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合縁奇縁
「「「「おはようございやすぅっ、姐さん!」」」」 「ヒッ!・・・・・お、おはようございます」 朝一番に外に出てみたら、朝稽古でもしていたのだろう男たちに挨拶をされた。 ちょっとガラの悪い男たち。 身体つきも良いので余計に怖く見える。 なのに、そんな彼らから礼儀正しく挨拶されてしまう。 正直いまだになれないこの状況。 どうにかしたいと思っていることは彼らから「姐さん」と呼ばれてしまうことだ。 自分は別にそっちの世界の人でもそんな立場でもない至って普通の存在なのだが・・・・ そうなってしまったのは、強面の男たちが筆頭と呼ぶ男の所為だろう。 「あ、あの・・・・とりあえずその“姐さん”っての止めてもらえませんか?普通に名前で呼んで・・・・」 「とんでもないっすよ!姐さんは俺らの姐さんなんです!そんな恐れ多いことを」 「い、いえ・・・そんな存在じゃないんですけど・・・・」 「筆頭が姐さんを選んだんだ、俺らは本当嬉しく思いますぜ」 「だよな。筆頭も姐さんが来てから本当楽しそうだし」 の言葉を無視というより聞いていない男たち。 こんな調子なのでの要望はあまり聞いてもらえない。 「はあ・・・・頭痛い」 こんな状態親が知ったら卒倒してしまうだろう。 だが残念ながら両親がそれを知ることはない。 「おはようございやすぅっ、頭!」 男たちが再び大袈裟に頭を下げた。 「おう。早いな」 いまだ夜着姿で歩いている筆頭と呼ばれる伊達政宗が姿を現す。 その一歩後ろをしっかりと着いてきているのは彼の右腕、唯一その背中を任せられたという片倉小十郎だ。 政宗は男、部下たちに声をかけたあとにを唯一光っている左目で捉える。 「おめえも早いな。もうここには慣れたのかい?」 政宗に見られると一瞬足が竦むような感覚に落とされる。 はその目から逃れるように顔を背ける。 「なれません。姐さんって呼ばれるの嫌なんですから」 「そうかい。そんなに気にすることないと思うけどねぇ。あいつらがおめえを認めるってことが珍しいからな」 はそらした視線を政宗に戻す。 「足はもういいのか?」 「ご心配ありがとうございます。もういつでもここを出れますから」 強く非難をこめて睨みつけるが政宗は怯むことなく、寧ろその目を楽しんでいる。 はこれ以上無意味だと思い踵を返しその場から離れる。 「oh〜嫌われたもんだね、オレも」 心底楽しんでいる様子の政宗に今まで黙っていた小十郎が話しかける。 「政宗様。本当によろしいのですか?」 「小十郎、何がいいたい?」 「周りの者と違ってあの者はあなたを慕ってはおりません。いずれ寝首をかかれるやもしれませんぞ」 「その時はくれてやるよ」 「政宗様!」 「怒鳴るなよ、小十郎。そう危惧しなくてもはんな事しやしねーよ・・・・できっこねーんだ」 ただ強がっている女だ。 政宗はの去った名残を楽しむように見ていた。 そう。できやしない、そのようなこと。 でも。生きようとしたあの目が気に入ったのだ。 政宗のそばを離れたはそれからも、歩くたびに強面の男たちから頭を下げられた。 大きな声で「姐さん、ちゅーす!」とか「どこまでついて行きやす!」などと言われてしまう。 本当はこんな場所にいたくなどない。 先ほど政宗に言われた「足」も大分良くなった。 良くなれば早く出て行こうと思うのだが、強面の男たちがの行く先々に着いて来るのでそれも叶わない。 姐さん。などと親しみを込めて呼んでいるように聞こえるが、には単に監視されているとか思えなかった。 「あ〜あ・・・・どうしてこうなちゃったんだろ」 は思わず柱にもたれかかってしまう。 そうなってしまった理由を思い出す。伊達政宗との出会いは普通ではなかった。 あれがなければ自分はとっくに死んでいたかもしれないのだが・・・・。 は友だちと仙台へ旅行に来ていた。 夏休みを利用して、コツコツ溜めたバイト代をつぎ込んでの旅行だ。 かの有名な伊達政宗公巡りを目的とした旅行だった。 はさほど政宗公にはご執心ではなく、目的の一つは単純に美味いタン塩だった。 食い気かよ!と友だちには呆れられてしまったがそうなのだからしょうがない。 歴史モノ好きな友だちとの今回の旅行だが、は伊達政宗公より真田幸村のほうが好きだったのだ。 前回の旅行はその幸村巡りで信州へと行った。ついでに武田信玄の館があった現在の武田神社にも行ってみた。 あれは本当に楽しかった。と思い出すと今でも気分が高まってしまう。 今度はぜひとも大阪へと行ってみたいと思っている。 だが、今回は仙台。 前回自分の好きなコースを行ったのだから、今回は友だちの好きにさせてあげなくては。 