合縁奇縁



ドリーム小説
「そろそろ幸村が帰ってくると知らせがあったぞ、佐助」

躑躅ヶ崎の館、大広間で武田信玄が佐助に告げた。

「あーそうですか。無事に帰ってきてくださればいいですよ、俺としては」

何せ、自分達にお給料を払ってくれるのは幸村なのだから。
中部・関西・奥州など東日本が各地の大名が手を結んでいる分安定している。
互いの当面の敵が関西を拠点に置いた豊臣だから。
だが、豊臣を倒した後に。この関係が破棄されまた戦になるやもしれないという危機感は多少ある。
だが、信玄には妙に確信があった。
この関係は案外良好のまま進むのではないだろうか?
戦がなければないでそれに越した事はない。
信玄の願いは民が平穏に暮らせる世を作ることなのだから。

「春風と一緒に帰ってくるか、幸村は」

「なんか、旦那の性格とか考えると春じゃなくて、夏ですよねぇ」

暑苦しい感じが。
ただ、頭の中身が春である場合もあるが。

「ところで、佐助よ」

「はい?」

「でかけるぞ。ちと着いて参れ」

信玄は立ち上がる。
出かけるってどこに?と思いながら佐助は護衛の意味がある場所なのだろうと気を引き締めた。
幸村に何かがあっても困るが、信玄に何かあるほうがもっと困るのだから。





【11】





「・・・・・い、一応土産は用意したのだが・・・・よ、喜んでもらえるでござろうか」

行きと違って帰りは一人旅となった幸村。
道中を一緒にした慶次は途中までは一緒だったが、目的の場所が甲斐ではなく越後だった為に別れた。
その際。

「また今度甲斐に行くからよ!その頃までにはにバーンと告白でもしとけよ!」

などと言われてしまった。
告白などとんでもない。
慌てふためく幸村などお構いなしに慶次はご機嫌で手を振ってさっさと行ってしまった。

「こ、告白など、それがしは・・・・」

なんだか気落ちしてしまう。
怖いのだ。色々と。
自分に芽生えた想いが、成就しなかったときのことが少々根付いてしまっているので。
相手が幸せならばそれでいいと思った事は間違いではない。
米沢と甲斐では遠くはなれているから、そんな姿を見ることなく済むから思ったのかもしれない。
そう考えると、自分はとても小さな存在だなと思ってしまう。
周りが思うほど、自分はそんなにいい人でもなんでもないのだ。
との今の関係は幸村にとって心地良い場所だ。
大好きな甘味を食べながら、他愛のない会話を楽しむ時間が好きだ。
もし、今幸村がに何か告げたとしても、受け入れられなかった時のことを考えるだけで怖い。

「情けない・・・・それがし・・・・」

ブンブン首を横に振る。
今はただ甲斐に帰るだけだ。
行きに貰った菓子の礼をするだけなのだ。



***



「あの・・・・大将どこ行くんですか?」

着いて来いと言われて信玄の護衛として神経を研ぎ澄ませていた佐助だったが。
信玄の行き先になんだか見覚えがある。

「ここまで来ればわかっておるだろう?」

「はあ・・・まあ・・・よく行く店なんで」

ただ信玄自ら行くような場所だろうか?
そうしているうちにお目当ての場所。満月堂にたどり着いた。

「ごめん!」

体格のいい威厳ある坊主が店に入ってきた。
それがの第一印象だった。

「いらっしゃいませー」

その坊主を出迎える。
一緒に佐助もいるではないか。

「あら。佐助さん。いらっしゃい」

「ああ。ちゃん、どうも」

信玄はさっさと椅子に腰掛ける。

「大将・・・食べに来たんですか?」

「うむ、無論じゃ」

「あーそうっすかー・・・・あ、ちゃん。なんか適当に頼むよ」

よくわからないが、は頷き数点菓子を用意した。

「佐助。お主もこっちに来て食べよ」

「は、はあ。んじゃあお邪魔します」

同席するのは気が引けるも、言われてしまっては断れないだろう。

「佐助さん。この方、佐助さんのお父様?」

出された茶を口に含んだ瞬間にに言われて思わず噴出してしまう佐助。

「あ、あちぃ」

「やだ。佐助さん、大丈夫?」

自分は何か変なことを言ったであろうか?

