合縁奇縁



ドリーム小説
あ〜らら〜中々面白いことになっちゃってんじゃないの。
真田の旦那もやるぅ。





【4】





「中々いい話だと思うだけど?どうですか?」

いい話と言われてもの顔は渋る。
元々興味のないことであり、余計なお世話だと思っていることだ。
しかも町中で人を呼び止めてすることか?と少々腹立たしい。

「結構です」

店の手伝いがあるので。は相手に軽く礼をしその場を去ろうとする。
だが、相手は中々引き下がらない。

「まあまあ。もう少し。ね?」

「本当、いい加減にしてください。その話は以前にもお断りしたはずです」

苛々してくる。

「お付き合いしている方がいらっしゃらないのであれば、いい話だと私は何度も申しあげているのですよ?」

「余計なお世話だと言っているんです」

「頑なに拒まれると・・・・余計に引き下がる気にもなれないですなあ」

話の内容からわかる通り、相手はに求婚しているのだ。
しかも以前断ったにも関わらず何度も何度も。
店に来るだけでもいい迷惑なのに、が外に出ている時にちょっかいを出してくる。
にしてみれば、相手はただのストーカーとしか思えない。
どこかの商家の息子らしい。なぜにそんな奴に見初められたのか不思議でしょうがない。
なりに思うのは、きっとこの時代の人との感覚のようなものが違うから
それが何か特別に感じるのかもしれない。
だからといって、中身は普通に一般の女性であるのだが。

「どなたかお付き合いしている殿方でもおられるのですか?」

はい。そう答えてしまえば楽だったのかもしれない。
だが、にそんな相手がいないとわかっているから相手は引き下がらないのだ。
いたとしても、金がある自分にそう勝てるわけもないと思っているのだろう。
ああ、性質が悪い。

「つ、付き合って・・・・」

嘘でも「いる」と答えてしまえばいいのだろうが、「ではその人を」などと言われては困る。
こちらがなんとか根負けしないように断り続けるしかないのだろうか?
困った。





「・・・・殿?」

久しぶりに満月堂に行こうと幸村は店に向かっていた。
しばらく信玄公の命により越後に行っていたのでしばらくあの美味い饅頭を食べられなかったのだ。
その途中、見知った女性を見つけた。
何やら男と話しこんでいるようだ。
だがの顔が幸村が見てもわかるくらい困惑している。

「・・・・・」

いつも店先で人のことを子ども扱いしてくるが、その笑顔は嫌いじゃない。
彼女から見ればそう見えてしまうのはしょうがないだろう。
だが、今の彼女は幸村は初めて見るほど、困っている。
そんな顔を彼女にしてほしくないと思った。
幸村は一歩、また一歩二人に近づく。
相手に何かされて困っているのならば助けてあげたいと思い・・・。
そして聞こえた男の言葉に幸村は走り出した。

「いい加減、私の元へこられてはいかがですか?あんな店で働くよりいい生活ができますよ」

その言葉はにとって酷い侮辱だった。
あんな店。大好きな満月堂をあんな店と言われてカッとなる。
店の人、家族のように受け入れてくれた六郎、おりょう、一太郎。あそこでの暮らしは悪くない。
金銭面のことなど考えたこともない。
和菓子職人見習いの自分にとっては住み込みで、一流だと思っている六郎の側で教わることができるのは
とても素晴らしい事なのだ。