「帰りに余裕があるなら会津にも行ってみる?」 「え!余裕なんてないよー」 日程的にも金銭的にも。 友だちの突然の申し出にはただ驚いた。 「嘘ばっかり。タン塩を食べないで行けばなんとなるはずだよ」 「タン塩は外せないでしょ。あとホルモン」 「焼肉屋なんてどこでもいい気がするけどねぇ。ほら会津まで行けばアンタの好きな新撰組関連もあるし」 「うっ。それはそれで惹かれるけど、それはまた別の時でいいじゃない。そのほうが絶対楽しい!」 「まあそっか。じゃあ希望の焼肉でも食べに行く?」 「わーい!もう行きたいお店は決まっているんだよね〜」 雑誌やテレビで紹介されていたお店。 その場所を記した切抜きをちゃんと用意してある。 いざ、その切抜きを財布から取り出し見ようと思ったとき、風が吹いての手から飛んでいった。 「あー!あれがないと困るー割引券も一緒なんだから〜」 一枚でカルビ1人前無料。 これは外せない!とは切抜きを追いかける。 友だちはしょうがないと呆れながらもの後を追う。 「ーちゃんと周り見て、!危ない!」 「え」 あと少しで手が届きそうという時に、道路に一歩足を踏み入れてしまった。 その時の視界に移ったのは一台の車。 スピードがかなり出ていて止まることなく進んでくる。 「!!」 友だちの悲鳴。 身体に当たる衝撃。 記憶や視界に移るものがゆっくりと動いて見えた。 (なんか・・・・・すごい間抜けだ・・・・・な・・・・・・あ・・・・・・・) テレビを消した時のような感じに似ていた。 プッと音とを立てて意識が飛んだ。 「毎日、ご苦労なこったな、おめえも」 「趣味の領域を超えていますからね、片倉殿は」 農民たちが米を作ると同じように片倉小十郎は野菜を作る。 種類問わずなんでもだ。 一見すると鍬なんか持つように見えない強面の男なのだが。 白菜、牛蒡、にんじん、一年中何かしら収穫できてしまう。 おかげで伊達家領民は野菜作りで困ったことがあると小十郎を訪ねるようにしている。 このままだと米も自分で作りそうだなと周りは思ってしまう。 今も、彼の畑に向かう所だった。 誰にも邪魔をされずにできる場所に畑はある。 忙しい時はしょうがないのだが、基本は小十郎が自分で全て行う。 だから動物などに荒らされないようにいくつか仕掛けもある。 小十郎曰く。 お手軽な肉も取れて一石二鳥。だそうだ。 「そういえば、きっかけはなんでしたっけ?片倉殿が野菜を作るようになったのは」 「?オレは知らねーな」 「政宗様が健康に育って欲しいと思ったからさ」 「あん?なんだそりゃ」 「昔の政宗様は病弱でしたもんね〜」 「成実、てめー」 「まあまあ。その片倉殿の野菜のおかげで政宗様はすっかり大きくなられたのですから」 ケラケラと笑いながら二人一歩前に出て歩く成実。 だがピタリと足を止めた。 「・・・・・血の匂いがしますね・・・・・」 飄々としていた成実の目が鋭くなる。 普段は戦とは無縁の面構えなのに、戦場に出ると一変してしてしまう。 片倉小十郎が政宗から唯一背中を預けられる者としているのに対して伊達成実は戦陣を突っ切り、道を開く者だ。 成実は漂う血の匂いから何かしらの不穏なものを感じのだろうか? 小十郎は成実の肩を掴む。 「ここらにも俺の仕掛けがある。ウサギか何かがかかっただけだろう」 「それにしては生臭すぎますよ」 動物と人の血の匂いなどに違いなどないとは思うのだが、彼らにはそれがわかるようだ。 「見てくりゃいーじゃねーか」 政宗が匂いのするほうへと足を踏み入れる。 一歩道からそれれば、確かに人が入るような場所ではない。 こんな場所を歩くなどと言うのはやはり何かがあるとしか思えなかった。 「はっ・・・・・・はあ・・・・・・」 三人の目に映ったのは異国の格好をした少女が必死でもがいている姿だった。 「おめえ・・・」 政宗の声にびくりと肩を震わせた少女。 案の定、小十郎が仕掛けた罠に左足がはまってしまい逃げられないようだった。 政宗たちに助けを求めるわけでもなく、少女はすぐに目線を三人からそらす。 流れ出す己の血に物怖じもせずになんとかしようとしている少女。 罠を外そうとして手は血で赤く染まっている。 どうも手も怪我をしているようだ。仕掛けを外そうとして傷ついたようだ。 「無理はするな。下手に弄ると悪化する」 小十郎が少女へと近づき罠を解除し始めた。 数分して罠を外すと、少女の顔つきが見る見るうちに変わった。 罠を外すことで考えないようにしていた痛みが段々と現れたのだろう。 「小十郎」 「はっっ」 持っていた手拭で足の傷口を固定する。 とりあえずの手当てだ。 そのまま小十郎が少女を抱きかかえて山を降りた。 19/12/31再UP |