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合縁奇縁
「何やっているんですか?旦那たち・・・・」 佐助が真田邸に戻ってくると、幸村が政宗に羽交い絞めにされていた。 「さ佐助ぇ!!た、助けてくれ!!」 「はぁ・・・・」 だがたいした事のようには佐助には見えないので、助けることなく放置している。 「素直に言えば解放してやるって言ってンだぜ?」 「べ、別にそれがしは!!政宗殿は気にしすぎでござる」 「そりゃあ気になるだろう。珍しいこと聞いてくるンだからな」 本当何しているのだろう、この二人はと佐助は呆れる。 そこへ一人どこかへ出かけていた小十郎が戻ってくる。 小十郎も佐助同様何をしているのだと呆れてしまう。 が。彼の場合、眉間に皺を寄せて今すぐにも主を叱りそうな感じもするが。 「右目の旦那。おかえりー。どうだった?場所すぐにわかった?」 小十郎は佐助に手に持っていたものを見せた。 それだけで、場所はわかったという返事に佐助には通じた。 小十郎はその場に腰掛ける。 「悪いが茶の用意を頼めるか?」 「あいよ。独眼竜の旦那の分だけでいいのかな?」 「お前たちの分もある」 ってことは4人分の用意かと佐助はすぐさま台所に向かった。 「政宗様。そろそろお止めください」 「あ?・・・・・しょうがねぇな」 小十郎にキレられる方が怖いので政宗は素直に幸村を解放する。 幸村は呼吸を整え小十郎に礼を言った。 「考えてみたんだけどー。4人分って、それじゃあ足りないよ?」 盆に急須に湯呑みを乗せて戻ってきた佐助。 「?」 小十郎は何故だ?と首を傾げた。 「だって、満月堂の和菓子でしょ?真田の旦那はあそこの上得意客ともいえるほど食うんだよ」 「「満月堂?」」 政宗は何のことだと思い、幸村ははっと息を呑む。 「政宗様に食べていただきたく。小十郎が店まで行ってまいりました」 そう言って、菓子箱の蓋を小十郎は開けた。 「な、なんと!!片倉殿は満月堂に行かれていたのか・・・・」 満月堂に行った=に会った。 政宗と会ってしまったならばということしか考えになかった幸村。 何か二人に起きてはいないかと、行き過ぎた考えが幸村の脳裏を駆け巡った。 【18】 佐助の口から、幸村の食いっぷりについて聞かされた政宗と小十郎。 だからって、これだけでは足りないと別に駄々をこねるつもりは幸村だってない。 元々は小十郎が政宗にと用意したものなのだから。 「ああ。昨日も見て思ったが・・・・見た目も綺麗で、美味そうだ」 菓子皿に取り分けられたものを見て政宗は満足げにしている。 「店の娘に選んでもらいました。どれも自慢の品だと言っておりましたよ」 「へぇ。娘ってことはちゃんに会ったんだ」 「確か、そんな名だったな」 「女将さんも綺麗な人なんだよ」 幸村も佐助も小十郎が買ってきてくれた練りきりに手を出す。 さっき饅頭を食べたばかりだが、別に苦ではない。 「優しい感じのする菓子だな、これは・・・・」 「優しい味でござるか・・・・・」 政宗は更に気に入った感じだ。 政宗の言う優しい味というのが幸村には引っ掛かった。 別にそれを否定するのではなく、確かに六郎の作ったものには非がないとても美味いものだが。 幸村には六郎のそれよりも、が作ったものの方がそう感じるのだ。 どちらにしても美味いには変わりないが。 「片倉殿・・・それは」 「ああ。これは」 幸村が小十郎の菓子皿の上のものに気づく。 他のものはどれも六郎の作ったものだというのがわかる。 幸村は毎日食べているものだし、それに小十郎の菓子皿のそれは幸村もよく知っているものだ。 「ばらでござるな」 「あ。ちゃんの作った奴だね」 佐助も気づいた。 「その娘、殿に選んでもらっていた時、そのばらというものだけ除外していたのが気になって」 何故だと小十郎が聞けば、これは自分が作ったものだからとは答えたそうだ。 せっかく六郎の菓子を気に入ってくれたのに、自分のモノを混ぜては勿体無いと思ったらしい。 小十郎が主の為にと満月堂へ来てくれたのだから。 だが、小十郎は逆にそのばらが気になり自分が食べるからと一緒にしてもらったそうだ。 「それがしは、そのばら。とても好きでござるよ」 「うん。悪くないよねー。