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合縁奇縁
織田家が滅亡して台頭を表してきた豊臣。 一家臣であった秀吉があっという間に掌握しつつある関西方面。 だが、武田の当座の相手は上杉と徳川になりそうだ。 伊達に関しては北条攻略が鍵となるだろう。 【18】 「ああああ。殿ーな、なにもそなたがそのようなことをせずとも」 相変わらず袴着用の男装であるが、は動きやすいように自分なりにアレンジをし 幸村の邸の掃除をしていた。 「だって、私居候じゃないですか。このくらいはしないと」 「い、いやだからって・・・・掃除など」 「私のことお姫様扱いする必要はないですよ?奥州にいた時もいつきちゃんの村で色々やりましたし」 キュッと桶で雑巾の水を絞る。 「いつき・・・ちゃん?」 「私の友だちです。多分唯一の・・・年下の子ですけど、私よりしっかりしていて」 いつきに黙って出てきてしまったことに罪悪感が湧いてくる。 それを言うのならば喜多に対しても同じだ。 は正座したまま手を膝の上に乗せる。 少しだけ悲しそうな目をするに幸村は小さく拳を握った。 「友だちには、きっとまた会えるでござるよ」 「幸村様・・・・そう、ですね。きっと幸村様ならいつきちゃんと仲良くなれるかも」 「楽しみでござるな。そのいつき殿に会える日が」 よしと、幸村は雑巾を手に取り自分も掃除をすると言い出した。 「え。幸村様こそ別に」 「廊下を磨けばいいのでござるな!」 雑巾をしっかりと握りキラリと目を輝いているかのように見える。 は小さく笑いながらも自分も絞った雑巾を広げる。 「なら勝負しますか?幸村様」 「勝負?」 「ここの廊下長いですから、端から端まで競争です!」 「ぬぬ。その勝負。負けられぬでござるよ!」 勝負事には熱くなる男幸村。 と二人で廊下を雑巾で駆けていた。 そんな二人を少し離れた所から見ていた佐助。 枝に腰掛膝に肘を乗せている。 「旦那ももうちっと言葉が足りないなあ〜ちゃんはもう一人じゃないって教えてあげないと」 そう。そのいつきちゃんだけじゃない、幸村と佐助も友だちなのだから。 「あ。旦那は違うのかな?ま、いっか」 が笑う回数が断然増えた。 一人でこっそり夜中に泣いているかな?と心配になったがその気配はない。 ちゃんと彼女は笑っている。 「独眼竜の旦那、それを知ったらどうするのかねえ・・・・」 勘のいい人間ならば、がどうやって館を抜け出たのかそろそろ気づいていそうだ。 一応伊達にも忍がいるわけだし。 佐助の方が腕は上だったのだが。 「さてさて、いつもの偵察に行ってきますか」 今日は西へと行かねばならぬ。 佐助がスッと姿を消すと梢が揺れた。 * 幸村が街並みを案内してくれるというので、外に出た。 幸村がと言うが、恐らく佐助が入れ知恵したものと思われる。 雪解けが見られるようになり、春が近いのだなと思う。 奥州を出て一月。 何もないとなると、本気で自分は縁を切られてしまったのだろうと感じる。 自分から出てきて、今更何を求めると言うのだろうか? 「どうでござるか?向こうとさほど違いはないと思うでござるが・・・いや、向こうの方が華やかかもしれん」 領主の人柄を思うと奥州の方が派手かもしれないと幸村には感じている。 甲斐はどこの町、村ものどかというイメージがする。 「柄の悪そうな人はいないですね」 「それはお館様の治めるこの地ではありえんでござる」 胸を張る幸村にが笑みを零す。 「ふふ。意味は少々違いますけどね」 柄が悪そうな人。 奥州でのことを姐御と慕ってくれた若武者たち。 よく彼らと街へ行ったなというのを思いだす。 一緒に茶屋で甘いものを食べた。 見かけと違って優しく気遣ってくれた。 「何か欲しいものがあれば遠慮なく言ってくだされ」 「あ。そんな・・・特にないですよ」 「そうでござるか?それがし女子のことはよくわからなくて・・・佐助の方が詳しいのでござるが」 大袈裟とも思える力なく肩を落とす幸村。 「今の私の見た目は男子なので女子として扱わなくていいですよ」 「見た目はそうでござっても中身は女子でござろう」 「あーそうなんですけど・・・・本当に今は」 衣食住。全て幸村に甘えている。 これ以上ねだる物などないのだ。 「あれはどうでござるか?殿もあーゆーのは興味あるでござろう?」 幸村が指差した店。 和装、装飾品が売っている店だ。 「簪、歩揺。髪飾り、つげ櫛。なんでもいいでござるよ」 「簪・・・・」 行こうと幸村が店に入ろうとするがの足は止まってしまう。 『。これ欲しくねーか?』 『いいねぇ。お前に似合う』 『別に。ただと一緒にいるわりに何も贈ったことがねーなと思ってな』 3つの桜の花と房がついた金の簪を政宗にプレゼントしてもらった。 最初で最後の彼からの贈り物。 これをもらってからだ。 二人の間に壁が築かれたのは。 「殿?どうなされた?」 「い・・・・いいです。簪、いらないです」 「殿?」 「ゆ、幸村様。あそこに茶屋があります。あそこで休憩しましょう。