合縁奇縁



ドリーム小説
【19】



甲斐のとある山道。
大柄な男が自分の背丈よりもさらに大きい刀を担ぎながら歩いていた。
陽気に何やら独り言を・・・・いや、そう見えるが実は左肩に小猿を乗せている。
その小猿と会話しながら歩いていた。
男は前田慶次。小猿は夢吉。
京の町を拠点にしている風来坊だ。
どこかに仕えるわけでもなく、御家の為に刀を振るうわけでもなくただ好きに生きていた。
京の町では誰もが気さくに慶次に声をかけてくる。
慶次を知らぬ者などいないほど。
だが、ある日。慶次の放蕩ぶりに頭を悩ましていた叔父夫婦利家とまつが彼を連れ戻しにやってきた。
力づくでも連れて帰ろうとする二人だったが、慶次はなんとか逃げ出しついでに
各地を見て回ろうと暢気に一人旅を始めたのだ。
できれば強いと有名な者たちと喧嘩ができれば万々歳だ。

「虎のおっさんは相手してくれるかな〜な、夢吉」

慶次の問いかけに夢吉は彼の肩の上で飛んだり跳ねたりしている。
まさに自分も楽しみにしていると表現しているのだろう。

「利とまつ姉ちゃんもまさかここまでおっかけはしないだろうし」

のんびり喧嘩を楽しみたいものだ。
ここまで慶次が世の情勢を気にしなくなったのは理由がある。
とある出来事により今の風来坊の生活になってしまった。
最近までそれを忘れていた。いや、忘れようと考えないようにしていたのだが
織田信長が明智光秀に討たれたことが世間に広まったと同時にその後釜の如く、台頭してきた男の所為で
また思い出してしまった。
叔父夫婦の追撃が重なり逃げ出したのだが。

「甲斐の次は独眼竜相手に喧嘩したいものだな。あそこには他にも強い奴がいるっていうし」

それよりも今は甲斐の虎武田信玄だ。
噂じゃ信玄に仕える若虎と評される男も強いらしいし。

「ん?」

慶次はふと足を止める。
穏やかな陽気。ゆったり流れる雲。涼やかな風。
心地良い雰囲気が急に破かれた。

「あれだな・・・・ま、俺には関係ないか」

遠くから感じた忍の気配。
甲斐の虎でも偵察にきていたどこぞの忍だろう。
別に自分は戦などには興味がない。
今はただ、武田信玄との喧嘩にしか興味がない。
黒い集団が素早く慶次の上を通過していく。
最初から慶次など向こうも相手にしていないようだ。
慶次だから感じた気配。一般人には忍の気配などわかるはずもないだろうし。
そのまま慶次もその集団に気づかぬ振りをしようとしたのだが。

「あ!」

一人の忍が誰かを抱えていた。
口を布で塞がれ手足の動きを封じられて。
誘拐か?
なんか嫌なものを見た。
そう思ったら勝手に体が動き出し忍のあとを追い始めた。

「せーの!」

人一人抱えた忍に追いつくのは簡単だった。
それは慶次だからかもしれない。
なんとか奴を止めようと慶次は己の刀をぶん投げた。

「何!?」

突然飛んできたものに驚いた忍はバランスを崩し、抱えていた相手を落としてしまう。

「!?」

「しまった!様!」

落ちてきた者を慶次が素早く受け止めた。

「よっと。アンタ大丈夫かい?・・・・って・・・・・・ねね?・・・いや、んな馬鹿な」

相手の顔を見た瞬間懐かしさが湧いた。
だが瞬時に違うとその思いを打ち消した。

「どういうつもりか知らないが、その方を帰してもらおうか」

「俺もどういうわけか知らないが尋常じゃないって思ったからな。アンタらやってることと言ってること可笑しいぜ?」

「貴様になど関係ないだろう」

忍たちが慶次を囲む。
数にすればたった数人。
ここで無茶苦茶な喧嘩をするつもりはないし、なぜ助けてしまったのだろうと自分に溜め息が出てしまう。

「アンタ、あいつらの元に帰りたいのか?」

腕の中にいる者に尋ねるが相手は首を何度も横に振った。
慶次はそれを見てニッと笑った。

「そうか。なら俺があいつらおっぱらってやるよ」

ゆっくりと相手を下ろす。
パキパキと手をならす慶次。刀は少し離れた所に落ちているが、今は拳一つで十分だ。

「ほら。かかってきなって。この人連れて帰りたいなら俺を倒していきな」

ヒョイヒョイと手招きし忍たちを挑発する慶次。

「この!」

忍たちは忍らしからぬ冷静さを失い慶次に襲い掛かる。
だが慶次はそれらを全てかわして忍たちに殴り返す。
一発の力が大きい慶次によって吹っ飛ばされてしまう忍たち。

「なんでえ。もう終わりかよ」

たいした運動にもならなかった。と肩透かしを食らってしまう。

「さーて、こいつらどうしようか。あ、その前に。ちょっと待ってな、今、それ外してやるよ」

慶次は塞がれていた口、手足を解放する。

「はあ・・・・・あ、ありがとうございます」

「女?」

「え?あ、はい。そうですけど・・・」

若侍の格好をしたちょっと細身の男だと思っていたが声を聞いて慶次は声をあげてしまう。
女性だとは思っていなかったから。
でも、女性の顔を見てさっき打ち消したはずの思いがまた湧き上がってくる。

