合縁奇縁



ドリーム小説
【9】



が何者かに攫われた。
どこのどいつだふざけた真似をしやがって。そんな台詞を吐きつける前にもうひとつ。
政宗の耳に入ってきたのは今、政宗が懸念していたことだった。
農民一揆。
政宗が治める地域の民ではないが、前々から見張りなどを立てて注意していた者たちだ。
乱世となれば一番被害を受けるのは力のない農民たちだ。
自分たちはその農民たちが納める年貢がなければ困る。
戦によって土地が荒れれば作物はできない。
その戦を起こすのは刀を持つ武士だ。

「ちっ・・・・・なんだってこんな時に」

上に立つものとして優先するならば一揆だ。
が正妻、一番大切な者でも彼らを捨て置くことなどできない。
政宗は片手で顔を覆うが、すぐさま顔をあげて小十郎に指示を出す。

「小十郎。準備しろ。奴らを静めるぞ」

「はっ」

農民と戦をすることになるのは不本意だ。

「筆頭・・・あ、姐御なんですが」

「そいつは後だ」

「いえ。聞いていただかないと困るんで」

「あん?」

「どうやら姉御を攫った連中が一揆を起こしたようです」

「んだと」

厄介ごとは重なった。
これは吉と出るか凶と出るか。





「・・・・・あ」

冷たい風が頬に触れたと思ったとき、は目を覚ました。

さん!」

「あ・・・・あー喜多さん。えっと・・・・」

「どこか痛む場所はありますか?気分が優れないことは」

は体を起こす。特にこれといった異変は感じていない。
辺りを見渡すと、みずぼらしい一室に数人の男たちがいた。
冷たい風は室の隙間からだったようだ、所々壁に穴が空いていたりする。

「あ、そっか・・・私たち」

喜多と散歩していた所に現れた男たちによって拉致されてしまった。
恐らく男たちが刃を持って向かってくれたならば喜多も躊躇せずに斬りかかったかもしれない。
彼女は政宗に最初に武芸を師事した人で腕前はそこらの者より格段にある。
だが相手がどう見ても農民だった為に手が出せなかった。
その隙をついて、は男たちによって気を失わされてしまったのだ。
喜多は仕方なく降参し彼らに着いていったのだ。

「ごめんなさい、喜多さん。私の所為で」

「いえ。私の方こそ覚悟が足りなかったのです」

農民相手だろうと、守らなくてはならならい人を、相手を見て動揺し守れなかった。

「ねえちゃん。気がついただか」

「え・・・・女の子?」

幼い少女がの前に立った。
この男たちの娘だろうか?だが、よく見ると彼女の後ろに桃色の派手な半被を着た男たちが控えている。

(なにこれ・・・・)

頭には半被と同色のはちまき。派手な半被。背中には『いつき命』と刺繍されている。これではまるで・・・・

(アイドルの親衛隊みたいなんですけど)

リーゼントのお侍がいる世界だから、そういうのもいるのだろう。

「ねえちゃんがあおいおさむらいのおくさんなんだってな」

「青いお侍?・・・・政宗のこと?」

「ねえちゃんには悪いが人質だべ」

少女が見下ろす眼差しは強い。小さい体なのに気迫に負けそうになる。

「人質とはそなたら何を」

喜多がを庇うように少女との間に割ってはいる。

「おさむらいはみんな倒すんだ」

「倒すって・・・」

「おさむらいはおらたちのことをなんとも思ってねぇ。いくさばかりして」

少女の言葉には胸が詰まった。
最近自分も思っていたことだ。が伊達家に世話になってから片手では足りないくらい戦をしている。
それはここ奥州だけではない、各地で某が戦をしたとかよく耳に届く。

