合縁奇縁



ドリーム小説
「おーっす。幸村ー!」

真田邸に久しぶりに訪れた客人がいた。

「慶次殿!お久しぶりでござる」

「ちょっと近くまで来たもんだからさ。よってみた。元気だったか?」

加賀を治める前田利家の甥で、前田家の風来坊と有名な前田慶次だ。
慶次は幸村の背中をバシバシ何度も叩く。
久しぶりに会えたのが嬉しいのだろう。
幸村をそれを拒むことなく受け入れている。

「それがしは変わりなく。慶次殿こそお元気そうで」

「ああ。俺は好き勝手やってるいるしな」

とは言いつつ鼻先を軽く掻く慶次。

「利とまつ姉ちゃんから逃げてきたんだけどな」

「慶次殿〜」

「ま、いいじゃねぇの。久しぶりなんだしさ、しばらく厄介になるからよろしくな!」

「断る理由はないでござるよ。遠慮なくゆっくりされよ」

甲斐も本格的な冬を向かえ。
雪が降り積もる中訪れた久しぶりの客、いや友だった。





【7】





「なんかさーあったかいもの食いてぇよな〜・・・って言うと鍋だな。鍋」

上がりこんでいる分際で図々しいと思いつつも慶次は夕飯に鍋を所望した。
幸村も別にそれで構わないし、あとで台所に行き誰かに言えば済むだろう。
だが、意外にも万能な家人たちは幸村の意図を察してすでに把握済みのような気もする。

「謙信とこも寒いんだけどよ。まだこっちの方が我慢できるな」

「そんなに変わりないと思うでござるが・・・・あ、慶次殿。汁粉などでいかがでござるか?」

「汁粉?汁粉ねぇ〜まあ、あったかいものならなんでも腹に収めてぇ気はするな」

幸村が用意してくれるのかと慶次は数回頷いた。
だが、幸村は「では参りましょうぞ」と言い、慶次を外に連れ出す。

「だからさ、寒いって言ってんじゃん?」

「美味い汁粉はそれがしの邸にはないでござる」

「へぇ〜ってことは、美味い汁粉をご馳走してくれんだ?」

「はい!美味いでござるよ!そこの和菓子は三国、いや日の本一だとそれがしは思っているでござる!」

前に来たときはそんな店を紹介してくれなかったのに、慶次はそう思いながらも。
前は状況が状況だったから仕方ないかと納得する。
それに男とつるんでいくような場所でもないかと思いながら。
雪降る中しばらく歩くと、武家屋敷から商人達で賑わう界隈に出た。
ここに来るとき、行きに慶次も通った場所だ。

「別にどの店も普通だと思うけどな〜」

まつ姉ちゃんのメシより美味いものがあるのだろうか。

「美味いでござるよ。それがし時間が空けば必ず行く店でござる」

「ふーん」

「ご主人の作る饅頭が特に美味くて」

「オッサンの作る饅頭ねぇ」

「オオオオ、オッサンなどと申されるな!慶次殿も食べればわかるでござるよ!」

なにせ、その店は信玄公もお気に入り。
言わば武田家ご用達と言っても可笑しくないのだ。
でも、その店の門戸はとても広く、色んな客におもてなしをしている。
相手が誰であろうと、平等に。

