合縁奇縁



ドリーム小説
【21】




に呼ばれて真田邸に戻った幸村。
彼女は昼餉の用意ができたから呼びにきたのだという。

「ちぇー。結局勝負はお預けかよ」

邸に戻る途中で慶次も合流し、勝負はまた後でとに言われて渋々従った。
面白くはないが、彼もお昼と言われ腹が鳴ってしまうほど空いていたので
文句は言いつつもご飯を前に大人しかった。

「そこまで信玄様と勝負したいんですか?」

「おう。強い奴とやるのが楽しいんだ。だから幸村ともやりたいんだけどな」

自分の方に話を振られて幸村は返答に詰まる。
正直言えば幸村だって慶次のような人と勝負はしてみたい。
武人である以上。
でも今は真剣に勝負できる神経ではなかった。
だから幸村は答えなかった。





幸村は慶次との会話に耳を傾けることなく己へと話しかけていた。
そろそろ奥州から何かしら反応があるころだろう。
を連れ戻そうとした忍、黒脛巾にを連れ戻したいのならば自分で来いと啖呵をきってしまった。

殿に会いたくば、ご自身で甲斐に来られよと」

政宗と名を聴いてが揺らいでいるのがわかった。



初めてと出会った時、彼女はすでに政宗にとって一番大事な人だったようで。
幸村の腕にしがみつく様子にかなり苛立ち、公衆の面前で自分の女だと幸村に向かって言い放った。
幸村自身、女子に抱きつかれることがほとんどなく、いっぱいいっぱいだったために
何をどうしたのかよく覚えていない。
目の前で口づけを見せ付けられたことにはかなり衝撃が走ったが。
その後暫く経ってから、佐助からが政宗と祝言を挙げたと聞いてぼんやりと「ふうん」と頷いた。
そうか、二人が・・・・。
佐助は色々含みある言い方を幸村にしたのだが、幸村は別にだからなんだとしか答えることしか出来なかった。
自分の領域にすんなり入ってきた人。
だが、色々考える前には政宗の正室になった。

二度目に会った時、寒くても米沢城下は活気があり伊達政宗が為政者としては有能なのだろうと思った。
ただを見ても、再会が嬉しかった。などとはあまり感じなかった。
佐助から聞かされた彼女の現状に信じられない。というかショックだった。
あんなに政宗が彼女に対して夢中になっていたのに、その彼女を放っておくのかということに。
でも自分には関係ない。
割ってはいることなどできるはずもなく、何をしてあげようとすることもなく。
そばに居られないのだからしょうがないと。
ただただ悔しくて。
政宗に対してと、何もできない自分に対して。
なぜ悔しいのかったのだろうかと思ってしまうが。

そして佐助が彼女を連れて来た。
敵国の正室を連れてくるなどもってのほかだと。
これが信玄の耳に入ればただじゃすまないだろうし、面倒ごとになるとわかっていた。
だから会えた嬉しさよりも危機感を感じた。
すぐに信玄に伝えねばと思ったのだが。

もう彼の下には居たくないから、逃げ出した。

「普通ならば実家に帰るんでしょうが、私は帰る家もないから・・・・」

同情をしてしまったのだろうか。
いや、同情したのは佐助だ。
だから彼女を連れ出してしまったのだ。
だからってここに連れてくる必要があったのだろうか?
佐助の忍らしくない行動に呆れてしまった。
だが結局自分も同じだった。

「それに・・・ちゃん。泣いていたんですよ・・・・夜中一人で、雪が降る中外で・・・・」

「正義の味方気取りじゃないですけどー男としてちょっとほっとけないなぁと思いましてね」

放っておけなかった。
泣いていたいう女性を追い出すことができなかった。
自分を頼ってくれたのかと思うとどこか嬉しく感じた。
今まで何も出来なかったから、今は違う。
政宗ではなく自分を頼ってくれたに。
何かしてあげられる。そんな気がした。

ようやく、彼女がここでの暮らしになれた頃に外へと連れ出した。
佐助が「どこか案内してやったらどうです?ずっと邸の中ってのも暇でしょうし」などと言うので。
が一緒にいるだけでいつも見ていた、歩いていた光景が違ったものに感じた。
だって女子。
きっと装飾品は好きだろうと入ろうとした店で彼女は首を横に振った。
その時の顔が泣きそうであったのを覚えている。

