合縁奇縁



ドリーム小説
「次に会う時は、いい結果でも聞かせてくれよ」

そう言って奥州へ帰っていった政宗。
いい結果は、政ではなくとのことだろう。
幸村はそれに関しては慌てふためくだけではっきりと返事をできなかった。
そんな幸村を見て政宗はただ笑うだけだったが。
甲斐も梅雨入りしたようだが、今年は少々雨が少ないようだ。
連日降られては川が氾濫して困りものだが、少なすぎると作物への影響が気になるものでもある。

「そういえば、去年の今頃は・・・・奥州におったなぁ・・・・」

政宗の奥方を送り届け、その帰り道だったと記憶している。
押し殺した想いをそのまま甲斐へ持って帰ってしまった。
だが、今はその彼女への想いはない。
ないというより、幸せでいてくれればいい。
幸村が願わずとも、それは叶えられているようでいいのだが。

「今年はどのような夏を過ごすのだろうな」

今の自分には想う人が新たにできた。
もうそんな想いはしないだろうと大袈裟に思っていたほどなのに。
毎日彼女の顔を、笑顔を見られるのがとても嬉しい。
今はそれだけで十分なのかもしれない。





【19】





「本当、お館様も、幸村君も。皆さん、満月堂に甘すぎというか優しすぎ」

は苦笑しながらも足取りは軽く、聳え立つ神々が住むと言われる山々を背にして歩いている。

「そ、そうでござろうか?それがしは本当に駿河に用があったからで・・・・」

「はいはい、そうしておきますー」

殿〜」

楽しそうなの後ろを幸村はゆっくりと着いていく。
現在二人は駿河に向かっていた。
事の発端はこうだ。
満月堂の主人六郎の実家は駿河にある。駿河は数年前に今川義元から信玄公が代わって治めている。
簡単に言えば戦で今川に勝った結果なのだが。
だからって、駿河をないがしろにするわけはなく、信玄はちゃんと領民を大事に守っている。
ある日六郎の実家から、その村で行われる祭りの手伝いが欲しいと言われた。
正確には六郎の実家が旅籠をやっており、その祭りの時期は客数がかなり増えるからなのだ。
その辺は人を雇えばいいのだろうが、六郎に満月堂の菓子を注文してきたのだ。
当然上生菓子は無理なのだが、保存が利く飴等をだ。
注文されたのでは届けなければならないのだが、手伝いには店がある六郎が行ける訳もなく。
かといって、幼い子どもを残しておりょうが行ける訳もない。
当然六郎夫妻に行ってもらう為に、一人に店を任せられるわけもなく。
店を休みにしてまで行くのも気が引ける。

「じゃあ。私がお手伝いに行きます。それならば問題ないですよ」

が言い出した。
確かに、菓子も届けられるし、手伝いに回しても問題はない。
ただ、一人を駿河に向かわせるのはいかがなものだろうか?
正直言ってはこの甲斐の城下町から出たこともない。
大人だと言えども、心配だ。
しかも女の一人旅などもってのほかだ。

「平気ですよ。一人旅ぐらい私できますって、そんな子どもじゃないんですから」

は心配するなと言うが。
その話をたまたま聞いていた佐助が。

「なら、護衛に旦那でもつけましょうか?」

などと言い出した。
旅のお供にこれほど心強い者はいないだろう。
だがは勿論六郎たちも反対する。
幸村は信玄に仕える武将様だ。そのような方をこっちの都合で使うわけにもいかないだろう。
だが、佐助は平気だとごり押してくる。

「偶然にも旦那に、大将から駿河行きを命じられているんですよ。だからちゃんはついでだよ」

あくまで幸村には理由があるから。
どうせならご一緒しましょうと言うのだ。
ならばお願いしようかと六郎達は佐助の案を受けた。
この話を聞いた幸村なのだが。

「は?それがし駿河に行く用など聞いておらぬぞ」

真田邸で団子を頬張りながらきょとんとする幸村。

「うん。俺が勝手にそう約束したから。大丈夫!大将にももう話はついているし」

「さ、佐助!何を勝手なことを!」

「だってさー。あーでも言わないと、ちゃん一人で駿河に向かうことになっちゃうよ?」

旦那だって心配でしょ?そう佐助に問われれば反論はできない。

「大将も別にいいよーって言ってくれたし。満月堂の職人さんに何かあってはならないからね」

信玄も嘘を嘘のままににはしておけないからと、一応ちゃんと幸村に駿河の視察を命じた。
これで正真正銘、共に駿河に行くことになった。
だけど、には話ができすぎていると、呆れられてしまうのがオチだった。
それでも、初めての遠出に喜んでしまっているので、悪い気分はしない。
確かに幸村が一緒ならば怖いものは何もないだろう。

