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合縁奇縁
「いやー。お店にちゃんがいなくて寂しかったよー」 「またまた〜本当ですか?」 「本当だって。幸村様もご不在だったからねぇ。物足りないって言うかね」 駿河から戻ってきて、そんなに長い期間不在だったわけではないのに、常連たちはそう言う。 幸村様と聞いて、少しだけの心が跳ねる。 「どうだった?その駿河への旅ってのは」 色んな意味で色々あった気がする。 けど、悪くはない。 だから、常連客に向かっては微笑んだ。 「いい旅でしたよ」 【21】 「真田の旦那。顔が怖い」 「なっ!!?」 満月堂に来ている幸村と佐助。 満月堂の主人六郎とおりょうからはこれでもかというぐらい頭を下げられた。 が無事に帰ってきたのは、用が足せたのは幸村のおかげだと。 そう頭を下げられることはないと六郎たちに言うも、と目があった時緊張してしまった。 は優しく笑ってくれたのだが。 あの旅の帰り道。 泊まった宿で賊に遭遇した。 遭遇したと言っても、何かされたわけでもなく。 幸村が早々に気配を察知し彼らを纏めて伸した。 運悪く、賊に斬られた店の者がいたが、命に別状はなかったそうだ。 その晩。賊に襲われたことによる不安が一気にに芽生えた。 不安がるに、幸村は勢いであったが告白した。 一度想いが成就しない辛さを味わった幸村。 への想いをそう簡単に口にしそうになかったのだか、言うなら今だと感じたのだ。 振られる怖さよりも、を守りたいと思う気持ちが強くて。 幸村の想いはに届いた。 「私も。幸村君のこと・・・・好きだよ」 確かにそう言ってくれたのだ。 人を好きになると、こうも想いは押さえられないのだなと変に感心してしまった。 甲斐に着くまで二人きり。 恥かしくもあり、嬉しくもあり。 この先、ずっとを守って行こうと再度誓ったのだ。 「旦那はさー。すぐ顔に出るよね。何考えているか、当ててやろうか?」 「な、なんだと!!?」 佐助はわざとらしく幸村の顔を何度も窺い、ニマニマっと笑う。 「それがしの殿に、ベタベタするな!・・・・て感じかな?どう?当たってるでしょ」 今のは常連客に囲まれて、幸村のほうに来る気配がないから。 「ああああ当たってなどおらぬわ!!」 顔を真っ赤にして否定する幸村を見れば、図星だったなと佐助は思う。 だが佐助は満足そうに笑う。 「でも。良かったじゃない、旦那」 「な、なにがだ?」 「ちゃん。旦那の想いを受け止めてくれたんでしょ?」 改まってそう言われると恥ずかしいものがある。 からかわれていると思ったので佐助に噛み付きそうだったのだが、その言葉で幸村は頷いた。 縁台から腰を浮かせていたがストンとそのまま落ち着けてしまうし。 「なぜ佐助にはわかってしまうのだろう?」 「それは長いこと旦那の世話をしていればわかるよ」 「そうか?」 そこにツッコミはないのかと佐助は苦笑する。 一応アンタは俺の雇い主なんだけどねーと。 忍に私生活まで世話させる奴など普通はいないだろうに。 でも、それが佐助には苦にならないし、当たり前になっているのでいいだろう。 それもあと少しの話だろうし。 「世の中が平和になればいう事なし。だろうね、旦那」 現実にはまだ戦が起こっている。 「佐助・・・」 「旦那。大将たちは冬に入る前に一度出陣するつもりだよ」 佐助の飄々としていた表情が一変し厳しい眼に変わる。 「誠か。それは・・・・」 「冬になれば、三国それぞれ動きが取れなくなるからね・・・・豊臣の一部が焦った動きを見せ始めているから」 動くなら今だろうと信玄たちは判断したようだ。 すでに伊達と上杉は動き始めている。 信玄から幸村にもすぐに話が来るだろう。 「そうか・・・お館様の為、この幸村すべての敵をなぎ払ってみせる!!」 「真田の旦那。ちょい待ち」 「?」 「突っ走るのもいいけどさ。旦那はもうここに大事な子がいるんだから、無茶ばかりはできないよ?」 「あ・・・・」 「出陣前にちゃんと話をしてあげないとダメだからね」 「う、うむ。わかった」 そこにちょうどがやってきた。 