「あなたね!」

は思いっきり男を引っ叩いてやろうかと手を上げようとする。
の目の前に真っ赤な大きい背中が映った。

「そなた!殿が困っておられるのに何をするか!」

「・・・あ」

幸村がと男の間に入ってきたのだ。
男はなんだ君はと睨みつけるが、幸村にはなんの脅しにも感じない。

「君に関係あるのか?私は今大事な話をしているのだよ。子どもは黙っていなさい」

「こ、子ども?そ、それがし子どもではござらぬ!人の嫌がることをするそなたの方が子どもではないか!」

「ぬ・・・だ、だが君は関係ないだろう。私と彼女の問題だ。子どもは下がれ」

中々引き下がらない男。二人の問題だといわれて幸村はチラッとを見る。
は首を横に振った。

「それがしにはちゃんと殿を守れるだけの力はあるでござるよ!」

「なっ!・・・・ま、まさか。あなたはこんな子どもを?・・・」

いないと思っていたと付き合っている男。
それがこんな子どもだと?
男は完全に誤解したようだ。だが、はこれ幸いと幸村の腕を掴む。

「隠していてごめんなさい。そうです。この方が私の大事な方です」

、殿?」

スッと幸村の頬が赤くなる。

「というわけで、改めて、あなたとはお付き合いできません。ごめんなさい」

オホホとの高笑いが聞こえてくるようだ。

「それ以前に店のことを悪く言う方とは、私お付き合いできません」

これが本音だ。

「だ、だが、その子ども」

中々諦められないのか、いや、自分が子どもに負けたというのが譲れないのだろう。
そんな男に、通りすがりの人が声をかけた。

「あんた。子ども、子ども言ってるけど、あのお方は武田信玄様にお仕えする真田幸村様だぞ?」

「・・・・は?」

「真田、幸村?あの?」

男の顔が見る見るうちに青くなっていく。
終いにはヒィと悲鳴をあげて逃げていった。

「・・・・・それがし、悲鳴をあげられるような悪名はないでござるよ」

ポカンと男を見送ってしまった幸村。

ちゃん、幸村様とお付き合いしているのかい?そりゃあ良かったね」

「え?」

満月堂の常連さんたちがひょっこり姿を現した。

「おりょうちゃんが縁談を断るのもしょうがないよね。いやー幸村様ならいいねー」

「・・・・・幸村?」

はて、なんのことだ?とは首を傾げる。
常連さんたちはこれで一安心だとあっという間に散っていく。
残されたのは幸村とのみ。
はいまだに幸村の腕を掴んだままだ。

「・・・・・・考えてみれば」

「?」

「私、君の名前知らなかったのよね・・・・」

いつも「君」とか「あなた」とか、最初の頃は普通に「お客さん」と呼んでいた。
幸村の方は周りが彼女の名前を呼んでいたので、ごく自然に知ることができたのだが。

「そ、それがし。真田幸村と申す」

改めて今、言うのも変な話だ。しかし佐助の方は以前から名が知られていたが。

「・・・・真田幸村・・・・」

常連さんたちの間有名なよく食べる人が、この子だったのかーとなんとなく思う。
だが、よく思い出すと。通りすがりの人の言葉が引っ掛かる。

「あのお方は武田信玄様にお仕えする真田幸村様だぞ」

って。
武田信玄。歴史が疎いにもその人物のことは知っていた。
それにここらを治めている人で、躑躅ヶ崎館まで品物をお届けに行ったとき、本人に会えずと
わかっていても緊張したものだ。
その武田信玄に仕えている?

「・・・・・・」

あれ?もしかして。かなり自分は彼に対して失礼なことをしていたのではないか?
なんでもない顔をし、笑っている幸村に対して。
しかもだ。六郎はいつも幸村のことを「あの方」と呼んでいたではないか。

(無礼者って奴なんじゃないの?私・・・・)

は幸村の腕から手を離した。

殿?」

「あ、あの・・・・ありがとう・・・ございました」

は深々と幸村に頭を下げ礼を言う。

「い、いや。礼を言われるほどではないでござる。それがしの方こそ勝手な真似をして申し訳なく・・・」

幸村は後頭部を軽く掻く。

「いいえ。私は助かりました。随分しつこい人だったから・・・・あ」

はなんとなく幸村と目を合わせられないでいる。

「じゃ、じゃあ。私はこれで。店の手伝いがありますから」

「あ。それがしも一緒に参ります。ちょうど満月堂に行く所だったので」

「そ、そう。ですか・・・」

歩き出す二人。
の視線は前ではなく少し下へと向かってしまう。

(真田幸村・・・・さなだ、ゆきむら・・・・・そういえば、そんな名前の武将がいたような・・・)

なんとか思い出そうにも自分は歴史に興味がなかった為に授業も適当だったのだ。
武田信玄を知っていただけでも自分的にはすごいのだから。

(って・・・隣の子が武将?嘘でしょう・・・いやいや・・・人は見かけによらないって言うし)

何より、町の人たちの反応を見ればわかるじゃないか。
はっきり「武田信玄に仕える」と言っていたし。
だとすると、本当に自分はかなり失礼なことをしてきた。

(手打ちにされても文句言えない気がする・・・・子ども扱いしちゃったし)

数える程度だったが、あれこれ思い出す。
そして・・・・初めてあったとこの事が思い出されるとの顔はいよいよ青ざめる。

(ちょっ!わ、私。落としたお菓子を押し付けたじゃない!)

