|
合縁奇縁
【11】 奥州にも長かった冬が去り桜の蕾がちらほら姿を出してきた。 それでもまだ冷たい風は吹き体を縮ませてしまう。 「ー!なぁ!成実が町へ行ってもいいってさ。いっしょにいこ」 パタパタと元気よく廊下を走ってきたのはいつきだった。 お茶を飲んでいたの膝に飛び込み顔を覗かせる。 冬の初めに自分たちの現状に嘆き悪い侍を倒すと一揆を起こしたのだが。 伊達軍により制圧、沈静化となった。 その時政宗の正室と言う立場のを攫うという暴挙にでたのだが がいつきとは友だち。誘拐?なんのこと?ととぼけたのでお咎めなしとした。 本来ならばキツイ処罰が降るべき所だが、農民たちが一揆を起こす原因には自分たちに あった為にあえて処罰なしとした。 そのいつきだが、が絶対遊びに来てねと約束を交わしたので呼び寄せたのだ。 当初は自分たちとは天と地の差がある生活の場に馴染めないようだったが 伊達軍の武将、兵士たちのあの性格のおかげで気兼ねしなくなっていた。 「いつきちゃん。町へ行きたいの?」 「もう城のなかはあきあきだべ。それに、おら。そろそろ村さけえぇらなきゃなんねーし」 「えーいつきちゃん帰っちゃうのー」 「雪がなくなればおらたち米作りに忙しくなるだよ」 「そっか。じゃあ行こうか」 はいつきの頭を一撫でして立ち上がる。 いつきとは友だちというより姉妹のような感じがする。 「成実さんに許可をもらったってことは成実さんと一緒かな?」 縁側から降りて裏口へと回る。 表からでも別に構わないのだが、見つかると一緒に行くとを慕うものたちでいっぱいになりそうだったから。 それにいつきが裏口の方へと進んでいく。 「成実と小十郎、それに政宗もいっしょだべ」 「小十郎さんはいいとして、政宗も?」 「んだ。おらが成実にといっしょに町へいきたいっていったら政宗が自分もいくっていいだして」 「相変わらずバカ殿よね。アイツ」 君主としての自覚がないのかと言いたくなるが、逆に正室としての自覚はあるのかと切り返されそうだが。 「俺様を待たせるなんていい度胸だな・・・An?」 行く気満々の政宗の態度に小十郎は苦虫を潰し、成実は微苦笑している。 「政宗と一緒に行くなんて私言ってないし。いつきちゃんとお出かけするんだもん」 「雪ん子は成実に任せればいいんだよ」 の左手をとって政宗は歩き出す。 「ちょ、ちょとお!」 「あー!政宗。なにするだ!そっちの手はなすだ!」 左は政宗。右手はいつきにしっかり握られている。 「うるせー。手を繋ぎたいなら小十郎と成実に頼め」 「おらはといっしょにいくんだ!」 「え、えー。あのー」 両側から喧々囂々とするので少々うんざりする。 「あはは。殿ってばみっともないですよねー」 「成実殿・・・」 いつきがにべったりなのが面白くないようだ。 政宗がにしてもらいたいことを彼女はいとも簡単に成し遂げていく。 あまり煩く言えば、からは「子どもと張り合うな!」と怒られる。 これが奥州の竜の姿かと思うと小十郎たちは涙が出てくる。 「ああ。そうでした。あなたは聞いていますか?」 「何を?」 「殿にご側室をという話ですよ。殿が嫁いでもう一年以上経ちますからね」 夫婦円満に見えるから問題はないだろうと思うのだが、輝宗の代から使える老臣たちには 早くお世継ぎをと言う声があがっているそうだ。 「まだ一年とは考えないようですな・・・・」 「お年寄りにはもう一年なんですよ、きっと」 成実はくつくつと笑う。 「だが輝宗様ご自身ご側室など娶られてはいない」 「そうですね。お子も政宗様と小次郎様のみですしね」 だから余計に伊達の血を無くさせまいと老臣たちはやっきになっているようだ。 政宗とのくだらないいい争いを日常茶飯事。スキンシップみたいなものだとは到底思えてもいないようだ。 「殿ご自身が娶ると宣言して勝手に進めた話でしたのにね」 「殿が政宗様を毛嫌いしているとでも思っているところなのかもしれん・・・」 「喧嘩するほど仲がいいと言いますのにねーあー嫌だ、嫌だ」 余計なことをして二人の仲が拗れなければいいのにと成実は溜め息をついた。 小十郎も当初はが政宗にとって害なす者ではないかと危惧していたが、今はそう思うことがなくなった。 思う事のほうが間違いだったと思えている。 政宗が安堵できる心落ち着ける場所をちゃんと作ってくれているのがなのだから。 「うわぁあ!」 少々物思いに耽っていた所へいつきが飛んできた。 小十郎はいつきを受け止め、彼女が飛んできた原因だと思われる政宗を軽く目で叱る。 「おっと。政宗様」 「悪ぃ。そんなに吹っ飛ぶとは思わなかったんだよ」 「もう!なにするだ!」 小十郎に抱きかかえながらいつきがもう抗議する。 「あんた。子どもにも容赦ないのね。サイテー」 「ち、違うぞ。俺は。とにかく、雪ん子は小十郎に任せて行くぞ」 「また強引にぃ!」 も抗議するが政宗はそのまま歩き出す。 「あー!ずるいだ!政宗!」 バタバタ暴れるいつきを小十郎は宥める。 「すまん。少しだけ我慢してくれ」 「そうそう。代わりに私どもが相手をしますから。