合縁奇縁



ドリーム小説
紅蓮のニ槍を手にして幸村は走る。
目的の場所に向かって。
が何者かに攫われた。自分の目の前で。
殺気など感じず、相手が自分の懐に入ってくることにまったく気づかなかった。
まだまだ未熟者だと知らされる。

相手に心当たりがあるかないかと言えば難しい。
上杉、伊達と三国同盟を結んだものの、敵対している勢力はいくつかある。
一番油断ならぬは豊臣だが。
だがそれ以外もあるし、甲斐信濃は信玄が治めているとはいえ
豪族たちの中には反感を抱いている者もいるだろう。
それらが幸村を狙っての所業かもしれないとも考えてしまう。
考えつつも、直接幸村にというのがまた考え込んでしまう。
幸村はぶんぶんと首を何度も横に振った。そんな理由はどうでもいい。
今はを助けるのは先決なのだ。

「申し訳ございません!お館様。しかし、この幸村身命をとして必ずや殿を助け出してみせまする!!」

ここにはいない尊敬する御仁に向かって言い放つ。
信玄が知れば「馬鹿者!」と空の彼方まで吹っ飛ばされてしまうだろう。
無事に戻った時に、未熟な己を叱って欲しいと思う。

殿。どうかご無事で!!」

同時に己の中に芽生える何か。
くすぶっているそれが、知らずに大きくなっているようだった。

「うぉおおおおお!!」

普段から暑苦しいくらいに熱気を帯びた幸村が、雄叫びをあげながら走っているのを見て。
町中の人たちは思わず道を譲ってしまうのだった。





【13】





はとても困惑していた。
林の中にぽつんと建てられたお堂に連れてこられた。
攫われたのだが、恐怖心よりも何故?という気持ちが強い。
なぜなら。

「・・・・・」

「本当っごめん!無理矢理攫う真似なんかしちゃってさ」

パンと気持ちいい音がするくらいに手を合わせて平謝りする相手。

「・・・・・・」

「俺も一応仕事でやっているわけなんでさー・・・・あー・・・・言いたいことわかる」

「理由教えてくださいね、佐助さん」

「はい」

がっくりと肩を落とす相手。
を攫ったのは佐助だったのだ。
幸村が攫った相手から殺気を感じるはずもなかった。
佐助は幸村に殺気を放つこともないし、普段から彼の気配にそう危機感を感じることなどない。
お互い信頼しているのだから。

「お仕事って言っていましたけど?」

「うーん・・・本当参っちゃうよね」

佐助は後頭部を掻く。
かったるそうにポーズをとりながら。

「俺って真田の旦那に仕えてはいるけどさ、その旦那が仕えている人からも仕事を命じられるわけでぇ。
・・・つまり逆らえないってわけね。その人にやれと言われればねー」

幸村が仕えている人と言えば。

「お館様?」

「そっ。まあ・・・なんていうか・・・・」

佐助は歯切れが悪い。
元々信玄は幸村の気持ちを試そうとして、佐助にを攫うよう命じたのだ。
ちなみに、ちゃんと事前に満月堂の六郎夫妻には話が通っているので余計に性質が悪い。
夫妻には幸村の修行の為に協力してくれといい、夫妻は喜んでそれを承諾した。
佐助もには修行だとしか言いようがない。

「大将が旦那を試す為の囮にちゃんを使っちゃったわけなんだ。ごめんね、巻き込んじゃって」

「幸村君のためか・・・・なら別に気にしなくても」

元々攫った相手が佐助だとわかった時点で怒りなどなかったわけだし。

「幸村君の修行の為なら喜んで付き合うわよ」

ニコニコっと笑うに佐助は罪悪感が沸いてしまう。
ちくちくするその胸に自分も甘くなったなあと嘆いてしまう。
佐助の方が修行するべきじゃないかと思えてしまうくらいで。

「ちょうどね。幸村君に何かお礼がしたいなって思っていたから」

小さなことでも役に立てるならばとは進んで手伝うと言ってくれた。

(あーもー・・・・なんか、本当罪悪感わくなぁ・・・)

