合縁奇縁



ドリーム小説
祭りの間中、それはもう忙しかった。
は毎日忙しく働いていた。
3日間という短期間だったが、忙しくても充実していたとも思えた。
六郎の実家、ご両親に旅籠を切り盛りしている六郎の妹夫婦にもまた手伝いを頼みたい
とまで言われてしまった。
帰り際、もう少し居てもいいなと思えてしまうくらいだった。






【20】





「あとは甲斐へ帰るだけだね、幸村君もご苦労様でした」

「い、いえ。それがしは別に」

信玄公に言われてとりあえずはその町の領主に会い視察をしたものの。
最初だけで、あとはずっとと同じように旅籠で力仕事をしていた。
周囲には信玄に仕える武将だとは名乗らず、ごく普通の青年のように。
おかげで、周囲には若夫婦で手伝いに来てくれた。などと思われた。
いつもなら否定するのだが、あまりの忙しさに一々説明するのも面倒でそのまま通してしまった。

「でも、活気があって良かったでござる・・・・今川から武田へと治める者が変わってまだそんなに長い月日は
経っていないので・・・・・何かと不便もあるだろうと思っていたでござるが」

甲斐へ向かう帰り道。
来た道を戻っているのだが、また違う感じがして新鮮だ。

「案外民衆ってのは逞しく生きるものよ?先のことよりその日、その日を一生懸命に生きてね」

「・・・・・そうでござるか・・・・・それがし今まであまり気にしていなかったでござるよ」

「もう〜そんな顔しないの。幸村君が皆の為に頑張っているのは知っているから」

殿・・・・」

幸村に曇った顔は似合わないから、は明るく笑顔で手を差し伸べる。

「ほら。帰りも楽しく行こう。幸村君の好きなお茶屋さんよってお団子食べて、ね?」

殿、ありがとうございます」

「ううん。こっちこそ、わざわざ一緒に駿河まで来てもらっちゃったし、何事もなく甲斐に帰れそうだしね」

あと数日でとの旅は終わりだ。
まさかこうして旅ができるとは思わなかった。
幸村にとってそれは毎日が新鮮であったが、にとっても職人としていい刺激を得ることができたらしい。
満月堂に帰って、早く新作の菓子を作りたいと言っていた。
帰りもきっと楽しい旅になるだろう。
そう思っていた。



とある宿場町へ到着し、今日の宿を決めた。
二階の見晴らし良い室へと案内される。
経費削減と言うか、少しでも節約できればとあえて一部屋しかとっていない。
寝る時は衝立を間にし今までの旅籠ではそうして寝ていた。

「ご飯も美味しかったね、幸村君」

「そ、そうでござるな」

この旅籠の人にもご夫婦ですか?などと言われて幸村は照れた。
も苦笑しつつも、そうなんですよーなどと気軽に答えていた。
湯浴みも終えてもう寝るだけなのだが。

「本当。何事もなく済んで良かった」

「まだもうしばらくは歩きでござるよ?殿」

「明日には到着できそうだし、ねえ」

甲斐と駿河の国境は越えた。だからあと少しなのは確かだ。

殿は早く帰りたくて仕方ないのでござるな」

「早く親方の手伝いもしたいし、自分で新作も作りたいもの」

「それがしも殿の新作楽しみでござる。前回のばらもとても美味しかったでござる」

六郎にはまだまだ及ばないが、ばらの評判も中々だった。

「幸村君は沢山、親方のこしらえたものを食べて舌が肥えていると思うから、そう言われると嬉しいな」

「そ、そんな。それがしはただ美味いものを美味いと言っただけで」

「うん。ありがとう。新作もできたら食べてね、幸村君」

「は、はい!」

力いっぱい返事をする幸村には声を出して笑ってしまう。
明日も早いからそろそろ寝ようかとそれぞれ敷いた布団にもぐりこむ。
屏風一枚隔てているだけでも幸村は緊張してしまうも、すぐさま眠りについてしまう。
佐助や政宗が知ったら、情けないと言われそうだが。
ここ数日沢山歩いたから足は棒のようで疲れている。
も布団に潜るとどこか安心したようで、うとうとし始める。



