合縁奇縁



ドリーム小説
【5】



「意外・・・・」

「An?何がだ」

政宗はを連れて城下を歩いていた。
本来ならば護衛の者を連れて行くべきなのだろうが、小十郎も成実も喜多も誰かも二人のそばにいなかった。
政宗自身、着物一枚を着流している。誰もお侍だとは思わないだろう。
だが、眼帯をしているから大抵の者には政宗だとわかってしまう。

「どこかに連れて行くーとか言うから馬で行くかと思ったら歩きで近場だから」

「馬乗りたかったのか?」

「別に」

どっちだ、この野郎。とは思いつつもが自分には素直ではないは十分に承知している。
だから「馬に乗りたかった」のだと解釈する。

「次は遠乗りにでも連れて行ってやる」

「馬乗れません、私は」

「俺と一緒でいいじゃねーか」

「成実さんに頼みます」

「おいおい」

随分成実には懐いているようで、少し面白くない。
初めから成実だけには懐いていたのは知っていたが。

「成実がそんなのいいのか?」

「あんた、また」

その後の言葉を続けようと思ったが、先の出来事を思い出してしまい慌てて口を噤む。

「また?」

なんだ?と政宗は目を向けるがは顔を背けた。
この男。真田幸村に会いに行くと言っただけで変な行動を取ったのだ。
余計なことは言いたくない。

「あ〜その。成実さんってお兄ちゃんみたいだな〜って。それにいつも笑顔だし」

納得したかはわからないが、政宗は特に深く追求してこなかった。
政宗の隣と言うより、一歩下がって歩く
街並みをつい最近も見たが、ここは穏やかだ。
ここが伊達政宗の治める地なのだな。
あのリーゼントで柄が悪そうな男たちがいてもそれが日常の一部のようで民は穏やかに過ごしている。
普通ならば遠巻きに見てしまいそうだが、顔なじみの人たちもいるようであの時も楽しげだった。
歩きながら政宗の腰が目に入った。
は慌てて政宗の袖を掴んだ。

「ちょっとあんた!」

「An?」

「刀はどうしたのよ!あー良く見ると何もないじゃない」

「別にいらねーだろ」

「普通、脇差ぐらい持ってなきゃダメでしょ!あんた一応お殿様なんだし、誰かに襲われたらどうするのよ」

政宗の口角があがる。
豪快にの頭を撫でる。

「ちょ、ちょっと!何よ!」

「俺のこと心配してくれるのかい?嬉しいじゃねーの。でも大丈夫だ、その時はちゃんと俺がおめえを守ってやる」

「違う!私のことなんていいの!あんたは自分を守らなきゃダメでしょ!」

を見捨てるなんて俺にはできねーぜ?」

「見捨てろ。阿呆」

「嫌だ、阿呆」

道のど真ん中。
変な睨み合いが繰り広げられている。



「何、しているのでしょうね〜あの二人は」

くすくすと笑う成実。
二人から少し離れたところからちゃんと小十郎と成実が後を着いてきていた。

「あの娘がきてから政宗様は変わられた・・・・」

「面白くありませんか?片倉殿は」

「成実殿・・・・」

「政宗様が殿にご執心だから側役の片倉殿は面白くないですよねー」

「別に俺はそのようなことは」

「家臣一同は殿が政宗様の奥方になってくださるのを願ってはいますけどねぇ」

密かに重臣たちはその方向で動き出している。
下手なことをすれば失敗するので口出しはしないようだが。
時間はたっぷりあるだろう。
家臣にしてみれば早くお世継ぎをと望んでいる。

「でも政宗様と殿のお子ってすごい意地っ張りな子になりそうですよねー」

「成実殿。余計な事は言わないほうが・・・・」

「だって、今のお二人を見ているとそう思えますからねぇ」

表面上の話だが。

「内緒話ならもっと小声でやれ、馬鹿が」

「おや、政宗様」

こめかみがぴくりと動いている政宗。
好き勝手言われて面白くない。
成実はニッコリ笑って何事もないような顔をしているのが余計に腹立たしい。

殿は?」

「あそこの茶屋にいる。何してんだ、おめーら」

「政宗様の警護に決まっているじゃないですか」

「丸腰で外にお出になられるとは・・・こちらの身にもなってくだされ」

「いいじゃねーか、別に。おめーらがいるしよ。そう簡単にこの俺がやられるか?」

咄嗟にすぐ飛び出せる範囲に二人はいたわけだし。

「それよりも政宗様。少し気になる情報が」

「なんだ」

声音を一段低くする政宗。
成実の表情は相変わらずだが、小十郎の顔は険しい。

「この奥州に珍しい方がお出でのようですよ」

「へぇ、そいつは誰だい?」

「直接政宗様に姿を見せるかはわかりませんが、用心なされませ」

刺客か?
だとしたらそろそろ城に戻るべきなのかもしれない。
まで襲われたら困る。

「今の政宗様では逆に相手に斬りかかりそうですけどねぇ」

「?」



「少しそこでなんか食ってろ」

茶屋で休憩をときたはいいが、政宗は隣に座ることなくどこかへ行ってしまった。
天気もいいので、外の縁台に腰掛け適当に頼んだ団子を食べている。

「・・・・別にいいんだけど、一人って面白くなーい。誰か知っている人でも来ないかな〜」

自分を姐御と呼ぶあの若武者たちでもこの際いい。
でも都合よく通りかかることはなく、道行く人々も過ぎ去っていく。

「・・・・つまんないっての。アホ政宗」

「あ!旦那、あったよ。茶屋。ここで一休みできますよ」

「本当か!佐助!」

自分と同じくらいか、それより少し上ぐらいかの全身赤の青年と迷彩柄、長身の青年が茶屋へとやってきた。
迷彩柄衣装の青年がに気づきニコリと笑い話しかけた。

「お隣、空いてる?良かったらそこ座らせて欲しーんだけど」

「あ、どうぞ」

「じゃあ遠慮なく。旦那、ほらちゃちゃっと座る」

「すまぬ、娘」

旦那と呼ばれた赤い衣装の青年はの隣に腰を落ち着けた。
店の者にあれこれ注文している。
隣で聞いていて疑ってしまうような内容だ。

(・・・頼み過ぎでしょ、それは・・・・あーすごい食べてる)

