」 だから着替えてくださいと。 政宗の青い羽織には自分のではなく、の血がついていた。 小十郎にそっと背中を押されようやく歩き出す政宗。 「・・・・俺は絶対許さねぇからな・・・・・死ぬなよ、絶対にだ」 がいる室に向かって政宗はそう吐き捨てた。 * 着替えをと言われた政宗だったが、政宗はそれを拒否した。 もう乾いてしまっている血。 見た目など、今はどうでもいい。 他所の邸を汚すことになろうが知ったことではなかった。 とりあえず、別室で先ほどの話の続きとなった。 「それがしと政宗殿が・・・恐らく最後の一撃を繰り出そうとした時・・・」 もう体力の限界が近づいていたその時、互いに次で決めると感じ取った時にが突然二人の目の前に現れた。 少し離れた場所で二人の勝負を観ていたのに。 「一瞬でござった。殿は一瞬で体を崩して・・・・」 「簡単に言えば、誰かが旦那たちを狙ったわけだ」 「誰かだと?・・・・お前らの差し金じゃねぇって言えるかい?」 ここは武田の領地内。 どこに何があるかなどと政宗にはわからないのだ。 「政宗様っ!」 小十郎は政宗を諌める。 思っていても口にしていいことではない。 「政宗様との真剣勝負。幸村殿を見ればわかるではありませんか。彼がそのような真似をするような方ではないと」 「・・・・・」 「それは刃を交えた政宗様にもわかっていることだと」 政宗にもわかっていた。 幸村が、信玄はそのような卑怯な真似をする男ではないと。 だから、素直に詫びた。 「さてさてー。ここに今一人足りない人がいるんですけどー」 どこにいても陽気な声の佐助。 だが、確かにそうだ。 さっきまで一緒にいた男がいない。 「前田殿・・・・確か、どこかに走っていかれた・・・・」 前田慶次の姿がなかった。 政宗と幸村の勝負を見届けると言った慶次。 だが彼はが倒れたと同時に逃げ出したかのように消えてしまった。 「伊達でも武田でもない。前田殿が殿を?だが・・・・前田殿には殿を狙う理由は・・・」 が昔好いた女の顔に似ていた。と慶次は言っていた。 そんなが悲しむ顔を見たくないとも。 だが、今の幸村の物言いでは最初からを狙ったことになってしまう。 それは少しばかり無理がある。 「俺が!も、あんたら二人をも狙う理由なんかあるわけないだろ!」 スパン!と勢いよく開いた障子。 勝手知ったるなんとやら。慶次が戻ってきた。 「す、すまないでござる。前田殿」 「いや。いいよ・・・・そう思われてもしょうがねぇしさ・・・・たださ」 慶次は入ってきた時とは裏腹に急に大人しくなりその場に胡坐を掻いた。 「あんたらを狙った奴の正体はわかった」 「!?」 誰もが息を呑んだ。 「前田殿はそいつを追っかけたってわけか。で、誰なんだ、いったい」 「・・・・・豊臣軍。軍師竹中半兵衛」 黙って聴いていた信玄公の眉がわずかに反応した。 「豊臣・・・・」 今恐るべき速さで侵攻している侮れない強さを誇る豊臣秀吉。 その軍師が政宗と幸村を狙ったのだという。 「あんたらを・・・・いや、を貫いた武器に心当たりがあってさ・・・・まさかと思って」 慶次は倒れたには悪いと思ったが咄嗟に犯人を捕まえに走った。 通常有り得ない刃が延びる刀など、そうそう使用している者はいない。 あまり知られていないと言うのが正しいかもしれない。 だが慶次は知っていた。 それを使用している者が。 「思わぬ邪魔が入ってしまったようだね・・・・」 「半兵衛!」 「・・・・・おやおや、君もいたのかい、慶次君」 白髪に紫の仮面をつけた男。竹中半兵衛。 慶次の登場に驚いたようなことを言うが、とってつけたような物言いだ。 最初から慶次がいたことなどわかっているはずだ。 「半兵衛、お前」 「君に文句を言われる筋合いはないよ。たまたま面白そうなことに出くわしたからね」 武田を偵察にきた半兵衛。 そこで周りに見張りも、護衛も立てずに馬鹿げた斬り合いしていた名のある武将。 今後の作戦の為にも少しでも秀吉の憂いを除こうと思っただけだと平然と口にした。 「真剣勝負に水を差しやがって・・・・」 「そんなこと僕の知ったことではないよ」 「だからってな!」 「君こそいつまでもフラフラしていいご身分だね。君の噂も聴いているよ」 「うるせー!」 慶次はブンと得物を振り上げた。 「まあ。確かに・・・・あのままでいけば、どちらかは確実に逝ったかもしれないね。 だったら僕が直接手を下さなくても良かったかもしれない・・・・僕としたことが少し焦ったかな」 慶次の形相に半兵衛は臆することもなく淡々と話す。 