「本当・・・・・・ねねにそっくりだ・・・・・」

「ねね?」

「あ、いや。こっちの話だ。それよりアンタ何したんだ?こいつらに攫われるようなことしたのか?」

「え、えっと・・・・・」

様付けで呼ばれていたし、どこぞの姫様だろうか?
姫様が城から抜け出したのを忍たちが連れ戻そうとした。
だが相手の自由を奪ってまですることだろうか?
まあ大人しく帰りたがらなかったから、そうしたのかもしれないが。

「なんて説明すればいいのかな・・・・・えーっと・・・・」

「いや、いいよ。面倒臭いし。それよりこれからどうするんだ?送ってやってもいいけど」

「あ。どうしよう・・・・」

女性は急に不安げになる。

「もう居場所がバレちゃったから・・・・村様にご迷惑おかけできないかも・・・・」

「誰だって?」

「な、なんでもないです・・・・・」

やっぱり訳ありのお姫様のようだ。
やっかいなのを助けてしまったような気もする。
だがまたも忍の気配を感じた。まだ居たのかと慶次は瞬時に女性を庇おうと前に出る。

「?」

だが、違った。
殺気がなく隠れる様子もなく二人の前に姿を見せた。

ちゃん!無事?」

「佐助さん!」

「あ、知り合いか」

女性の様子を見て慶次は警戒を解いた。

「良かった〜室内ボロボロだったし、間に合わないかと思った。あんたがちゃんを助けてくれたんだ」

ありがとうね。と気さくに礼を述べてくる佐助と呼ばれた忍。

「あ、ああ。なんか出くわしちまったから」

「旦那も心配している。そろそろ追いつく頃だと思うよ」

「え!幸村様もわざわざ?」

と呼ばれた女性は困惑気味で佐助を見ている。

「んな顔しないでよ〜友だちが危険な目に遭ってると知ったらあの人構わず飛び出していく人だよ」

の頭を優しく撫でる佐助。

「佐助さん・・・・ごめんなさい。迷惑かけてしまって」

「んー?俺は迷惑だなんて思っていないよ?むしろ俺ら・・・じゃなくて俺が謝るべきだと思うし」

なんだかよくわからない会話だ。
そう思いながら慶次は落ちている自分の刀を拾う。

殿ー!佐助ー!」

「お。来た来た」

白馬に乗った真っ赤な衣装の青年。これが佐助の言っていた幸村、旦那だろう。
ん?幸村?慶次は小首を傾げる。

殿!ご無事でござるか!どこか怪我などされていないか?」

颯爽と馬から飛び降りに駆け寄る幸村。

「幸村様。私は平気です。あの人が助けてくれましたから」

「そ、そうか。良かったでござる。それがしからも礼を申すでござるよ」

の無事を知りホッと安堵する幸村。

「いや、別に俺は礼を言われることはしちゃいねーし・・・・ところでさ。こいつらどうするの?」

いまだ慶次によって伸びている忍たち。

「あーどうしようか〜」

佐助が数回髪を掻く。

「こいつら奥州の黒脛巾だよね。流石というか早くにちゃんの居場所を嗅ぎつけるなんてやっぱ優秀だよね」

でも忍としては俺の方が優秀だと佐助は笑う。

「では独眼竜殿が?・・・・・殿」

「政宗の命令だって言っていました・・・・・でも、今更そんな事を言われても・・・・・」

「んじゃ、始末しちゃう?このままにしておいたら独眼竜の旦那に報告されちゃうよ」

今の生活を壊させないようにするならばそうしてしまった方がいいだろう。
だがは頷けなかった。
自分の所為で忍たちの命を奪う真似などできない。
だが、幸村の元にいると知れば、国と国との争いになってしまわないだろうか?
自分の存在が戦のきっかけになってしまうとしたら・・・・。

「このまま、、この人たちを見逃してください」

「そ、それでは」

「私がこのまま幸村様の元に戻らなければいいんです。元々少しだけお世話になるつもりでしたし」

「それって甲斐からも出て行くってこと?」

「・・・・・」

これ以上迷惑はかけられない。

「それはダメでござるよ!殿お一人でなどそれがしは」

「幸村様・・・・」

ちゃん。こいつらなんて言っていたの?独眼竜の旦那の命令だって以外にさ」

を攫った者として甲斐に宣戦布告などしていないだろうか?
だがは首を横に振る。

「いえ。これといって特には・・・・政宗が・・・・心配、していると・・・・」

「心配ねぇ」

「そんなの何かの間違いです。政宗が心配なんて」

の瞳が揺らいでいる。
心が動揺しているのが良くわかる。
幸村は寝転がっている黒脛巾の一人の下へ進んだ。

「旦那?」

幸村は軽く男の頬を叩く。

「・・・・・っ・・・・・な、なんだ」

ぐいっと男の胸倉を掴む。

「目が覚めたでござるか?そなたらは独眼竜殿の命令で甲斐に殿を捜しに来られたのだろう?」

意識を取り戻したのだが、目前に戦場で何度も見かけた事のある真田幸村がいて思わず身を引いてしまう。
幸村の目は真剣でいつ手を出されても可笑しくない闘志を身に纏っていた。

