合縁奇縁



ドリーム小説
午後の一時。
佐助が満月堂の暖簾を潜った。

「いらっしゃい、佐助さん」

「どうもー・・・えーとね、いつも通り適当に包んでよ」

「はい。少々お待ちくださいね」

は今日もせっせとこしらえた六郎のお手製和菓子を幾つか用意する。
その作業をしながら佐助に問いかける。

「最近、幸村君来ないけど。そんなに忙しいんですか?」

あ。コレも幸村好みだろうと一つ追加だ。
勿論この通常では考えられない量の和菓子の詰め合わせは、佐助が食すのではなく幸村だ。
だがその幸村が満月堂に来なくなって数日経つ。
別に今までだって来なかった日はある。
それは甲斐を離れていたり、執務が忙しくてなど様々だが。

「え?あーうん。まあそんなことなんだけどねぇ・・・・」

佐助にしては歯切れが悪い。

「佐助さん?」

「ん・・・・・・いやー実はね、真田の旦那・・・熱出して寝込んでいるんだよ」

「ええっ!?」

これも幸村が好きだったと取った菓子がポトンと落ちた。

「ああ。勿体無い!って、幸村君が熱?」

寒い中腹出しても平気でいた幸村が?は瞠目してしまう。
だがその割には日々満月堂の和菓子は佐助が買いにやってくる。
尋常ではない量を。

「あ。食欲はあるから」

「なんか流行り病とかじゃないですよね?」

「そんな大層なものじゃないよー。流行り病なんていったら、多分大将と旦那以外がまずかかるだろうし」

酷い言われ様だが、なんとなく納得してしまう。
あの二人が病に侵されるような感じはまったくない。

「旦那が心配?」

「心配しますよー。あんなに元気がいい子なんだもん」

佐助の意地悪な質問には心外だと怒る。

「ごめん。じゃあ見舞いでもしてやってよ。たいしたことがないんだ、本当」

この和菓子もが届けてくれればいいと佐助が頼んできた。





【14】





「ねぇね!どこ行くの?一もいくー」

六郎に幸村の邸に行ってもいいか聞いてみる。
和菓子を届ける役目もあるならと六郎は構わないと承諾してくれた。
おりょうも今では普通に店番できるので問題はないそうだ。
いざ、出かけようとした時、一太郎も行くと言い出した。

「一ちゃん。お姉ちゃんお見舞いに行くだけだから・・・一ちゃんに風邪でもひいたら困るでしょう」

「いーやー」

わがままを言う一太郎に困ってしまう。
だけど、佐助が別にいいんじゃない?とあっさり許した。

「佐助さん!だって」

「多分うつらないし」

「えー・・・・」

一体その根拠はどこから出るのだろうか?
佐助がいいと言うので嬉々として一太郎はの手を取り歩き出す。

「旦那の熱。知恵熱みたいなものだし」

「知恵熱って子どもがかかるものじゃないですか?ってやっぱり一ちゃん連れて行くのダメですよ」

「あー熱って言っても、その・・・・まあ、病気じゃないと思うし、あれ」

はっきりしない佐助。
本当、幸村はどうなっているのだろう。



***



への想いに自覚した幸村。
お堂でずっと考え込んでいたのだが、自覚してもさらにあれこれ考えすぎてぷっつり何かが切れた。
そしたら熱が出て倒れた。
を満月堂まで送り届けてきた佐助が真っ赤な顔して倒れていた幸村を発見し邸へ連れ帰ったのだが。
子どもみたいな熱を出し続けていた。
ただ、食欲があるので病気じゃないだろうというのは周囲の見解だ。
に会えば何か変わってしまうとでも思っているのだろう。
だけどいつまでもこのままではいけないと思いつつも、中々一歩外に出る勇気がなかった。

一応幸村にも与えられている仕事がある為に、それをこなそうとしつつも
元々机上のものは苦手で筆を握ってもまったく進まず机に突っ伏してしまっていた。
自分で満月堂に向かわず、佐助に小間使いのような真似ばかりさせてしまっている。
申し訳ないと思いつつも佐助も何か感じ取ってくれているようで頼みを聞いてくれている。
どれだけ悩んでも食欲だけは減らない自分が情けなくも思うが。

「ど、どんな顔で会えばいいのだろうか・・・・」

今までも見たいに笑えるだろうか?
どうも恥かしさのほうが上回ってしまう。
それと、は自分だけにあの微笑みを向けるわけではない。
店に来るどの客にも向ける。
今だってきっと佐助と何か楽しげに会話をしている頃かもしれない。

「うっ・・・・それがし、そんなに了見の狭かったでござろうか・・・」

筆を強く握り締めてしまう。

「幸村君に想われている人が羨ましいね」

本当にそうだろうか?
こんな了見の狭い男があなたを想っていると知ってそう思いますか?