「あそこでござるよ!」

満月堂と木で作られた看板がしっかりと飾られている。
幸村はスタスタと店に入っていく。

「ごめん」

「あら。幸村君、いらっしゃい。寒い中よく来たわね」

一人の女性が幸村を出迎える。

「そんなに寒くないでござるよ」

「うわ。雪が降る中言うかな。鼻と頬赤いよ〜?お子様め」

意地悪く笑いながら女性は幸村を案内する。

「今日は中の方がいいでしょ?」

女性は幸村を席へと案内する。幸村もそれに続いていく。

「それがし一人ならば外の縁台で構わぬが、今日は連れがいるので、できれば」

「連れ?佐助さん?」

「いや、佐助ではなく」

「どーも。こんちはーって幸村一人でさっさと行くなよなー」

幸村より体格の大きい慶次がポスっと幸村の頭に手と顔を乗せた。

「わ。大きい人」

「へへっ。美味くて体があったまる汁粉があるって幸村が言ってたんだけど」

「け、慶次殿にも食べさせてあげたくて」

「そう。どんどん食べてくださいね。美味しくて温まる御汁粉ならたんとありますから」

にっこり笑いかけられ二人は案内された席に腰を下ろした。
女性は一度奥に引っ込む。

「面白い姉ちゃんだな」

「そ、そうでござろうか?」

「名前なんて言うのかな〜」

殿でござるよ。和菓子職人見習いの」

「常連さんだから仲がいいんだ、幸村」

「な、仲が良いというか・・・・その・・・・わ、悪くはないと思うでござるが・・・・」

慶次は幸村の様子にニタニタっと笑うが、元気そうならばいいかと思った。
そこへ女性、が盆を持ってやってくる。

「はい、お待ちどうさま」

卓子いっぱいに様々な菓子が並べられていくことに慶次は驚く。

「あ、あの。お、お姉ちゃん?こ、これ」

「あ、お客さんのお汁粉はこれ。後は全部幸村君用だから」

食べすぎだよね、とはくすくすと笑う。
美味いのだから仕方ないと言いつつ幸村は早くに菓子に手をつけている。

「えー・・・幸村、お前そんなに甘味が好きだったっけ?」

「苦手だとは言った覚えはないでござるよ。慶次殿も良ければ食べてくだされ。美味いでござるよ」

本当に嬉しそうに食うなと慶次は感心してしまう。
幸村がそこまでこの店の味に惚れこんでいるとは。

「あーそう言えばさ・・・俺、甲斐に来る前米沢に行ってた」

幸村の食べる手が止まる。

「米沢?」

「謙信に用事を頼まれたってこともあったんだけどな」

慶次は汁粉に手をつける。
確かに幸村が言うように一言「美味い」と言える。
甘さにしつこさがない上品な味。
すこし焼き色のついた餅が香ばしく食欲をそそる。

「元気だったぞ、あいつ」

目に浮かぶとある人。

「・・・・そうでござるか。元気ならば何よりでござるよ」

「幸村はさ、最近会ってねーの?」

「それがしよりも佐助が奥州へ行くことが多いござる」

「ふーん。幸村どうしってかなって気にしてはいたぞ」

幸村は少し大人しくなる。

「文は数回頂き、返事はしたでござるよ。かと言って、それがし何か伝えるほど面白いこともないので」

「そっか」

慶次はそれ以上は何も言わなかった。
幸村が恐らく初めてだろう好きになった人。
二人の出会いがどんなものだったのかは慶次は知らない。
知らないけど、幸村は彼女の為にいつも懸命で、このまま引き下がっていいものかと
こちらがヤキモキしたものだ。
だが幸村は彼女が幸せならばと、立場を弁え笑っている。

「・・・・お前、損な性格だよ」

「?なんで、ござるか?」

「なんでもねーよ。あ、美味いな本当。お姉ちゃん!お汁粉お代わり!お代は幸村につけておいて!」

ひょいとお椀を掲げる慶次。
は笑いながら二杯目のお汁粉を運んでくるのだった。



***



「・・・・あれ?幸村は?」

翌日。慶次が目を覚ますと幸村の姿は邸内にはなかった。
幸村も忙しいのだろう。
慶次は遅い起床にも関わらず慶次の朝餉を用意してくれた家人に感謝し食べる。
主に似るものなのだろうか、真面目だなと感じつつ。
さて、今日はどうしようかとこれからの行動を考える。
幸村は留守だし、かと言って躑躅ヶ崎の館に向かい、信玄公と手合わせしてもらえるかも微妙だ。
幸村以上に忙しい御仁だから。
ちらっと外を眺めれば雪は降っておらず、太陽が顔を出している。

「ふらっとでかけるか〜あ、そうだ」

行くならあそこがいい。
慶次は朝餉をかっこみ早々に切り上げた。

「こんちはー」

慶次が満月堂に顔を出すと、昨日店番をしていた女性ではなく、彼女より大人な女性がいた。

「いらっしゃいましー。おや、お客さんお初ですね」

「へぇ、わかるもんなんだ。でも、残念、俺昨日来たよ。お姉さんはいなかったけど」

女性は女将のおりょうだ。
昨日幸村と来たことを告げると、あなたもお武家様ですか?などと聞かれて困った。

「俺はそんな堅苦しいものじゃないって。まあ好き勝手やっているだけさ」

「そうなんですか?あ、お席にどうぞ。それともお持ち帰りですか?」

「いや、食ってく。昨日食ったお汁粉美味かったし、それに今日は他のも食ってみたくて」

なんとなく幸村がハマる気持ちもわかってしまう。
適当に注文し、それらが運ばれてきて慶次の頬が緩む。
京の都でもそれなりに美味い菓子は食っていたのだが、ここは格別に違うなと。
生菓子じゃなければ、叔父夫婦にも食べさせてあげたい。