ちゃんの作ったものも」 「俺もそう思った」 思ったから食べたいと小十郎は思ったのだ。 そして一口でばらを食べると、小十郎は美味しいと柔らかく笑った。 「なんだか、その女気になるじゃねぇか」 政宗だけ蚊帳の外という気がしてしまう。 「まあ、店に行っていないのは独眼竜の旦那だけだしねぇ。俺達はほぼ毎日顔を会わせるし」 それは仕方ないんじゃないの?と佐助は口にする。 恐らく今の一言で幸村が酷く緊張、焦っていることを察して。 小十郎の話し振りでは、彼のへの印象はそう悪くないようだし。 政宗ばかりに気をとられて、小十郎の存在を危惧していなかったのだ。 佐助から見れば、政宗も確かに見栄えよく女性にもてそうだが、小十郎の方が性格などから 更に女性を惹き付けるように見える。 真の敵は小十郎だろう。 (ま。だからって右目の旦那がちゃんにどうこうってのはないだろうしねぇ) 幸村は一つこうだと思うとそれ以外の答えが出ない人だから。 今頃どんなことを考えているのだろうかと笑ってしまいたくなる。 「満月堂か。さっき食った饅頭も美味かったし、帰る前に一度店に顔を出すか」 「そ、そうでござるか?それは良いでござるよ」 「へぇ・・・・そういうことか」 政宗は目ざとく気づいた。 幸村の態度がわかりやすいのかもしれないが。 「な、なんでござるか」 「小十郎。その主人の方は無理でも、娘の方、奥州に連れて行くか。あいつらにも食わしてやりてぇんだ」 「だ、ダメでござるよ!!殿を奥州になど!!」 「なんで、お前に反対されなきゃならねぇんだ?」 「そ、それは。あの・・・」 ああ、バカだなぁ。佐助は苦笑してしまう。 あっさり自分からばらしてしまった。政宗もわかっていて言っているのだろうから性質が悪い。 「政宗様。ご冗談はおやめくだされ」 「じょ、冗談、でござるか?」 「別にどっちでもいいけどな、俺は」 単純に職人を連れて帰るだけの話だと。 「政宗殿ぉ!」 どこまで本気なのだと焦る幸村だった。 *** 政宗が満月堂を訪れたのはさらに数日が過ぎたころだった。 ただ甲斐に遊びに来たわけではない、連日信玄との会談は続いたし奥州への指示を出すなど 中々忙しく過ごしていた。 「邪魔するぜ」 「いらっしゃいませ!」 満月堂の暖簾を潜った政宗をが出迎える。 一緒に幸村や小十郎、佐助もいたのでさらには笑顔になる。 「いらっしゃい。幸村君。佐助さん。それに片倉様もまたお越しいただけて嬉しいです」 店の看板娘だという。 和菓子屋なのに、店内には常連客とも思える姿が数人あり賑やかだ。 持ち帰りだけでなく、店内でも食べられるというのが人気の秘密の一つなのかもしれない。 「殿、外の縁台良いでござるか?」 「ええ。いいわよ。今日は天気もいいし、あそこは幸村君の特等席だもんね」 どうぞと幸村たちを案内する。 政宗は売りに出されている和菓子を眺めている。 「見事なもんだな・・・・やっぱり持って帰れねぇのが残念だな」 「お客さんも親方の菓子気にいってくださったんですか?」 「ああ。ここのほど美味い菓子を食った事はねぇな」 「ですって、親方」 ちょうど常連客たちと話ていたのだろう、店に出ていた六郎が政宗に頭を下げる。 は忙しなく動く。 幸村たちへ茶を出し、菓子の用意までして。 「注文とらなくてもわかってんのか?」 「幸村君はこの店の上得意様なんですよ。食べる量も尋常じゃないですし」 確かにが用意している菓子の量は一人分とは到底思えない量だ。 「お客さんは何にいたします?一応各種そろえて出しますけど」 「・・・・そのばらって奴くれ。小十郎が食っていたのが気になったんだ」 は一瞬戸惑ってしまう。六郎の味を気に入った人に自分が作ったものを出してもいいものかと。 小十郎がと言われて、目の前にいる人が小十郎の主だとわかった。 政宗はが戸惑っているのを見て笑う。 「幸村も小十郎も美味いと言っていたから、問題ないだろ。それに店頭に出してある以上それも売り物いいじゃねぇか」 「はあ」 「自分の作ったものに自信がもてなくてどうするよ」 何故そこまで知っているのだろうと思うが、小十郎や幸村から聞いたのかもしれない。 「は、はい。お出しします」 「合わねぇなら合わないでしっかり文句言ってやるよ。