君を待つ、桜のキオク。



ドリーム小説
「悪ぃな。邪魔しちまって」

幸村の隣を歩く政宗がそんな事を言いだし、幸村はきょとんと首を傾げてしまった。

「邪魔、とは?」

「あ?一応気を使ってやってんのに…本人はこれかよ。苦労するな、の奴も」

何かを知ったかのような政宗の言葉に幸村はムッと唇を尖らせる。
何か。というより、の事だろう。

「本当はと二人で出かけたかったんだろう?あんたは」

「な!な、ななな、何を仰るか、ま、政宗殿ぉ!!」

顔を真っ赤にする幸村に政宗の口角が上がる。
そのまま、幸村の肩に手を回す政宗。

「俺がを構うと、ずっと拗ねていたもんな、あんたは」

「ま、ままま政宗殿!!?」

「いいんじゃねぇの?悪くない反応だ」

拗ねていたのは本当かもしれない。
の笑顔が自分ではなく、政宗に向けられるのが面白くないと感じて。
なぜかの事だけ思い出せない自分より、自信に満ち溢れた政宗の方が彼女もいいのだろうと悩んで。
記憶をなくす前の自分がどう感じていたのかは知らないが、今の自分は、少なくとも彼女を。
を好いているのだから。

「幸村君!政宗さん!早く、早く!」

先を歩いていたが二人の名を呼ぶ。

「今、行くでござるよ!」

幸村は笑顔で答えた。





【11】





明日には奥州を立つ。
幸村の記憶がほぼ戻ったからだ。
ほぼ。というのは、大方の事は思い出したのに、の事だけ変わらず思い出せなかった。
それに関しては誰にもどうにもできない。
ひとまず、信玄にも早く戻った幸村を会わせてあげたいという話にもなり、甲斐へ戻る事になったのだ。
政宗がに、しばらく残るか?という申し出をしていたことには驚きもあったし、嫌だと思った。
はしばらく残るような事を口にしようとしていたから。
だが、話を聞いた幸村は思わず本音がぽろっと出た。
「嫌だ」「一緒に甲斐に帰りたい」と。
情けない、子供みたいだと幸村も思ったが、意外にもは奥州には残らず、甲斐へ帰る事を選んでくれたのだ。
だから、今日1日は政宗の案内で、城下に遊びに来ていた。

「甲斐とは違うよね、やっぱり…治めている人の人柄とかあるのかな?」

奥州の山奥。なんて言い方もされるが、派手さをどこかで感じる。
派手、いや。華やかさ。というのか。

「そうか?大差ないと思うがな」

「お館様と政宗殿は全く似ていないでござるよ!」

「似てたら怖いんだが…俺は」

なんて事ない話をしながら歩く。
ただそれが楽しい。

「似ている。なんて一言も言っていないのに、幸村君は…相変わらずお館様馬鹿だよね」

殿!お館様を馬鹿呼ばわりするとは!」

「意味違うし…あー…本当、変わらないかぁ…」

は苦笑する。
このやり取り、忘れられないなと。

。簪に興味はあるか?ちょっと覗いてみないか?」

いい土産だぞ。と政宗が言う。

「あ。見たいかも」

「気に入ったものがあったら、なんでもいいな。幸村が買ってくれるだろうからな」

「ま、政宗殿!?」

「本当?じゃあ遠慮なく〜」

はご機嫌で店に入っていく。

「政宗殿、なぜそれがしが!」

「あ?嫌なのかよ…好きな女にプレゼントぐらいしてやったらどうなんだ?」

「す、好きな女…」

の事だと言われて幸村の顔が瞬時に真っ赤になる。

「別に、俺がプレゼントしてやってもいいんだが?一応あんたに花を持たせてやろうかと思ったんだが…ま。あんたじゃ手が出せないものならしょうがねぇ。俺がプレゼントしてやるか」