「おさむらいはしんようできねえ」

「・・・・・・」

は顔を伏せてしまう。

「だからおらたちはわるいおさむらいを倒すんだ!」

「政宗様はそのような方ではない。民のことを一番に考えておられる方です」

言葉が出ないに変わり喜多が反論する。

「ならなぜいくさをするだ」

「それは」

「いつきちゃん!お侍たちが来ただ!伊達の旗印が見えた」

バッと開けられた戸から体に合わないと見てわかる甲冑をつけた男が入ってきた。
伊達の旗印。緊張が一瞬にして走る。

「よし。おらたちの力みせてやるべ!」

少女、いつきの言葉に威勢良く男たちは出て行く。
やはりその手に似合わない武器を持って。

「ねえちゃんをなかすことになるかもしれねえだが、おらたちはたたかう」

いつきも出ようとするが、はいつきの腕を掴む。

「待って!相手は武士なんだよ。農民相手でもきっと容赦しないよ?戦うなんてやめなよ」

「ねえちゃん・・・」

が泣くと言った意味は政宗を倒すからだろう。
は政宗の正妻だから。旦那を、家族を亡くせばという意味で。
まだ子どもなのに、そんな血塗れたことをいつきはこれからするのだという。
一層腕に力を込めてしまう。

「政宗に。私が頼むから。戦をしないでって。だから・・いつきちゃんが戦うことなんてないよ」

天下取りを狙う男に戦をやめろと自分が言ったぐらいで素直に聞くとは思えない。
だがここで農民たちには戦って欲しくないのだ。

「ねえちゃん。おさむらいはおらたち農民のことを虫けらだと思ってるべ」

「思っていないよ!」

「ねえちゃんは知らないんだ。そんな綺麗なべべ着てお城の中にいて」

「私は」

確かに知らない。外の世界というには大袈裟かもしれない。
乱世だと言われながらも政宗の膝元にいるから血生臭いものなど見たこと感じたこともない。
以前偵察にやってきた武田の忍に奥州はどんなところだと訪ねられた時「穏やかで良い所」などと答えた。
実際そう思えたからだ。
人々は笑っていたし、護衛を着けずに歩いていられるような。
不安などなかったから。

「私は何も知らないだろうけど・・・・・戦をしたらどうなるかぐらいはわかるよ」

武士と農民の力の差は歴然だろう。
いつきみたいな子どもを巻き込むなんて。

「いつきちゃん。怪我で済まないよ。死んじゃうかもしれないよ」

力でねじ伏せられるに決まっている。

「ねえちゃん」

いつきはその場に座った。

「人質なんて。ねえちゃんのこと言ったけど、話を聞いてもらいたかっただけかもしんねえ」

「同じこと、政宗に言ってごらんよ。政宗って強引なところあるけど、話・・・ちゃんと聞いてくれると思うし」

はいつきの両手を握る。

「おさむらいは悪いやつだ。おらたちは悪いおさむらいをすべて倒すと決めたんだ」

「いつきちゃん」

微かに地響きがした。遠くの方から喊声も聞こえる。
いつきはの手を振りきった。

「ごめんな。ねえちゃん」

「いつきちゃん!」

いつきは自分の体よりも大きい槌を握り飛び出していった。

「・・・・・・喜多さん。政宗は悪い侍ですか?」

いつきが出て行った方を見つめながらは訊ねた。

さんには政宗様がそうだと見えますか?政宗様が戦を起こす理由は一つだけではありませんよ」

「私・・・・」

喜多みたいに断言できない自分が情けなかった。
戦をする理由など、単に領土を広める。天下を我がものにというくらいにしか思っていなかった。
喜多のいう一つだけではないと言うのがよくわからなかった。
それでも戦をすればいつきたち農民が苦しんでいるのだから。
項垂れてしまうの背中を喜多は優しく撫でた。