「てめぇの首根っこ掴んで、の前に引きずりだして土下座させてやる!」 「なぜ、僕が?勝手に飛び出したのは彼女だろう?」 「お前の意見なんざ、どうでもいいんだよ!」 「・・・・・」 半兵衛の目が細くなり慶次を侮蔑しているような感じがした。 「あの娘の顔の所為かな。君がそんななのは」 「関係ねぇだろうが!」 慶次は半兵衛を伸す覚悟で得物を向けた。 だが半兵衛にはやりあう気がないらしく、ひらりと避けてしまう。 「安心していいよ。秀吉には黙っておくから」 「半兵衛!」 「ま、もっとも。君とこれから先会うとは限らないだろうけどね」 元々今回はただの偵察だったからといい半兵衛は颯爽と去っていった。 「くそっ!秀吉・・・・半兵衛・・・・」 過去の。あの出来事がふと過ぎる。 自分の心にいつまでも強烈に残った出来事。 慶次は首を振りそれを払う。 「!」 もう半兵衛を追ってもしょうがない。 慶次は気持ちを切り替え真田邸へと向かった。 「・・・・・ちゃんにはそいつのことが見えたんだな・・・・」 だから、咄嗟に駆け出した。 「豊臣秀吉・・・・動くか・・・・」 信玄公は立ち上がった。 「すまぬが、わしは館へ戻る。殿のことは主らに頼むぞ」 豊臣の軍師が甲斐に来ていたことが気にかかるようだ。 信玄公は佐助を連れて躑躅ヶ崎の館へ戻っていった。 「豊臣か・・・・竜に喧嘩を売るってことか」 「政宗様・・・・」 政宗はギュッと拳を握る。 理由はどうあれ、大事な者を目の前で傷つけられた。 それが許せない。 だが、小十郎は違うことを思い幸村に頼みごとをした。 「幸村殿。申し訳ないが米沢へ至急使いをお願いしたい・・・・政宗様、よろしいですね」 「・・・・ああ」 政宗の留守を護る父輝宗と成実、綱元宛てに豊臣の動きについて知らせ、政宗が戻るまで警戒を怠らないように 政宗の名で使いを出すことにした。 忙しなくなってきた中で、ようやく医師が顔を出した。 の容態だが、一命は取り留めたようだ。 だがまだ無茶はできないという。 「!」 政宗はそんなことは関係ないと医師を押しのけてが寝かされている室へと向かった。 「・・・・・」 「幸村、あんたは行かなくていいのかい?」 慶次が幸村に訊ねるが、幸村は首を横に振った。 「それがしはもう・・・・いや、それがしがそばにいる必要はないでござるよ」 「幸村・・・・」 「あの時、それがわかったでござる」 竹中半兵衛の凶刃は政宗と幸村を狙った。 だが。はあの時「政宗」と叫んで体を張った。 あれがの本心なのだ。 政宗も最初に来た時とは別人のようで、のことを常に想っているではないか。 これでいいのだ。 本来の形に戻ったのだ。 だから幸村がなにをどうこうすることはないのだ。 「損な役回りだな。幸村」 「そうでござろうか?それがしはそうは思わんでござるよ」 元の鞘に納まったと思えば。 と最初に出会った時、政宗は彼女一筋だった。 あの時の姿と重なる今の政宗。 「殿がもう泣かずに済むと思えば、なんてことはないでござるよ」 寂しそうでもなく、優しく笑う幸村。 「そうか。幸村がそう思うならばいいさ。あ、そうだ。京に一緒に行くか?」 慶次は幸村の肩に腕を回す。 「な、なんでござるか、急に」 「京にはいい女が沢山いるぜ?幸村にもぴったりな子とかさ!」 「な、なななな!は、破廉恥でござるよ!前田殿!」 凛々しい横顔だったが急に子どもっぽく慌てだす幸村。 それを見て慶次は豪快に笑うのだった。 * 痛い。 身体中が痛い。 自分はどうしたのだっけ? ああ、そうだ。ヘビのような鋭い刃が目に入りそれが政宗たちを狙っていたので思わず体が動いていた。 「・・・・・。おい、!」 痛いのは肩だ。 強く掴まれている。 そして自分を呼ぶ声。 「・・・・・・ま・・・さ、宗?」 「!」 目覚めたの顔を政宗がのぞきこんでいた。 の顔を見てホッとする政宗。 「い、いたい・・・」 「我慢しろ、馬鹿」 「ち、違う・・・・肩が」 の肩を強く掴んでいたのは政宗だ。 だが政宗はその手を離すことはなかった。 「心配・・・・かけさすんじゃねぇよ、馬鹿」 「政宗・・・・」 はまだ傷が痛む体を起こす。 「遺言みてぇなこと言いやがって・・・」 「私・・・・」 政宗はを強く抱きしめる。 その力はとても強い。 だが生きているのだと実感する。 政宗も血が通っている温かいの体にようやく安堵することができた。 「またお前を失うのかと思った。黙っていなくなるなよ、馬鹿野郎」 その温もりがとても優しく感じた。 19/12/31再UP |