政宗は不敵に笑い店に入っていく。

「ま、政宗殿!!」

幸村も慌てて店に入って行った。




「もうちょっとだけ居たい気もするなぁ…」

立ち寄った茶店でがそんな事を言った。

殿?」

「観光したりないって気がして。城下だけでもまだまだあるのに、他の所とか見てみたいなぁって」

縁台に腰掛け、は餡蜜を食べながら言った。
幸村はすでに何本目かわからない櫛団子を頬張っている。
政宗はその異様な光景に嫌気が指したのか茶だけ啜っていた。

「居たいならいつまでも居てもいいぜ?俺は別に反対はしねぇよ」

最初から好きにしろ。と政宗は言っている。
割とが気に入っている。ような発言をした男だ。
居残ってくれた方が嬉しいに違いない。

「ま。誰かさんは面白くねぇだろうが」

「ま、政宗殿」

誰かさんとは幸村だろう。

「え、えと…では、しばらく、残られるか?殿…」

元々そうしたいような事を言っていただから、無理やり連れ帰るのは気が引けるのだろう。幸村は弱弱しく聞く。

「ん?帰るよ。だって幸村君と約束したじゃない」

「そ、そうでござるか!」

ぱーっと顔が晴れる幸村。

「他の場所はまた今度にするからいい。年に数回。とは言わないから、また今度こっちに遊びに来た時でいいかな?って思う」

「あぁ、いいんじゃねぇの」

「あれだね。政宗さんちは親戚の家みたいな感じだね」

だから、夏休みや冬休みになったら遊びに行くのだ。
そうは満足げに言った。




「実際の所…あんたとってなんなんだ?」

が別の店に入った時、外で待っていた政宗が幸村に問うた。
女の買物は長いと感じたらしい。

「な、なんだ。とは?」

「猿飛の奴は最初、家族みたいなものだと言ったらしいな。実際、武田のおっさんも娘みてぇに可愛がっていると。あいつも、あんたの事は友達だと言ったが…」

「…友…でござるか…」

実際、友達なのだろう。
けど、がそう政宗に言ったと聞くと無性に寂しく感じた。

「ぎゃ、逆に…ま、政宗殿は…殿をどう思われているのでしょうか?」

「俺?…それはあんたに関係あるのか?俺があいつをどう思うがあんたには関係ねぇだろうが」

「そ、そうでござるが…」

自信がないのだ。
政宗みたいに堂々とできない自分に。

「あんたはどうなんだ?の事を」

「………す、好きでござる。殿の事が」

「………」

きっと、記憶を失くす前の自分もそうだったと思う。
いや、そうだ。

「だから、政宗殿だけでなく、他の誰にも譲れないでござる」

まだまだ自分は未熟者だ。
未熟者でも、その想いだけは誰にも負けないんだ。

「っく…あはははははっ!あんた、本当真面目だな」

「ま、政宗殿?」

「俺が言ったみたいに、お前には関係ない。って言ってもいいのによ。バカ正直に言うか?普通」

わざわざ相手を焚き付けるようなものだ。政宗はそう言いたいらしい。

「し、しかし。それがしは…」

「ま。そこがあんたの良い所なんだろうよ。じゃあ、優しい俺はここまでにしてやるよ」

政宗は幸村に手を振り去っていく。

「政宗殿!」

「あとは二人で仲良くやんな」

政宗の気遣いに幸村は顔を赤くするも、その背中に向かって頭を下げた。





「ただの両想いって奴じゃねぇか。しかも無意識の」

政宗は一人歩きながらそんな風に呟いた。
周囲にはバレバレの二人の想い。
だけど、当人達は気づきもしない。
幸村にわざわざ聞いてみたものの、聞く意味などなかったなと。
すぐ表情に出る奴で、回りくどい仕方など余計に混乱するような真正面な性格だから。
も大体似たようなものだろう。
ただ、あれも相当鈍いような感じはした。