「親方にね。色々勉強になるだろうからって送り出されちゃった」

「そうでござるな。その土地ならではのものもあるでござろう」

「ここには菓子の神様いる?」

「菓子の、神様?」

「そう。ちゃんと祭られている場所があるのよ」

旅先に祭られている場所があるならば、一度でもいいからお参りをしたいとは言う。

「日の本には八百の神々が住むと言われておられるが、菓子にも神様がおったのでござるか」

「有名なのは豊岡の中嶋神社かな。えーと・・・・兵庫だから・・・・播磨か摂津だよね、確か」

ここでの場所がいまいちわからないのだが、記憶を巡らせて確か旧国名はそんなだったような気がする。

「幸村君、知ってる?お菓子の起源は果物なのよ。和菓子は平安時代に唐から伝わったと言われているけど。
それよりもずっと前に朝鮮、その時は新羅から持ち帰ったお菓子があったんですって」

「そんな昔からでござるか!?」

「今でも大変なのに、当時田道間守命(たじまもりのみこと)が長い年月をかけたっていうのよ。
中嶋神社にはその人が祭られているの。だからね、私も一度は中嶋神社にお参りに行きたいって思っているわけ」

和菓子職人ならば一度はと思う場所なのかと幸村は感心する。

殿は本当に和菓子が好きなのでござるな。和菓子の話をする殿は楽しそうでござる」

「うん。大好き」

その言葉に、別に自分のことではないので、幸村は少しだけ恥かしくなる。

「い、いつか・・・・それがしも行ってみたいでござるよ、その神社に」

「そう?」

「播磨、摂津辺りは現在豊臣が治めておられる場所・・・・お館様が天下をお取りになれば
いつでも行けるようになるでござるよ!その時は、それがしが殿をお連れいたします!」

「幸村君・・・・うん、ありがとう。その時を楽しみにしているわね」

さぁまだまだ駿河への道のりは続いている。
と幸村は晴れ渡る空の下、駿河に向かって歩き続けた。



***



甲斐を出る前に、幸村は佐助に言われたことがある。

「この旅の間にさ、ガツンと決めちゃいましょうよ、旦那〜」

「は?決めるとは?」

またまた〜と幸村の背中をバシバシ叩く佐助。
容赦なく叩かれムッとする幸村。

「二人っきりの旅じゃないですか、ここらで旦那も男を上げときましょうよって話ですよ」

「ふ、二人っきりぃ!!?」

「何を今更言っているかなー旦那ったら惚けちゃってー」

幸村はの護衛役を引き受けたが、一人だとは実は思っていなかった。

「さ、佐助は行かぬのか?」

「行きませんよー。だって俺は俺で忙しいんですよ?」

「駿河ならば、そなただって行っても」

「残念でしたー。俺は大将の命令で豊臣の内情を探りに行かないとならならいんで別行動でーす」

と二人でなどと破廉恥だ!幸村は大騒ぎし始める。

「あのねぇ旦那。旦那が何もしなきゃ別にハレンチでもなんでもないんだよねー」

「そ、そうだな」

そんな勇気ないだろうしねぇと佐助は思う。
だけど、ある意味好機でもある。
幸村は現状のままでもいいと思っているだろうが、もう一歩ぐらい進んでも良いじゃないかと佐助は思う。
何より、幸村にだって幸せになってもらいたいのだ、今度こそ。
だってきっと幸村に対する気持ちは悪くはないはずだ。
ここ最近特にだ。
ただ女性と男性では恋愛に関して思うことが違うだろう。
幸村が押しても、があっさりそっぽを向くこともあるかもしれない。