「簪、貰って・・・・幸村様ともお別れしてしまったら嫌だから」

なんのことだ?と思ったが、簪は彼女にとって禁句だったようだ。
政宗がに簪を贈ったのを最後に二人の関係は悪い方向へと向かってしまった。
だから幸村がに簪を贈れば、もしかしたら幸村とも別れてしまうのかもしれない。
そう思ったらしい。
そんなことはただの偶然だと思うのだが、にとっては大事だったのだろう。

殿を悲しませる真似などしないと、約束するでござるよ」

自然と口に出たとき。
きっと何も考えていなかった。
を悲しませたくない。泣き顔よりも笑顔の方が魅力的な人だと思っていたから。
笑っていて欲しい。
ただそれだけで。
自分よりも弱い人を守るものだと思ってきたから。
彼女のことも守らねばとはっきりその時思った。



*



「兄上!」

ドカドカとする足音に信玄は何事かと眉を顰める。
やってきたのは弟の信廉だった。

「どうした?」

「大変なことになりましたぞ!」

「だから何がだ」

信廉は信玄に耳打ちをする。
信玄はそれを聞きスッと立ち上がる。

「佐助!佐助はおるか!」

信玄の声に今度は佐助が姿を現した。
佐助の主は幸村だが、信玄へも忠節を誓っている。
幸村からも信玄からの命を第一にと言われている。

「急ぎ行ってもらいたい場所がある」

信廉からの話を佐助に伝えると、緊迫した様子の二人とは対照的に明るい声で応答する。

「あらら〜そりゃあ大変というか、まあしょうがないって奴ですかねぇ」

「佐助。お主は・・・」

信廉からキツク睨まれる。
だが飄々とするだけの佐助。

「思ったより遅かった。が俺の感想なんですがね」

「最悪の事態に流れると思うか?」

「さあ。俺にはなんとも」

「お主はそう言えるのか?」

呵呵と笑い出す信玄。

「あーいじめないでくださいよ、あんまり」

「まあいい。では頼んだぞ、佐助」

「はい。あ、旦那にはこのこと」

「今はいい。先に向こうを抑えておいてくれ」

「了解!」

佐助は姿を消した。
少しばかり楽しそうな顔をしている信玄に信廉は眉を顰める。

「兄上・・・・」

「まあ良いではないか。退屈しなくなるぞ」

「退屈しのぎで済めば良いのですが・・・・」

信廉は大きく息を吐いた。



*



なぜ。こんなにも自分は考えているのだろうと思う。
政宗とのことを。
気づけば彼女は自分のすぐそばで笑っている。
奥州にいた頃の話をしてくれる。
友だちだったといういつきという少女のことを。
政宗の右腕だという小十郎、従兄弟の成実。守り役として世話をしてくれた喜多のことを。
自分のことを姐御と呼ぶ若武者たちのことを。楽しそうに。
ただ政宗のことだけは口にしなかった。
彼のことを口にすると、の瞳が揺らぐ。
本音はどうなのだろうか?
逃げ出したというのに、ここまで彼のことを気にしている。
いや、消えてなくなることがないようだ。
共に過ごした時間ならば政宗の方が当然長いのだが、幸村は彼女を悲しませたことはない。
何かと笑ってもらおうと必死だった。
そんな時にやってきた伊達の忍たち。
自分たちが不在の時を狙ってを連れ去った。
佐助がいち早く気づいてくれたから、たまたま甲斐へとやってきた慶次によって彼女を助けることが出来た。
忍たちは政宗の命令で彼女を探し連れ戻そうとした。

「政宗の命令だって言っていました・・・・・でも、今更そんな事を言われても・・・・・」

「私がこのまま幸村様の元に戻らなければいいんです。元々少しだけお世話になるつもりでしたし」

「いえ。これといって特には・・・・政宗が・・・・心配、していると・・・・」

「そんなの何かの間違いです。政宗が心配なんて」

無性に腹がたった。
政宗とに。
彼女が米沢を出てかなりの時間が経っている。
今頃のこのこ現れるなど。
しかも自分ではなく手下を使って。
いや、彼は自分と違い治める者だ。領民のことを第一に思いやらねばならないこともあるのだろう。

だけど。

だけど。本当に心配ならば自分で探しに来い。
自分で会いに来い。そして彼女に何か言うことがあれば真正面から言えばいい。
今更なんだ。
今更、彼女を連れて行くのか?

