君を待つ、桜のキオク。



ドリーム小説
「ゆ、幸村君!」

殿・・・・」

「い、一緒に休憩しよう!」

「・・・・・・いただくでござる」

勇気を出すって言い方は可笑しいかなと思った。
いつもならばさほど気にしない言葉なのに。
けど、今日は違った。
一緒に食べよう。ッて事が重要で・・・・。
もし断られたならどうしようって不安な気持ちでいっぱいだったから。
けど、幸村君は笑ってくれた。
あぁなんか久しぶりだな、その笑顔。
そう思ってホッとしたら涙が出そうになった。





【6】





ずっと体を動かしていた幸村に汗を拭ってもらうように手拭を渡した。
以前も見た光景だ。
庭先で懸命に槍を振るう姿。

「記憶があろうが、なかろうが。今あそこで槍を振るっているのは真田幸村よ」

梅の言葉は深く胸を突き刺す。
時間的にもさほど経っていないから、余計に・・・。

「幸村の事を心配している割には、本人の事をちゃんと見ていないのね」

「幸村のこと、ちゃんとしっかり見てあげなさいよ」

幸村の記憶を早く取り戻したくて懸命に動いていたと自分では思っていたけど。
肝心の幸村の事を見ていないと言われた。
自分でも「見ていたつもり」だったことに気づいて更に胸が苦しくなった。

幸村の記憶。

取り戻して欲しいと思うけど、今側に居るのも真田幸村だから・・・。

「俺の意見を言えばね・・・・別に旦那の記憶が戻らなくてもたいした問題はでないと思っているよ」

「だって記憶がなくても旦那の中身は、芯は変わらないじゃないか。考え方も行動も」

佐助も梅と同じ様な事を言った。
だけど、そこには佐助個人の気持ちも付け加えられていて。

「猿飛佐助個人ならばね、記憶が戻って欲しいと思うよ」

「旦那の記憶が戻れば、ちゃんは心から笑ってくれるだろうって」

佐助は幸村のことだけでなく、自分のことも心配してくれる。
そんな佐助に、が幸村と食事する事を避けているのをやめろと言った。
それなりに理由はあるが、知らない幸村は菓子だけを差し出されても要らないと断ってきた。
だから、それをやめてちゃんと幸村と話をしなよ。と佐助に言われた。
佐助に言われただけではない。
自分でもダメだと思ったから、このままではいけないと思ったから幸村と話そうと思ってきたんだ。

「はい。お茶はここに置くね・・・・お団子も好きなだけ食べていいよ」

「すまない」

だが幸村はすぐには団子に手をつけなかった。

「幸村君?」

「あ・・・・その・・・殿は食べないのかと思って・・・・それがしだけが食べるのは、その・・・・」

以前なら大袈裟に言えば取り合うような騒ぎで食べていた。
食べすぎだと幸村に向かって怒って。
けど本心から怒っているわけではなく、仕方ないなと思える口調で。
でも最後には「これはと半分にして食べよう」なんて幸村と分けて食べた。

「食べるよ。いただきまーす」

約束を破ってごめんなさい。
内心そう思いながらはくし団子を一本手に取り頬張った。

「うん。美味しい」

「そ、そうでござるか」

幸村も笑って団子に手を伸ばした。

「あー・・・もしかして幸村君。私に毒見させたの?ひどいなぁ、そんな心配ないのに」

「そ、そのようなことしないでござるよ!」

「う・そ」

幸村の慌て振りには声を出して笑った。
わかっている。そんな理由じゃないことぐらい。
そうさせてしまったのは自分の所為なんだという事に。
だからしっかり理由を話さないと。

「ごめんね。私が幸村君にそうさせちゃったんだ」

「い、いえ、それは・・・・」

「佐助さんにも言われちゃった。幸村君はきっと寂しかったんだろうって」

物だけ渡されて「はい、食べて」なんてのは大勢と楽しみながら食べていた幸村にとってつまらないだろうと。
チラッと幸村の様子を窺えば、団子を食べてはいるものの、少し俯き加減で、顔を赤くしている。
図星だったのかな?と。