そろそろ幸村にお代わりが必要だと思ってなのだろう、盆に幾つもの菓子を乗せて。 あと、佐助にはお茶のお代わりが。 「楽しそうに何の話してたんですか?」 「殿・・・そ、その・・・それがし」 はいと菓子と湯呑みを置く。 そのまま店内に戻ることもなく幸村のそばにいる。 幸村は出陣の話をしなければと思いながらも、上手く言えないでいる。 「?」 「ちゃん。まだ仕事は終わらない?休憩はまだかな?」 佐助がそれとなく聞いてくれる。 「そうね・・・・そろそろそんな時間だけど・・・・」 常連客たちが帰る気配はない。 だから好き勝手に休憩には入れないだろう。 「いいよ、。休憩に入っても」 「おりょうさん。でも」 一太郎とお初を連れて出かけていたおりょうが帰ってきた。 ちょうど佐助の言葉を聞いたのだろう。 「私が店番やるから、先に休憩いっといで」 「悪いね、おりょうさん。旦那がね、ちょっとばかし話があるんだって」 「それじゃあ益々お待たせはできないだろ?ほら、いっといで」 おりょうはサラリとの前掛けを剥いでしまう。 周りの見事な?連係プレイで幸村とは店から追い出されてしまう。 仕方なく歩き出す二人。 「まだ菓子が残っていたのにね」 「あ、あれは持ち帰ってあとでちゃんと食べるでござるよ」 「そう。お残しはダメなのよー」 くすくすとは笑う。 幸村も釣られて笑う。 もなりに考えた。 あの晩の出来事を。少なくとも一線を越えてしまったわけだ。 幸村が冗談や遊びでそのようなことをする人間ではないのはわかっている。 真っ直ぐな青年だ。 本気で自分のことを想ってくれているのだと。 少なくとも、その想い。も嬉しく感じた。 だから受け入れた。 甲斐に帰ってきて、一人になったとき、改めて考えた。 本当にこれで良かったのか?などと・・・・。 きっとこの世界の恋愛は、今まで自分がしてきた恋愛とは違うような気がする。 感じなくてもいい壁を想像してしまう。 でも、それを気にしてしまうと、きっと以前のように幸村に対しぎこちなく接してしまいそうで。 真面目な幸村を悩ますつもりはないし、受け入れておいて傷つける真似はしたくない。 少なくとも、今は誰にも何も言われない。 考えすぎてはいけないと。 (それに・・・・・きっと私からは言えないだろうね・・・・) 年下であっても、いざという時、自分を守ってくれる頼れる幸村に。 別れてください。などとは・・・・。 もし、何か起こるならば、想像できる出来事になるとすれば。 幸村から言われたならば納得するだろうと。 「殿?」 「なに?」 「その・・・いかがなされたのかと思って・・・・」 「別にどうもしないよ?どこ行こうかなーって考えていただけ。 少し早いけどお昼にしようかなと思ったけど、幸村君はまだお腹空かないでしょ?」 先ほどまで満月堂で菓子を食べていたから。 「いえ。それがしお付き合いします」 「あー・・・まだ腹八分目にもなっていないんだ。本当幸村君燃費悪いなー」 「そ、そんなことは、べ、別に」 すぐに反応をコロコロと変化させる幸村。 こういう姿を見ると「年下の男の子」だなと思える。 「じゃあ飯屋さんに行こうか?」 「はい!」 よく行く店があるのだとが幸村を誘った。 *** 入った飯屋はまだ昼前という時もあって余裕に席に着けた。 店の娘にが注文をする。 何度も行く店だというだけあって、店の者とは親しげだった。 「それで、幸村君。お話ってなに?」 佐助さんが言っていたでしょ?とようやく本題に入る。 まさかと思うと、あっさりここでお別れでもされてしまうのだろうか? 「あ、その・・・・それがし・・・・・」 「うん?」 「お待ちどうさまでーす」 2人の前に注文した品が置かれる。 「ごっゆくりどーぞー」 元気のいい看板娘。サッと置いてサッと行ってしまう。 さすが「早い、美味い、安い」をモットーにした店だなと苦笑してしまう。 話の腰を折られた感じもしなくはないが。 「食べながらでいいよ。まだ時間はあるし」 いただきます。と手を合わせて食べ始める二人。 食べながらといわれても、黙々と幸村は食べている。 食べながらと言うのは行儀が悪いものだろうとはもわかるので、あえて自分も箸を動かすだけだ。 ただ。 