合縁奇縁



ドリーム小説
信玄と政宗の会談時に出された満月堂の和菓子。
元々信玄の好物の一つでもあったのだが、政宗も意外に気に入ったようだった。
あまり自分から話す事はないのだが、政宗自身も料理はする方で。
菓子の類も自分で考案したりするらしい。

「土産にしてやりてぇが、流石に生菓子じゃ無理だな」

「わしとしてもそうしてもらいたいと思うが、こればかりは・・・」

その代わりといってはなんだが、滞在中はここの和菓子を好きなだけ堪能して欲しいと信玄は言った。
幸村も日参するほど気に入っている店なのだと付け加え。






【17】





「おぅ。真田幸村、暇なら手合わせしようぜ」

前々から願っていたことだと幸村は得物を手にした。
真剣勝負には変わりないが、戦のときのようなやり取りは出来ないのが少々残念ではある。
どちらも対豊臣では必要な存在だから。
それでも、邪魔はされたくないと思って、黙って邸を抜け出してしまった。
黙ってと言っても、佐助は恐らく気づいているようだから問題ないだろうと幸村も思ったのだが。

「政宗様・・・まったく・・・せめてこの小十郎に一言告げてからにして欲しかったものだが・・・」

奥州から唯一ついてきた家臣は主の奔放さに溜め息が出た。

「ま、好きにさせてやりなさいよ。旦那も一緒だし、前のようなことは起きないから大丈夫でしょ」

明るく笑う佐助に小十郎は更に溜め息が出てしまう思いだ。

「アンタもさ、好きに過ごしてみれば?もしかしたら独眼竜の旦那もそのつもりなのかもしれないよ?」

「と言われてもな・・・俺は別に遊びでここに来たわけじゃない」

「まあまあ」

小十郎は少しだけ考える。
だったらと佐助にある場所のことを尋ねた。

「結局それも独眼竜の旦那の為じゃないか」

「俺は別にそれを苦とは思わないんでね」

佐助は苦笑しながらもその場所を教えるのだった。



***



「んー・・・夏。夏っぽいもの・・・・暑さを和らげるもの・・・・うーん・・・・」

休憩時間に散歩しながらは考え事をしていた。
六郎に新作の菓子を一品考えろと言われてどんな物を作ろうがずっと考えていたのだ。
前回のばらはのいた世界ではごく当たり前に存在したものだから、今回は自分のオリジナルで作りたい。
そう考えていた。
でも、様々ものがすでに出回っている。
中々難しい気もする。
先日幸村と季節のモノを、散歩をしながら探したが、これというものは見つからなかった。
いい気分転換にはなったのでとしては、あの時間も無駄だとは思っていない。

「すぐ先のことを考えるなら、水饅頭とかかなぁ、練りきりも夏の花をあしらったものがいいだろうし」

悩むなぁとつい空を見上げれば綺麗な青空が広がっている。

「涼しげなものになっちゃうかな・・・それとも更に先を見越して秋のものにするか・・・秋」

秋と呟いて、もう自分がここに来て一年経とうとしている事に気づいた。
一年と言うにはもう少し先になるが、稲穂が揺れている頃だが。
そうかもうそんなになるのか。
少し前にもそんな風に思ったが、、自分はあれから少しは成長しただろうか?

「・・・・・あ。砂糖菓子・・・作りたいかも・・・・」

ここへ来るきっかけのあの日。
はある事に励もうと考えていた。
それのことを今の今までずっと忘れていた。

「それより飴細工がいいかな・・・」

なんだか少しずつワクワクしてきた。
作りたいもの、それが形になってきた感じがして。
まだぼんやりしている部分はあるが、このままいけば思い描くものができるような気がした。

