合縁奇縁




ドリーム小説
【6】



小十郎は刀を政宗へと放った。
政宗は受け取り刀を抜き、鞘を放る。
政宗、幸村それぞれから素人からみても殺気が入り混じった気迫を感じた。
ここで斬り合いなど始めたらどちらも無事ではすまないだろう。
は小さく拳を握り真田幸村を見つめた。

真田幸村も政宗との勝負を望むようで立ち上がろうとする。
だが。

「うぉ!そ、そなた!何をする!」

が幸村の腕に縋りついた。

「ダメ!こんなところで斬り合いなんて!」

!離れろ」

殿〜そんなことされたら余計に政宗様の機嫌が悪くなりますよー」

後方に控えている成実は火に油を注ぐような物言いをする。

「ここで斬り合いなんかしたらお店に迷惑がかかるでしょ!皆だって不安そうじゃない!」

少しずつだが周りを民衆が囲み始めている。
ここで斬り合いが行われるのかとハラハラしながら、不安げに見つめている。

「うるせー!いいからどきやがれ!つーか離れろ!そいつから!」

成実の言葉の所為なのか、の行動の所為なのか政宗の苛立ちが見てわかる。
この場合後者の理由が大きいだろう。

「離れないからね!政宗がやめるって言わなきゃ離れないからね!」

ぎゅうっと幸村の腕に力を込める。

「そ、そなたは。は、ハレンチだぞ!は、なれてくれ」

顔が真っ赤に染まっていく幸村。

「嫌です。幸村様も離したらあの阿呆と斬りあうんでしょ?ダメです」

「そ、それがしは。さ、佐助ぇなんとかしてくれ」

「えー俺がですかーなんか面白そうなんで嫌かな・・・」

燃え上がり立ち上り始めていた幸村の気迫が萎れていく。
政宗とは逆で女性に対して奥手のようだ。
佐助は一人だけ縁台に腰掛けたまま暢気に茶を啜っている。
だが、同じように縁台に腰掛けた者がいた。

「面白いですよねぇ。私もそう思います」

「あ、やっぱ?」

「成実・・・てめー」

主からの痛いくらいの殺気。
だが、成実は気も止めずに佐助の隣で同じように茶を飲み始めた。

「ご用件はなんですか?わざわざ伊達の足元にまで甲斐から来られて」

「ん〜単純に各地を見て回っているだけ。俺、これでも忍だし〜」

「忍んでいませんよね、全く」

「旦那が一緒だからねー。俺一人ならさっさと帰ったよ」

「真田殿も政宗様と勝負をしにですか?実に間の悪い時にいらっしゃいましたねー」

「和むな!そこっ!」

一応相手の懐を探り合っているのかもしれないが、まったくそう見えない。
だが間の悪いのは事実だ。
真田幸村に憧れている
そのに惚れている政宗。
ただでさえこの二人の間柄は微妙なのに。周囲は少しずつ距離を縮めていかせようなんて思っている。
それが真田の出現。しかもが今引っ付いている。
政宗の機嫌は悪くなる一方だ。
成実は珍しく溜め息をついた。

!いい加減に離れろ!邪魔をするな!」

「いや。政宗が刀収めてくれなきゃ離れないよ」

「んだと、てめー」

「じゃあいいよ、別に。私このまま甲斐に行くから」

「な!」

「幸村様。私を甲斐に連れて行ってくれませんか?」

「か、甲斐にだと。そ、それがしは・・・・あの」

自分には見せない上目遣いに優しい声。
しどろもどろの幸村の態度に苛つく。
何気に幸村様、様付けだし。

ちゃんだっけ?甲斐に行きたいの?俺は別にいいよ。連れていってあげるよ。お館様も喜ぶだろうし」

佐助の言葉にの目が輝く。

「お館様って信玄公ですよね!私、武田信玄も好きなんですー会いたいかも」

「おやおや、殿はしょうがありませんねぇ」

成実は苦笑するが、瞬時に己の腰に手をあてる。
佐助は隣からの殺気に目を細める。

「なに、急に」

殿を連れて行かれては、政宗様があとで何をするかわかりませんよ?」

「へぇ。取り戻しに甲斐に攻め込むって?できるわけ、そんなこと」

北条、上杉などがいるのに。

「やりそうなので。素直にお帰り願いませんか?」

「やれやれだねぇ。独眼竜の旦那、刀を収めてくれないかい?うちの旦那、あれじゃあ勝負にならないし」

湯気でも出ていそうな顔色。ブツブツ何かを呟いていて戦場にいる彼とは大違いだ。
政宗は舌打ちをする。
確かにもう勝負にはならない気がする。
自分自身も真剣というよりただの八つ当たりのようなところがあるし。