「寒ぃ・・・・出向いてやったのはいいが、この寒さはなんとかならねーもんか」

少々天候が荒れてきた。今にも吹雪いてきそうな。
政宗は陣を張った場所から先を見つめていた。

「政宗様。農民たちは武器を手に取ったようです」

自分たちが来たぐらいでは簡単に降伏はしないらしい。

「ったくよ。北の津軽や南部は何してんだ」

「あそこは長くに渡って戦をしていますから。突然の一揆に対応ができなかったようですよ」

成実が政宗の隣に立つ。

「頭領はまだ子どもだと言いますし」

「何ぃ?ガキが頭領だと!?」

「村人たちからはかなり慕われているようです。親衛隊がいるとか」

そんな軍勢に津軽と南部は負けてしまったのか。
ただ、聞けばその子どもはただの子どもではないとも言われているらしい。

「まさか殿を攫うとは。困りましたね、殿」

「姉上が一緒なので大丈夫だと思いますが」

小十郎は届いた書翰を見つめながら言う。
恐らく世の中で小十郎が一番頭の上がらない自分かもしれない、喜多は。

のこと、今はいい。一揆を片付けるぞ」

「おや、いいのですか?」

真っ先に飛び込んで行くものだと思ったのに。真田幸村相手の時はそんな気迫を醸し出していた。

「喜多と一緒ならば問題ないのだろ?行くぞ!」

政宗の号令でそれぞれが得物を持ち出陣した。
積もった雪の所為で足場が悪く馬が使えないので己の足で駆けるしかなかった。
寒さも手伝い、体が少々鈍い。まだだが時期になれるであろう思わず口角が上がる。

地の利は農民たちにあった。天候も味方し本格的に吹雪いてきた。
どこからともなく投げつられる雪玉に翻弄される。
たかが農民相手だと思っていたのに、周囲を囲まれ始める。

「みなのもん!やっちまえー」

「おらたちの土地に入ってくるでねえ!」

恐れることなく向かってくる農民に仕方なく刀を振り下ろす。
武器を持った相手に好きで斬られるつもりはない。

「それでもやっぱぬるいな」

囲まれていたが、最終的な力の差に囲みが崩れていく。

「いつきちゃん・・・・やっぱりおらたちじゃ・・・・」

倒れた一人の口から出た名前。
それが噂の頭領だろう。

「小十郎、ついて来い。そのガキに会いに行くぞ」

「政宗様。あなたが行かずとも」

「成実、ここは頼むぜ」

「御意」

小十郎が止めるのも聞かずに政宗は前へ進む。
政宗を一人にはできぬと小十郎も追いかける。




「いつきちゃん。逃げ・・・」

いつきの前に蒼い侍が登場する。
侍はみな悪い奴だといつきは思っている。泣くのは弱い自分たち農民。
自分たちを同じ人間だと思ってくれない侍などいらない。
だから侍はすべて倒す。

「小娘!一揆をやめるんだ。武器を捨てろ・・・・処罰なきよう政宗様には俺から」

小十郎も幼い頭領の姿を確認する。政宗と少女がやりあう前にと前に出る。
だがいつきは小十郎の言葉などには耳を貸さない。

「その手にはのらねえだ!」

「悪いことは言わねえ。退くんだ・・・な?」

「おさむらいは信じられねえ!」

「もう少しだけ我慢するんだ。政宗様が魔王を倒す・・・もう少しだ」

いつきは小十郎に向けて武器、大槌を振り下ろしてきた。
ぶんぶんと振り回すそれを避けながら小十郎は直も説得を続ける。

「その手は田畑を耕すためのもんだろうが!血に染めてどうするつもりだ!」

聞かぬつもりではあったがいつきは一瞬だけ躊躇した。
振り下ろした大槌をグッと強く握り締める。
小十郎の言うことはわかる。農民の手は人を斬るためではない、田畑を耕すものだ。
だが、そうさせてしまうのは侍の所為だと吐き捨てる。歯を食いしばり、力を込める。
いつきの気迫に小十郎が引いてしまう。

