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合縁奇縁
【8】 「おい、」 「なに?」 ひょいっとの膝の上に頭を乗せる政宗。 疲れているのだろうか?何も言わずにすぐに目を閉じてしまう。 の方は身動きが取れなくなって眉を顰めてしまうがすぐさま戻る。 まあしょうがないかと言う諦めの方が強いのだろう。 見事な紅葉を見せていた秋も去り本格的に寒くなってきた。 雪がちらちらと降り始め庭は白に染まっていく。 最初は雪の存在に心躍るであったが寒さに耐え切れなくなって室内でじっとしていることが多かった。 雪合戦をやろうなんて言っていたのに寒いと縮こまるに政宗はほれ見たことかと大いに笑った。 だが、ぬくもりが心地良いのか、に抱きついても文句を言われることがないので政宗には冬の寒さに感謝している。 「・・・・・あ」 「なに?どうかした?」 政宗の目が開く。 「痒ぃ。耳が」 「ふーん」 「ふーんじゃねーよ。耳掃除してくれよ」 「なんで私が?」 膝を貸しているだけありがたく思えはそ知らぬふりをする。 「は俺の嫁さんだろ?」 「形だけはね。つーか嫁さんだから耳掃除しろっておかしくない?そういうのは自分でやれ」 形だけ。あっさり口にしてくれる。 そう言われると苦笑しかでない。 これでも前よりはいい感じではあると思うから余計なことは言わない。 「減るもんじゃねーんだ。やれ」 「偉そうに言うなぁ・・・・じゃあ耳掻き持ってきなさいよ」 「が持って来い」 「じゃあ、頭どけて」 「嫌だ。って」 ぺちっと額を叩かれた。 「あんたが動かないと私は何にもできないっての。耳掃除して欲しかったら持ってきなさい。 じゃないとやってあげない。場所はわかる?そこの引き出し右側に入ってるからね」 「なんで俺が・・・」 それでも素直に耳掻きを取りに立ち上がる政宗。 引き出しから言われたとおりに耳掻きと懐紙を持ってくる。 よくできましたとにニッコリ笑われる。 こんな姿小十郎や成実たちに見せたくない。今までの威厳とか何かがすっ飛ぶ気がする。 「政宗・・・・一つ言っていい?」 「おう」 「私ね、人様の耳掃除なんてしたことないんだ」 政宗は思わず頬が緩む。 耳掃除は気持ちいいし、からの初めてだと言う言葉が嬉しくて。 今まで他の誰もしてもらわず、自分が初めてだという優越感が出てくる。 「へぇ、それは嬉しいね」 だがの反応は違った。 「だからさ、耳の中傷つけたらごめん。鼓膜は破ったりしないと思うけど」 「お、おまっ!」 さらりと恐ろしいことを言ってくれる。 「あ、動いたら余計に危ないけど」 「・・・・・」 色気も何もあったものじゃない。 すごい心地良いものだと思っていたのに、急に背中に寒気を感じてしまう。 「ん〜こんなものかな。はい、右側終わり、反対側やる?どうする?」 「やる」 怖いけど、今の所痛いことはないし。 耳掻き一つで何を恐れることがある。 だがまあ、今のこの時間は悪くない。 ゆったりした気分で雪が降り始めているとはいえ今日は陽が出ていて心地良さが倍となっている。 傷つけたらごめん。などといいながらも丁寧に優しく耳掃除をしてくれるので段々と眠気が襲ってくる。 「あのさ、政宗」 「なんだ?」 「もう一つ言っていい?」 「あん?なんだ?」 「・・・・・うん、最近さ・・・・・」 「なんだ。はっきり言え」 「あ、うん」 珍しく歯切れの悪い彼女の言葉。 もどかしいのは好きじゃない、悪いことだろうがすっぱり言ってくれたほうが幾分もいい。 「あのね。最近・・・・戦多くない?」 「・・・・・それがどうした」 政宗の忙しい理由。 周囲の国々との戦を行っていること。 雪が完全に降り積もる前にと少々焦っているようにも見える。 この所、成実の顔を見る事がないのはこの所為だ。 「どうしたって・・・・なんか・・・・・」 「俺が戦をする理由を知っているだろう?」 「政宗が天下を取る為。でしょ?」 「そうだ」 「あーでもさ・・・・なんていうか・・・・最近酷くない?そんなに急ぐ必要がわからないんだけど」 「わからねーか?」 「幸村様、武田の動きを気にしてとか?」 秋も終わるころ武田が今川と戦い勝った。 着実に勢力を広げているからだろうか?だが、その周囲には油断のならない国はまだあるし。 「別に虎のおっさんなんか気にしちゃいねーよ。いずれ俺がぶっ倒すんだからな」 「・・・・・倒せるのかな」 「おいおい」 のいた世界での武田信玄は最強の騎馬隊を要している。 それはもう有名な話。 ほぼ勝ち戦で、織田信長なども一目置き同盟を組んできたくらいだ。 その武田が後に織田に滅ぼされたのは信玄公が亡くなってからの話。 「それにぃ幸村様いるしー」 「なんだ、おめーは俺を怒らせたいのか?」 相変わらず幸村びいきなのが気に食わない。 は小さく笑い、ふぅっと軽く政宗の耳に息を吹きかけた。 「はい、終わり」 ポンと肩を叩かれるが政宗が動こうとはしない。 「もう終わったからどいてよー」 「疲れた。もう少しいいじゃねーか」 「しょうがないなー」 憎まれ口は相変わらずだが、刺々しさは薄れている。 いつか、本当に自分だけを見てくれないものかと改めて思う。 まだまだ憧れとはいえ、真田幸村の存在は消えないようだし。 「。俺も一つ言っていいか?」 「いいかって。嫌だって言っても言うくせに。