んで、指摘されたこと直せばもっといいものできるぜ?」 口は悪いが、政宗なりにが自信を持つように励ましてくれている。 「じゃあ、今お出ししますね・・・・あら、幸村君。菓子が待遠しいの?」 「?」 中々来ない和菓子ではなく、政宗が気になったのだろう。 幸村は入口からこっそり中を伺っていた。 「あ、い、いや。それがしは!!」 「アンタ・・・本当わかりやすいな・・・・」 「政宗殿!!」 ほら行くぞと政宗は幸村を促す。 が持ってきた大量の和菓子に政宗と小十郎は瞠目する。 なんだ、その量はと。さっきよりまた増えていると。 「やっぱり驚くよねー。旦那の腹可笑しいよ」 これの大半が幸村の腹の中に納まるというのだから恐ろしい。 「燃費悪ぃな、アンタ・・・・」 「あれだけ食べても幸村君は太らないから女性の敵なんです」 はくすくすと笑う。 に敵と言われて幸村は軽くショックを受ける。 「そ、それがしは別に敵とかその」 「別に本気で敵とか憎らしいとか思っているわけじゃないわよ。幸村君真に受けすぎ」 「も、申し訳ない」 二人のやり取りを見ていてボソッと政宗は呟く。 「ありゃ、将来尻に敷かれるんじゃねぇのか?頭が上がらないつーか」 「政宗様もさほど変わりはないと思いますが」 「俺のどこが!」 「そうだよねぇ。独眼竜の旦那。なんだかんだ言って頭上がらないよねー」 面白そうに佐助が言うので気に食わない。 「それに真田の旦那はあれでいいんですよ。本人あれで幸せなんですから」 「ほう。そりゃそうかい」 それにやる時はしっかりやりますよーとも付け加える。 「独眼竜の・・・ってことは伊達政宗様ですよね?」 が恐る恐る聞いてくる。政宗はそれがどうした?と聞き返す。 の眉が八の字になる。 「私の接客態度に失礼がなきゃいいなと。この国の偉い方は皆気さくすぎて・・・他国の方にもついと」 無礼なことをしていないかとは気になったらしい。 偉い方というと、信玄公かと政宗は佐助に聞いた。 「大将自ら、ここに来たこともありますしね。あの時、ちゃん旦那なのお父さんだと思ったんだよね」 「だって、あの時は」 「何やってんだ。虎のおっさんは」 本来ならば、こうして会話することも禁じられるかもしれないというのに。 だが政宗は最初から堅苦しい態度ではなかった。 「別に俺は気にしちゃいねぇよ。もっと態度がデケェ奴が奥州にいるしな」 「自分の奥方捕まえてそういいますか、政宗様」 そんな事を口にしながらも奥方のことをベタ惚れなのは誰だろうかと、小十郎は思うが。 「アイツは最初から俺にたてついたしな」 とにかく気にするなと政宗は笑った。 「良かったね。ちゃん」 「はい」 「真田の旦那の時は大変だったもんねー」 「「佐助(さん)!!」」 二人して佐助に言うなと迫る。 そんな反応に政宗が気にならないわけもなく、佐助になんだと話をさせる。 「もう。やめて下さいよ。あの時の事は反省しているんですからー」 「そ、それがしも。もうあの時の事はいいでござる」 「えー。面白いのにー。真田の旦那ってばさー」 「佐助!!」 本当、幸村はといると表情が違うなと政宗は見ていて思った。 町娘と幸村がねぇ・・・・と思いながらも自分のそう大差なかったわけだし。 好きならいいんじゃないかと、余計な口出しなど自分がする必要もない。 ただ、ふと気になったことがある。 「似てるな・・・なんとなく」 他の客が来たのでは店に引っ込む。 「政宗殿?」 「アイツと雰囲気つーか、まとっている物が似ている」 自分の奥方と。 「それはどういう意味でござろう・・・・」 「アンタは知らなかったか、アイツの生まれ育った場所を」 生まれ育った場所? 確かに知らない。別段不思議に思うこともなかったし、そんな話もしたことはない。 「って奴はどこの出なんだ?」 「・・・・さあ?それがしは知らないでござる」 「そういえば、去年の秋頃にここに住み込みで働き始めたよね。それ以前の話はしたことないし」 「ただ、時折それがしらには知らぬ事を口にするでござる・・・」 だからってそれが変だとか、可笑しいとか思った事はない。 「・・・・」 「政宗殿?」 「いや、別に気にすることもねぇだろ。だからって何が変わるってわけでもねぇしな」 政宗は練りきりを一つ口に放り込んだ。 19/12/30再UP |