合縁奇縁



ドリーム小説
「・・・・へへへ・・・・」

口許が緩んでしまう。急に信玄公から米沢行きを命じられた幸村。
その道中での一コマ。

「・・・・・美味い・・・・」

パクッと口へと放り込んだそれの味を噛締めてしまう。
さらに続けてもう一個。
自分の為にと作ってくれたそれを思うと嬉しくてしょうがない。

「幸村ー・・・・ったく、だらしねぇ顔してよぉ・・・俺にも一個ちょーだい」

大きな右手を自分の前に差し出す旅の仲間。

「ケチケチすんなよ?一個ぐらいいーじゃねぇか」

「け、ケチケチなどしておらぬでござるよ!慶次殿にも分けようと思っていたでござるよ!!」

少し図星はつかれたような気はしてしまう。
それはしょうがない。
ちょっとは誰にも分けたくないと思っていたから。

「味わって食べてくだされよ」

慶次の掌に数個それを乗せた。

「なんだよ〜もっとくれたっていいじゃん。どうせ沢山あるんだろ?」

「こ、これ以上は駄目でござる!米沢に着くまでになくなってしまうでござる!!」

「その割りにいくつ食ったんだよ、幸村・・・・」

慶次に言われて返答に詰まるも、慶次はそれ以上追及することなくそれを口に放り込んだ。

「・・・・・」

「美味いでござろう?」

「あ。あー・・・・・まあ、美味いっちゃ美味いんだけどよぉ・・・・」

幸村とは違い、反応が悪い慶次。

「なんでござるか!!」

「あ。あー・・・・口の中の水分全部持っていかれる・・・・」

「一気に食べるからでござる」

幸村は水筒を慶次に手渡す。
慶次は受け取りぐいっと水を飲んだ。

「は〜・・・・そうかもな。にしても・・・・羨ましいねぇ〜可愛い子からの手作りお菓子。いいね、いいね〜」

そう言われると幸村は照れてしまう。いつもならば「破廉恥でござる!」と叫んでしまうのに。
幸村にとって、この事は嫌ではなかったのだろう。

「帰る時にさ、なんかに土産買ってってやれよ。喜ぶぜ、きっと」

「そ、そうでござるな」

まだ目的地に着いてもいないのに、帰りのことを考えてしまう。
その幸村の顔はとても幸せそうだ。

(・・・・ん。これなら心配いらねぇか・・・大丈夫だな、向こうに着いても)

幸村にとって、久しぶりの再会となる人がいるのだから。





【10】





「いやーちゃんもやるねぇ。俺様感激ー!!」

幸村たちが出立して数日経ったある日の午後。
一仕事終えた佐助が満月堂に顔を出していた。

「な、何をですかー」

は何の事を佐助が言っているのかわかっている。
だけど、茶化されたくないのでわざと知らぬ振りをする。

「旦那に菓子を贈ったことに決まっているじゃなーい。旦那、すごく喜んでいたじゃん」

夜明け前だというのに、声を張り上げていた。
確かにアレには驚き、日が昇ってから何があったのかと隣近所から苦情が来た。
だが、声の主が幸村だとわかると皆あっさり納得してしまいそれ以上注意される事はなかった。

「どんなものより、旦那にとっちゃ嬉しいものかもしれないね」

「そ、そうですか?・・・味見はちゃんと親方にしてもらったから問題ないと思うけど・・・幸村君の口にあったかなぁ」

直接の反応を見ていないので、には少々不安のようだ。
元々は佐助が米沢に向かう道中、幸村の買い食いが心配だと言っていたことが始まりだ。
満月堂の菓子を持っていってもらいたかったが、生憎生菓子ばかりで日持ちがしない。
何かいいものはないかとは考えた。
その結果、「きな粉飴」ならばいいのではないかと思ったのだ。
まあげんこつ飴とも言える代物だが。
少々げんこつ飴より柔らかい出来上がりになってしまった。
何度も何度も作るのだが、上手く行かずの結果だ。
それでも根気良く練習し、六郎にも合格点を貰ったのでなんとか幸村に渡すことが出来た。

「大丈夫じゃないのー?」

「だといいなぁ」

幸村の性格上マズイとは口にしないだろう。
それに見習いとはいえ、だって和菓子職人。
最近では仕込みだって任されるようになっている問題はないだろう。

「味とかよりもさ。旦那にしてみればちゃんが作ってくれたってだけでも嬉しいんだよ」

「えっ」

意外だという顔をする。少々困惑の色が見える。
恐らく彼女の脳裏には「米沢の彼女」があるのだろう。
佐助は根強いなぁと苦笑してしまう。
これは余計なお節介を焼いてやろうと口を開く。