。勝負はやめる。だからそいつから離れろ」

「・・・・・本当に?」

「ああ」

「私が離れたあと、幸村様に斬りかかったら許さないからね」

自分はどれだけ彼女に信用されていないのだ。

「小十郎!」

刀は小十郎のもの。彼はすでに鞘をも拾い上げている。
政宗は鞘を取り、刀を納め小十郎に渡した。

「これでいいだろ」

「うん。じゃあいいよ」

は腕を離す。同時に強く自分の腕を政宗に引っ張られた。

「うわっ」

「このままじゃ俺の気が治まらねぇ」

そのままの腰に手を回して引き寄せ口づけた。

「な・・・・」

これで二度目だ。
二度目なのだが、前の時とは比べものにならないくらい乱暴で激しすぎる。
騒ぎを聞き不安げに見ていた街の人たち、通りかかった人たちは足を止めてしまう。
目の前での出来事に幸村は呆然として、成実は微笑み、佐助は口笛を吹き、小十郎は額を抑え苦虫を潰したような顔をしている。
長い長い口づけ。
最初は乱暴だったのが段々甘いものへと変わっていく。
ここが道のど真ん中だというのを忘れていないだろうか?

「なんか違う意味で天下に名を広めそうですね、政宗様は」

「成実殿・・・それは言わないでくれ」

「あ〜あ。うちの旦那にゃ目に毒だね」

ようやく解放された時、もうの思考は真っ白で一人で立ってはいられなかった。
政宗はの肩を抱き、幸村に指差す。

「真田幸村!二度とコイツに近づくなよ。は俺のものだ」

「政宗様・・・別に真田殿は何もしていませんよー」

「うるせー成実」

周囲の視線をものともせずに政宗はを抱いて歩き出す。
小十郎も後を続き、成実は幸村たちに頭を下げてから歩き出した。
残された幸村だが、目の焦点があっていない。
佐助は仕方なく、襟首掴んで政宗たちとは反対方向に歩き出した。

「旦那〜早く目を覚ましてくれよ?俺、男は担ぐ気ないから」

一応雇い主なのに酷い言い草だが。
他の人たちも落ち着いてきたようでそれぞれ散っていく。

「でもさあ、あんなの見せ付けるなんて、弱点見せちゃったようなものだよねぇ」

彼女の言動、行動一つで、政宗は理性を無くした。
幸村との勝負を誰よりも望み楽しみにしているはず政宗なのに。

「悪いけど、手を出さないって保障はないよ。うちが思わなくても他所はわからないしね」



「面倒くせーから祝言あげちまうか」

夕餉を食べている最中の政宗の発言。
食べている者みな、箸を止めてしまう。
ちなみには寝込んでしまっている。

「ま、政宗様、いま、なんと!」

「あ?他の奴らにちょっかい出されたら面白くねーし」

「おめでとうございますー政宗様!」

皆低頭し始める。
ただ政宗は黙々と食べている。
小十郎と成実は顔を見合わせる。

「しかし、政宗様」

「なんだ、成実」

「確実に殿の意思を無視していますよね?嫌われますよ」

「・・・・」

「成実殿、そのようなことは・・・」

「小十郎も成実殿と同意見でございます」

両腕から反対されて政宗は唇を尖らせる。

「うるせー俺が決めた」

「知りませんよ?本当に。先ほど殿に色々投げつけられたではありませんか」

城に着いた時、の思考は回復した。
政宗の顔を見るなり、バカ、アホ、エロ政宗、近寄るな。触るな!などと喚き置いてあった花瓶と言うより
ツボを政宗に向かって投げつけようとした。
どこぞからの贈り物のツボだったので、慌てて成実たちが取り押さえたのだ。

