合縁奇縁



ドリーム小説
【14】



「成実。小十郎はどうした?」

成実の前に政宗はスッと腰を下ろした。

「さきほど、町へ行かれました。殿のお供だそうです」

「そうか・・・・の」

腕を組み庭へと視線を巡らす。

「殿も行かれますか?」

「いや。まだやることがあるからな・・・・・」

「そうですか。先ほど入った情報なのですが」

「An?」

成実は書状を政宗へと差し出す。
それをざっと見る政宗。

「織田亡き後、豊臣と名乗る軍勢が着実に領土を広げているようですね。
明智が謀反を起こすよう裏工作していたのが豊臣とのことで、また厄介なのが出てきましたね」

「ハッ。面白ぇ。そんな奴は俺様が叩きのめしてやるぜ」

「用心なされませ。織田が脆くに崩れたのですから」

「わかっている・・・・」

「それともう一つ。伊達領内に武田の者がいるようですよ」

政宗の眉がピクリと動く。

「あそこは隠密行動する気はないのでしょうかね?いとも簡単に己の場所を明かして」

口元に手をあて苦笑する成実。

「まあ隠れるのが大嫌いな御仁のようですから。真田幸村殿は」

一年前にも彼はここに来た。
勝負をと思ったがに邪魔された。
あれがきっかけでを娶ってしまえと思ったのだが。

「今、殿も町へ行かれていますよね」

「・・・・・」

「鳶が出てきたかもしれないですね」

成実の挑発に政宗は無言で貫き通した。
政宗のその様子に成実は面白くないとさっさと退室してしまう。

「真田、幸村・・・・・」

言いようのない不安が政宗の胸を掻き毟った。


*


「帰りにお団子買っていきましょうね。成実さんと喜多さんへのお土産」

真田幸村がいるとは知らずにと小十郎は町へ出ていた。
寒くなり本格的に雪が降っても可笑しくないのだが、人々は白い息を吐きながらせっせと働いている。

「特に喜多さんには沢山迷惑かけちゃったから。美味しいお団子食べてゆっくりしてもらわないと」

いつきの村へ行くと決めた時、護衛はいらないとは断った。
今の奥州で政宗に反旗を翻すような豪族は見当たらないし、不穏な動きもない。
何より、いつきの村へ迷惑がかかるのは嫌だと、一人で行くと言い出した。
また正室と言う立場なのにと、周りから特に喜多から自重なさってくださいと嘆願されるのだが
は頑として聞かなかった。
別に今の自分はそんなに重要でもなんでもないと思ってしまっていたのだ。
頑ななの態度に喜多がせめて自分が一緒に行くと同行を願い出たのだ。

『私はさんの守り役です。どこまでもお供いたします』

喜多のことをは全面的に信頼していたので、喜多とならばと二人でいつきの村へ行ったのだ。

「姉上は殿のことならば喜んで行くような方だ。迷惑だなんて思っていないだろう」

「うーん。それでも。喜多さんには感謝したりないんですよ」

「そうか。まあいいだろう。姉上を喜ばせたいと思うのならば買って帰ろう」

小十郎は喜多の好きな店まで行こうと言ってくれたのでは大きく頷き嬉しそうに笑った。
ただ、気になった。
お土産を。と言ったの口から政宗の名前が出てこなかったことに。

「寒くないか?ついでに何か食べて行くかい?」

温かいそばでもと小十郎は蕎麦の屋台を指差した。
こちらに来て、屋台は初めてだったのでは喜んでご馳走になった。


*


「ま。今回もこれといった収穫はないみたいで。長居は無用ですよ、旦那」

それでも変わらずに茶屋へと立ち寄っている真田幸村と猿飛佐助。
二人はというか、佐助は信玄公に命じられて偵察に来たのだが、幸村も一緒に行くというので
偵察と言うより小旅行になってしまっていた。
幸村といるとどうしても目立ってしまうから。
隠密を生業としている佐助にとって、遠慮してほしいものだが、逆にこれを利用してしまうことにした。
幸村に他の忍が意識を集中させている間に自分が調べればいいだけの話だ。
ある意味いい隠れ蓑ができている。
でも今回はさほどいい情報は得られなかった。
専ら危険なのは、関西方面だ。

「甲斐も寒いけど、奥州の方が数倍も寒いなあ・・・・旦那、早く帰ろうぜ」

「わかっておる。だが少しぐらいいいではないか」

大量に注文した団子などを頬張っている幸村。
燃費が悪すぎだと佐助は思う。

「あ、そういえば。ここでしたね。ちゃんと出会ったのは」

「・・・そうだったか?」

忘れちゃいました?と佐助は意地悪そうに笑む。

「そうでしたよ。今頃どうしているんですかねぇ」

「独眼竜殿のご正室になられたんだろ。幸せになっているだろう」

短い時間しか一緒にいなかったが、幸村にとって内容はとても濃い時間だった。
女子にあそこまで接近されたのは初めてで、動揺しまくったことを恥かしく思うが。
政宗が心底惚れている感じがしたので、きっと仲良くやっているだろう。
そう思う。
もし、武田と伊達が戦をするようなことになったら、彼女は恨むだろうか?武田を。
・・・・いや、幸村を。
信玄の為ならば、立ちふさがる敵は斬る。
そう心に誓っている幸村。相手が政宗であれそれは絶対だ。
もし自分が政宗を斬ったならば、はどう思うだろう・・・・。
そこまで考え込んでしまった時に、佐助が現実へと引き戻した。