「あのね。ちゃん。米沢にいる彼女って君が思っているような間柄じゃないよ?」

「さ、佐助さん!?」

「あの子は独眼竜の旦那の奥さんだもん」

「えっ!不倫関係!!?」

ガクッと肩が落ちる佐助。

「ふ、不倫って・・・そんな真似。あの真田の旦那にできるわけないでしょうが・・・」

その発想がすごいよ。

「そ、そうですね。幸村君にできるわけないか・・・あはは・・・あーでも、一途に想っていそう」

「手強いなぁ」

「な、なんですかー!だ、だって、幸村君と慶次さんがすごく真面目な顔でその彼女の話していたんですよ」

幸村の顔はが見たどの顔より大人びていたように記憶している。

「いや、まあ・・・色々あったしねぇ」

これは流石に佐助の口からも言えないような気がする。

「幸村君にとって大事な人≠ナあるってことですよね?別に茶化そうとか、邪魔しようとか思いませんよ」

「だからさ。邪魔っていうのはちょっと違うよ。さっきも言ったでしょ。あの子はもう奥さんなの」

「その独眼竜の旦那って人のでしょ?・・・・独眼竜の旦那?え、もしかして伊達政宗?」

米沢、独眼竜とくればパッと思い出された人物には驚愕する。

「ゆ、幸村君・・・すごい人の奥さんに惚れたんだ・・・うーわー・・・・あれ・・・でも・・・・」

ここへ来たばかりの頃。
その奥方の話を噂で聞いた。
当時、と言っても数ヶ月前のことだが武田と上杉、そして伊達が三国同盟を結んだことで賑わっていた。
その同盟を結ぶきっかけ、繋がりを作ったのが伊達政宗の正室だと。

ちゃん?」

「あ。えーと・・・その伊達政宗の奥さんっていうその子。なんとか姫って名前?」

「いや、違うよ。ちゃんと似たような感じだよ、姫って感じでもないし」

歴史に疎いには伊達政宗の正室の名前が思い出せない。
確か○姫って名前だったよなー、ドラマでは。ってことぐらいしか。
興味ないものにはまったく見向きもしない性格が裏目に出た。
いや、だが、まさか自分が戦国の(微妙に流れは違うとはいえ)世に来てしまうとは思わないだろう。

「・・・・・」

自分と同じようなということは、自分以外も同じ目に遭った子がいるのだろうか?
だが、確認のしようもない。
佐助はのそこまでを知らないのだから。

「その奥さん。なんで幸村君と繋がりあるの?」

ふと湧いた疑問。
正室の名前がどんなとかはこの際いい。
だが、立場のある人の奥方なればそうそう外に出て歩くこともないと思うのだが。
慶次の話し振りじゃ彼女はこの甲斐にいたようなことになっているし。

「えーと・・・・まー・・・・色々あってね。短い期間だけど、その子。旦那の邸で暮らしていたんだ」

「ふーん」

色々あってというのが少々引っ掛かる。
佐助がベラベラ喋らないところを見ると本当に「色々」なのだろう。

「あれ、ちゃん?」

「私には関係ないです。幸村君と彼女の話なんて」

「あ、あーまいったなぁ・・・」

「別に私は幸村君と特別な関係でもないし」

(あちゃー・・・俺様失敗?)

真田の旦那。ごめん!と心の中で詫びる佐助。
店にも他の客がやってきてはそっちの対応を始めてしまい、話はそこで終わってしまった。



***



「夏場と違って時間かかるよなー本当」

「そうでござるな・・・予想以上に遅くなってしまったでござる」

奥州伊達領にようやく入った二人。
甲斐よりも雪深いこの地域。少々手間取ってしまった。

「ま。ちゃちゃっと用件済まして早く帰ろうぜ。満月堂の美味い汁粉が待ってるぜ〜」

確かにそれは心惹かれるものだ、思わず幸村の目の色も輝いてしまう。

「けどさ。早く帰りたいって幸村が思うのは菓子だけか?」

ちょいちょいと幸村の腰を突っつく慶次。

「な、なんでござるか!け、慶次殿」

「素直になれよー幸村」

「そ、それがしは。あ、い、いや・・その・・・」

スッと朱に染まる幸村の顔。

「別に隠すことないじゃん」

慶次は逃がさんと幸村の肩へ腕を回す。

「俺はさー・・・お前がちゃんと再出発できたんだなって思うと良かったって思うからさ」

「慶次殿・・・・」

「いつまでも引きずっているようには見えないしさ」

「・・・・・」

幸村は慶次の言っていることを思うと少しだけ苦しくなる。
道中軽く茶化してきた慶次だったが、今はその影はないいたって真剣だ。

「俺さ。あの時・・・幸村に最後だから≠チて無責任に告白するよう勧めてさ」

悪かったと呟いた。
幸村自身が封じた想いを無理矢理押し出すようなことをしてしまった。
それを慶次は反省していた。
今思えば、彼女はようやく政宗に対して素直な気持ちをぶつけることができた。
それを邪魔するようなことを考えてしまっていた。
幸村が留まってくれて良かった。

