合縁奇縁



ドリーム小説
「ここなら、誰にも邪魔はされないでござるよ」

真田邸近くにある広場というか、幸村が使用しているのだろう鍛錬所のような場所に政宗は案内された。
政宗が突然幸村と真剣勝負がしたいと言い出したのだ。
出なければと合うわけにもいかないと。
幸村にしてみれば好敵手と言える政宗のとの勝負は願ったりである。
申し込まれてすぐに了承した。
だが、少しだけ引っかかる。
なぜ、今なのだろうか?
これから戦場で相見えることだってあるだろうに。

「政宗殿。なぜ殿に会われぬでござるか」

距離をとり向かい合うと最初に口を開いたのは幸村だった。

「それをアンタに答えるつもりはねえ」

「・・・・・政宗殿はずるいでござるよ」

手にした二槍を構えるわけもなく幸村は少しだけ俯いた。

「An?」

これから勝負しようという相手の前で気迫どころかやる気も見せていない幸村に政宗の眉間に皺がよる。

「なんでもいい。とにかく勝負だ!真田幸村!」

政宗は抜刀する。
普通ならば有り得ない6本の刀を手にして。
幸村は一瞬にして目が変わる。
勝負をするという武人の目に。



【23】



「おいおい。立会人なしでおっぱじめるつもりだったのかよ」

サクサクっと足音がしたので誰かがこの場に足を踏み入れたのはわかった。
その相手も立会人を名乗り出た慶次だとも。

「前田殿・・・・あ」

「・・・・・・

二人とも慶次以外にも共にいた人物に目を見張る。
特に政宗は。
俯き加減でおずおずと慶次の後ろにいた

「前田殿。これは」

「当然、も立会人だ。っていうかさ、は見届けるべきだと俺が思ったから連れて来た」

先ほど夢吉だけを幸村に預け一人どこかへ行ってしまった慶次だったが、彼はの室に向かっていたのだ。
夢吉は勝負を行う場所がわかるとストンと幸村の肩から降りて慶次の下へ戻ったらしい。
その夢吉に案内されて慶次たちはここまでやってきた。
自身も本当にいいのか?と不安げである。
慶次は突然の室にやってきて彼女の腕を掴んだ。

。俺とでかけるぞ」

「へ?どこに」

「どこかはまだわかんねーけど。幸村と独眼竜がこれから勝負するんだ。俺はその立会人」

二人の勝負と聞いての目が揺らいだ。

「勝負?なんで?」

「さあ?独眼竜の兄さんが幸村と勝負したいって言い出して虎のおっさんが認めたんだ」

「・・・・・」

「だから、も行くんだ。勝負を見届ける為に」

「なんで、私が?私が行っても」

慶次の視線から逃げるように目をそらした
だが慶次は逃がさない。

「別に止めてくれって言っているわけじゃない。見ているだけでいいんだ」

「慶次さん」

は二人の勝負を見なきゃいけないんだ」

行くぞと強引に歩き出す慶次。
足がもつれながらももなんとか歩き出した。
出かける際にも連れて行くと佐助と小十郎に伝えて。
佐助は別に止めなかった。
小十郎は少しだけ不安げな目でを見たが無言を貫き通した。
外に出て歩き出すとすぐに夢吉が慶次の肩に乗った。
道案内をしてくれる。

もさ。ちゃんと言わないとダメだぞ」

「え?」

「自分がどうしたいのか。独眼竜の兄さんに言いたいこととかあるだろ?」

歩きながら慶次はに言う。

「このまま幸村の元にいるのもいいさ。アイツだったらを守って幸せにしてくれると思うし。
だけどさ、独眼竜の兄さんから逃げっぱなしじゃきっとその幸せだってついてこないと思うぞ」

「逃げっぱなしか・・・・そうだね」

「男と男の真剣勝負。ちゃんと見てやれよ。見て自分がどうしたいのか決めなよ」

きっとが決めたことに誰も反対はしないと思うから。
政宗も幸村も。
二人とも強引に事を進めることだってできるのにそれをしない。
特に幸村は。

「素直に自分の気持ちを言ってやんな。選択肢は一つってわけでもないし」

二人を選ぶの嫌ならば、俺と一緒に旅するのもありだよ。なんて慶次は笑った。
勝負を見るというのは正直怖い。
もしかしたらどちらかが死んでしまったりしたらと思うと。
だけど、勝負に口出しはしないで、見ることはしようと思った。