「うん。幸村君はみんなで食べるのが好きな人だから」

そう言いながら、1本目の串団子を食べ終え、は2本目に手を伸ばす。
きな粉は食べるのに苦労する。
きな粉がボロボロ落ちるから、かと言ってきな粉を吸い上げようとすれば気管に詰まって痛い目にあうだろう。

「一緒によく、色んなお店のお菓子を食べ歩きしたもん」

「え?」

「お団子、おはぎ、お汁粉、ミツ豆・・・・なんか甘いものばかりで、それで居て大量に食べても太らない幸村君が
すごく恨めしいと思ったね。その後なんでもない顔をしてご飯も食べるし」

毎日あれだけ食べても太らない幸村にたまに愚痴を零し、もう食べ歩きはしない。なんて拗ねてみたこともあった。
その都度幸村には「それだけは嫌だ!」なんて不条理なわがままを言われてしまって。
自身も結局は幸村に甘くて「仕方ないなぁ」と食べ歩きをやめなかった。

「けど太るのは嫌だから、運動もしないと困るから一緒に散歩したんだ」

「・・・・・」

「色んな所に行ったよね。楽しかったよ、私は」

幸村は答えない。
いや答えられないのだろう。覚えていないのだから。

「きっと・・・・」

返事は期待していなかった。
半分独り言のように話していたから。
けど、幸村が口を開く。

「きっと・・・・楽しかったと思うでござる。殿との時間を・・・・以前の、記憶を失くす前のそれがしも・・・・・」

「幸村君・・・・」

そう思ってくれるならいいなとは思う。

「だからね。早く以前みたいに戻らなきゃ、戻さないと!って私一人でムキになっていたんだと思う。
幸村君の気持ちを何にも考えないで、どうしたら早く幸村君の記憶は戻るのかな?って・・・」

殿、それは・・・・」

「責任・・・・・を感じちゃったってのもあるだろうしね」

「・・・・・・」

「でもね。梅ちゃんに・・・・・幸村君の事を何にも見ていないって言われた。
記憶があろうがなかろうが、そこに居るのは真田幸村なんだって・・・・・あーそうかーって。
私、見ていたつもりだったけど、本当につもりであって、自分のことで精一杯だったのかも。
自分のことしか、自分の都合でしか考えていなかったんだなって・・・・」

だから、自分の全てを捧げても、捨てても幸村の記憶が戻るようにしたかった。
そうなるならばどんな犠牲を払ってもかまわないと思って。

「好きな物断ちをしたの、私」

「すきなもの、だち?」

「そう。私の好きなこと。幸村君と一緒に食べ歩きをしたり、こうしてのんびり縁側で菓子を食べること」

「なぜ、そのような事を・・・・」

「幸村君の記憶が早く戻ってくれるようにって、神様にお願いしたの。
それで記憶が戻るならば、好きなこと我慢するからって・・・・・・え?幸村君?」

幸村の顔は赤かった。
けどさっきの赤とは違う。
頬を子どもみたいに膨らまして怒っている。

「そのようなことされても、それがし嬉しくないでござる」

「あ・・・・ごめん。私が勝手にしたことだし」

「それがし!殿が我慢するようなことを喜べないでござる!殿はそれがしが一人で菓子を食うのを
寂しいのだと言ったであろう?その通りでござるよ!誘いを断られて、一人で食べるのが酷くつまらなかったでござる!」