「ち、違うよ。とんでもない・・・・」

俺の父親はそんな熱血漢じゃないよなぁと思い浮かべてしまう。

「何を動じることがあるのだ、佐助」

「いやーまぁーあははは・・・・」

坊主はに目を向ける。

「幸村がいつも世話になっているようじゃの」

「幸村君?ああ、はい。上得意の常連さんですよ。あー幸村君のお父様ですか」

だとするとお武家様かとは思い、態度を改める。

「私の方こそ、幸村様にお世話になっております」

にこりと微笑む。

「そうか。幸村は迷惑をかけてはいないか?」

「いえ、とんでもないです。とてもご立派な方です。迷惑だなんて・・・・以前助けてもらったこともありますし」

若いのにしっかりしていますよ。などと褒めている。
坊主はの様子に満足そうに頷いた。

「あれは根がまっすぐすぎると思うが、悪い奴ではない。これからもよろしく頼む」

「はい。こちらこそ」

息子さん思いのいいお父さんだなーとは坊主に親近感が湧いた。
佐助はあさっての方向を見ながら乾いた笑みを浮かべるだけだった。



「よ、米沢で見つけたものでござる・・・・み、土産で」

満月堂の前で幸村がうろうろしていた。
傍から見れば不審極まりないが、幸村だと面が割れているので誰も気にしない。
それどころか。

ちゃんに会いに来たんだ」

などと思われている。
実際、土産を持って邸に戻らず、信玄のもとに参じる前にここへ来てしまったのだが。

「も、もらって・・・あ、いや・・・なんか違う・・・・」

うろうろ。うろうろ。

殿」

「ん?なに?幸村君」

「うぉ!!、殿!!」

店からちょうど顔を出したに驚く幸村。

「米沢から戻ってきたんだ。お帰り、幸村君」

は微笑む。

「あ・・・・・・」

スッと朱が走る幸村。

「た、ただいまでござる・・・・あの、殿、それがし・・・」

土産を渡すなら今が好機だと感じ手にしていた物を差し出そうとする。
だが。

「ちょうど良かった。今ね、店に幸村君のお父様いらしているわよ」

久しぶりに会えて嬉しいんじゃない?とは店に入るよう促す。

「は?ち、父上?」

幸村の父は甲斐ではなく信州上田にいる。
その前に何故、父上が満月堂に?
幸村は恐る恐る店に入る。
するとそこにいたのは・・・・。

「お、お館様ぁ!!!」

「騒がしいぞ、幸村。店にご迷惑がかかるではないか!」

「おやかたさま?」

が首を傾げる。
幸村は坊主に向かって土下座をしてしまう。

「幸村。お館様の命により向かいました奥州よりただいま戻りました!!」

「うむ。無事の帰還何よりじゃ」

「でも、旦那・・・・大将に会いに行くより、店を先に選んだね・・・」

ピクリと動く坊主の眉。

「さ、佐助!!い、いや、そ、それがしは!あ、お、お館様・・・・」

「まあよい。今ここで暴れてはそれこそ店にご迷惑がかかる」

お叱りを受けることなくとりあえず済んだ。

「あのー幸村君のお父様じゃないの?」

が幸村に訊ねる。

「と、とんでもない!このお方はそれがしがお仕えする方で」

の目が大きく見開く。

「あれ・・・私、またやっちゃった・・・・」

幸村がお仕えする人と言えば、ここらで、いやこの甲斐で知らぬ者はいないだろう。
武田信玄ではないか。

「いやいや。わしが最初に名乗らんがわるかった」

「う、あ・・・・あ、はい!」

「確かに旦那の父親って思っても仕方ないんじゃない?似たようなものだよ」

佐助は気軽に言う。

「お、お館様。して、満月堂には何用で・・・・」

幸村が恐る恐る訊ねる。

「なに、わしも元々この店の菓子が好きだからな。たまにはいいだろう」

わざわざ躑躅ヶ崎の館に届けてもらうほどだ。
定期的に注文しているほど信玄にとってもこの店の菓子は気にいっている。

「改めて幸村のことをよろしく頼む。あー・・・」

です。と言います。こちらこそ、ご無礼を失礼いたしました」

は慌てて頭を下げる。
信玄は良いと手を軽くあげて呵呵と笑った。
なんでこの国のお偉いさんと呼べる立場の人はほいほい外に遊びに来るのだろうか。
意外と町中で立ち話する人も信玄に仕える身分の人かもしれない。
でもフランクすぎるので問題はないのだろうが。