政宗がもう自分を見限っているのならば「ありがとう。さようなら」って言えたらいいなと・・・・。



*



幸村はあまり見せたいものではないと思ったが帰れと言えなかった。
政宗も多少動揺したようだが、すぐさま幸村へと視線を注いだ。
二人とも、が居ることに反対することなかった。
立会人だと言っても慶次も何もすることもなくとともに少し離れた場所にいる。

幸村は二つの槍を。政宗は六本の刀を苦とすることなく自在に操る。
どちらが攻撃を繰り出してもそれを受け止め返している。
そんな攻防が延々と繰り広げられている。
刃と刃が交わる音と政宗と幸村の声だけが聞こえる。
互いの実力は同等なのか、互いに一歩も引けをとらない。
紅いと蒼が何度も交差する。
最初は楽しそうに笑みを浮かべながら見ていた慶次だったが彼の目も真剣になっていた。
元々信玄と手合わせがしたいと言って甲斐へとやってきた慶次。
その信玄が強いものならば幸村もそうだと、幸村との手合わせで勝てたら申し込みを受けると言っていた。
幸村を追いかけていたのに、彼は別の者と真剣勝負を繰り広げている。
突然やって来た独眼竜に羨望と小さな嫉妬が芽生えてしまう。
同時に、この男も只者ではない。政宗ともやってみたい。そう沸々と武人としても熱いものがこみあげてきた。

何度目かの鍔競り合いになった時にふと幸村が口を開いた。

「それがしに勝たねば、殿とは会われないというのでござるか?」

「HAッ!別にそういうわけじゃねーよ」

「それがし。政宗殿に結構腹がたっているでござるよ」

「へぇ。なぜだい?」

「それがしに向かって一番大事な人だと言い切ったのに、一番ないがしろにしていたではござらぬか」

「・・・・・」

腹がたつのは。政宗だけに対してではない。
にも自分にもだ。
だが今はその矛先を政宗に向けてしまっていた。

「そんなつもりはなかったが、結果的にはそうなった。だがアンタに関係ないだろ?」

「そうでござるな。それがしには関係ないでござるよ。でも・・・・・。
今再び彼女を悲しませるよう真似を政宗殿がなさるのならば、それがし黙って殿をお返しするわけには参らん!」

政宗はフッと笑った。

「それがアンタの本音かい?」

「お館様の命には従う。でも・・・・・それがしの気持ちは」

幸村はギッと噛締める。
信玄の命令にはもう逆らうつもりはない。でもと思い悩んでもしまう。
政宗は力を込めて弾き返す。

「俺だって黙って持っていかれるよう真似はさせねえよ」

色んな意味を込めて今、幸村に勝ちたいって思ったから。
だから幸村に勝負を申し込んだ。
これからいくらでもその機会は訪れるかもしれない。
ただ「」のことは決着をつけねばならないと思った。
幸村を叩き潰すのではなく、わだかまりを無くしたかった。
それが誰の為なのかは自分でもよくわからないのだが。

「俺が気に入らないなら、遠慮せずにかかってこいよ。真田幸村!」

「遠慮などせぬでござるよ!」

そして二人は再びぶつかり合った。
少しだけ。政宗が言った「黙って持っていかれるような真似はさせない」という言葉に気が楽になった。
政宗はが思っているように切り捨ててはいない。
そんな感じがした。
それが幸村には寂しくもあり嬉しくもあった。



自分の心臓の音が聞こえるようだった。
ドキドキしてしまう。
二人の男が戦う姿を見てではなく、どうなってしまうのだろうという不安と緊張から。
こうして目の前で人が戦う姿を見たのは初めてではないだろうか?
いつきたちが一揆を起こした時にも政宗が刃を振るう姿を見たが、今ほどのものは湧かない。
寧ろあれは一瞬の出来事で、でもいつきは死なず気絶していただけだった。
本気のように見えて本気ではない。いや、本気ではあったが、命を奪おうとは思っていなかったはずだ。
政宗は弱き民を無理矢理力でねじ伏せることを嫌った。
一揆鎮圧の為、向かってくる民に刃を下ろしたが、命は奪わなかった。
そしていつきの言葉を真っ向から受け止め、自分が天下を取ると言い切った。
笑って米作りができる世にすると。

(でも、今は・・・・なんか怖いよ)

真剣勝負と慶次は言った。
どちらかが倒れるまで終わらないのだろうか。
倒れるとはどう意味だろうか?
見届けろと慶次に言われたが、段々怖くなってくる。
なぜ、今こんなことをしているのだろう。この二人は。
しかも最初は険しい顔をしていたのに、今は疲れているとはいえ楽しそうに槍と剣を交えている。
この勝負の行方がわからない。
どうなって欲しいとも思えない。
一時二人が何か喋っていたようだがそれはの耳には入らなかった。
隣にいる慶次の目の色も違う。
自分だけ、だけがこの場に似つかわしくなかった。