「ただいま、戻りましたー」

「ましたー」

勝手口の方から元気な声が聞こえる。
おりょうは一度奥へと引っ込む。
すると入れ代わりでと小さな子どもが入ってきた。

「あら、昨日のお客さん。いらっしゃい」

「おう。そっちの坊主、姉ちゃんの子?」

「違います〜おりょうさんの子です。ちなみにおりょうさんは二児の母ですよ」

あの綺麗な大人なお姉さんはすでに人のものだったのか。
慶次はちょっとばかりがっかりする。

「いらっしゃいませー」

たどたどしいながらも慶次に挨拶をする子ども。
ぺこりと頭を下げて可愛らしい。

「はは。可愛いじゃねぇの」

おりょうの息子一太郎だと自分で挨拶をする。
ついでに「大きくなったらおとうみたいなしょくにんになるんだ」と慶次に宣言していた。
だがくるりと反転し奥へ引っ込む。

「おかあ。ゆきむらさまはー?」

「まだ今日はお出でじゃないよ。お仕事がお忙しいのだろうね」

そんな会話が二人にも聞こえた。
が戻ってきたので、店番を任し、おりょうは生まれたばかりの赤子の世話をしているのだろう。
時折一太郎と、赤子の声が聞こえてくる。

「幸村ッてそんなに毎日来てんの?」

「ええ。ほぼ毎日。よほど天気が悪い日以外は」

暇な時間があればここへ来るのだろう。

「まあ気持ちはわかるな。美味い菓子だしなー・・・・でもなぁ」

慶次は面白くないと口先を尖らせる。

「?」

「俺が前に来た時は、あいつこの店のことなんにも言わないでやんの」

「ちょくちょく来られるんですか?」

「時々な。それに一時滞在していたから」

「そうなんですか」

その時に知っていたらもっと楽しかったかもしれないのに。

「あー。わかった・・・幸村の奴二人内緒で楽しんでいたんだな。絶対そうだ」

一人であれこれ推測している慶次。
言っている意味がわからないは苦笑しか出ない。

「なあなあ、姉ちゃんは見なかった?幸村が女と一緒にここへ来てたの」

「女?」

意外だ。そんな相手がいたとは・・・。

「さあ?私はここで働かせてもらってまだ少しですから。秋以前のことは知らないですよ」

一応ここ最近は女連れではないことを説明する。

(彼女いたんだ。ふーん)

慶次の話し振りじゃかなり親密そうだし。
そういえば、昨日何か深刻そうな話をしていたではないか。
あいつ、元気だったぞ。とか。
相手も幸村のことを気にしている風な話でもあったし。

(米沢って山形だよね?そことこことの遠恋?)

確かに顔立ちは悪くない幸村だ。
年も18であったならば、その手の話もあるだろう。

(友だちに彼女がいるってわかって寂しいって感じかな)

その彼女、いつか会う事があるのだろうか?
自分がいた世界ならば、移動手段がさほど難しくないが、ここはそうではない。

(山梨から山形って遠いよね。どんな気持ちなんだろう)

幸村が毎日ここに来るのは、単に菓子が美味いからというわけだけはなく、彼女との思い出の場所でも
あるのかもしれない。

「どうした?姉ちゃん」

「あ、いえいえ」

なんでもないと返事をする。
ガラリと店の戸口が開いた。
入ってきた人物を見てにこりと笑む

「いらっしゃい、幸村君」

殿、あの、ここに」

「おう。幸村」

幸村がやってきた。
慶次が声をかけると、ズカズカとまっすぐに慶次の向かいに座った。

「ずるいでござるよ、慶次殿!一人で満月堂に行かれるとは!」

抜け駆けされたような気持ちなのだろう。
幸村は邸に戻ると、慶次がいないことを家人に尋ねた。
家人は「満月堂さんに行かれましたよ」と教えてくれたので慌てて追いかけてきたのだ。

「別に、お前の許可がなくちゃいけないってわけじゃねぇし。俺だってこの店気に入ったんだからさ」

幸村の分のお茶を運んでくる

「ふふふ。ありがとうございます、お客さん」

「俺も名前でいいよ。姉ちゃんの名前はだろ?」

「はい。そうですよ。で、あなたは」

「前田慶次!んで、こっちは相棒の夢吉・・・・って、食い物屋に猿ってまずいか?」

ひょっこり懐から顔を出した小猿。
可愛いと思わず声を出してしまう
昨日も今日も、実は懐にこの小猿を隠していたのだ、慶次は。

「そうですねぇ。ちょっと待っててくださいね。親方ー」

は奥にいる主人に声をかける。
そして理由を話す。

「今日だけ特別。だそうですよ。普段はできれば外の縁台でお願いします。ですって」

「あちゃー悪いことしたなー。ま、今日だけって許しが出たから勘弁な」

それに夢吉は悪さをするような子じゃないから。

「んー触りたいけど、流石に今はまずいかなぁ。今度触らせてくださいね。えーと慶次さん」

「おうよ。仕事以外で会ってくれるってんだろ?いいよ、いいよ〜」

しばらくは甲斐に滞在すると決めていたので。

「慶次殿ー」

「ん?なんだ、幸村」

「な、なんでもないでござる」

「変な奴だなー。、俺、ぜんざい追加ー!」

「あ、ああ!そ、それがしもお願いするでござる!」

「はいはい、ただいま〜」

は笑いながら注文の品を六郎に伝える。
寒く厳しい冬が訪れているのに、満月堂は不思議と温かいものであった。









19/12/30再UP