「でもでも、飴細工も砂糖菓子も季節的に向かないから・・・葛にして・・・」

「おっと」

「?・・・きゃ!」

大きな影が出来たと思ったら、自分の体が後ろに傾いていた。

「危ねぇ!・・・・すまねぇ大丈夫かい?」

衝撃が体に来ることもなかったが、上から安堵する声が聞こえる。
気づけば逞しい男の腕に抱えられていた。

「あ、あの」

「ああ、悪い」

男はを解放する。

「い、いえ。私の方こそ、考え事をしていて・・・転ばずに済みました、ありがとうございます」

は男に深々と頭を下げる。

「俺の方こそ。何せ甲斐に来たのはまだ二度目なんでな」

「何かお探しですか?私もそう詳しいってわけじゃありませんけど、知っているものなら案内しますけど」

「そうかい?満月堂という和菓子屋なんだが」

は満月堂と聞いて思わずパンと両手を合わせてしまう。

「満月堂でしたら案内できます。私、そこで働かせてもらっているんです」

「それは助かる」

「では、ご案内いたします」

二人は歩き出す。
男は片倉小十郎とに名乗った。
主の護衛で甲斐まで来たものの、ちょうど時間が空いたので城下町に出てきたのだという。

「それで満月堂なんですか?」

「ああ。昨日そこの菓子を出されて。主がとても気に入ったのだ。だから今日も食べてもらおうかと思って」

昨日は話し合いの席で出された物だったし、それを相手方にまた頼むのも申し訳ないと思った。

「親方の和菓子は日本一だと私は思っているんですよ。だからなんか嬉しいです」

話には聞いていた。
六郎の和菓子の腕前は他国にも評判が良いと言うのは。

「だが生菓子だから勿体ないな・・・・」

「持ち帰りができませんからね。もっても二日ぐらいでしょうか」

小十郎は故郷にいる人に食べさせてあげたいと思うのだろう。
外見からすると強面で刀を腰に差しているので近寄り難い雰囲気を出しているが。
案外話してみると普通で。
実に礼儀正しい人だとわかる。
元々信玄公や幸村などここの国の偉い人たちが気安く接してくれるので、最初から
小十郎に安心して接してしまえているのかもしれない。
話し振りから誰かに仕えている人だというのはわかるし。
相手に失礼ではないかと思うので、一応言葉には気をつけているが。



***



一頻りいい汗を流した後、真田邸に幸村と政宗は戻ってきた。
佐助が茶や菓子を用意して待っていてくれた。

「小十郎の姿が見えねぇが」

「独眼竜の旦那が黙って消えちゃったから、しばらく好きにしたらどうですかーと」

空いた時間を好きに過ごしてみたらと佐助が提案したことを告げる。
小十郎も思うことがあって少し外を見てくることにしたと。

「まぁ、別に俺はかまわねぇがな」

政宗はどっかりと腰を下ろし茶に手を出す。

「俺は大将に呼ばれていますんで。失礼しますよ」

佐助は一瞬で姿を消した。

「おぉ、これは」

佐助が出してくれたものに幸村は嬉しそうに手に取る。

「饅頭じゃねぇか。それがどうかしたのかい?」

「政宗殿は昨日食べられませんでしたか?お館様の好物でござるよ」

美味い上生菓子は食べた。
見た目も綺麗で食べるのが勿体無いと思った代物だ。
あれも信玄が懇意にしている和菓子屋の主人に、頼んで作ってもらったものだと言っていた。

「饅頭はなかったな」

「だったら、食べてくだされ。この饅頭が一番の売りなのでござるよ」

「へぇ」

政宗は遠慮なく饅頭の一つを口に放り込んだ。

「お」

確かに言うだけあって美味い。
餡子の甘さもしつこくないし、皮も薄すぎず厚すぎず。また次へと手を伸ばしたくなる。

「どうでござるか?」

「ああ。美味い。虎のおっさんはいいもん食ってるじゃねぇか・・・とおっさんだけじゃねぇか。アンタもだろ?」

幸村ははいと力いっぱい頷いた。

「だが残念だな。ここでしか食えない代物だろ?」

「そうでござるな。土産にするにも奥州はちと遠すぎます」

自分が奥州へ向かうに流石に手土産にはできないと断念したし、しばらく食べることができなくてつまらなかった。
だが。

(あの時は殿がそれがしの為に作ってくださったものがあったから・・・)

