合縁奇縁



ドリーム小説
【7】



政宗との祝言は簡単に終わり、父輝宗や家臣たちと一緒に政宗は宴を開いているようで賑やかな声が聞こえる。
の住まいは以前の客室用だった室から東の館へと移された。
侍女たちによって寝所の準備がされ案内された時は思わず膝を着いてしまった。

「き、喜多さん」

「はい」

「ふ、布団が一組しかないのですが・・・・」

「それは当然でございましょう」

「お、お願いですからもう一組ください。一緒になんか寝れません、つーか嫌です」

お願いされて喜多は困惑する。
祝言をあげて、夫婦になったのだから別に何も問題はないのでは?と。

「ダメですか?」

「わ、わたくしに言われても・・・・その」

「じゃあ・・・別の室行きます。ここで寝るの嫌です」

「あ、さん」

室を出て行こうとするので、喜多は仕方なくもう一組の布団を用意した。
政宗が使用する布団から大分離れて。

「ありがとうございます、喜多さん。わがまま言ってごめんなさい」

「わたくしもそこそこ事情は知っていますので」

まあ色々大変でしょうが頑張ってくださいと。
喜多たちも退出し、一人になったはさっさと布団に入り込んだ。
一組用意してもらったわけだが、あの騒ぎの様子じゃ一晩中騒いでいそうなので政宗は戻ってこないだろうと。
待っていてもしょうがないだろうからと寝てしまおう。




ー」

賑やかだった宴も終わり、政宗が寝所にやってきた。
今夜は所謂初夜という奴だが、政宗が襖を開ければ、すでに室の灯りは消されては寝ていた。

「おいおい・・・そりゃねーだろうが」

更に布団が余分に敷かれている。
政宗は空いている布団には目もくれずに寝ているのそばに座り込んだ。
自分に背を向けて寝ているだが、普段なら一方的に腹を立てて無理矢理起こしたかもしれない。
だが、何度かその頭を優しく撫でる。

「しょうがねーか。しばらく勘弁してやる」

強引過ぎる手法に小十郎だけでなく成実にもあれこれ煩く言われた。
両側から小言をもらうとそれは煩い。
一応、今日は祝言だったこともあり小言はなかったが。

「だが、これくらいは勘弁してくれや」

政宗はの布団に入り寝息を立て始めた。




「・・・・・な、なんか・・・・ってうぉ!」

寝返りをうとうとしたらできなかった。
体が固定されている。なんだと思うといつの間にか政宗が隣で寝ている。
の体はがっちり政宗の腕で抱きしめられている。

「こ、こんな風景どっかの小説漫画で読んだ!読んだけど!」

その腕を解こうともがくがびくともしない。

「な、なんでアンタ!ここで寝てるのよ!」

「うるせーな」

まだ眠いのだろう、ギュっと政宗の胸に押し付けられる。
規則正しい寝息が聞こえる。
チラリと政宗の顔をのぞき見る。
流石に寝ている間は眼帯をしてない。

「初めて見たなあ・・・・」

独眼竜になった言われは有名だ。
幼少の頃は片目である姿を嫌っていたといわれる。
母、お東の方との確執もこれが原因のひとつだと言われているが。

「でも、そんなに怖い人とか、悪い人には見えなかったなぁ・・・・」

祝言を挙げるためにすでに隠居していた、政宗の父輝宗と母お東の方と初対面した。
輝宗は貫禄があり優しげな目をしていた。
お東の方、本来の名は義姫という彼女も綺麗な人でドラマや小説に出てくるような悪女的なイメージはなかった。
本来の歴史とは違う場所だからだろうか?
だが、政宗が義姫と目を合わせ会話するというのはあまり見られなかった。
もっぱら輝宗とばかり話をしていた。

「何がだ?」

熟睡していたと思った政宗だがそう口を開いた。

「あ・・・・・えっと、お義母さんのこと。お東の方様、想像していたのと違うなって」

「なんだそりゃ。別に悪いことなんかしちゃいねーぞ?あの人は」

「自分のお母さん捕まえてあの人はないでしょーが」

「そうか・・・・」

至近距離での会話が妙に照れ臭い。

「政宗酒臭い」

「しょうがねーだろ。祝いの席だ。沢山飲んだからな」

政宗は押さえ込むかのように腕に力を込める。

「苦しいんだってば、酒臭いし!」

「俺は嬉しいんだ。と夫婦になれたからな」

「私は親に顔向けできなくて情けないけどね」

今頃自分がいた世界ではどんな扱いになっているかと思うと怖い。
行方不明になったとしても、ここに来るきっかけは交通事故。
もしかしたら事故死になっているのだろうか?
あーテレビなどでやっている公開捜査などになっていなきゃいいけど。
でも考えても戻れる気配は何もないのでもう諦めた。
諦めるのが早すぎるとも自嘲気味であるが。親がこの状況知ったら泣くか怒るか呆れるか。
喜ぶ・・・・のか?喜ばれたらそれはそれで微妙なんだが。