後日佐助に聴いた話なのだが。

「旦那ったらね。あの時の饅頭ちゃんと食ってたよー。アレには流石の俺も驚いちゃったかな〜」

と。
その時は「お腹壊さなかった?」ぐらいにしか言えなかったのだが。

(ほ、本当に・・・・マズイんじゃないの・・・私)

大人しいを幸村がどうしたのか訊ねる。

「どこか具合でも悪いでござるか?」

ぶんぶん首を横に降る
そうしているうちに満月堂に到着する。

「おかえりー」

「た、ただいま」

一太郎が店前で遊んでおり、の姿を見て抱きつく。

「おや、遅かったじゃないの」

おりょうが店から顔を出す。

「す、すみません。ちょっと面倒なことがあって」

「おや・・・あら、幸村様。いらっしゃいませ。いつものですか?」

一緒にいた幸村を見ておりょうはニコりと微笑む。
そのまま幸村専用とか言われている縁台に案内する。
は勝手口へと回る。
店に入る前に己のしたことに頭を抱えしゃがみこんでしまう。

「おねえちゃん?」

「一ちゃん。おねえちゃんどうしよう〜」

「あたまいたいの?」

一太郎がの前に立って、の頭を優しくなでる。
おまじないだろう。「痛いの痛いの、飛んでいけ〜」って子どもころによくやった奴だ。

「ありがと。一ちゃん」

?どうした?」

勝手口から六郎が顔を出す。次の仕込み用の粉を倉庫から持ってくるようだ。

「お、親方・・・今ようやく自分の仕出かしたことを悔やんでいる所です」

のそれに六郎は笑った。

「なんだ、バレちまったか」

「どうしましょう。私、ものすごく失礼なことをしまくりましたよ〜」

「幸村様なら、別に怒りはしないさ。現に今までなんでもなかったろ?」

「そうでしょうが〜・・・・もう」

次にどんな顔をすればいいのかわからない。

「今、ちょうど来られているから、お茶を」

「勘弁してください。今は・・・・」

「ま、おりょうがいるから大丈夫か。しばらく奥で仕込みの手伝いしてくれや」

「はい」

とりあえず、菓子を作るにしけた顔はしていられないと、は両頬をパチンと叩いて気合を入れた。



*



幸村は久々に食べる満月堂の菓子に満足していた。
やはりここに来ると落ち着くし、腹も満たされる。
ただ、一行にが姿を見せないのが気になった。

「だーんな」

佐助が幸村の前に姿を現す。そのまま流れで幸村の隣に腰掛ける。

「久々の満月堂さんのお饅頭を堪能しちゃってますね〜」

「う、うむ。やはりこちらのが一番美味い」

「あらあら。それはありがとうございます」

佐助が来た事に気づいたおりょうがお茶を持ってきた。

「俺にも何か一つ。仕事帰りだから甘いもの食べたい気分なんで」

「はい。お待ちください」

おりょうは店に戻る。
その後姿を幸村がちらちら見ていたのに佐助は気づく。

「なーに?旦那ってば人妻狙い?前から人妻好きだと思っていたけど」

「ば、馬鹿を申すな!そ、それがしそのような破廉恥なことは」

「はいはい」

ぱくりと櫛団子を食べる。
少しだけシュンとしてしまっているように見える。

「旦那?どうしたのさ」

「い、いや・・・・・」

「さっきは格好よくちゃん助けていたのにねー」

「み、見ていたのか!?佐助」

「ええ。見てましたよ。多分旦那が行かなきゃ俺が助けてあげようって思いましたけど」

「そ、そうか」

今度はきな粉もちをパクリ。

「それがし、そんなに子どもに見えるでござるか?」

「はあ?」

「・・・・先ほどの男にも、子どもと言われた」

「ああ・・・別にそんなに気にすることないと思うけどねぇ・・・言いたい奴には言わせておけばいいじゃん」

「・・・・」

あんみつ玉をパクリ。

「・・・・悩んでいるような顔つきの割りに食べるの止めないんだね、旦那」

「うっ」

久しぶりだから余計に食が進んでしまうようだ。
結局幸村が満月堂を後にするまで、は顔を見せなかった。








19/12/30再UP