「そ、そうだ。行方知れずとなった様を捜しに・・・」

「ならば独眼竜殿に伝えるでござるよ。殿に会いたくば、ご自身で甲斐に来られよと」

「旦那!?」

「それまでそれがし、真田幸村が責任を持って殿をお守りするでござる」

パッとその手を離し幸村はおとこを見下ろした。

殿をたくさん悲しませておいて・・・・言葉でいくらでも言えようが独眼竜殿は態度でそれを表すべきでござる」

「幸村様・・・・」

「わ、わかった。政宗様にちゃんとお伝えいたす」

幸村の気迫に押されながらも男は他の仲間たちも起こしその場を去っていった。
黒脛巾たちが去って幸村は申し訳なさそうにに頭を下げた。
先ほどまでの気迫が嘘のようだ。

「か、勝手なことを申してすまなかったでござる」

「いえ。でも幸村様あれでは・・・」

「もし、独眼竜殿が兵を連れて攻めてくるとしても、それがし、一人でも戦うでござる」

これは信玄には関係ない。
兵を出すことでもない。

「その時は俺も連れて行ってもらえるんでしょうね。旦那」

「佐助」

「旦那が一人責任を背負い込むことないでしょ?元々俺が先に勝手にしちゃったことなんだからさ」

「佐助・・・・」

「って!お二人とも可笑しいです!お二人がそんなことするの・・・」

「大丈夫だよ。多分戦にはならないさ。独眼竜の旦那の性格を考えればね」

きっとちゃんの方がわかっているはずだよ。佐助は言う。

「さてと。お邸に帰ろうか。お館様もお待ちだし」

「え!」

「し、しまった!お館様に呼ばれているのを忘れていた!」

信玄に呼ばれて躑躅ヶ崎の館へ向かう途中だった幸村と佐助。
だが侵入者の気配を察知して真田邸へ戻ると室内が荒らされの姿がなかったので急いで追いかけてきたのだ。

「あの!私も行ってもいいですか?もしかしたら幸村様怒られる可能性あるだろうし」

ほぼ自分の所為だから信玄に目通り叶うならば全てを話さないといけないだろう。

「そうだね。多分ちゃんのことだと思うんだよね。お館様の呼び出しって。一緒に行こうか」

「はい」

「あー話終わったー?俺の話も聞いてほしいんだけどさー」

ずっと蚊帳の外にいた慶次。
話しに割ってはいるのもどうかと思うので一段落つくまでずっと待っていた。

「あ。アンタまだいたんだ」

「ひでえな。一応そこの姉ちゃん助けたの俺だぜ?」

「あ、ありがとうございました!」

「あ。いいって。たださ、俺も一緒に行っていい?」

「へ?・・・・そなたも?なぜでござるか?」

「虎のおっさんに俺も会いたいから。あと、そこの姉ちゃんに興味あるし」

慶次はを指差した。
話の中身も気になるところではあったが、何よりもその容姿が気になった。
過去に悲しい別れをしてしまったあの人に似ている。
あの人ではないとわかっていても、自然と目で彼女を追っていた。

「お館様に会いたいって・・・・アンタ。前田家の風来坊だろ?お館様相手に何かしでかすんじゃないだろうね」

自己紹介もしていないのに、佐助には正体が割れていた。

「あれ。俺のこと知ってんの?」

「頭の羽飾り。肩に乗せた小猿。目立つ刀。少し前に京の町で身内と一悶着起こしただろ?」

それは叔父夫婦が連れ戻しに来たときのことだ。

「あちゃー」

慶次は手で顔を覆うもすぐさまニッと歯を見せた。

「ま。そうなんだけどさ。虎のおっさんに会ってみたいだけだし、俺今どこにも仕えていないからさ」

別に他国の間者でもないから、正体を隠していることもない。

「身元割れているからって?旦那、どうします?」

「そっか。アンタがこの人の主人なんだ。俺、前田慶次!よろしくな!」

バンと勢いよく幸村の背中を叩いた慶次。

「あ、ああ。えと、それがしは真田幸村と申す・・・・・」

「じゃあとりあえず、虎のおっさんに会いに行こうぞ!ほら」

慶次はの手を引いて歩き出した。

「え。え?」

「あ!アンタ勝手に決めないでちょうだいよ!旦那!ちゃん取られちゃいますよ!」

「そ、それがしは別に・・・・あ、あー待つでござるよ!前田殿!」

可笑しな方向に行かねば良いが・・・・。
佐助だけが不安に感じてしまった。









19/12/31再UP