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君を待つ、桜のキオク。
「ここの名物ってなんですか?」 「名物ねぇ…色々あるとは思うが、おススメできるものならば小十郎の野菜か?」 「殿様がそんな曖昧でいいんですか?これだ!ってしっかり言えないと観光アピールに繋がらないですよ?」 政宗と奥州の名物について話していた。 まだしばらく滞在するのならば、政宗自ら案内してやる。 そう言ってくれたのだ。 それだけじゃない。政宗はの悩みを拭い去る言葉をくれた。 自分で気付かなければ本来はダメだろうと思うが。 今の自分ではそこまでたどり着かなくて、ただ単に、幸村と距離を取るだけだったに過ぎない。 政宗のおかげで、幸村と向き合おうと改めて思えたから。 「曖昧じゃねぇ。沢山ありすぎなんだよ。羨ましい悩みだろ?」 政宗は不敵に笑う。 「そういう言い方もできますよねー」 本来ならば口をきくことも許されないのではないかと思う相手。 気さくに気軽に向こうから接してくれる。 不思議な人だなとは思った。 【10】 「まぁ、いつまでも世話になっているわけにはいかないしね。目的の旦那の記憶も戻ったわけだしさ」 佐助はそう言い、幸村にそろそろ甲斐へ戻ることを提案した。 幸村もそれには異存なかった。 ただ、気になるのはのことだけで。 あの日以来、が自分の前で笑うことがなくて。 いつもどこか困惑し、悲しみを帯びた目を向ける。 幸村にはそれが心苦しくて仕方ない。 「旦那。ちゃんの事ならあまり気にしなさんな。ちゃんだってわかってくれますって」 「…佐助」 「あんま焦ったところで何も変わりはしませんよ。誰にもどうにもできないことなんですから」 の事だけなぜか記憶が戻らない。 それが余計にを苦しめる。 なぜ、自分も思い出さないのかと悔しい…。 「ゆっくりでいいから、少しずつちゃんと話をしてみればいいんじゃないですかね」 「そうだな…」 けど、今の自分は力なく笑っただろうなと思った。 「、ど「!暇なら遠駆けにでも行くか?いや、あんたじゃ遠乗りの方が無難か」 の姿を見つけた幸村が、に声をかけようとしたが、それを遮る者がいた。 「遠駆けでも遠乗りでもどちらでもいいよ。政宗さんに乗せてもらうし」 ふふと笑う。そしてその笑みを向けたのは政宗。 それを見て、ちくりと胸が痛む。 今の自分には向けてもらえない笑みを、政宗には向けていて…。 「なんだ。一人じゃ乗れねぇのか?」 「そうだよ。行きも佐助さんに乗せてもらったし」 「It is no use.O.Kだったら俺が教えてやる」 「えー。いいよ、別に」 遠慮をすることはないと。政宗の中ではすでに決定事項のようだ。 行くぞ。とを連れて行ってしまった。 幸村はそれを黙って見送るだけで、一歩も動けなかった。 (殿は…それがしより、政宗殿と一緒の方がいいのだろうか?) 何より彼女は笑っている。 苦しい顔をさせる自分よりも、笑顔にさせる政宗の方がいいのではないか? 一つダメになると、他の全てもダメになってしまったようで。 それ以上が怖くなってきた。 「それは災難だったと言うべきか…政宗様に着いて行けるのは俺ぐらいだろうしな」 夕餉の時間。 政宗に馬の乗り方などを教わったことをは皆に話した。 世話をしてくれる小十郎がの話を聞いて苦笑している。 「政宗さん、スパルタなんだもん…普通なら女の子と一緒に相乗りできるんだーって喜んでくれてもいいのに」 「I say what 一緒に遠駆けできる方が楽しいと思うぜ?」 ちゃっかり自分もその場に混ざり食事をしている政宗。 慶次などもいるから賑やかと言えば賑やかだ。 「バカだなー。そういう時は女の子がしがみついてくれる方がいいに決まってるじゃん。 