|
合縁奇縁
【10】 ぼやけた視界。零れた雫。溶ける雪。 いつきたちの起こした一揆はいつきが倒されたことで終息を向かえた。 伊達軍はも無事だったとわかると手放しで歓声をあげた。 成実たちも政宗たちの下へやってきて胸を撫で下ろした。 そんな歓声をは素直に喜べなかった。 「いつきちゃん・・・・」 短い時間しか一緒にいなかったけど、の胸に深く刻みこまれた。 「おい、」 政宗がの肩に手を置いた。 なんだかそれが腹立たしく感じ、もう一発殴ってやろうかと思ってしまう。 政宗はを自分の胸に押し付けた。 「・・・・・・」 「お前、優しいな」 「・・・・・」 「でも甘いんだよ・・・・」 「・・・・・うるさい、馬鹿」 町中で出会えたら友だちになれたのではないかと思える子だったいつき。 いや、きっとなれた。 妹みたいに思えたかもしれない。 「いつきちゃん・・・・話を聞いて欲しかっただけなんだよ・・・・話を」 「なら聞いてやればいいじゃねーか」 何を言い出すのかと思った。 言って良いことと悪いことがあるだろうに。 「政宗!」 思いっきり政宗を睨みつける。 「バーカ。よく見ろ」 「え?」 くいっと顎で何かを示した政宗。 素直に示された方を見ると小十郎がいつきの体を揺らしていた。 「おい・・・小娘。大丈夫か?」 「----!?」 いつきの目が開いた。いつきも覗き込んでいる小十郎を見て驚き飛び起きた。 「大丈夫のようだな」 「あれ・・・・おら・・・・あれ?」 「いつきちゃん!」 「うぉ!」 政宗を押しのけてはいつきに抱きしめた。 「良かった。いつきちゃん・・・・よかったよぉ・・・・」 やれやれと髪を掻きながらの隣に政宗もしゃがみこんだ。 「ねえちゃん?・・・・・・おら・・・・・おらたち・・・・・」 政宗に斬られたと思ったいつき。 もそうだと思いこんでいたが、政宗は当身を食らわし気絶させただけのようだ。 戸惑いながらも少しずつ理解し始めてきたいつき。 「おらたち・・・・負けちまっただか?・・・なんで・・・・なんでさあ・・田畑まもるためだけに戦っただけだべ」 いつきはの体に顔を埋める。 「田の神様も守ってくれねえ・・・・みんな死んじまって・・・・おら、おら・・・・」 「甘ったれんじゃねえ!」 政宗の怒声にいつきの体がビクついた。キュッとの着物を掴んだ 「農民でもなぁ。武器を持っちまえば殺されて当然なんだよ。テメエらだって俺らのこと殺るつもりだったんだろうが」 「・・・・・」 「大事なモン守るために腹ぁくくったうえでの決断だったんだろうが。メソメソすんじゃねぇ!」 「だって・・・だって・・・だって誰も助けてくれねーべさ・・・・ いつも戦、戦・・・田は荒れる一方で・・・・・だからおらたちがやるしかねーべ・・・」 政宗の手がスッと伸びいつきの頭を優しく撫でた。 「戦なんてのはこの俺が早く終わらせてやるよ」 いつきの目が大きく開かれ政宗を見つめていた。 も同じように政宗を見てしまう。 「お前らが笑って米作れる国を作ってやる。誰にも踏み荒らされない平和な国だ。 ・・・・だからお前らは武器なんて持つなよ。汚れた手じゃ米なんか作れねえだろ。な!?」 「うそつくでねえっ。おさむらいはおらたちのこと虫けらとでも思ってるべ」 「そんな戯言、誰が言ったが知らねえが。そいつを連れてきな・・・俺がぶっ飛ばしてやる。 待ってな!この独眼竜政宗が天下をとる。戦のない、平和な天下を作ってやるぜ!」 「おらたち・・・おめえさんを信じていいだか?平和な世の中を信じていいだか?」 「政宗様は嘘など言われん。早々に天下をとってくださるさ」 「そうだ。