に腹がたったのは、ここを出ようとしていたから。
また逃げ出すのかと。
いずれは出て行くつもりだったという言葉が痛く突き刺さった。
「政宗」と口にする彼女の表情が辛そうで。揺らいでいて。
そんな顔をして欲しくなかった。
に問いたくなる。



今のあなたにとって、伊達政宗はどういう存在なのですか?



信玄と対面しただったが、信玄は勝手な行動をした幸村を叱った。
今までずっと黙ったままだったから。
一言何か言って欲しかった。そう言われて幸村は信玄の顔を見ることが出来なかった。
今までは何が何でもお館様第一としてきたのに。
その彼に知られないようにしていた。
言えば。と引き離されてしまうのでは?
そんな気がしたから。

引き離されてしまう?

なぜ、そう思った。
彼女を自分のそばに置きたいって思っていたのか?

それからだ。
幸村の中で、彼女は自分にとってなんだろうか?
自分はどう思っているのか?自問し始めたのは。
もうすぐ、奥州から何らかの反応が来るだろう。
戦になろうものならば、誰に反対されようとも、自分一人でも戦おうと思った。
戦にはならないと多分思う。
信玄が今危惧しているのは伊達ではなく、豊臣だから。
共倒れになるようなことをするはずがない。

政宗がを引き渡せといえば、きっとそれに従わねばならない。
理由はどうあれ。勝手なマネをしたのはこちらだから。

でも今、が米沢に戻っても幸せになれるのだろうか?
正室としての立場を捨てようと逃げ出した彼女を周りはどう思うのだろうか?
居場所はまだあるのだろうか?
正式に離縁する為に連れ戻すのならば、まだいい。
その後で自分が彼女を正式に引き取りたい。
もうを泣かせたくなかったから。

ああ、そうか。

簡単なことだ。
友誼以上の想いを、彼女に抱いていたようだ。

今のまま政宗に彼女を返したくなかった。

「幸村様?手、止まっていますよ」

「あ、ああ。申し訳ない・・・」

「どしたあ?ちゃんと飯は食わないとダメなんだぞ。いざっていう時に力がでないからな」

ずっと考え事をしていた幸村。
味噌汁はすでに冷め始めていた。
心配そうな目を向けるになんでもないと幸村は笑った。
慶次と馬鹿みたいにおかずの取り合いを始めてしまう。

「前田殿は食べすぎでござる!それはそれがしのものでござるよ!」

「お前がぼーっとしているからだろう。いらないのかと思ったんだよ」

二人のやり取りを見ては笑っている。
これでいい。
彼女が笑ってくれさえすれば。

「大体なぜ、前田殿は拙宅におられるのでござるか」

「だってのこと気になるしさ」

「な、なななんと!」

「ある程度見届けねーと締りが悪いっていうかさ・・・・隙あり!へへっ」

「あ!それがしの芋・・・・」

ひょいと皿の中の芋の煮つけを掻っ攫う慶次。

「もう。慶次さん意地汚いですよー。はい、幸村様どうぞ」

が新たに皿へと煮つけをよそり幸村に手渡した。

「すまないでござる」

ほっこりとした芋に幸村の顔が晴れる。
慶次は面白くないと非難する。

「あーずっりー幸村にばっかりー」

「慶次さんは食べすぎ。腹八分目って言葉知っています?」

「こんなのまだまだ八分目じゃないし」

「えー」

「前田殿。我が家を破産させる気でござるか?」

「大丈夫だって。このくらいじゃ。ほら、食わないのか?なら俺がそれも食うぞ」

「た、食べるでござるよ!だから前田殿は食べすぎなのでござるよ!」

「もうしょうがないなぁ」

くすくすと笑う
佐助もここにいればいいのにと思ってしまう。
仕事が忙しいのかなと少し残念に思う。
この楽しい時間は続けばいいのにと。

「飯食ったらさ・・・・」

「慶次さん?」

「・・・・・・何か来るでござる」

幸村と慶次の顔つきが変わった。
じっと外を見つめる。
その時だ。何かが塀を飛び越えて来た。

「HAッ!」

一頭の白い馬だ。
それに騎乗していた者が馬から飛び降りる。
幸村と慶次は中腰になりいつでも飛び出せる準備をする。

「・・・・・へぇ。楽しいランチタイムってところかい?」

その視線は強く幸村へと注がれた。

「Hey!言われたとおり来てやったぜ。真田幸村ぁ!」

「・・・・・・伊達、政宗殿」








19/12/31再UP