それか、しっかり抱えて乗せてやるのもさぁ。女の子には優しくしてやらないと」 「つけあがる女もいるから、それはごめんだな」 慶次の言葉を一蹴する政宗。 「あ。そうか、私は政宗さんから見て、優しくされるような好みの子じゃないんだよ」 「なんだなんだ。見る目ねーなー独眼竜」 会話が会話なだけに、幸村はただ聞いて曖昧に笑うしかできなかった。 内心、 (やはり殿は政宗殿の方が…) などと考えてしまって。 「そうじゃねぇ。俺は結構、こいつの事気に入ったぜ。だから気兼ねする必要はねぇんだ」 「!!?」 幸村はドキリとした。 ただの反応は大したものではなく。 「子分か僕ができたとか思っているんでしょ?政宗さんは」 とあまり深くとらえていないようだった。 「子分か…それもいいな。O.K、今日からは俺の子分な」 「嫌ですー」 「そうだよ、ダメダメ。ちゃんは武田の子だからね。そういう事はうちの大将に通してもらわないと」 佐助は幸村を気遣ってか、場を盛り上げようとしているし、の味方をしている。 「虎のおっさんか…申し出てみるか…」 「政宗様!」 冗談が過ぎると小十郎に諌められる政宗。 楽しい時間は過ぎて行くのだが、幸村の心は晴れなかった。 それからすぐだった。 就寝前の幸村と佐助の所にがやって来た。 「ん?どうしたの?ちゃん」 「あのね…そろそろ甲斐に戻るって話を聞いたんだけど…」 ちょこんと二人の前に正座する。 「あぁ、その話か。うん、いつまでも世話になっているわけにもいかないしね。 大将達にも早く旦那を会わせてやりたいし。旦那も大将の下でやるべきことが待っているわけだし」 佐助がそういうと、は視線を幸村に向けた。 なんとなく居た堪れない気分の幸村はその視線を背けてしまう。 「それがどうかした?」 「うん。私は…しばらくここに残ってもいいかな?」 「え?」 「政宗さんも居ていいって言ってくれたし…観光したいなぁって思うし…」 の申し出に佐助は幸村に目を向けた。 どうする?と言っているのだろう。 幸村には「あぁやはりは…」と思わずにいられない。 だけど、それ以上に。 「だけどね、私「嫌でござる!」 拳を握ってするりとそんな言葉が出た。 「幸村、君?」 「旦那?」 二人からの視線に幸村は恥ずかしさから顔を赤くする。 いや、それだけじゃない。 きっと本心で本気で思っているから、拗ねている部分も見えていると思って…。 「それがしは、殿と共に甲斐に帰りたいでござる。殿を一人残すのは嫌でござる」 「「………」」 「正直…殿が政宗殿と楽しげなのが…面白く…はっ!そ、それがし何を言って、あ、あぁ、いや、その!」 あたふたと慌てふためく幸村。 子供のわがままみたいなことを口にしたと思うと、幸村は自分が情けなくなった。 ここに信玄公が居れば、きっと空の彼方に殴り飛ばされるに違いない。 「それで、いつ甲斐に出立するの?」 は佐助に向けてそう訊ねた。 (あ………殿に呆れられてしまった…) 幸村は目線を落とす。 確かに子どもじみた反応をする自分よりも人の上に立ち国を治める政宗の方がかっこいいに決まっている。 何より、の事だけを思い出せない自分よりは…。 「うん。明後日の朝に予定しているよ」 「明後日か…じゃあ。明日は一日観光できるね、ね?幸村君」 「……へ?……」 急ににそう言われて、自分でも呆れるくらい間抜けな返事をしてしまった。 「一緒に城下を歩こう。きっと政宗さんが案内してくれると思うし」 「え?え?」 「それで、明後日一緒に甲斐に帰ろう」 ぽかんとしてしまった。 てっきりはここに残るだろうと思っていたばかりに。 「、殿…ですが、その、殿は、政宗殿と…」 「政宗さんが何?」 「い、いえ!ななななんでもないでござる」 馬鹿みたいにかぶりを振った。 「じゃあ。