「農民がここまで追い詰められていたとは・・・」

後ろで黙って見ている政宗を視界に捉える。

「政宗様、あなたがこれほどまでに急ぐ理由、この小十郎、ようやく理解しました!」

小十郎も少々政宗が急いているのではと思っていた。
ただ勢いだけでは勝てる戦も勝てぬではないかと。

「小十郎!退け。俺が相手をする」

「政宗様!」

「お前は俺に用があるんだろ?」

政宗は刀を構える。

「そうだ。悪いおさむらいはみんな倒すだよ!」

「気に食わないから倒す、か・・・HA!その考え魔王のダンナと変わらないな」

刀を一振りし、政宗はいつきに斬りかかって行った。



さん。政宗様です!」

外の様子を伺っていた喜多は政宗や弟小十郎の姿を見つけ逸る。

「あの娘と戦っているようです」

いつきと?は外へと飛び出す。
吹き付ける雪にすぐには前へと進めない。

「いつきちゃん」

目を凝らしながら政宗といつきの姿を捉えるが、他にも倒れている人々の姿までもが目に入る。

「姉上!」

小十郎が家から出てきたと喜多の元へと駆けつける。

「小十郎」

「ご無事ですか」

「ええ。私もさんも。でもここぞという時にお守りできずに政宗様に申し訳なく・・・・」

守り役として失態だと喜多は落胆する。

「ご無事ならなんとかなります。それに今回は悪いことが重なりすぎた」

「小十郎・・・・」

殿。あなたは「小十郎さん、政宗を止めてくださいよ!いつきちゃんが」

小十郎に詰め寄る
政宗よりも少女の方を心配していることに苦笑してしまう。

「大丈夫だ。政宗様なら」

「政宗の心配なんかしていません!」

それもどうかと思うのだが。
小十郎が大丈夫だと言った意味は、政宗ならばいつきを無碍にしないだろうと言いたかったのだが。



「さむらいなんておらたちに米作らせといて。そんでもっていくさでメチャクチャにしてしまうべ!
自分たちじゃ稲も刈れねえくせに・・・・おめえさんたち何様のつもりだべ!」

「そうか・・・その通りだ。だがな、悪ぃが終わらせてもらうぜ」

たった一つしか開かれていない眼、突きつけられた刀にいつきはぞくりと身震いする。
だが自分たちだって負けられないのだと手に力を込める。
政宗に向けて懇親の一撃を振り下ろす。

「負けらんねえべ!」

政宗は大槌を受け止めずサッと避け、いつきの背中に刀を振り下ろした。

「な、なして・・・おら・・・たち」

いつきの小さな体は雪へと沈んだ。

「いつきちゃん!」

は倒れたいつきを見て血の気が引くも考えるよりも体が動き駆け出した。

「ん?・・・

駆けてくるに小十郎と共にいる喜多の姿を見て小さく笑みを零す政宗。

「なんだ、怖い思いでもしたか」

そのまま胸に飛び込んできたならばしっかり抱きとめてやろう。
そんな余裕が政宗に生まれるのだが。

「馬鹿!」

ガツんと鈍い痛みと音がした。

、て、てめぇ」

見ていた小十郎たちは目を見張った。は政宗に駆け寄ったかと思うと拳を振り上げ思いっきり殴ったのだ。
グーパンチだ。グーパンチ。

「いつきちゃん・・・・いつきちゃんを斬ったの!あんた、皆を斬ったの!?自分よりも弱い人を」

「・・・・ああ。斬った。だがそれのどこが悪い。向かってきたのは奴らだ。一揆を起こしたのはこいつらだ」

「話ぐらい聞いてあげてもいいじゃない」

一揆を起こしたのはいつきたちだ。
でも、ほんの少しだけどいつきと話して思ったのは。力でねじ伏せなくても言葉で通じるのでは?と。
いつきはに話を聞いてもらいたかったから、無理矢理つれて来たようなことを言った。
現に連れてこられたけど、嫌がらせや何かを要求されたわけでもないのだ。

「いつきちゃんなら・・・話せば・・・・」

悔しさがの胸を締め付けていた。
政宗の顔を見れずにじわりと視界が涙でぼやけ始めていた。










19/12/31再UP