幸村自身は緊張の度合いが高くて、頭の中で必死でどう話そうか、何を話そうかと考えているだけだった。 「・・・・店。混んできたでござるな・・・・」 「そりゃあ、これからが飯屋さんの一番忙しい時間帯だもん」 食べ終えて店内を見渡せば、一際賑やかになっていた。 あちこちからの怒鳴り声に似た囃し立てる声に幸村は驚いてしまう。 この中で、ゆっくり話などできる気がしない。 「殿。そろそろ出ましょうぞ」 「そうね。ゆっくり居座るのも気が引けるし」 ご馳走様とお代を払おうと財布を懐から取り出そうとする。 それを幸村がいち早く支払ってしまう。 「それがしが無理を言って殿を連れ出したのでござるから・・・ここはそれがしが」 「割り勘でもいいのに」 「わ、わりかん?」 「ううん。なんでもないよ、ご馳走様でした、幸村君」 ここは素直に礼を言っておこう。 店を出て、結局は来た道を戻る形になっていた。 「話がちっとも進まないね、幸村君」 「も、申し訳ない・・・・」 「なんで、幸村君が謝るかな?今話せば済むことだよ」 「そ、そうでござるな・・・・・じ、実は。殿・・・・」 そこまで緊張するような話なのだろうか?深刻なもの? これはいよいよ覚悟を決めるべきなのだろうか? 「それがし。出陣が決まったでござる」 「出陣!?」 予想していたのとは違う話では驚く。思わず足を止めてしまう。 「はい。伊達、上杉、武田の三国で豊臣に戦を仕掛けることに。冬が来てしまう前に」 「戦・・・」 忘れがちでいたが、ここは戦国の世でもあった。 「だから暫くの間・・・・殿と会えぬでござる」 なんて答えればいいのだろうか。 いってらっしゃい?これでは軽すぎか。 「それがしはお館様の為に先陣を切るのが役目・・・その」 ちゃんと話してあげるんだよ。などと佐助に言われはしたが、何をどう話せばいいのだろうか? 上手く言葉が紡がれない。 「・・・・・戦の事は私にはよくわからないけど・・・・無理をしないでね・・・・って言うのは難しいかな?」 「殿・・・」 「私の事は心配しなくていいよ。毎日幸村君の無事を祈りながら、満月堂で親方の手伝いをして」 きっといつもと変わらない日常だろう。 ただそこに幸村がいないだけだ。 でも。急に戦のことを告げられて胸が詰まる。 無理はしないで。とは言えないだろう。 幸村には幸村の役目がある。これはと出会うずっと前から幸村が賭してきたことだろうから。 「ちゃんと帰ってきたら。たくさん、美味しいお菓子拵えてあげる」 六郎の作ったものだけでなく、自分も幸村に食べてもらえるようなものを作って。 幸村がいない間、沢山学んで、沢山技術を磨いて。 「幸村君に喜んでもらえるようなもの、拵えるから。だから・・・・帰ってきてね。絶対に」 これが今の自分の精一杯だ。 そして悲しげな顔など見せずに、笑ってあげねば。 「・・・・・・」 身近な人がそういう場へ赴くのは初めてだから、上手く言えない。 これで良かったのかな?という迷いが幾つも浮かび上がる。 そして腹の前で絡めた指が微かに震えてしまう。 「あ、あ〜・・・・、殿・・・・・」 対して幸村はなんとなくわなわなと震えている。 「え?ゆ、幸村君!!?どうかしたの?」 「そ、それがし・・・・」 段々顔が真っ赤に染まっていく幸村。 何か起こらせるような真似をしただろうか? 「ひ、人前でなければ・・・・」 ごにょごにょと口ごもる。 何?と顔を近づけて覗き込むと。 「だ、抱きしめてしまいそうでござる・・・・」 ポカンとしてしまう。だが、すぐさま声に出して笑ってしまう。 「あ、あ、殿」 「あー。ごめん。幸村君は素直だね。でもこんな町中でやられると困るかなー」 「や、あ、あの!!や、やりませぬよ!!」 はいまだ笑ったままで歩き出す。幸村は慌ててその後を追いかける。 「素直でいいけど。それ、幸村君だから有効だよね。他の人が口にしたら引くよ、引く」 「も、もう勘弁してくだされ〜」 あと数日経てば、こんなやり取りもしばらくお預けになるんだろうなと思うと寂しかった。 でも、行くなとは言えないから。 幸村が無事に帰ってきさえすればいい。 その時はうんと甘い菓子でも拵えよう。そう思うだった。 19/12/30再UP |