愛想笑いしか出なくなりそうだ。

殿ーー!!」

幸村の声がした。

「なんとまぁ。お早いお着きで・・・・んじゃま、さくっと仕事しますか」

本当はやりたくないのだが。
佐助はくるりと回転すると、姿を幸村に変えてしまう。

「え。その姿」

「えへへーすごいでしょー俺様こんなこともできちゃうんだよー」

幸村の顔ですっ呆けた声が出てくるとは思わなかった。

殿!ご無事でござるか!!ぬっ・・・そ、その姿は」

幸村がお堂に突入してきた。
もう一人の自分がいるではないかと面食らう。

「幸村君!」

殿!」

だがその後ろにいたの無事な姿に幸村は安堵する。

(あーあー・・・・そんな顔されちゃうとやりづらいなぁ、俺様)

見るからにホッとしているのがわかるから。

「お主!なぜ殿を攫う!それがしに用があるならそれがしにかかってくればいいだろう」

「彼女を助けたければ、この真田幸村を倒してからいうんだな!」

佐助は幸村と同じ得物を取りだす。

殿!今しばらくの辛抱を。この幸村必ずお助けいたす!」

「あ、うん」

真剣な幸村。
別に体の自由を奪われているわけではないと気づけばいいのに。
そこが幸村らしいなとは笑ってしまった。



***



「ってぇ〜あーもうやってらんないよー」

最初からやる気のカケラも見せていなかった佐助だから、あっさりというより
程ほどに幸村と戦ってから負けてしまった。
その際、お堂の壁を突き破って外に吹き飛ばされた。

