合縁奇縁



ドリーム小説
桜、桃色だった辺りも段々と新緑に覆われている。
吹く風もたまに身をすくめてしまう時もあるが、基本的に肌にあたるそれはとても心地良い。
満月堂では、春の新作として見た目も味も抜群なものが並べられて売上げは順調だった。
中でも上得意な幸村が喜んで食している。
そんな幸村を見るとも嬉しくなるが、だが少しだけ落ち込みもする。
でも、それを気づかれたくなくては笑う。
日々変わらないようで、少しずつだが変化は訪れていた。





【12】





躑躅ヶ崎の館。信玄の室。

「うむ。相も変わらず満月堂の菓子は美味いのう」

満足そうに菓子を頬張る信玄。
一番の売れ筋で、先代主人の頃からも食していた満月堂饅頭。
信玄の好きなものはそれだ。
この饅頭が毎日食べられればいいなと思うが、あまり食すぎてもいけないだろうから。
週に一度にしている。
しているとは言っても、他の菓子も好んで食うのであまり関係ないだろう。

「それは良かったっすねぇ。真田の旦那も毎日通っていますしね」

報告を兼ねて信玄のそばにいた佐助。
はいと新しいお茶を注ぐ。
淹れたての茶をぐいっと豪快に飲む信玄。

「通う理由は菓子だけか?」

「ありゃ。大将それはどういう意味で?」

「はははははっ。見ていればわかるわ!」

「ま。そうっすよねー・・・気づかないの多分当人たちだけっすね」

ただ。幸村は気づかない振りをしているし、は一歩身を引いてしまっている。
それは佐助達も知ることはない。己の心の中のみの話だ。

「うむ。あのという女子。中々良い娘じゃ。幸村に似合いではないか?」

そうそう何度も会えているわけではないが、信玄はが気に入ったようだ。

「旦那にはあーゆーしっかりした子が確かに似合いっすよ」

幸村をしっかり叱ってくれる人だから。

「うむ。そうだろう・・・・」

ニマニマと笑みを浮かべている信玄。
何を考えているのだろう。

「幸村にもそろそろ嫁をと常々思っていたところじゃ」

「はあ・・・・ですが、大将・・・・」

「余計な真似はするなと?」

それはそうだ。できればちょっかいなど出さずにいて欲しい。
大物があーだこーだと首を突っ込んでくれば、二人とも何も反論もできまい。
この話の流れでいくと、強引にでも幸村とに縁談でも持って行きそうだが。
きっと二人の関係が変わってしまいそうだ。
お館様に言われたならば仕方ないと。
別にそういう縁談はいくらでもある。上手く言った例もある。
だけど、できれば二人にはそれは避けてもらいたい気が佐助にはするのだ。

「なに。心配するような事はせんよ」

「本当ですかぁ?」

あまり信用できない気がする。

「無論!」

信玄は満足そうに残っている菓子に手を伸ばした。



***



信玄が何か企んでいるようである。なんてことは露知らず。
幸村は満月堂の新作菓子を堪能していた。
勿論いつも通り他のものも食べている。
温かいを通り越して少し暑いような日もあり、幸村は外の縁台を陣取っている。
よほどの悪い天気でない限り、ここに幸村は座っている。

「本当。一年中満月堂の菓子を食べているのね。幸村君って」

「はい。来れる日は欠かさず通っていたでござる」

まだが満月堂の世話になって一年未満だが半年はここで過ごしている。
不思議なくらいにここに馴染んでいるのは六郎一家や幸村たちのおかげだろう。

(普通はどうにかして帰ろうって思うんだろうけど・・・・)