明日一緒にでかけようね。佐助さんも行くよね?」 「ん?俺はどうしようかなぁ。まぁ、予定がなかったらってことで。色々準備があるからね」 「そう?少しでもいいから一緒に行けたら行きましょうね」 は立ち上がる。 「それじゃあ、おやすみなさい」 「うん。おやすみー」 室を出るに佐助はにっこり笑い手を振った。 幸村も慌てて「おやすみなさい」と頭を下げて。 が出た室内。 先に口を開いたのは佐助だった。 「良かったじゃないですか、旦那。ちゃんも一緒に帰るって」 「う、うむ…」 「いやー旦那も可愛いなぁ〜独眼竜の旦那に嫉妬しちゃってぇ。今日一日ずっとふくれっ面でしたもんね」 「な!」 「ちゃんを独眼竜の旦那に盗られちゃったらどうしよう〜って悩んでいたんでしょう?」 佐助がニヤニヤしながら幸村を見ている。 青春だねぇ。と佐助は呵呵と笑って。 けど、ようやく気持ち的に落ち着けた。 良かった。一緒に甲斐に帰ることができると。 「明日はちゃんと楽しんで来てくださいよ。独眼竜の旦那も一緒だと思いますけどね」 「そ、そうだな。あ!佐助も共に行こう!殿も言っていたではないか」 「俺は遠慮しますよ。忍が公に楽しんでいちゃダメですからねぇ」 それ以前に奥州には何度も偵察などで来ているから、観光にはさほど興味がないらしい。 甲斐に戻る準備は佐助がしておくので、幸村には楽しんで来いと佐助は言った。 「明日か…」 明日、どんな風に楽しいことが待っているのだろうか? それを思うとわくわくした。 幸村に与えられた客室を出て、自分に与えられた客室に向かう。 「……………」 しばらく廊下を歩き、ふと立ち止まり。 「なに、あれ!?」 両手で両頬を覆って思わずその場にしゃがんだ。 「それがしは、殿と共に甲斐に帰りたいでござる。殿を一人残すのは嫌でござる」 「正直…殿が政宗殿と楽しげなのが…面白く…はっ!そ、それがし何を言って、あ、あぁ、いや、その!」 幸村の言葉に顔から火が出るほど恥ずかしくなった。 と言うより、政宗に言われてから幸村との新しい一歩を築こうと考えていただけに。 ただ、今日は幸村とすれ違うことが多く、幸村の様子が何か変だなと思っていただけに上手く行かなかった。 「幸村君…可愛い〜」 キャーと悲鳴をあげたくなる。 顔を真っ赤にして、嫌だと言われるとは思わなかった。 自分がここに居残ることに反対されると思わなかった。 寧ろ、好きにすれば?と思われるんじゃないかと思って。 「Therefore what do you do? 薄着でうろちょろしていれば、バカでも風邪はひくものだ」 柱に寄りかかり拱手している政宗が居た。 「ま、まま政宗さん!幸村君がすごく可愛いんですけど!!」 思わず政宗にそう言い寄ってしまう。 「あ?」 「って、バカって言わないでください」 「反応が遅ぇし、言っている意味がわかんねぇ」 「あの。私が一人…しばらくここに残ろうかなって言ったら、幸村君にダメって反対されて」 思い出すだけで照れるし、でも嬉しいと思える自分が居て。 口角が緩んでしまう。 さっきも幸村の前でそんな自分を見せないように、必死で平静を装っていた。 「その姿がなんかもう〜可愛くて可愛くて。あ、幸村君ってたまに可愛いなぁって思う姿があったし」 「野郎に可愛いって言ってもな…けど、まぁよかったじゃねぇの」 ポンとの肩に手を置く政宗。 「再スタートは上々だろ?」 「はい。そうみたいです。ってことで、明日は幸村君と観光してきますんで」 「そうかい。帰っちまうのはなんだか、寂しいが。明日は俺が案内してやるよ。そういう話だったよな」 「贅沢ですよね、案内係に奥州筆頭って」 「光栄に思いな」 政宗は小さく笑い、もつられて笑った。 明日はどんな一日になるだろうか? 19/12/30再UP |