お頭は強いんだぜー」 「ええ。作戦なんか考えずに突っ走りますからねぇ」 「って・・・おい、成実・・・・」 いつきたちを小十郎や成実たちも囲んでいた。 それぞれがいつきを安心させようと、信じて良いと言ってくれている。 「しかし、すげーな。小さいのに一揆の頭領かよ」 「年は?」 「十二・・・・」 「まだ童ではないか・・・名は?」 「い・・・いつき」 悪い侍だと思っていた人たちに囲まれ、しかも質問攻めにあい少々戸惑ういつきだったが素直に答えていた。 「ねえちゃんの・・・言うとおりだったな」 いつきがを振り仰いだ。 「あおいおさむらいは、おらの話をちゃんと聞いてくれた」 「うん」 も大きく頷いた。 「一揆が片づいたのはいいとしてだな・・・・・こいつを攫ったことに関してなんだが」 立ち上がった政宗は拱手し先ほどとは違う顔をしていた。 「ま、政宗」 「ふらふら護衛もつけずに歩いていた間抜けだが、一応俺の大事なモンだ・・・・どうしてやっかな・・・・」 間抜けといわれて声がつまる。 危害は加えていないとはいえを拉致したのは事実だ。 「お、おら・・・・」 「お姫さん攫ったのはおらたちだ!いつきちゃんじゃねえ!」 「みんな・・・」 他の者たちも気絶していただけのようだ。いつきの身を心配して戻ってきた。 「へえ・・・・」 政宗がチラりと彼らを見ると、身を縮めてしまうがいつきの為ならばと引かない様子だ。 はいつきが本当に慕われているのだなと感じ、彼ら共々なんとかしてあげたいと思った。 護衛をつけずに出歩いていたのは自分に落ち度があったわけだし。だから・・・。 「私は攫われてなんかいないよ?」 「?」 「いつきちゃんと遊んでいただけだもん。いつきちゃんと私は友だちだからね」 「ねえちゃん・・・・」 はいつきをギュッと抱きしめる。 「友だちのところに遊びにいったら、なんかどっかのお侍が暴れていた所に遭遇しただけだもん」 どっかのお侍って・・・・。 「あーそうかい。友だちね。いいだろう。お前がそういうならいいさ」 政宗は背を向ける。帰るぞと皆に命じる。 沙汰なしのようなでホッと胸を撫で下ろした。 「ありがとな。ねえちゃん」 いつきが始めて笑顔を見せてくれた。その笑顔に嬉しさよりも残念だが切なさを感じてしまう。 は首を横に振った。 「ううん。私じゃなくて政宗に言って」 政宗の考えていることを少しも理解しなかった。 なぜ戦を急いて行っていたのか、ただの好戦的なものではなかったのだ。 はいつきを放し立ち上がる。 ずっと雪の上に座り込んでいたから着物が湿ってしまい少々気持ち悪い。 「。帰るぞ」 「うん!」 早くしろと言わんばかりに政宗が待っている。 は数歩足を進めるがすぐさまいつきの元へ戻ってくる。 「ねえちゃん?」 「ちゃんと自己紹介していなかったよね。私、・・・あ、一応伊達になるのか」 政宗と祝言を挙げたわけだし。でもまああまり名字は関係ないだろう。 「って呼んでね。いつきちゃん」 「う、うん」 「いつでも遊びに来てね。私も遊びに行くし」 本来ならば気軽に行けるような、会える人ではないだろうに気さくすぎるたちにこそばゆい。 「約束。絶対だよ」 わざわざ指きりまでする。 ニコッと微笑むだったが、遅いと苛つく政宗が腕を引っ張り始めた。 「あーまだいつきちゃんと話があるのにー」 「うるせー寒いんだよ。いい加減にしねーと馬鹿でも風邪をひく」 「政宗が?」 「あんだと?」 犬の喧嘩みたいにきゃんきゃん言い争いをしながら歩いていく政宗と。 「おかしなさむらいとねえちゃんだべ」 ポカンと口を開け見送ってしまういつきだった。 