帰る。元の世界と言われた場所に。
だけど、不思議と里心などが湧かない。そうさせる何かがあるのだろうか。
それとも考えないようにしているのだろうか。

殿?いかがなされた?も、もしかして具合でも悪いのでござろうか!?」

急に慌て出す幸村。
黙りこくったを心配したのだろう。

「なんでもないよ。心配かけちゃって、ごめん。ありがとう」

ふんわりと微笑まれると幸村の頬に朱が走る。

「い、いえ・・・それがしは・・その・・・」

「?」

「ふ、普通でござる!殿が元気がないとその・・・それがしで良ければ!話ぐらい聞くでござる。だから」

一生懸命な幸村にはなんだか癒された気分だ。

「ありがとう。本当、幸村君はいい子だなぁ」

「こ、子ども扱いしないでくだされ」

「ごめんごめん」

つい笑いが漏れてしまう。

「幸村君に想われている人が羨ましいね」

幸村が何にでも一生懸命で。
の言葉に幸村の顔がさらに赤くなった。

「あ、あの殿!!?」

「からかっているわけじゃないから」

「・・・・あ」

幸村は言葉が紡げなかった。
その先何を言えばいいのかわからなかった。
はその後すぐに他の客に呼ばれてしまい幸村のそばから離れてしまう。

「幸村君に想われている人」

なんだかとても切ない。
過去に報われなかった想いがある。
彼の人は別の男性と幸せだ。それを思うとそう思えるだろうか?
隠してしまった想いの行く先はどこなのだろうか。
きっとどこでもない。
消化しきれずくすぶっている。
普通ならば今度は報われるように別の誰かを好きになるだろう。
幸村には器用にそれができないでいた。
そんな中で出会った
周りはやけに彼女と自分の中を疑う。
幸村だって、のことは嫌いではない。
じゃあ好きか?

人としての好きであるなら、尊敬すべき点もあるし、好きだ。

それではダメだ。
きっと大方の言う好きというのは、男女の間に芽生えるもののことだろう。
以前自分にもあった想いの好きだ。

そう問われてしまうと、どこかで一歩線引きをしてしまう自分がいる。
意気地なしの自分がいる。

「まだ・・・・それがしは・・・」

動けない。動きたくないのかもしれない。
それでも「幸村君に想われている人・・・・」などとに言われて心の真ん中がキュッと痛くなった。

「幸村君。おかわり食べる?」

に声をかけられた。
幸村は顔をあげる。いつの間にか食べる手も止まり俯いていたようだ。

「え?あ、い、いただくでござる」

「気にさせちゃった?お詫びッてわけじゃないけど、はい」

は縁台によもぎ団子を乗せた皿を置く。

「気にとは?」

「眉間に皺よせて考え込んでいるんだもん。さっきのことなら本当に気にしないでなんでもないから」

つんと幸村の眉間には触れた。
思わず幸村は触れられた箇所を押さえる。

「まだまだなんだけどねー・・・・このよもぎは私が取ってきました」

「ほえ?」

団子を頬張るとがしゃがみこんで下から幸村を見上げて見ている。

「少しだけ幸村君に愚痴っていいかな?あーまあ聞き流しても言いし」

幸村が返事をする前には語る。

「親方に弟子入りして半年は経つけど、本当自分の腕が未熟だって思うわけ。
幸村君も親方の春の新作食べているとすごく幸せそうな嬉しい顔をしているのよね。
私もいつかお客さんにそんな顔させられるもの作れるのかな?って、いつかじゃなくてできるのかな?って不安になる」

盆を懐に、頬杖をつく
こんなは初めてだ。

殿・・・」

「・・・お客さんが美味しかったよーって言ってくださっても。それは私が作ったものじゃないし」

別に嫉妬しているわけではないと思う。
嫉妬ができるほどの腕前はにはないのだから。

「なんだろうね・・・」

困ったような顔をする
六郎のそばで和菓子作りの勉強ができるのは喜ばしいのに。
今更焦りが出てきたのだろうか?