「いい思い出をさ、作ってみればって話だよ。いっそのこと告っちゃうのもいいけどねー」

「こ、ここ告?告っちゃう?」

「誰も邪魔する奴いないんだしさ。駿河の海辺でちゃんに告ッてみればーって話」

「さ、佐助ぇ!!」

「あははは。旦那の顔真っ赤かー。別に今のままでもいいとは思うけどさ、もし今後ちゃんの前に
別の男が現れたりしたら嫌でしょ?それに。また明日会えるとは限らない時代なんだよ、今は」

佐助は茶化していた表情から一変させる。

「あ・・・・」

「伊達や上杉と同盟を結んではいるけど、戦は無くなったわけじゃない、豊臣との戦は避けられないんだよ」

幸村は先陣を切って信玄の為に戦うだろう。
不吉な話になってしまうが、戦になれば何が起こるかわからない。
もう二度と愛しい人は会う事が叶わないことだってある。

「旦那は一度目にしているじゃないか、独眼竜の旦那が目の前で大事な人を傷つけられた所を」

戦ではなかったが、二人の目の前で体が崩れていった彼女。
一命は取り留めたが、あの時の政宗は酷く青い顔をしていた。
いつもの余裕がある顔など、どこかに消えうせていた。

「旦那にだって起こりうることなんだよ?」

「・・・・それがしは・・・もし、そうなるならば・・・」

「隠していた方がいい?ちゃんに何も言わずにいた方がいい?」

それでもいいかもしれない。
自分がどこかの戦場で果ててしまい、二度と会う事ができないのならば。

「後悔するくらいならさ、言った方がいいよ。絶対。それで振られても別にいいじゃないの」

その時はその時。
きっと同じ状況になっても何かが違うはずだ。

「ま。とりあえず、ちゃんと無事に旅をしてきてくださいよ」

「あ、ああ・・・・そうだな」

それだけは誓う。
ちゃんとを駿河に送り届け、甲斐に連れて帰る。
それだけは。
告白などは考えてはいないが、この旅の間にに少しでも自分を見てもらえれば。
二人で良い思い出が作れればいいなと思って。



***



「潮の香りがすごいね・・・」

駿河へと入ってから、すぐには海は見えなかったのだが、1日ほど歩くと東海道に出た。
そこから海が見える。
思わず二人は海を眺めてしまう。

「そうでござるな。殿は、海は初めてござるか?」

「初めてじゃないよ。何度も見てるし、泳いだこともあるもの。でも、久しぶり」

は不思議な人だなと、たまに思う。
海で泳ぐなど幸村はしたことはない。
川でならばあるのだが。だが海で暮らす地域ならば普通なのだろうか?
そういえば、政宗に尋ねられた、の生まれはどこだと。
のそういうことは殆ど知らない。
別に知らなくても何も問題は無かった。

殿は、ここらの生まれでござるか?海沿いの」

「え?別にそうだというわけじゃないけど」

話してもらえないという事は、幸村には知る必要がないという事だろうか?
それはそれで少し寂しい気もするが、仕方ないだろう。
無理強いをして嫌われたくない。いつか話して貰えるのならばその時を待とう。

「さ。親方のご実家に行かないと。あ、幸村君はいいの?お館様からの言いつけは守らなくて」

「あ、そ、そうでござるな。とりあえず六郎殿のご実家まで送るでござるよ」

近くの領主の城にまで行って、簡単に話をしてこよう。
その後はまたの側にいるつもりだ。
六郎の実家は旅籠だというから、泊まらせてもらえれば幸いだ。

「私の事は気にしなくていいわよ?幸村君はしっかり任務を果たしてちょうだい」

駿河を視察を一応することになっているが、この辺りはすでにお祭りの準備などとで賑わっている。

「それがしの任務の一つは殿をお守りすることでもござるよ」

「私はお祭りのお手伝いに来ただけよ?幸村君もお手伝いするの?」

「それもいいでござるな。それがし、力仕事ならば」

「冗談よ。お武家様が何言ってるの・・・でも、ありがとう。幸村君に守ってもらえると安心できるから」

「そ、それぐらいお安い御用でござる」

を守るのは、大切な人を守りたいと思うのは当然だ。
そうしているうちに六郎の実家である旅籠に到着したのだった。










19/12/30再UP