「あの後、宥めるの大変だったんですよー?」

喜多がいてくれたから、なんとかなったようなものだ。
室へと戻り、喜多の膝元に顔を埋めてわんわん泣いているのを見た時は
なんか自分が悪いような気の毒にさえ思ったくらいだ。

「公衆の面前ですることではないですよねぇ」

ちくりちくりと小姑のような成実の小言に政宗は目を背ける。
ガッとご飯を無理矢理口へとかき込む。
茶をぐいっと飲み干し、音を立てて湯飲みを置いた。

「俺が決めた。誰にも文句は言わせねぇ!」

「政宗様!」

成実と小十郎からの強い双眸。
強引に進めては余計に嫌われるだけだと止める。

「嫁とりなんてのはそんなものだろう。政略結婚みてーなものだろ」

確かに国同士の安定、和平の意味を込めて互いのことを知らぬまま話は進められる。
敵国からの輿入れは和平の為というより人質として意味合いもある。

「他所に取られるよりマシだ」

昼間の自分の行動の所為で、他国にどう思われたか。
他所に取られてしまうくらいなら何が何でも自分の手元に置いておきたい。
たとえ彼女に嫌われてしまっても。



夜。の室へと政宗は向かった。
喜多にに会いたいと伝え中へ通してもらう。
政宗の顔を見るなりは背中を向けてしまう。

。話がある」

「・・・・」

政宗は座らず立ったままの背中に向かって淡々と話す。

「祝言をあげるぞ」

「・・・・・」

ただそれだけでは耳を傾ける気はないようだ。
恐らく、勝手にすれば?と他人事だと思っているのだろう。

「俺とお前のだぞ」

「はあ!何言い出すわけ!」

それでも顔を向けてはくれない。
は膝を抱えたままだ。

「色々面倒だから」

「意味わかんない。奥さん貰うなら別の人にしなさいよ」

「お前じゃなきゃ意味が無い」

「嫌よ。なんで私が」

に俺のそばにいて欲しいからだ」

「な、なんで私なのよ」

「さあな。・・・だが最初はお前の俺を見る目が気に入った。あとは理由なんかねえ」

人を好きになったらそんなものだろ?と政宗は言う。
一度目の口づけも二度目の口づけもしたいと思ったから。
真田幸村、他の男のことを言われて、見せられて、悔しく、苛立ち、自分を見て欲しかった。
だから謝りはしない。
それはのことをいとおしいと思うから。

「真田幸村にも、他の誰にもお前をとられたくねえ」

「わ、私の意思は無視なんだ」

「ああ、無視だ」

「だって私は!真「お前のいう真田幸村への思いってのはただの憧れだろ?」

はっきりと言われて返答に詰まる。
政宗はなおも続ける。

「俺がお前に向ける思いとお前があいつに向けるのとは違うだろ」

「・・・・でも」

間違ってはいない。
ここに来るまではただの好きな歴史上の人物の一人に過ぎなかった。
会えるだなんて誰か普通に思うだろうか?
でも会えた。
会えて悪い印象はなかった。
なかったけど、それ以上を思う気持ちは今の所ない。

「今すぐにとは言わねえ。いつか俺だけを見てくれ」

政宗が自分のすぐ後ろに来たことに気づく。
そして膝を着きを後ろから抱きしめる。
強くもなく弱くもなく優しく包み込んでくれる。
なんとなく泣きたくなる。
この男の行動がわからなくて。
乱暴かと思えば優しさを見せて。
理由はのことが好きだから。そう言われてしまうとこちらはなんとも答えられない。

「なんで私なのよ・・・私、あんたに優しくされるような覚えないもん・・・・」

「さあな。なんでお前なんだろうな。でもお前じゃなきゃ嫌なんだ」

優しい空気に流されていく。
心地良さに溺れていく。
このままでいいのだろうか?

「だから、祝言あげるぞ」

「・・・・私に拒否権ないんでしょ」

「ああ。ねえな」

政宗はくつくつと笑った。









19/12/31再UP