どのくらい時間が経っただろうか。
この宿場町全体が静まり返っている。
ほとんどの人が寝静まっているのだろう。

「・・・ん・・・?」

はカサっと人が動く気配を感じた?
なんだと思い体を起こすと、寝ていたはずの幸村が起きて、部屋の出入り口でジッと耳を澄ましている。

「幸村君?」

幸村はを起こしてしまったかと、一瞬戸惑うも、すぐさまの側により小声で言った。

「なにやら可笑しな気配を感じたでござる。殿、しばし身を隠していてくだされ」

「え?」

微かに階下から可笑しな物音、気配を感じたそうだ。
幸村はそっと襖を開けて様子を窺いながら部屋を出た。

「・・・・身を隠すって・・・」

とりあえず、衝立の陰に隠れていようとジッと身を顰める。
こんな真夜中に可笑しな物音などと、これは俗に言うあれではないか?
この時代には度々ある犯罪。押し込み強盗。
でも、金のある商人が狙われそうだが。
少なくとも今泊まっている宿はそんなに豪華な店構えではなかった。
そんなにお金がなくても庶民が泊まるには問題ないような気安い宿のような。

幸村は無事に下へ辿りついたのだろうか?
心配だからと様子を見に行こうとしても、帰って自分では邪魔になるだろうし。
しばらくして、ガタンバタンと暴れまわる音が聞こえてきた。
隣の部屋に泊まっていた人たちなども、なんだと顔を出し始めたようだ。
も一緒になって顔を出した。

「ご主人!早く役人を呼びに行かれよ。あとは医者だ」

「は、はい!」

「怪我人は他に居るでござるか?」

幸村の声が聞こえた。
店の者が数人慌てて外へ飛び出していくのが見えた。

「幸村君!」

居ても経っても居られず、は幸村の元へ駆け寄った。
下はあちこち荒らされていた。
そして縄で縛られた数人の男たちの姿もあった。

殿。まだ危ないでござるよ」

「だって、なんか・・・あ」

袈裟切りにされた店の男性が一人倒れている。
女将がその男性を必死で呼びかけ止血しようとしている。
我も我もと他の客も集まってくる。

「なんだい、いったい・・・・」

「強盗か・・・・あ〜なんとも・・・・」

しばらくして、役人たちと医者がやってくる。
切られた男性は辛うじて息があるようだ。
主人は何があったのかを役人たちに説明する。
夜中、寝静まった頃。今縄で縛られた者たちが宿の金を狙って漁っていたそうだ。
その者たちはこの宿に宿泊していた者たちで、どうやら物を盗みながら旅をしていたらしい。
店の者が一人気づいたものの、斬られてしまった。
その時、異変に気づいた幸村が一人で奮戦し盗賊たちを捕まえたというわけだ。

「兄ちゃん、すげぇな」

「本当。下手をしていたら俺たちも危なかったもんな」

宿の金でなく、宿泊客にも手をかけたかもしれないのだ。
皆、幸村に感謝する。
幸村は周りからの礼に戸惑い、どこか表情が憂いていた。

「・・・・幸村君?」

とりあえず、後は役人たちに任せてそれぞれ部屋で休んでくれといわれる。
幸村と二人で部屋に戻る
衝立を挟んで布団の上に黙って座り込んだ。

「幸村君。どうかした?なんかあまり嬉しそうじゃないね・・・・」

「そ、それは・・・・・感謝されても、あの御仁は斬られてしまったでござる。それがしがもう少し早く気づいていれば」

怪我人も出なかっただろうと。
それは違うとは言う。

「幸村君が深く考え込むことないんだよ?幸村君が早く気づいてくれたから被害は少なかったもの」

他の客もそう言っていたではないか。
全てを幸村が背負い込むことはないんだ。

殿・・・・すまないでござる・・・・も、もう寝るとしましょう。明日も早い。うん」

余計な気を使わせたと幸村は明るく勤める。
さぁ寝ようと横になる幸村。

「・・・・・・」

だがの反応が悪い。

「あ、あのね・・・・・幸村君。その、間にある衝立・・・・外してもいい?」

突然の申し出に幸村は飛び起きる。

「え、ええええ!!な、ななななな何故でござるか!!!?」

同じ部屋で寝るのも破廉恥だ!と言っていた幸村。
衝立という壁があったから同じ部屋でも寝れたというのに。今、それをどかせと?