「・・・・・前とは違う・・・・」

米沢にいる彼女への想いを知ったとき、ここまで悩んだだろうか?
彼女には表面上何も変わらずに接することが出来た。
確かにこの想いのことで悩みもした。
したけど、ちゃんとそれ以上伝わらないように止めていた。
その枷がない今のこの想いは、ただただ止まる術を知らないようだ。

「・・・・・・」

ふいに思い立って、あれをごそごそと文机の引き出しから取り出した。

「・・・・・・もう必要ないでござるな・・・」

それはいつか渡そうと思って用意した金の髪飾り。
渡そうと思った相手に渡せずずっとしまいこんでいた。
いや、渡さなくて良かった気がする。
自分の想いと一緒にしまいこんだものだ。
だけど、今はもう必要ないもの。
白い包みにしまいこんだそれをコトンと置いた。

「結局、あの頃と何も変わっていなかった・・・・」

違うと思ったことでも、根本的な部分が変わっていなかった。
前は慶次に、今回は信玄に後押しされた。
誰かに背中を押してもらわないと自分は進めていなかった。

「そのような弱き心でどうする。馬鹿者がぁ!!」

幸村の肩がびくりと動く。
きょろきょろ辺りを見渡すが声の主である信玄の姿は見当たらない。
幻聴が聞こえたようだ。再び文机に体を預けてしまう。
なぜ、急にこんな声が聞こえたのだろうか。
ああ、そうだ。あの武田道場でのことが脳裏を過ぎったのだ。
火男仮面と名乗る面をつけた男から言われた。
何の為に強くなるのだと。
あの時はただ信玄の為に強くなるのだと答えは一つだった。
なんとなくあの時言われたことが今と重なる。

「顔を背けたままでは、人は何も成せぬ」

これは強さに話であったが、今の自分に重なっている。

「恐れるな幸村!弱き己を認め、磨け!強き心を得てこそ、人は活きるのじゃ」

火男仮面にそういわれた。
結果、彼は信玄であったので、信玄に言われたのと同じであるが。

「それがし、まだ何もしておらぬ・・・・」

確かに顔を背けたままでは何もならない。
報われないと思ったとき、怖いと思った。だから逃げた。
でも、が攫われた時、ともう会えないことの怖さの方が大きかった。
だから認めのではないか、己の想いに。
がこの先誰を選ぶかはわらない。
自分か、自分ではない知らない誰かか。
それは仕方ないと思う。でも、何もしないままなのは嫌だ。

「・・・・・・?」

幸村の視界に突然子どもが映った。

「ゆきむらさま。おねんね?」

「い、一太郎!?」

ガバッと体を起こす幸村。

「そ、そなた。なぜここに」

「一ちゃん。先に行っちゃダメでしょ」

その声に幸村の顔が赤く、硬くなる。

、殿」

「あら。幸村君仮病なの?心配してきたのに」

が満月堂の和菓子を持ってやってきた。
佐助は茶を淹れて後から来るそうだ。

「あ、あの、そ、それがし」

「佐助さんにお使いさせて自分はゴロゴロしているなんてダメよ?」

でも、身形が夜着姿である幸村。
やっぱり寝込んでいるのは本当だったか?

「それとも、無理して仕事しようとしているならダメだよ、効率悪いから」

薬飲んでちゃんと休んでからの方がいいよと幸村を寝かそうとする。

「は、はしたない格好で申し訳ない。ですが、あ、その・・・だ、大丈夫でござるよ!」

「でも、顔赤いよ?熱があるって佐助さん言っていたし」

「も、もう大丈夫でござるよ!!」

ほら。と両腕を回す。
なんでもないと元気な様子を見せつけようとしている。

「そう?でも幸村君我慢していそうなんだもん」

確かに、今、色々なものに我慢しているが。

「無理しちゃダメよ?」

「は、はい」

が自分に向けてくれる優しさに口元が緩んでしまう。
満月堂のお客だから優しいのかもしれない。
でも、今はそれがどの客よりも自分にだけ向けられていることが嬉しかった。