城へ戻り、冷えた体を温めた。 が無事に戻り、改めて喜び騒がれて苦笑を漏らしてしまう。 「姐御ー無事で何よりです。姐御に何かあったらと思うと、俺たち・・・・」 なんて大袈裟に泣かれてしまいそうになり、慌てて大丈夫だと笑って見せた。 「はあ。ようやく落ち着いたー・・・・大変だったなぁ」 ははしたないと注意いされてもいいからと、敷いてある布団の上に座り足を投げ出した。 あとはもうゆっくり寝たい。 「それはこっちの台詞だ」 政宗もある程度の事後処理を済ませて休むばかりなのだろう。夜着姿で室に戻ってきた。 どっかりと布団の上に座り込むと盛大に溜め息を吐いた。 「一揆と誘拐が一緒になるとはな・・・・これからはフラフラ一人で出歩くなよ」 まだ喜多が就いていたからいいようなものの。 今回は農民相手だからまだ良かったが、敵国などだったらどうなっていたかわからない。 「出歩くきっかけ作ったのどこの誰よ」 政宗が運動しないと太るぞと脅しをかけてきたのが始まりだ。 「だから一人で行くなって言ってるんだ・・・・・本当に何もされてねーか?」 「大丈夫だよ、あ」 政宗はを抱き寄せる。 「今回は何もなかったから良かった。お前を攫ったのが一揆を起こした奴らだったから一気に蹴りをつけられたが・・・」 もし騒動を起こした者が別々だったならばと思うと怖い。 「正直に言うぞ。お前が攫われたと知っても俺は一揆鎮圧を優先させた。 きっとこの先もそんな選択肢をしなくちゃならなくなる・・・・あまり俺を不安にさせるような真似するな」 政宗の口から不安という言葉がでて耳を疑いたくなった。 「私のことなんて、良いんだよ、別に。政宗はお殿様だもん。そういうこと一度じゃ済まないと思うし」 「俺が嫌なんだ・・・・」 を強く腕の中に閉じこめる。 「なんか・・・・政宗らしくないよ・・・・」 「なら無茶すんな。お前のいう“俺らしい”ままでいさせてくれるよう離れるな」 本当は一揆なんか小十郎たちに任せてを助けに行きたかった。 そう思うのは情けないことだろうか?弱いのだろうか? わからない。でも弱さでもあるかもしれないが、彼女を想う事に関しては強くなれるとも感じる。 「・・・・」 政宗の呟きには目を閉じる。 包まれ温もりを感じる。 (あったかいなぁ・・・・政宗は) いくら自分のことを好いていてくれても、なぜ?と正直思ってしまう。 政宗は度々言う。「お前でなきゃ嫌だ」と。出会いは印象の悪いものだったのに。 そこまで想われるような人間ではないのに。少々卑屈に感じてしまう。 「でも少し見直した」 「なんだ、急にでもって」 「政宗が戦を起こす、急ぐ理由が。いつきちゃんたち民のことを思ってだって知ったから」 も正直に言うねと顔を上げ政宗と目をあわせた。 「いつきちゃんに、戦を起こす侍は悪い奴だって言われて反論できなかったんだ。 私も政宗が戦を何度も起こす理由がわからなかったから。喜多さんは政宗がそんな方ではない。って強く言ったのに 私は言えなかった。戦をしている時の政宗とか知らないし・・・あんな小さい子が一揆を起こそうなんて思うくらいだから」 ごめん。と小さな声で謝る。 「いいさ。あのガキ・・・・いつきに約束した。あいつらが笑って米作れる国を作る。誰にも踏み荒らされない平和な国を」 政宗はの顎に指をかけ顔をあげさせる。 「早いとこ天下とってやる」 ほんの一瞬、触れるだけの口付け。 「だから俺のそばで見てろ、」 口付けに驚きながらもは素直に頷いていた。 政宗の作る国とはどんなものだろうかと。も見てみたいそう思ったから。 19/12/31再UP |