「いい思い出になってくれればいいけどな」

さて、このまま館に帰るのは勿体ない。
幸村達の城下案内を目的に外に出られたのだ、あと少し好きに遊ばせてもらおう。
政宗は館とは反対方向に向かって歩いて行った。





「あれ?政宗さんは?」

店から出たは政宗がいない事に気づいた。

「か、帰ってしまったでござるよ」

「もう〜人の買物が長いとか文句垂れたんでしょ。ま、いいけどね」

本気で怒る気などない。
ここまで案内、付き合ってくれただけでも上々だと思う。
まして、ここを治める人にだ。

「じゃあ。次はどこに行こうか?」

「どこでも良いでござるよ。それがしは殿に付き合うでござる」

「えー。私の行きたい場所ばかりじゃつまんないよ。幸村君も楽しんでくれないと」

入った店も。というより、女性が好みそうな店ばかりだった。

「いや。それがしは本当に。殿が楽しんでおられるのが良いでござるから」

「あ。あれかな?早く甲斐に帰りたい?お館様と仕合でもしたいだろうしね」

「そ。そんな事はないでござる!それがし、まだ殿ど一緒に居たいでござるから…あ」

幸村の顔が赤くなる。
言われたも赤くなっていそうだが、自分ではわからない。

「そっか。ありがと。じゃあどこに行こうかな」

行こう。と幸村の手を取っては歩き出した。





とある通りで泣いている少女がいた。
思わず二人は少女に駆け寄り話しかけた。

「どうしたの?」

「う…う…」

少女はしゃくりあげてしまっている。

「泣いていてはわからぬ。怪我でもしたのか?」

見たところ、そのような感じはない。

「いじめられたのか?」

「……てっちゃんが…」

「「てっちゃん?」」

少女をてっちゃんという者が泣かしてしまったのだろうか。
すると。

「お、おれが悪いんじゃねえよ!!」

そのてっちゃんらしい少年が飛び出して叫んだ。

「だ、だって。てっちゃんが」

「お、おれは…おれは悪くねえよ!」

てっちゃんが逃げていくので、思わず幸村は追いかけてしまった。

「待つでござるよ!」

あの少年はすぐにでも幸村が捕まえるだろうと思ったので、はそのまま少女の前にしゃがみこんだ。

「てっちゃんにいじめられたの?それで泣いていたの?」

少女は首を横に振った。

「い、いじめられたわけじゃないけど…てっちゃんがあたしの鞠を…」

鞠?
少女が指した方に、大きな木があり、その枝に鞠が一つ引っかかっていた。

「あ〜あれかぁ」

少女の背丈でも、てっちゃんの背丈でも届くような低木ではなかった。
かといって、も届く低さではないのだが。

「二人に何があったのか知らないけど…あれなら私でも取れるかな?」

「お姉ちゃん?」

「任せて!登ってとってくるから」

「え?」

女性がはしたないと思わるかもしれないが、辺りを見回しても引っかけるような棒はないし、幸村が登るにしては細すぎのような気もしたのだ。
そんなに高くないから大丈夫だろうとは木に登り始めた。

「別にわざとでないのならば良いでないか。素直に謝ればいいものを…あとでそれがしが変わりに取ってくるから、お主は菊殿に謝るでござるよ」

幸村がてっちゃんを連れて戻ってきた。

「菊殿、実は…ん?殿?」

「あ…お姉ちゃん…鞠を取ってくれるって」

「な!殿!な、何をしておられるか!!」

幸村の目には木によじ登ったの姿が。

「大丈夫。あと少しだから」

「あぶ、危ないでござるよ!すぐに降りるでござる!それがしが代わりに登ります故!」

「へーいーきー。あとちょっと!」

は一本の枝に足をかけた。バランスをとりながら、幹に左腕を回し、右腕を鞠へと伸ばす。
鞠を掴める。
そう思ったとき、視界が揺れた。

「あ」

殿!!」

足場にしていた枝が折れたのだ。

「きゃあ!!」

何も考える間もなく放り出された
あっという間に落ちた。

「った……」

「お姉ちゃん!」

菊とてっちゃんが駆け寄った。

「お姉ちゃん、お兄ちゃん!」

「あ…えと、大丈夫…あまり痛くない…え?あれ?」

あまり衝撃がなかったはずだ。
は幸村が受け止めてくれていた。
だが、幸村は受けきれなかったのか仰向けで倒れている。

「や、やだ!幸村君!幸村君!!」

の血の気が引いていく。
これはあの時と似ている。
崖から落ちた自分を助けた幸村と姿が重なる。
は慌てて幸村からどき、その体を揺さぶる。

「幸村君!ねえ!起きてよ!幸村君!!」

まただ。
また、彼に助けられた。折角記憶が戻ったのに、また同じことを繰り返す羽目になったらどうすればいいのだろうか?
不安と恐怖が波のように襲ってくる。

「やだよ…幸村君…起きてよ、目、覚ましてよ…」

「何の騒ぎだ?あ?…」

まだフラフラしていたらしい政宗がその声を聴いて通りかかった。

「ま、政宗さん…幸村君が…私の事、かばって…どうしよう、また記憶喪失になったら」

はボロボロ涙を流し泣いてしまっている。

「おい!真田幸村!しっかりしやがれ!!」

政宗は幸村の頬を軽く叩く。

「すぐに誰か呼ぶか…」

「幸村君…」

「っ……」

小さい呻き声が聞こえた。

「幸村君!!?」

「幸村!」

幸村が目を覚まし、体を起こした。

「幸村く「だからあれほど危ないと言ったではないか!!!」

「「………」」

「お前はいつもそうだ。人の話を聞かないで…?」

「幸村君!!」

「おわ!」

は幸村にかじりついた。

「幸村君。戻った!記憶、私の事、思い出してくれた!!」

?」

よかったと声をあげて泣くに幸村は困惑してしまう。

「どこか痛みはあるか?吐き気とかは」

「…ま、さむね、どの?」

「あ?まさか今度は俺の事を忘れかけたとかじゃねぇだろうな?また忘れやがったら、今度こそボコボコにするぞ」

政宗は幸村を睨む。

「あ、いや、その…意味がわからないのでござるが、政宗殿はなぜここに?奥州に居られるのでは?」

「………なんか、説明すんのが面倒くせぇな…」

政宗は後頭部を掻いた。

「あとで説明してやる。とりあえず、怪我とかしてねぇのか?」

「な、なんとも」

「じゃあ、戻るぞ。話はそれからだ」

不思議そうな顔をしている幸村がなんともおかしく見えた。








19/12/30再UP