「そうでもないだな、これが」

「?」

「少し前に独眼竜の旦那は側室を娶ったって話しだよ。それももうすぐ子も生まれるッてさ」

「そ、そうなのか!?」

時代、政宗の立場を思えば別に不思議なことはない。
だが政宗が以外の女性を娶ることを不思議に思った。

「それに、なーんか、ちゃん立場が危ういようで。独眼竜の旦那とも不仲が噂されているみたい」

「そ、そうか・・・・なんだか、変な感じだな」

幸せだと思った人がそうでないかもしれないと思うとなんだか切なくなった。

「・・・・・旦那・・・・・深刻な顔をしていても、団子食うの止めないんだな」

「なっ!う、煩いぞ、佐助!」

それでも団子の櫛を握っている幸村に佐助は呵呵と笑う。

「いや、旦那らしくていいんじゃないの?・・・・っと、噂をすればじゃないの」

「え?」

政宗ではなく別の男性と一緒にこちらに向かってくるを見つけた。
去年見たときよりもは大人っぽくなっている。
思わず幸村は見入ってしまう。
佐助はそんな幸村を見てニッと小さく笑みを浮かべ、大きく手を振り上げた。

「おーい。ちゃーん。久しぶりー」

「さ、佐助っ!」

往来の、敵国のど真ん中で何をする!と佐助を叱咤したくなるが、は佐助の声に反応してしまい、駆け寄ってきた。

「あー佐助さんだ。わーお久しぶりです」

はちゃんと幸村だけでなく佐助のことも覚えていたようだ。

「うん。久しぶりだねぇ・・・・っと後ろの旦那、そんなに睨まないでくれる?」

ヒラヒラと手を振る佐助。
と一緒にいるのが、政宗の右腕片倉小十郎だというのは承知している。

「何をしに来た」

「別に。もう帰るところだし。あ、信用されていないようだけど、本当なんもしていないよ。ね?旦那」

「あ、ああ」

は幸村にも挨拶をする。

「お久しぶりです。幸村様。お元気でしたか?」

にっこり微笑むに幸村は子どもみたいに大きく頷いた。

「だ、団子を食いにきたのか?」

「いいえ。お土産を買いに。さっき小十郎さんとおそば食べましたし」

誰にでも和んでしまうに小十郎は少々頭が痛くなる思いだが、自分が用心していればいいだろうと諦める。
それにそこが彼女の良い所なのかもしれない。

「へえ。お土産かあ。旦那、俺らも買ってく?と言っても途中で旦那が食っちゃうだろけど」

「人を意地汚いように言うな」

「でも、実際そうだし」

「幸村様たちはもうお帰りになるんですか?残念だなぁ、せっかく会えたのに・・・泊まって。あ、駄目か」

敵国の人を招待しては駄目ですよね?とは小十郎に尋ねる。
流石にそれは勘弁して欲しい。
ただでさえ、不安定な政宗との間なのに、そこに真田幸村を連れて行ったらどうなることかと思うと。

「ほーんと。残念だなぁ。俺も色々見て周りたいけど。ま、とにかくさ、ちゃんも座ったら?」

佐助は少し横にずれてポンポンと空いた箇所を叩いた。

「お茶でも飲んで温まりなよ。そっちの旦那もさ。俺たちお館様の命に背くようなことはしないからさ」

佐助に言われては素直に腰を下ろした。

ちゃんに手荒な真似なんかしないよ。本当」

「では、一先ず信用しよう」

とは言うものの小十郎は腰を下ろすことはなかった。

「そ、そなたは元気だったか?」

敵国の、しかも領主の正室とこんな所で話をするとは思わなかった。

「はい。元気でしたよ」

笑みながらは答えるが、先ほどの佐助から聞いたことを思うと、幸村は素直に信じ切れなかった。

「幸村様?」

「あ、いや・・・その・・・・空元気のように見えたから・・・・その、前に会った時のほうが元気はあったと」

大人になった、落ち着いたとでも思えばいいのだが。
嘘は幸村にはつけなかった。

「そう。見えますか?」

「・・・・・あ、その・・・・・すまぬ。余計なことを言った」

政宗との間に何があったのかなどと、幸村には関係ないことだ。
まして二人は夫婦なのだから。
幸村は立ち上がり、たちに背を向け歩きだした。

「佐助!行くぞ」

「え?あ、はいはい。じゃあね、ちゃん」

「幸村様」

幸村は一旦足を止める、振り返らずに一言だけ口にした。

殿・・・・お達者で」

そして今度こそ幸村は去っていった。
残されたは少し顔を伏せるがすぐに小十郎に向かって笑んだ。

「さ。喜多さんへのお土産買って帰りましょう」

「ああ」

喜多の好みを小十郎が承知していたので、いくつか買っていく。
恐らく、成実も食べるだろうから少し多めにと。
その帰り道、はぽつんと呟いた。

「一年ぶりに会ったのに、幸村様にはそう見えたんだ・・・・」

あの二人は変わりなく過ごしているようだ。

「私、空元気なのかな」

もうその姿は確認できないのに、は一度立ち止まり振り返った。

殿・・・・お達者で』

ふと目に浮かぶのは幸村の背中。

「もしあの時・・・・幸村様に着いて行ったらどうしたかなあ」

殿!?」

あの時というのが小十郎にはよくわからなかった。
それはつい先ほどの事を言うのか、それとも一年前のことを言うのか。
どちらにしても、は当初真田幸村に憧れているとの話だったから。

「あ。別にどうもしませんけどね。あ、雪ですよ、雪!初雪ですね、小十郎さん」

風と共に今年初の雪が二人の前に舞い降りた。









19/12/31再UP