「お前の親か。どんな人だ?」

「興味あんの?私の両親に。会えるわけでもないのに」

「ある。お前を産んで育てた人だ」

「興味もたれるような素晴らしい人とかじゃないよ、どこにでもいるような普通の人だよ」

実際自分の家庭がそうだ。
どこにでもいそうな家族。というと多少ズレはあるだろう。
その家族にしかないものだってあるだろうし。
だが、にしてみれば自分は特別でもなんでもない普通の子だと言う認識があるから。

「普通ってなんだ?」

「さあ?普通だから説明のしようがないかな・・・・でも仲はいいと思う」

「・・・そうか」

「お土産、渡せなかったなあ・・・・・・」

「?」

旅行先で家族に買ったお土産。
ほぼ自分の趣味優先の旅行だったが、それなりに家族に喜んでもらえるようなお土産を買ったのだ。

?」

珍しくの方が政宗の胸に顔を押し付けた。
顔を見せたくないのがぎゅうっと手を握って縮こまっている。
小さくすすり泣く声が聞こえる。

「・・・・・好きなだけ泣け」

今までの毎日が慌しくて、忙しなくて、賑やかで。
家族のことを忘れたわけではなかったが、急にしんみりしてしまったら涙が出てきた。
強引で自分勝手な殿様との一方的な理由で祝言をあげられてしまって。
沢山文句があるのに、すすり泣くに理由など問わず泣かせてくれた。

「政宗のバーカ」

「なんだよ、急に」

「何考えているのかわかんないつーの」

急に優しくしてくれたことがいまだになれない。
だから照れ隠しで憎まれ口を叩いてしまう。
しんみりと泣いてしまったが、大丈夫。
本当はとっくに家族を思い泣くようなことはなくなっていたから。
ここにいる人たちのおかげで、一人で落ち込み泣くようなことはなかったから。
見た目は怖くても中身が温かい人たちばかりだったから。
ただ。
今日は祝言って大事な日だったから、少しだけしんみりしただけだ。
政宗は抱いていたの背中を何度か優しく叩いた。
親が子どもをあやすように。

「考えていることをそう簡単に悟らす真似するわけねーだろ?」

「ああ、一応殿様だもんね」

「一応は余計だ」

くつくつと政宗は笑う。
だがすぐに声のトーンを少しだけ落とした。

「なあ、。前にも言った。いつか俺だけを見てくれ」

従兄弟の成実と親しげに話している姿を見ると相手が心を許したものとはいえムカムカした。
可愛がり信頼している部下たちと楽しげに外出しようとする姿を見ると苛立った。
真田幸村に自分とは正反対の素直な態度をとると胸が痛くなった。
出会って長い月日も経っていないのに。
お互い知らない事のほうが多いのに目が離せなくて。
従順な可愛げのある女なら五万といる。
でもがいいんだ。
彼女じゃなければ嫌なのだ自分は。
そこまでに惚れている。

「いつか気が向いたらね」

相変わらず可愛げのない返事だ。
だがそれがいいのかもしれない。

「可愛くねーな、本当。だが覚悟しろ、俺はこうと決めたら簡単には諦めねーぞ」





所変わって武田信玄の治める甲斐の国。

「旦那、真田の旦那。独眼竜の旦那、あの子と祝言あげたそうっすよ」

縁側で団子を食っていた真田幸村に佐助がニヤニヤと笑いながら姿を現した。

「あの子?」

「嫌ですよー忘れちゃいました?旦那の腕に抱きついてきた子ですよ」

「・・・・あ」

腕とは言え女子に抱きつかれたことで幸村の顔が紅潮していた。

「思い出しましたー?俺、見てきましたけど綺麗でしたよ、ちゃん」

偵察も兼ねて今度は一人で奥州に潜入した佐助。
そこでちょうど政宗が祝言を挙げると国中で賑わいを見せていた。
相手は政宗の冷静さを失わせてしまうことができた少女だった。
たった一度。しかもほんの少しの時間しか共にいなかったのだが中々好感の持てる子だった。
幸村に憧れているっぽい感じはしたが。
でも政宗が黙っていないのがよーくわかる。
結果的には彼女は政宗に嫁いでしまったのでそれ以上のことはどうでもいいのだが。

「なんかお祝いの品でも贈りますー?」

先の出来事を思い出してしまったのか頭から湯気を出しているかのように顔が赤い幸村。

「べ、別にそれがしたちがそのようなことせずとも。て、敵同士だからな」

「独眼竜の旦那にはそうでもちゃんには贈りたいとか思いません?」

「別に思わん」

「そうですかー?折角旦那のことを慕ってくれているような子だったのにー?」

「う、うううううるさいぞ、佐助!そうは申しても殿はすでに独眼竜殿に嫁がれたのだろう」

自分には関係ないとそっぽを向く幸村。

「じゃあ旦那が奪っちゃえばいいじゃないですか。命令してくれればちゃん連れてきますよ?」

連れてくるというか攫うが正しいだろう。

「ば、馬鹿なこと申すな!余計な真似はするなよ、佐助」

「はいはい、わかりましたー」

伊達成実が言っていた。
を甲斐に連れて行けば、政宗が取り返しに兵を出す可能性が高いと。
成実の冗談かどうかはあのニコニコ笑顔では本当かどうか読み取れないが
事実。もしそんなことをしたら政宗がなんらかの行動をとるのは簡単に予想が付く。
どうも彼はにベタ惚れのようだったし。