その時を思い出し思わず口元が緩む。

「なんだい、気色悪いな。急に笑い出して」

「も、申し訳ない!」

別に謝られてもなぁと政宗は苦笑しながら二つ目の饅頭を頬張る。

「ここでしか食えないものか・・・その職人連れて帰るか?」

「だ、ダメでござるよ!!」

政宗の連れて帰ると言う言葉に幸村は酷く反応した。
この場合、作った主人。六郎のことなのだが、幸村の脳裏には別の人が浮かんだから。
もし万が一そうなった場合。
六郎一人で奥州へ向かうわけがないだろう。おりょうや一太郎、お初も一緒だろうし。
六郎に弟子入りしているだって・・・。

「なに、慌ててんだ、アンタ」

「い、いえ」

「別に本気で連れて行こうなんて思っちゃいねぇよ。そんな身勝手許されるかよ」

しかも信玄が特に気に入っている人を横取りする真似など。
折角の友好関係にヒビをいれるつもりはない。
和菓子職人一人でヒビが入るような関係もどうかと思うが。

「ただよ・・・アイツにも食べさせてやりてぇなと思ってさ。アイツだけじゃねぇ、猫や兵五郎にも」

アイツ。誰のことかすぐわかる。
だけど、今の政宗には大事だと思える存在が増えている。
幸村が久々に彼女に会った時、彼女は本当に幸せそうだった。
それが幸村にも嬉しかったから。

「それがしとしても、それは願う所でござりますな。でしたらいつか、甲斐に一緒に来てくださればいいでござる」

「・・・・それもいいな」

「あの・・・政宗殿」

「?」

「政宗殿も・・・色々悩んでいたのでござるか?」

「は?」

政宗は領主として背負うものが、幸村に比べて多い。そしてきっと重い。
だけど、彼女を必要としている部分もあって。

「その・・・政宗殿はいつも堂々としておられるから、こ、恋だとかそういうもので悩んだりしたのだろうかと」

ポカンと口が開いてしまう政宗。
今この男の口から何がでた?

「恋だって?」

「あ、あの!例えば、例えばでござるよ!!」

幸村は慌てふためく。顔は赤いし、思い切り動きが不自然だ。
そんな幸村を見て政宗はニヤリと笑う。

「恋ねぇ・・・へぇ。アンタにも想う相手がいるってことかい?」

「そ、それがしは別に」

「そりゃ悩んださ」

もっとからかわれるかと思えば、政宗は意外にも普通に答えてくれた。

「俺は相手の気持ちなんか無視ってぐらいに、一方的にアイツを手に入れたからな。
最初はひでぇもんだったぜ?嫌いだとか罵られるのが当たり前でよ。その癖俺以外の奴らと仲良くてよ」

小十郎や成実。それに自分の部下である若武者たちなど。

「あと、アンタもそうだったな。知ってたか?アイツにとってアンタは憧れの武将様だったんだと」

「そ、そうでござるか・・・・あは」

なんだか恥かしい。
幸村は政宗の隣で畏まって正座をしてしまう。

「だから、どうやったら俺の側に居てくれるかって沢山悩んださ。だけど・・・どれも強引な手段だったな」

嫌われて当然だと政宗は自嘲する。

「そうしていたら、今度は嫌われたくなくて大事にしようと。傷つけないようにしたことが裏目に出てな」

その後の事は幸村も知っている出来事に繋がるのだ。
佐助は傷つき泣いた彼女を見ていられなくて、逃げ場所を与えてしまった。

「随分遠回りした気がする。お互い意地っ張りだからな」

「政宗殿・・・・」

でも今はちゃんと幸せを手にいれたのだ。
気性が激しいとされる政宗の穏やかな顔をそばで見る日が出来たのだから。
ましてこんな話をするなど。

「それで?俺にここまで話させたんだ。アンタも何か思うところがあるんだろ?」

「え、あ、その。それがしは・・・ただ、聞いてみたかっただけで」

「言ってみろよ。今度は俺が聞いてやるぜ?」

「え、遠慮するでござるよ」

逃げようとする幸村を政宗が逃がすはずもなく。
話せと執拗に追いかけ始めた。
これではのことが政宗の耳に入るのも時間の問題だろう。








19/12/30再UP