「それにさ、幸村があいつの幸せを本当に願っているのってすげーと思う」

自分だったら同じようにできただろうか?
強引に自分のモノにしようと掻っ攫うことをしたかもしれない。

「慶次殿・・・それがしは慶次殿が思うほどいい人間ではないでござるよ」

幸村にだって、少しは自分の気持ちを伝えようという思いがあった。
あったけど。できなかっただけだ。

「そんなことねーって。正直さ、幸村を選ばなかったあいつが本当勿体ねーって思うわけよ」

「はは・・・彼女にとって、政宗殿の方が大事な方であった。それだけでござるよ」

元々出会った時から二人の間に割って入ることはできなかったのだから。

「そうかもしれねぇけどさ。いいじゃないの!今はあいつよりもの方が大事だろ?」

「け、けけけ慶次殿!!?」

慌てふためく幸村に慶次は豪快に笑う。

「虎のおっさんに米沢に行けって命じられても動揺することもなかったのは、のおかげだって思うわけよ。
幸村が菓子ひとつで喜んじゃうのも、膝枕で幸せそうになれちゃうのも全部のおかげだ」

彼女への想いを、今はもう断ち切っていると思う。
それも幸村の前で笑ってくれる人がいるから。
それがだろうと慶次は思っている。

「い、いや。あの、べ、べ、別に殿とそ、それがしはそんなは、破廉恥な関係ではないで、ござ、ござるし」

「なんだよ、破廉恥な関係って・・・」

「うっ」

慶次は幸村の背中をバシバシ何度も叩く。

「いーね。いーね。恋するってのはさー」

「こ、恋ぃ!!?」

「そうだよ。幸村はに恋しちゃっているんだよ」

「そ、それがしは・・・こ、恋など」

「二度目の恋はきっと上手くいくさ!頑張れ幸村〜その前に用件早く済ませちまおうぜ!」

雪降る中、道のど真ん中。
二人の男が何やら騒がしくしているのを迎えに来た伊達家の家臣は首を傾げて見てしまうのだった。



***



「ふぅ。さっぱりしたでござる」

米沢城。政宗が用意してくれた室。
のんびり風呂に浸かる事ができて疲れも吹き飛んだ。
食事も済ませてもう寝るばかり。
すでに敷かれた布団の上で幸村は豪快に大の字で寝っ転がった。

「元気そうでなによりでござる」

久しぶりに会った彼の人に幸村は安堵した。
いや、すでに幾度がもらった文のおかげでそれ以上心配事などなかった。
心配するだけ損だと思った。
相変わらず政宗とは軽口の言い合いをしているが、その姿は楽しそうだ。
もう幸村が口出すことも、考えることもないのだ。

「いつか、それがしにも・・・・」

政宗のように、大事に思える人ができるだろうか?
政宗たちのように口喧嘩が日常であるのは勘弁だが。

『そうだよ。幸村はに恋しちゃっているんだよ』

ポンと浮かんだ甲斐にいる女性の顔。

「うっ・・・うわーうわー!!そ、それがしは、別に!!」

あわわと両手を何度も交差させる幸村。
一人で何をやっているのやら、恥かしくなってくる。

「た、確かに殿は素敵な女性でござる・・・ござるが・・・・・それがしには・・・・・」

ただ。慶次が言うようにに惹かれている部分はあるだろう。
あるが、それが恋なのかというと少し不安だ。
一度知ってしまったその想いに、また今度も報われないと思ったら恐怖が芽生えてくる。

殿には・・・・すでに想う方がおられるかもしれぬし・・・・」

情けないと思いながらも。また同じ思いをするのが怖かった。
信玄公にそんな事を抱いていると知られればきっと空の彼方に吹っ飛ばされるに違いない。
いや、むしろ力いっぱい殴り飛ばしてもらいたい気もする。

「だから・・・・まだ認めたくない・・・・のかもしれぬ・・・・な・・・・」

チクリチクリと小さく突き刺さる痛みに、幸村は知らぬ振りをするのだった。







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19/12/30再UP