「どうしていいかわからないって顔してる」

慶次がふいに口を開いた。
顔は政宗たちに向けたままだが。

「今は何も考えないで見ていてやれよ」

見ているだけでいいのだろうか?
いや、実際何かをすることなどできない。

「って、あ!疲れたりしてねえか?ずっと立ちっぱなしだったわけだし」

急に自分を心配する声をあげる慶次に少しだけ笑いがこみあげてきた。
大丈夫だと告げると数回慶次は頷いた。

「ん。アンタはそうやって笑っている方がいい」

あとは。

「素直になるだけだろ」

どんな結果になろうと、素直な気持ちを。
は頷いた。



*



どのくらいの時間が経っただろうか?
政宗も幸村も額から汗が零れ肩で息をしている。
中々決まらない勝負。
勝負を楽しんでしまっているようでもあるが、実力が拮抗しているのだろう。
どんな攻撃を繰り出しても防がれ弾かれる。
次はどんな手を出そうか考える間もなく、互いに体が勝手に動きだす。
まるで本能で動いているようだった。

照りつける太陽も段々西へと傾いてきている。
長く持ってこの勝負は日没までだろう。
それでも勝負がつかぬ場合は慶次が割って入ろうと考える。
今の二人ならば慶次は意図も簡単に強制で終了させられるだろう。

も額にじっとりと汗が滲んできている。
額だけではない、手にも。
この勝負がついて欲しいような欲しくないような。
ずっと見ていたいような、見ていたくないような。
だが、もうすぐだ。
もうすぐ終わりが来ようとしている。

二人の体力が限界だった。
次だ。
次で決める。
次が最後の一撃だ。
そう互いに感じ取った。
そして政宗が刀を幸村が槍を振り下ろしぶつかろうとした瞬間。

は走りだした。

「政宗ッ!」

慶次は突然の出来事に目を見張った。
なんだ?
突然が走りだしたと思ったら一瞬で彼女の体は崩れた。
何かがの体からするりと抜けた。
同時にそれを見て慶次も走り出した。林の方に向かって。

「・・・・?・・・・おい!」

二人の目の前で突然倒れた
倒れたを抱き起こすと左わき腹の辺りから出血していた。

殿!い、医者を。今すぐ医者を呼んでくるでござる」

邸の方へ幸村は走りだした。
留まることなく流れる血。
赤く染まっていく着物に政宗は舌打ちをする。
何かで止血せねばと焦りだす。

「・・・・ね。・・・・・政、宗」

!お前、なにを」

久しぶりに交わした言葉。
でも嬉しくなかった。
政宗はグッと傷口を手拭で押さえる。それでも見る見るうちに赤く染まる。

「政宗・・・・これで許してくれる?」

「許すって・・・・何がだ。俺はなにも・・・あー!いいから喋るな!」

「だって黙っていると痛いから」

意識ははっきりしているようだ。

「相変わらずだな、お前はよ・・・・・」

「だって、私こういう性格だから・・・・・・・だから、最期ぐらいは素直になろうかな・・・って」

「最期なんていうな。そんなことになりやがったら、俺はお前を許さねえぞ」

何の為に甲斐まで来たと思っているのだと。

「・・・・・。優しすぎるんだよ、お前は・・・・・」

「優しくないよ、私・・・・」

力なくもは笑おうとする。
笑っている方がいいと慶次が言った。
政宗もそう思ってくれているだろうか?

「私ね、気づいちゃったんだ・・・・政宗に酷い事言った後に・・・・」

「今は喋るな。後でちゃんと聴く。だから喋るな」

「嫌。今言わないと絶対私後悔するから・・・・きっと素直になれないから」

は政宗の頬に手を伸ばす。
触れるかと思えば軽く抓る。
抓られても痛くも痒くもない。だけど、心が痛む。
最期とか、今とか、そんな言葉を並べられて、今こうしてすぐそばにいるのに。
がまた手の届かないどこかへ行ってしまいそうな感覚に襲われる。

「政宗は、私のこと沢山大事にしてくれたのにね。ありがとう・・・・」

「だから、そういうのは」

「ちゃんと最後まで聴いてよー・・・・・私、政宗のこと・・・好きだよ。いい奥さんでなくてごめんね」

スッと触れていた手が離れた。
ポタっと落ちた。

!!」

政宗はを抱え立ち上がった。
どこへ行けばわからないが、走り出した。








19/12/31再UP