「ほれ。幸村。そこにおっては邪魔だろう、お主も座って菓子を堪能せんか?」

「は、はい!」

本当に尊敬している人なのだと幸村の顔を見てわかる。
目を輝かせている幸村に、子どもっぽいと思ったが口に出さない。

「ところでさ、旦那。ちゃんに何か用事だったの?」

久々の満月堂の菓子を堪能して上機嫌な幸村。
米沢に向かう道中でも、米沢でも美味い菓子などは食べたが、やはりここが一番いい。

「旦那ー俺の話聞いてる?」

「あ、ああ。すまぬ」

信玄もいるというのに、気を許しすぎたと慌てて団子を置く。

「土産を・・・殿に。行きに頂いた菓子の礼と思って」

ごそごそと卓上に土産だと言うものを置く。
包まれていて中身が何かはまだわからないが。
だが、佐助は幸村の行動に進歩があってよかったと口元を緩めてしまう。

「へぇ。いいんじゃない。旦那にしては上出来じゃん」

「そ、そうか?慶次殿にも、何か用意したほうがいいと言われて・・・・」

(前田殿のおかげか。ま、いいとして。中身はなんだろうねぇ・・・・)

「よ、喜んでもらえるといいのだが・・・・」

「大丈夫じゃない?よほど変なものじゃなきゃ」

幸村には少々自信がなかった。
一応これだと思ったのだが。果たしてが喜ぶような品かというと微妙だ。

ちゃーん」

佐助が勝手にを呼び出す。

「はーい。お茶のおかわりですか?それともお菓子の?」

「違う違う。はい、旦那。ちゃんと自分で言わなきゃ」

「う、うむ」

信玄も見ている手前で酷く緊張してしまう。

「しゅ、出立する時に、頂いた菓子・・・・とても美味しかったでござる。
道中、それを食べるのがとても楽しく。すべて食べ終わってしまったのが名残惜しくて・・・」

「あら。そう?幸村君のお口に合うかな?って少し心配だったの。でも良かった」

職人として、美味しいといわれるのが最高の言葉だとは思う。
本当に嬉しいので幸村に向ける笑みも本当に優しく柔らかいものだ。
それを見て、幸村の顔が一層赤く染まる。

「そ、それで・・・お礼と、して・・・米沢で・・・殿にと土産を買ってきたので」

幸村は卓上に置いたそれをススっとの方に押し出す。

「えー、本当?わざわざありがとう」

気を使わなくていいのに。とそれを受け取る。

「開けてみていい?」

何度もこくりと頷く幸村。
掌に乗っかってしまうほどの大きさ。中身は何だろう?佐助も予想ができない。

(簪とか・・・手鏡とも見えないし・・・何買ってきたのさ、旦那・・・)

白い包みを広げると小さな丸い物体が二つ。

「・・・・・旦那、なに、あれ・・・・」

「よ、米沢で名物だと言うので、こ、こけしを」

「なんで、そんなの贈るのさー。もっと他にあったでしょうが、簪とか、髪飾りとかさー」

色気がねぇと佐助は幸村の腰を肘で突っつく。

「あ、あの殿・・・」

「ふふっ。可愛いじゃない、これ。ミニこけしってところかな?」

「あ」

双子の童子なのだろうか?童の顔をした小さな丸いこけしだ。
佐助の予想に反しては可愛いと言っている。

「ありがとう。幸村君」

「い、いえ!よ、喜んでもらえたなら、それがしとしても嬉しいでござるよ!」

緊張が一気に解けた。

「なに、私が喜ばないとでも思ったの?だって、これ可愛いよ?」

こんなこけしもあるのだなと感心してしまったくらいだ。
が知っているのは丸い頭に長い胴体の大き目のこけしだったから。

「ほ、本当でござるか!?」

「うん、本当だよ。ちゃんと飾っておくね」

はもう一度幸村に礼を言ってから奥へ引っ込んだ。
自分の室に置いてくると。

「ま。本人が喜んでいるならいいんじゃない」

心配して損した。佐助はちょっと冷めたお茶を飲み干した。

「あ。おかわり欲しかったなー」

信玄は幸村の様子を満足げに見ていた。








19/12/30再UP