(もしかしたら、そういう任務与えられるかもしれないけどねー)

そうなったら、甲斐へ向けて兵を出す伊達軍には勝手に自滅してもらおうかなと佐助はニヤッと笑んだ。
こちらから兵を出すことはなく、進軍途中に各国相手に無駄な戦でもしてくれればいいだろうと。

「どうした?佐助?」

「いや、なんでもないですよ」

幸村にはこう言う作戦は合わないというか嫌がるだろう。
だから自分の胸に秘めてしばらくは黙っておこう。
この先の展開、情勢次第だ。




「はあ。段々寒くなってきた。空気が冷たい」

手に息を吹きかける
縁側で赤く色付いている景色を楽しみながら喜多と二人でお茶をしていた。

「私雪の降る生活とは無縁なんだよね、今から心配」

「あら。それでは風邪などひかぬよう気をつけねばなりませんね」

喜多はなるべく早い段階から冬仕度をしてしまおうと言った。

「どのくらい雪は降りますか?」

「どのくらいと言われましても・・・」

「辺り一面銀世界って奴ですか?」

「そうですね。道を歩くのが困難なくらいですよ」

「うわ〜想像つかないよー」

でもの顔は楽しそうだ。

「私、雪が降ったら皆と雪合戦したいんですよね」

「雪合戦、ですか?」

「そうです。二手に分かれて雪玉をぶつける遊びですよ。とりあえず、私はそれで政宗をボコボコにしたいんです」

笑顔で当主をボコボコニすると宣言したに喜多は思わず目をそむけてしまう。
聞いてはいけないことを聞いた気がする。
祝言を挙げたと言っても二人の仲は周囲が見て変わったとわかるようなことはなかった。
くだらないと思える言い合いは相変わらずするし、一緒にいない日の方が多い。
閨を共にしているようだが布団も別々。
世継ぎ誕生の気配など見せやしない。
まったくもって夫婦に見えない。
ああ、でも。少しだけ、政宗と長き付き合いのある家臣だけには見られる光景はあった。

「あ〜?誰をボコボコにするって?」

「政宗」

「いい度胸だな、あーん?」

また言い争いになるのだろうか?そう思うのだが。
政宗もも睨みあうことなく笑っている。

「でも体力的に私は敵わないから、そこに小十郎さんと成実さんをつけてもらうんだ」

「俺の両腕を持っていくのかよ」

「ハンデだよ、ハンデ」

「そうでもしなきゃ勝てないって?」

「そう。楽しいよ、きっと。皆も普段できないことをできるから喜んでくれるかもしれないし」

雪玉を上司にぶつけるという行為。
恐れ多く普通ならできるはずもないが、ただの雪遊びだから。
でも素直にそれに従う者たちかは微妙だ。

「冬になってそんな余裕があればいいだろうけどな。よっと」

政宗はごく自然に寝転がりの膝へと頭を乗せる。

「疲れた。少し寝かせろ」

「高いよ、私の膝枕」

「おう、いくらでも払ってやらぁ。体でな」

「・・・・遠慮します」

無理に政宗をどかそうともせずには暢気に茶を啜る。
ここは正室が住まう館。
一般の家臣たちには見る事の覘くことのできない地帯。
なんだかんだで仲良くやっているとは思わないのだろう。
小十郎も喜多も他所で二人の仲について話すこともないのだから。

・・・」

「んー?」

「武田が今川と戦を始めた」

「ふーん。じゃあ武田が勝つね」

「どうしてだ?」

「信玄公は戦国最強だと思うし。幸村様がいらっしゃるし」

「やっぱそう言うのかよ。黙ってりゃ良かったぜ」

政宗は面白くないと舌打ちする。

「武田よりも怖いのは織田だろう。あと・・・・同じように不気味なのが豊臣だな」

「まずは奥州のちゃんとした平定頑張ってね。私未亡人になって頼れるの幸村様しかいないし」

嫌なことをあっさり言ってくれる。
それが耳に入る喜多にはどう反応してよいか困る。が、ここは二人の会話。
知らぬ振りをするのが一番だろう。

「誰が真田幸村なんかにやるかよ。もっとも真田の方がお前なんかいらねーって断るだろうな」

「あー酷い。幸村様そんな人じゃないもん」

「わかんねーぞ?ふっ。でもそんな女好んで置くのは俺ぐらいだからな」

「あーやっかいなのに捕まっちゃったなぁ」

「諦めろ」

お前見たいなじゃじゃ馬は俺相手でちょうどいいんだ。









19/12/31再UP