「あ・・・佐助さん」

修行だから仕方ないのかなと思いながらも、佐助が心配になる
その飛ばされた佐助は変化の術も解けてしまいぶつけた体を摩っていた。

殿!ご無事ですか!!?」

に駆け寄る幸村。

「う、うん。私はなんでもないよ・・・」

「良かった。それがしの所為で、殿を巻き込んでしまったのかと思い・・・・」

怪我の一つでもしていたら本当に申し訳が立たない。
は幸村の頭をつい撫でてしまった。
子ども扱いしてまうことになろうが、かっこよく助けてくれたのにも関わらず。

「巻き込まれたなんて思っていないよ。ありがとう幸村君。助けにきてくれて」

少しは幸村の修行になったのであれば、いいような気がする。

「あ。また頭撫でちゃった」

は小さく笑う。

「・・・・・殿っ」

幸村は手を伸ばした。
伸ばした手、腕はしっかりとの体を包み込んだ。

「何事もなく、幸村。安心いたしました」

「・・・・・え、あの」

ギュッと強い包み込むその力には驚く。
驚きつつも幸村も武将様なんだなとぼんやり思う。
強い力に苦しいはずなのに、圧迫感はない。
むしろ。

「あったかいね。幸村君は」

「うわああああ!!も、申し訳ない!!そ、それがし!!なんと破廉恥なことを!!」

自分のしていたこと(無意識)に気づき幸村は慌てて離れる。
心臓が酷く鼓動を打っている。

「ハレンチって・・・うふふ」

久々に聞いたそんな単語。

「真田の旦那」

「佐助。ん?どうしたその顔の傷は」

佐助が姿を現すも、どこかボロボロなのに幸村は不審に思う。

「え?あ、ああ。いやちょっと任務でね・・と、ちゃん、そろそろお店戻ったほうがよくない?」

「あ。いけない。店番だったのに」

「六郎殿も心配なさっておられよう。それがしが理由を説明するでござるよ」

ついでに送って行こうと。
というより、帰りにもが狙われでもしたら大変だろうと。
幸村は腰を上げる。

「あ。俺が送ってきますよ」

「い、いや。別にそれがしが・・・」

シュンと耳と尻尾が垂れた。
そんな風に子犬のように見えるのは気のせいだろうか?
いや、気のせいではないだろう。

「旦那はまだやることがあるらしいんで」

「やること?」

「じゃあ、ちゃん行こうか」

「は、はい。じゃあ幸村君またね。あと、本当に今日は沢山ありがとう」

やんわり微笑まれてしまい、幸村の頬に朱が走る。
佐助と共にが帰ってしまったのが寂しく感じた。
やることがあると言われても別に心当たりはないのに。

「・・・・・ずるいでござるよ、佐助・・・・」

寂しく感じながら、すらりとそんな言葉が出てしまう。

「まだまだじゃのう。幸村よ」

「お、お館様!!?」

どこからともなく姿を現した。いや降臨した信玄に腰を抜かす幸村。

「お、おやおやおやおや、お館様。な、なぜ!?」

「ふっ。お主が漢らしくないのでな。ちと試させて、いや己の心を確かめるよう仕向けたのだ」

「?」

信玄は拱手し幸村の前に君臨する。

「それがしの心。でございますか・・・」

「そうじゃ。幸村よ、殿が攫われてしまったとき、その無事を確認できた時、どう感じた?」

信玄から見て、幸村がに好意的だというのは見てわかった。
だが、まだその先を踏み出せないでいるような感じがした。
親馬鹿というか、親心というか。見ていられなくて。
幸村が米沢にいる伊達殿のご正室に特別な感情を抱いていたのも知っている。
その所為で、きっと今その一歩が踏み出せないのがわかった。
漢らしくない。
そうきっぱり言ってしまってもいいのだが、佐助にできれば余計な真似はするなといわれてしまった。
余計に拗れてしまったら困ると。
それでも何かしたくて、余計な真似をしてしまった。
最初からに手荒な真似はするつもりはなかったし、単純に想いから逃げようとしている幸村に。
その想いに真正面からぶつかって欲しかったのだ。

「え」

「それをよく考えるのだ!」

ビシッと太い指を指し向けられる幸村。

「話はそれだけじゃ」

そういい残し信玄は去った。
その感じたこと、考えた事は別に信玄にわざわざ告げなくてもいいらしい。
お堂にぽつんと取り残された幸村は律儀に信玄の言われたとおりに考え始めた。



***



満月堂までの道のり、佐助が一応こうだという事を説明してくれた。
ただ本筋だけは話さず幸村の修行だと通し続ける。

「えー親方も知っていたんですかー。なんかずるいなぁ」

「まあ、仕方ないよ。大将に頼まれちゃあね」

誰がこの国で信玄の頼みに嫌と言えるだろうか。

「でも。なんか修行になっていなかった気がするんですけど?」

佐助がなんとなく手を抜いている様子だった。
それは戦闘の素人であるが見てもわかることだったから。

「あーなんていうか、今頃修行の続きしているだろうし・・・・精神修行っての」

「はあ・・・中々大変ね、武将様ってのも」

きっと沢山疲れただろうから、明日店に来た幸村に沢山サービスしてあげよう。
そんな風に思った。

「いやー大変だね、まったく」

色んな意味で。と佐助は口にせずに深く頷いた。



***



座禅を組み、幸村は信玄に言われたことを考える。

「それがしは・・・」

が攫われた時、向けられた微笑みがなくなり自分の所為かもしれないと思うと苦しくなった。
無事な姿が見られたとき、本当に心底安堵した。
また向けてくれる微笑みに嬉しくて。

ああ。あの頃の想いだ。
初めから報われないと知っていた頃。あの頃に感じたものと同じだ。
だから怖くて蓋をした想いが、認めたくないと思った想いがちゃんと形になっている。
もう我慢できずにどんどん自然と溢れていたのだ。

「それがしは、殿のことを・・・」

今は報われないことより、あの微笑みが消えてしまうのが怖い。
小さな想いはいつの間にか大きく育っていた。

もう我慢しなくて。
もう諦めなくていいのだろうか。

殿。それがし・・・あなたのことを愛しく思っております」









19/12/30再UP