「・・・・・その方が安心するから」

「ああああ安心?」

は幸村の返事も待たずに衝立をどかしてしまう。

、ど、どの!!?」

は自分の布団の上にちょこんと座る。
膝の上に置いた手をギュッと握る。

「ごめんね。折角色々気を使ってもらったのに・・・・な、なんかね。急に怖くなったの」

殿・・・・」

ようやく幸村は落ち着く。

「この旅を幸村君が一緒に来てくれたから、何事もなく旅が出来るんだなって思って・・・・
最初私一人で行こうとしていたでしょ?もし一人だったら・・・・今回みたいなことに遭遇したら」

もし自分に何か起こったら、一人で行かせたと六郎やおりょうがきっと悔やむだろう。

「一人だったら、どうなっていたのかな?・・・・そういう時代なんだよね、ここって」

の居た世界では、女性の一人旅なんて珍しくもない。
日本だけでなく国外にも行動的に出かける女性もいる。
それに危険度で言えばそう変わらないだろう。
でも、携帯電話などという手軽な連絡手段もないここでは、何か起こってからが遅いだろう。
自己防衛手段も限られる。

「もしかしたら、斬られていたの、私かなとか・・・急に思って・・・・ごめん」

いつも明るく、優しい笑顔を向けてくれるが酷く怯えている。
賊退治のためとはいえ、一時的に一人にしてしまったことを幸村は後悔する。

「だからって言うか、今晩だけでも。幸村君が隣に寝ていてくれると、その顔が見えると安心できるかなって」

殿!」

「え?」

幸村がを抱きしめた。

「幸、村・・・君?」

「それがしが、これからも殿をお守りいたします!どこに居ても絶対、必ず!!」

だから、そんなに恐れる事はない。

「嘘偽りなく、これがそれがしの本心でござる。それがしは殿をこの手でお守りしたい」

「そ、そんな・・・大袈裟だよ、幸村君」

自分を抱きしめる幸村の力はとても強い。
圧迫されそうな気もするが、抱きしめてもらって安心している自分が居る。
いつも元気な年下の男の子。
やはり戦場を駆ける武将なんだなと感じられる力強さがある。
可愛さを見せる男の子などではなく、目の前にいるのは一人の男だ。

「大袈裟などではなく、それがし・・・・殿のことを・・・・・ずっとお慕いしておりました」

「え・・・・あ・・・・の」

殿。あなたのことを、ずっと・・・・それがしは・・・・・愛しく・・・・」

言ってしまった。勢いとはいえ、言ってしまった。
酷く心臓の音が聞こえる。緊張の汗も掻いてしまっている。
だけど、今言わないでどうするという思いがあった。
を守りたい。この手でと。
全てのものから、命尽きるまで守り通したいと。
自分が命を懸ける相手など、信玄以外いないと思った。
自分の命は信玄に天下を取らせる為のものだと。
だけど、もう一つ守りたいものができた。

殿の笑顔。それがしがずっと守っていきたいと・・・・」

「幸村君・・・・・」

幸村は政宗の正室のことをずっと想っているのではなかったのか?
ずっと静かにその想いをひた隠しにしていたような。

「幸村君は、伊達様のご正室様のことを好きだったんじゃないの?」

声が掠れた。
自分で訊ねておいて、酷く自分が傷ついたような気がし、チクリと痛みを感じる。

「あの方のことは・・・・確かに想っていた時期もありました。けど、それがし・・・その想いはとっくに薄れていたでござる。
忘れることができたのは、殿のおかげで、先ほども言いました、それがしずっと殿を好いていたでござる」

「・・・・・本当?」

「嘘などつけませぬ」

はそっと手を伸ばし、幸村の背中に回した。

「なんだろう・・・・すごく嬉しい」

幸村が嘘がつけない性格なのは知っている。
幸村の言葉がほんのりと、先ほどの胸の痛みを和らいでくれる。

殿」

回されたの手に幸村の体が強張る。

、殿・・・・良いでござろうか?・・・その・・・あの」

良いとはなんのことだ?と思いながらは顔を上げる。
その目に幸村の鼓動が一掃高まる。

「あ」

目が合うと、自然とは目を閉じた。

殿・・・・」

幸村はに口づけた。

「私も。幸村君のこと・・・・好きだよ」

恥ずかしながら、その言葉に幸村は涙が出そうになった。

「それがし、ずっと殿をお守りいたす」

その晩、二人は身も心も一つになったのだった。







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19/12/30再UP