店側でも驚きつつも、それらを持ってくると青年は簡単に平らげていく。
誰もがその青年に目が行ってしまう。

「美味いな、ここの団子は」

「それは良かった、良かった」

もう一人の青年はお茶だけで過ごしている。

「饅頭追加していいか?」

「えーまだ食べるの?旦那、勘弁してくれよ」

「金が足りないのか?」

「金はあるけど、こっちの気分が滅入る・・・ほらあ、隣のお嬢ちゃんも呆れているし」

「ん?」

は急に話を振られてしまったので慌ててしまう。
見るつもりはなくても、隣にいるので嫌でも目に入る。
そしていくつもの団子を平らげていく姿に口が開いてしまっていた。
そんな姿を二人の青年に見られて恥ずかしい。

「す、すみません。なんか。その・・・よ、良ければこれ食べます?」

思わず自分の食べていた団子を差し出してしまう。

「良いのか?それがしが食べても」

「ええ。私も・・・なんかもうお腹いっぱいで」

「そうなのか?じゃあ遠慮なくいただこう」

の分までも本当に嬉しそうに食べ始める青年。

「悪いねぇ、お嬢ちゃんのだったのに」

「いいですよ。本当一人で食べるのつまらなかったし、残すとお店に悪いですから」

「ひほりなのか?」

「え?」

「旦那、話す時は飲み込んでからって言ってるでしょうが。いくつだあんた」

旦那と呼んでいるわりには先ほどから母親みたいに面倒見が良すぎるこの男。
青年も言われたとおりにし一通り食べ終えてゆっくり茶を啜った。

「一人とは、誰かと待ち合わせか?」

「連れがちょっと席外していまして。別にどーでもいいんですけどね」

「彼氏だな、その顔。彼氏がどっか行っちゃってつまらないんでしょ」

「か、彼氏なんかじゃないです!あの阿呆はっ」

「あらら酷い言われようだね、彼氏さん」

「だから、彼氏じゃないですってばぁ・・・・」

項垂れる

「お嬢ちゃんに一つ聞いていい?」

「?いいですよ」

「奥州、この地ってお嬢ちゃんから見てどう?」

「ここですか?」

何故そのようなことを聞いてくるのだろうと思い首を傾げるが、それでもは素直に答えた。

「穏やかで良いところですよ。こうしてゆっくりお団子食べていられるわけですし」

ただ、自分はここから出たことはない。
それ以外を知らないから比べようにないことも付け加える。

「へぇ。じゃあ奥州筆頭伊達政宗について」

「伊達?・・・・・何考えているのかわからないですね。あのエロ政宗」

「「エロ政宗?」」

「人のことからかうし、急に怒るし、かと思ったら優しくするし、人のこと守るとか平気で言うし・・・・」

「あ、あのお嬢ちゃん?」

「真田幸村より俺のほうがいいとか言うし。んなのわからないのにー」

「ごほっごほっ!ま、まんじゅうが、咽喉に・・」

いつの間にかまた食べ始めていた青年が突然咳き込む。

「真田幸村より?・・・って旦那大丈夫?ほらお茶飲んで」

甲斐甲斐しく背中をさすっている。本当にお母さんみたいな人だ。

「お嬢ちゃんの話を聞くと・・・お嬢ちゃんは伊達政宗本人と面識あるんだ」

「あ・・・・・えと、一応」

「こりゃあなんか面白いもの拾っちゃったかな〜旦那、どうします?」

「べ、別にどうもしない。お館様の命令は奥州を見て来いとのことだ」

「はいはい。旦那がそういうならいいですけねぇ」

何やらやばい人たちとお知り合いになってしまった気がする。
向こうが勝手にを使える駒などと認識されては困る。
今の所、それはなさそうだが。

「あ、あの・・・あなた方は」

「ん〜?ああ、俺らねぇ」

「珍しい奴がいるものだな。ここは伊達領だぜ?」

政宗が戻ってきた。
しかし、にではなく青年たちへと目を向けている。

「伊達、政宗」

「ここに来たってことは俺との勝負が目的かい?真田幸村」

赤と青の対峙。
互いに睨みあっている。

「真田幸村?・・・・どっち?え、あ?」

憧れの武将が近くにいる。
あ、そう言えば、一人は佐助と呼ばれていたから、大量に甘味モノを食していた方が真田幸村か。

「政宗様!」

小十郎と成実が姿を見せる。
腰に差した刀に手をかける。

「小十郎。おめーの刀、俺によこしな」

「政宗様!」

「決着つけようじゃねーか、ここでよ」

小十郎は刀を政宗へと放った。
政宗は受け取り刀を抜き、鞘を放る。
政宗、幸村それぞれから素人からみても殺気が入り混じった気迫を感じた。
ここで斬り合いなど始めたらどちらも無事ではすまないだろう。
は小さく拳を握り真田幸村を見つめた。






19/12/31再UP