(単純だ。それがしは・・・・)

一人でいると色々悩んでしまうが、その悩みも本人を前にするとあっという間に霧散してしまった。

「今日の和菓子はね。幸村君の好物ばかりだからね」

「それがし。満月堂の菓子で嫌いなものなどないでござる」

「そうだね。いつも残さず食べてくれるし」

が持ってきた和菓子を取り出していると、佐助が茶をもってやってきた。
幸村の顔を見て思わずニッコリ笑ってしまう。

「いやー。ちゃん連れてきて正解だったねー」

「さ、佐助!?」

「明日からは自分で満月堂に行きましょうね、旦那」

「う、うむ」

その前にここ数日の出来事を信玄に知られれば、拳が吹っ飛んできそうなものだが。

(政宗殿も沢山悩んだのござろうか?・・・・)

達と和菓子を食しながら、そんなことが浮かんだ。
最初から気持ちを隠さず前面に押し出していた政宗。
途中離れ離れになってしまっても、最後はちゃんと収まった。
あの頃は彼女のことばかり心配し、政宗のことに恨んでしまうようなことがあったが。
政宗側に立ってみれば、きっと彼も色々不安であっただろうと想像できた。
幸村に言われて、本当に一人で米沢から甲斐にやってきたくらいだ。
政宗は幸村と違って背負うものが沢山ある。
ある中で、彼女の為だけに飛んできた。
まだ自分は身軽な方だ。

(今度政宗殿に色々お伺いしてみるのもいいでござるな)

そんな余裕ができた。

「どうしたの?旦那」

「え、いや。なんでもない」

「ゆきむらさまー。これなに?」

一太郎には広い幸村の邸が良い遊び場のようで、ちょろちょろ動き回っている。
時折、大人しくしなさいとに叱られている姿もあるが。
その一太郎が先ほど幸村が文机に置いたものを見つけた。

「それは・・・」

中身を知らないとはいえ、虫でも捕まえているように包みを鷲掴みにしている一太郎。
そう簡単に壊れるものではないが、苦笑してしまう。

「一ちゃん。勝手に持ってきちゃダメでしょ?」

「いや、いいでござるよ。それはも・・・・用がないものでござる」

「?」

一太郎は幸村に包みを渡す。
幸村はゆっくりと包みをあけると、金の髪飾りが出てきた。

「綺麗なものね・・・」

女性としてはこういう物に興味があるのだろうか?が覗き込んできた。

「旦那、それ・・・」

直接目にしたことはなかったが、佐助にはそれがどういうものかわかっていた。

「それがしにはもう要らぬものだ」

「まあ、そうだろうね」

本当もう吹っ切ったんだねと佐助は安心できた。
冬に米沢に向かった時点で、大丈夫だとは思っていたが。
髪飾りを前にして表情が曇ることがないので心配する必要はないようだ。

「一太郎。そなたにあげようか?」

はギョッとする。子どもにあげるものか?と。
だけど、自分が欲しいとは思えなかった。

「いらない」

一太郎はきっぱり断った。
子どもには興味のないものなのだろう。一太郎が女の子であったならば話は別だろうが。

「そうか。そうだろうな。そなたにはこっちの方がいいだろう?」

まだ残っていた和菓子を一太郎に差し出す幸村。

「うん!」

一太郎は和菓子を貰って口に放り込んだ。

「うーん。では、これはどうしようか・・・・」

「しまっておけばいいんじゃないですか?別に無理して処分することないでしょ?」

佐助に言われてそのだなと幸村は髪飾りを包みにしまいこんだ。
はそのやり取りを黙ってみていた。
何か曰くのありそうな代物。髪飾りなどというものは贈るならば女性だろう。
きっとその相手は、いまだが会ったこともない人。
佐助から少しだけ聞いた伊達政宗の奥方のころだろう。
それ以外にも幸村には恋愛に絡んでいそうな女性はいるかもしれないが、幸村と出会ってから
彼女以外の話は聞いた事がないので想像がつかない。

(もう要らないものって・・・そっか。相手奥さんだもんねぇ)

不倫が出来るような器用な子ではないだろうと思っているが。

(でも、そういうの贈るような相手なんだね)

その奥方が幸村の想いを知っているのだろうか?

(少し切ないね、なんか)

少しばかり幸村に想われているその奥方が羨ましいと思っただった。









19/12/30再UP