少しだけ二人にさせてください」 「しかたねえ。おらが我慢してやるだ」 いつきがわざとらしく腕を組み言った。彼女の方が政宗より大人ではないかと成実は笑った。 でも・・・老臣たちに好き勝手言われないように。 仲良き時間を過ごしてくださいと、小十郎たちは少しばかり政宗たちから距離を置いた。 「もう〜いつきちゃんが可哀相だよー」 もうすぐ村に帰ってしまうとなれば、できるだけ一緒にいたいと思うのに。 「今だけだ。それにどうせまたすぐ来るだろ」 「だといいなあ」 いつきたちが住む辺りは政宗が治めるようになってから少しずつだが変わってきた。 一揆を起こしたのが嘘のように。 「それにお前も遊びに行くんだろ?」 「うん。夏ごろには行きたいかな。一番過ごしやすそうだし」 きっとその頃にはいつきたちが育てる稲も大きくなっているだろう。 秋に収穫されるのを待ちながら。 「。これ欲しくねーか?」 「え?」 突然引っ張られて入った店。 政宗が手にした一本の簪。 それをの髪にかざし満足そうに政宗は笑んだ。 「いいねぇ。お前に似合う」 3つの桜の花と房がついたもの。 桜の花の中央にはちゃんと石でおしべとめしべが表現されている。 花は薄い桃色、金の簪。少し派手じゃないかと思うが、政宗はこれがいいとさっさと購入してしまう。 「じっとしていろ。今挿してやる」 スッと耳元に挿す。 「あ、ありがと。でも急にどうしたの?」 せっかく贈ってくれたのだが、なんだと変に勘ぐってしまう。 「別に。ただと一緒にいるわりに何も贈ったことがねーなと思ってな」 「政宗は着物とか色々用意してくれたじゃん」 「あれは生活に必要なものだからプレゼントとは違う」 いいから素直に受け取っておけと挿した簪を抜きの手に持たせた。 「うん。ありがとう。大事にするね」 は手にした簪を優しく包み微笑み改めて礼を言う。 素直に口に出せたので自身面食らうが、素直にそう思ったのだ。 政宗はそのの表情に瞠目しつつも内心安堵する。 ただ。気になる言葉を政宗は呟いた。 「俺の心はお前のもんだからな。・・・・」 「ん?なに?政宗」 小さすぎての耳には届かなかった。 政宗はなんでもないと首を横に振った。 いつきが村へと帰った。 見送った際にいつまでも大きく手を振ってくれた。 また遊びに来るからと、今度はが村へ遊びに来てくれと告げて。 館の中はいつきが帰ってしまったことで少々静かになってしまったが、次に会える日のことを思えばなんてことはなかった。 それから数日穏やかな日々に戻ると思っていたのだが・・・・。 「それは誠か。小十郎」 「残念ですが、そのようです。姉上」 喜多と小十郎が何やら小声で話している。 「政宗様に承諾を得る前に話は進んでいたようですが」 「・・・・お世継ぎのことを思えば確かに悠長なことは言っていられないと思うのであろう・・・ただ」 そんなに急く必要もないだろうにと喜多は深く溜め息をついた。 「何しているんです。お二人とも」 背後から聞こえた声にびくりと体が動く。 振り返ればが小首を傾げている。 「殿。あ、その」 「い、いえ。なんでもないのですよ」 「そうですか〜?」 下手にコソコソすると怪しまれますよ。なんては笑いながら言う。 「お二人が話している内容。知りたいですか?殿」 「成実さん。別に知りたいってわけじゃないですけど」 これまた音もなく現れた成実に武人として少しばかり反応が遅れたことを少々情けなく思う小十郎。 だがすぐに目で成実に余計なことを言うなと訴える。 「すぐにわかることですし。先だろうが後だろうがあまり変わらないと思いますけどね」 成実にしては珍しく刺々しい物言いだ。 普段ニコニコ笑顔を絶やさない成実だが、どうやら内面で静かに怒っているらしい。 「殿。殿に側室ができたそうですよ」 「成実殿!」 あっさりばらした成実に喜多も小十郎も非難する。 「政宗に側室?・・・・ふーん。伊達政宗だもんね。しょうがないんじゃないですか?」 「・・・殿」 多少は傷つくだろうなと予想していただけに、の淡々とした態度にこっちが驚いてしまう。 「それに、私知っていましたよ。皆が噂していましたし。周りの人は私に知られないように必死で隠してくれていたようですけど」 は微苦笑する。 のいた世界でもその手の話はいくらでもあった。 戦国時代ならばなおのこと。 それに「伊達政宗」には数多くの側室がいたと言われているし。 自分に正室としての役目ができていない以上仕方ないことではないかと思っている。 「ただ・・・政宗本人が何も言ってくれないのが・・・ちょっと」 噂が出ても彼の口からは説明も否定も何もなかった。 何か言ってくれればも反応しようがあったのに。 目線を落としたに三人は何も声をかけられなかった。 話を持ってきた老臣たちには理解されずとも、近くで見守ってきた三人にはちゃんとわかっていたから。 強引に始まった二人だけど、ゆっくり想いを育んでいたのだ。 政宗に側室ができたことで、何かが変わってしまうような不安に駆られた。 19/12/31再UP |