なに?」 自分はどんな我がままだと思われているのだろうか? でもその通りなので構わず口にする。 「毎日寒いからと縮こまっているようじゃ春になる頃には太るぞ?」 「な、何よ!それ!人が気にしていることを」 あっさりと膨れる頬に見ていて厭きない。 「まあ俺としてはもう少しこの辺の肉がついても良いと思うけどな」 ニヤッと口角を上げて笑ったかと思うとの尻を撫でた。 「ひゃあ!この、エロ政宗!」 「いってぇ!」 思いっきりに頬を抓られた。 *** 「確かに運動不足ではあると思うんですよ」 「だからって護衛も着けずに外へお出になられては危険でござます」 喜多と二人で館を抜け出していた。 正確には一人で抜け出したを慌てて喜多が追いかけてきたのだ。 「大丈夫ですって。私を狙う人なんかいませんって」 「さんは殿のご正室なのですよ?ご自重なさいませ」 「大丈夫だと思いますけど・・・・別に」 政宗の収める比較的安全区域だと思っているし。 町の人々とも顔見知りだし。 大丈夫の一点張りのに喜多は酷く不安になる。 何を根拠にというのが喜多の思いだ。 「こうして喜多さんと二人で普通に歩いていれば問題ないですって」 きっと仲良し姉妹にでも見えますよーなどとは笑っている。 「体を動かしたいのであれば館の方でいくらでもお教えいたしますから」 昔から義姫や喜多など武芸に秀でている女性はいる。 小さな道場みたいな場所がちゃんとあるのだ。 「喜多さん心配性だな〜」 「心配にもなります」 「大体殿様自ら脇差も持たずに出歩くんですから大丈夫ですって」 それだけ安全だと思っている。 喜多もそれは以前から懸念していたことだ。 だが政宗の場合、すぐそばに小十郎や成実が付いているから心配事は少ない。 「仕方ありませんね」 あまり小うるさく言ってもは帰らないだろうと思い喜多は普通にについて歩くことにした。 本人の気の済むままにさせてから館に戻ってもらおうと。 喜多自身がそこらの男に引けを取ることはないと自負している。 何せ、幼少の政宗に剣術の指導をしていたのも喜多だ。 「ずっと館の中はやっぱり厭きちゃいますし」 「そんなに殿の一言がお気になりますか?」 「女性に対して失礼ですよね、あのバカ殿は。太らないように適度に運動しないと!」 「そんなに意固地にならずとも・・・・」 笑ってはいけないと思いつつも喜多は二人のやり取りが微笑ましいと思って笑んでしまう。 「喜多さーん。喜多さんだって、太るぞ!なんて言われたら嫌じゃないですか?」 「え。そうでしょうが・・・・」 毎日規則正しい生活をしていればそのようなことは気にならないというのが喜多の本音だ。 「喜多さん。もし小十郎さんに同じこと言われたらどうします?」 「小十郎はそのようなことを言わないと思いますが」 「・・・・確かに。小十郎さん大人ですもんね。成実さんも言わないとは思うから・・・・やっぱバカ殿だけだ」 「さん・・・」 何度もバカ殿と連呼されるとなんとも言えない気持ちになる。 「でも。出歩きになられるのもしばらくは無理だと思いますよ?」 「えー。始めたばっかりなのに?」 「もっと酷く雪が降りますから。積もると歩くのも困難になりますし」 「春までお預けってことですか」 「はい。大人しくしていてください」 実際、普通に暮らしている民ならば問題はないだろう。 雪が降ろうが生活の為にじっとしていることはない。 だが、彼女は違う。 本人がどう思おうがは政宗の正室なのだ。 本来はフラフラ出歩いてはならないのだ。 「さあ。そろそろ館に戻りましょう。殿が待ちくたびれているかもしれません」 そうなったら小言をもらいますよ?喜多は言う。 確かにそんなに遠くの行くのはまずいだろうと思う。 雪のある生活に馴染みがないだから。 天候の変化など詳しくないし。 空は厚い雲で覆われている。 わかりましたと返事をし館へ戻ろうとするが、たちはある一段に突如囲まれてしまった。 「そなたら、何用か!」 喜多はの前に立ち懐剣を取り出した。 *** 「おい。小十郎。の奴いねーぞ。どこに行った?」 東の館のどこにも姿のないに政宗は小十郎に尋ねた。 「何でもお一人で館を出られたようで。慌てて姉上が追いかけて行きましたが」 「はあ?何やってんだ、あいつは・・・・」 喜多が一緒ならば問題ないかと思いつつも。何故に一言言っていないのだと思う。 「政宗様が不要な一言を言ったとか言わないとか・・・・」 「さあな。記憶にねーな」 いないならばしょうがないと、横になる政宗。 「小十郎。最上の動きはどうだ?」 「依然変わりはないようですが・・・・北側で不穏な動きが。引き続き調査はしております」 「そっか・・・・」 先日に言われた。 最近戦ばかりしていないか?と。 天下を取る為には必要でしょうがないことだと答えたのだが。 政宗の中ではそうしなければならない思いがある。 戦が長引けば。 早く天下を取らねば・・・・。 「お頭ー!」 少し意識が沈みかけた時、急き込む呼び声がかかった。 書状を握り締め家臣たちが数人駆け込んできた。 「どうした。騒がしいぞ」 小十郎が一睨みするが彼は臆することなく書状を小十郎に突きつけた。 「あ、姐御が!姐御が攫われました!」 「んだとっ!」 更にもう一声が。 「それと北で一揆が起こりました!」 面倒ごとがいっぺんに起きてしまった・・・・。 19/12/31再UP |