幸村は膝の上で拳を強く握った。

「それがしの為になど、ちっともならないでござる」

「・・・・・・うん。だから梅ちゃんに幸村君の事を見ていないって言われたんだろうね」

は大きく息を吐く。

「だから、もうやめようと思って。幸村君と一緒にお菓子を食べられないのは私もつまらないし」

「そのほうがいいでござる」

「それに、私も思った」

「?」

「やっぱり、幸村君は幸村君だなって」

記憶があろうとなかろうと、隣に居るのは自分の知っている真田幸村なんだと思って。

「私一人で焦るのはもうしない。自己中にならないようにする。ゆっくりね・・・・」

殿・・・・・」

「はー。全部話してすっきりしちゃった」

そう言っては3本目の団子に手を伸ばす。
ぱくりぱくりと食べてしまい、4本目だ。

「あー美味しい。何本でもいけちゃうね、これは。あれ?幸村君はもうお腹いっぱい?」

「あ!殿ずるいでござるよ!」

私一人で食べちゃうぞとに言われて幸村も慌てて団子に手を伸ばした。

「うん。美味い」

「でしょ?幸村君の好きなお店のだもん」

殿・・・・今度・・・・」

「ん?」

「今度・・・・・その殿がおっしゃっていた、食べ歩きに行きましょうぞ」

「うん。行こうね」

自然に笑えた。
幸村にそう言ってもらえたのが嬉しかったから。
幸村の為と言って、結局は自分の為だったことに恥じた。
もう焦らない。
ううん。今は幸村の事をしっかり見ていよう。そう思った。



***



外へ出ても一人だとつまらなかった。
周りは沢山声をかけてくれるが、その自分自身のことが何も判らなくて。
誰にもかまうなとまで考えてしまったくらいだ。
けど、が柔らかく笑ってくれたことに何かがこみ上げていた。
安堵したのと、嬉しさと。

「今度・・・・・その殿がおっしゃっていた、食べ歩きに行きましょうぞ」

「うん。行こうね」

次に外へ行くのが楽しみだと思った。
ずっとは自分の世話をしてくれていてもどこか表情が固かったから。
けど、今は違う。
そうなってしまった理由を話してくれたから。
も言ってくれた。

「やっぱり、幸村君は幸村君だなって」

梅にも記憶がなくても幸村は幸村だと言われた。
あれで随分気持ちが楽になったが、に言われた事のほうが胸に痞えていたものが消えてしまったように感じた。
どういう経緯でこの屋敷に居候をしているのかはわからない。
なぜ一緒に居るのかもわからない。
わからないけど、そんな事はどうでもいいような気がして。
記憶を失くす前の自分にとって、そんな理由などどうでもいいぐらいには大事だったのだろうと思えた。

「佐助さんはね、もう一回崖っぷちから落としてみようかーなんて言ったのよ」

「・・・・・」

口から団子が零れ落ちそうになった。

「いくらなんでもそれは幸村君が死んじゃうって思ったから止めたけど」

「さ、佐助はそれがしに仕えてくれている者なのでござろう?」

「そうよ。一番信頼している方よ」

「その割りに扱いが雑でござるな・・・・・」

「あー他所の主上関係に比べたら、なんか微妙に違うかもね、幸村君達は」

いくら部下だからって身の回りの世話まではしないと思う。
そうにはっきり言われてしまった。

「もっとお給料上げてやってもいいと思うよ?」

「そ、そう言われても・・・・」

「お。もっと言ってやってよちゃん」

佐助がニシシと笑いながらやってきた。

「はい。お土産〜山県殿が旦那にってさ。本当あの人もマメだよねー」

幸村に包みを手渡す佐助。
中を開ければおはぎが入っている。

「これも美味そうだ。殿も食べられよ」

「じゃあひとつ貰うね」

はおはぎをひとつ手に取る。

「ひとつと遠慮せずとも、いくらでも食べてくだされ」

「遠慮って言うか・・・・お団子をちょっと食べ過ぎたってだけで・・・・」

結局串団子を6本も食べていた。
流石に腹は膨れるだろうが、幸村は平然としている。

「そうでござるか?それがしまだまだいけるでござるよ!」

「だから、それだけ食べて太らない幸村君が恨めしいよ・・・」

「大丈夫でござる。それがしも殿に付き合って歩くでござるよ」

なんだろう。少し前に感じた「日常」が戻ってきたように思える。
これが自分にとっての当たり前のものなのだと改めて知った幸村は嬉しかった。








19/12/30再UP