「それがし。日々お館様の為に強くなりたいと思っているでござる」

ん?と幸村に目を向ける。

「ではどうすれば良いのかと言えば、それはやはり日々の努力でござろう?
毎日の鍛錬を疎かにせず、己を鍛える。それしか道はないと。和菓子の世界も同じではござらぬか?」

「・・・・」

殿が努力していないとは思っていないでござる。だけど、悩む前に少しでも努力すれば報われるはずです」

「・・・・・・・・うん。そうだね」

思えばただ手伝いをしていたわけではない。
六郎のそばで勉強はしてきたつもりだ。目で見て、食して、実際に自分でも作ってみて。
少しずつ任されることも増えていたのに。

「ありがとう、幸村君」

は立ち上がる。

「い、いえ。生意気言ってしまったでござる・・・あ。ああっ!殿!?」

幸村はどもる。
なにせ、が幸村の頭を撫でてきたからだ。

「あはっ。ごめん、なんか無性に幸村君の頭撫でたくなった」

完全に子ども扱いされているなぁと幸村は少々へこむ。
はようやく手を引っ込める。

「幸村君はやっぱりすごいな。私なに生意気に悩んでいたんだろう」

「誰だって、思い悩む時はあるでござるよ」

「幸村君も?」

「そ、それがしだって色々ありまする」

失礼なと幸村は恨めしそうにを見る。

「それもそうだねー」

ようやくいつものに戻ったようだ。
彼女は微笑んでいてくれる。
それが幸村は嬉しかった。
ほんわかと、じんわりと沁みていく温かさ。
が笑うからつられて自分も笑えてしまう。

「米沢に向かう時にいただいた菓子。美味かったでござるよ、本当に」

「・・・そう?」

「それがしは、いただけて本当・・・・嬉しかったでござる」

「うん。まだまだ頑張れちゃうよ。ありがとう、幸村君」

「い、いえ」

「うふふ。今日、私は幸村君にたくさんお礼を言ってるなぁ」

なんとなく、言葉だけでは足りない気もする。
幸村は本当にいい子だと子と言うより、人としてそう尊敬できる。

(本当・・・・こんな子に真っ直ぐ想われて羨ましいね、伊達の奥方様が)

ほんの少しだけ佐助に聞いた話だが。

殿?」

「んー。なんかね、お姉さんは幸村君にお礼がしたい気分なんだけど?」

かと言って、自分で何ができるだろうか?
稼ぎから行けば、年下とはいえ、幸村は信玄に仕えるお武家様。
満月堂で好きなだけ毎日菓子を食べられる人だ。
金銭面で敵うはずもない。

「れ、礼など別に」

「私に出来ることだと限られるけど、遠慮なく言ってくれていいんだよ?」

ここに佐助や慶次がいたならば。

「幸村。のこと誘ってみ?」

「逢引の約束いいよねー」

な事を言われてしまうだろう。幸村にしてみればいなくて良かったと思える。
幸村にはそこまで頭が回らないと思うが。

「それがしは、殿がいつもの殿でいてくれればそれだけで」

「幸村君・・・・」

無性に照れてしまう。
いつもの私って?幸村のことを子ども扱いするような?
恥かしい。
でも、幸村は利益とかを考えていないのだろう。
純粋にそう思ってくれている。疑うことなどできない真っ直ぐな子だ。

「照れちゃうんですけどー?ま、いいや。幸村君がそう言ってくれるなら、あ、でもそうだなぁ・・・」

少しぐらい何かをが考え始めるが。横なぶりの風が吹いた。

「!?」

突風が吹いたと思った瞬間。

殿!!?」

が持っていた盆がカランと音を立てて落ちた。
あっという間の出来事で、幸村の前からが姿を消した。

「誰だ!」

確かに人だった。
影がを攫ったのだけは幸村にもわかった。
幸村が追いかけようとするが、足元にクナイが突き刺さる。

「・・・・文?」

クナイには料紙が縛られている。
幸村はそれを取り中身を読む。


 娘は預かった。返して欲しければ指定の場所まで一人で来い。


差出人など書いていなかった。
誰が何の為にを?
自分と常に一緒にいるところを知っている人間の仕業か。
敵国の忍か?幸村は文を握りつぶす。

「許さぬぞ!!」

自分の戦いにを巻き込んでしまった。
そういう後悔なども湧きあがるが、今は彼女を救い出さねば。
ただただの無事を祈り幸村は駆けだした。









19/12/30再UP