お腹空きました」 「あ、あー殿!?」 は幸村の手首を掴んで強引に歩き出した。 「ど、どうなされた?何やら顔色が悪いでござるよ?」 顔色が悪いというより、切羽詰って涙がこみ上げてくる。 悲しい。 そう今感じる。 「簪、貰って・・・・幸村様ともお別れしてしまったら嫌だから」 「え?」 「いらないです。プレゼントなんか、私いらないです」 「殿・・・・」 幸村は立ち止まる。 がそのまま進もうとするが、ぐっと力を入れて立ち止まる。 「幸村様?」 は振り返る。 幸村の顔が俯き垂れた前髪で表情がよくわからない。 「それがしともと、あなたは言った。それは以前に政宗殿から頂いたということでござるか?」 「・・・・・・」 「政宗殿が殿に贈って、別れてしまったというのでござるか?」 「別れてというか・・・・」 幸村はギュッとの両手を握った。 「それがしは、絶対そのような真似はしないでござる!」 「幸村様」 「殿を悲しませる真似などしないと、約束するでござるよ」 幸村が秘めるのは弱いものを守るという想い。 女、子ども。甲斐に住む人々が信玄の下で笑って暮らせるように戦うということ。 特定の誰かというのは今まで感じたことはなかった。 だけど、目の前にいるが、とても弱々しくて。 いつも笑っているのに、少しでも政宗のことを思い出すと辛そうで泣きそうで。 そんな顔より笑顔の方がには似合いだから。 だから、自分は彼女を泣かせるような真似はしたくない。 そう思った。 「幸村様・・・・ありがとうございます」 泣きそうになったけど、涙は零れなかった。 戦場では熱き炎を灯す人だろうが、今の幸村の炎はあったかい。 「団子でも食べに行きましょうぞ。それがし、とても美味い団子屋を知っているでござる」 「はい」 幸村の手をはしっかり握り返した。 今更ながら内心ドキドキしてしまう幸村だったが、その手を振り解くことなく駆け出した。 * 「だーんな。真田の旦那」 「どうした、佐助」 縁側で醤油煎餅を食べていた幸村。 偵察から戻った佐助が呼びかけた。 「お館様がお呼びですよ。バレたんじゃないですか?ちゃんのこと」 「あ・・・・・・わ、忘れていた・・・・・お館様への報告を・・・・・」 嫌な汗が背中を流れる。 怒られる? 殴られる? 信玄の愛情たっぷりともいえる鉄拳を受けねばならぬだろうと。 「必死だったもんね。ちゃんに笑ってもらえるようにここ毎日」 「う・・・・」 その甲斐あって普段のはとても晴れ晴れした顔をしている。 「とりあえず、行きましょうや。俺もお供しますんで」 「そ、そうだな」 縁側からひょいと降り佐助を供に歩き出した。 障子を開けて顔を出したがその姿を見つけ呼び止めた。 「幸村様、おでかけですか?」 「お館様の所へ。今呼ばれたので」 「そうですか」 「すぐ戻るので、その後で約束を果たしましょうぞ」 「約束?」 佐助がん?と二人の顔を見合わせる。 「殿に乗馬を教えると約束したのだ」 「へぇ。そうでしたか。じゃあちゃちゃっと済ませましょうや。俺もお手伝いしますし」 「ありがとうございます。佐助さん」 いってらっしゃい。と二人に手を振りは見送った。 幸村は少々こそばゆく感じながらも小さく頭を下げた。 佐助はちゃんと手を振り返して。 「楽しみだなあ。馬と無縁だったから」 奥州では馬に乗る機会がほとんどなかった。 どんな感じなのか興味はあったが。 それにここ、武田の騎馬隊は戦国最強と言われている。 きっといい馬がたくさんいるに違いない。 馬に乗るってどんな感じなのだろうか? 幸村だけでなく佐助も一緒だというからそんなに怖いことも、難しいこともないような気がする。 早く二人が戻ってくるのが待遠しい。 「さっき出かけたばかりだってのに」 自然と笑みが零れてしまう。 とりあえず二人が戻ってくるのを大人しく待っていようとは障子を閉めようとした。 だが。 「ようやく見つけましたぞ、様」 「え」 辺りを見渡しても姿は見えない。 声がを縛り付けたように動けなくなる。 「・・・・だ、誰・・・・」 「政宗様が心配しておられます。どうぞお戻りください」 政宗と聞いて心が揺れた。 同時に胸に痛みが走る。 「ま・・・さむ・・・・ね・・・・・」 に呼びかけているのは佐助と同じ忍だ。 伊達家にも仕える忍がいるのは知っていた。 黒脛巾。 脛に黒い脚絆を巻いていた為に黒脛巾衆や黒脛巾組と呼ばれている忍だ。 「・・・・・・嫌・・・・・・絶対嫌」 手が震える。 ようやく搾り出せた返事は拒否。 「様」 「今更何よ。心配って・・・信じられないっての・・・・・帰って。もう伊達・・・はいないの」 「・・・・・・」 自分からあの館を出たのだ。 今更と言ったのは自分に対してだ。 今更どの面下げて帰れるだろうか。 「ご正室には猫様がなればいい。私は帰らないから」 「そうは申されましても、我らの命令はあなたを連れ戻すことにありますゆえ・・・・」 少々強引にでもということだろう。 「・・・・私・・・・・幸村様・・・・佐助さん・・・・」 さて、どうすればいいのだろうか? 19/12/31再UP |