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琴瑟相和
関ヶ原での大きな戦があった。 豊臣側の勝利で終わり、敗軍の将らはいくらかの処罰があったが、どの武将も処刑されることはなかった。 日の本を二分する大きな戦いの傷跡も少しずつ癒されているが。 一度崩れかけた豊臣政権を立て直すべく三成達は奔走している。 けど。それから数か月。 新しい年を迎えていた。 秀頼の居城である大坂城では、関ヶ原のこともあってか。 秀吉が居た頃のような派手な正月ではなく、厳かに行われた。 だが、夜にもなれば規模は小さくても新年の宴は開かれ、楽しい時間が過ごされていた。 も。利家と松に連れられその宴に参加していた。 【4】 あの時は西軍、東軍と二つに分かれてしまったが、この宴ではそれらがなかったのように言葉が交わされている。 徳川家も家康が隠居したが、ちゃんと跡を継いだ秀忠が大阪にまでやってきていた。 彼にしてみれば、娘が秀頼と婚姻を結んだこともあり、義父としても秀頼に挨拶に来たのだろう。 茶々と自分の妻は姉妹でもあるから、ある意味繋がりは強い。 「はぁ…」 は宴の席から退出し、庭の見える縁側に一人腰かけた。 普段ならば冬の寒さに震えてしまいそうになるが、滅多に飲まない酒を少々頂いたことで、体が熱く感じ、室から出たのだ。 (このまま寝たら凍死しちゃいそうだけど) 洒落にもならないことを一人考え笑ってしまう。 けど、ほんの少しだけだ。 少し酔いも覚めれば中に戻ろうと。 だが、 「馬鹿でも風邪はひくものだ。何をしているのだ、お前は」 と、頭上から呆れたような三成の声が聞こえた。 「みっちゃん。少しだけだよ」 「まったく。普段飲まぬ酒に手を出したからだ」 三成が小言を言いつつ、の隣に腰を下ろした。 「みっちゃん。抜けて来ちゃって良いの?正則とか騒ぎそうだよ、逃げた!とか言って」 「確かに煩いが、清正がいるから大丈夫だろう」 酒の席になると正則はいつも以上に煩くて敵わないと三成はぼやく。 「そっか」 はぼんやりとだが、笑う。 恐らく自分を心配して清正が三成に声をかけたのだろうと思って。 (いつもいつも清正は気を遣ってくれるなぁ) 「大丈夫か?…」 「なにが?」 「自分でもわかっていないのか?まったく…酒の所為で間抜けがさらに間抜けになっているぞ」 「なによ、それ。ひどいなぁ」 大した量は飲んでいないが、普段飲まないだけに気持ちがフワフワしているような感じだ。 「今日は楽しかったね」 「そうか」 「茶々さまも、秀頼さまも…みんな笑ってた」 「そうか」 「秀吉さまはそう言う時間を大切に思っていたんだなぁって改めて思ったよ」 「あぁ、そうだな」 いつも言っていた「皆が笑って暮らせる世」が国中の民に当てはまるのだろうが、単純に身近な家族の事を言っていたのではないかとさえも思えた。 「はぁ」 息を吐く。 可笑しいな、そんなに飲んでいないはずなのに。 飲まされた印象もないのに。 ふわふわした感覚が抜けない。 「?」 体が横に傾き、隣にいた三成に触れてしまう。 「なんかぁ…ずっとこうしていたいなぁ…楽しいんだもん…ずっとさぁ」 一度壊れてしまった家族がまた戻ったから。 あの頃と同じではないが、家族がまた笑ってくれているから。 この先もそんな日が続けばいいと思えて。 「そうだな」 三成も静かにそう答えてくれた。 「ずっと…だよ。みっちゃん」 「あぁ」 永遠などと言うのはないのはわかっている。 一時のものだと言うのも。 だけど、嘘でも、その場限りでもいい。 三成も同じように思ってくれたならば、今のには十分だった。 「今年はね…いっぱいやりたいことあるんだ」 「ほぅ」 「春になったら…おねね様と、馬鹿兄貴達と、みんなで花見がしたいの。お弁当をおねね様と作って。馬鹿兄貴達に食べてもらうんだ」 の口元が緩む。 「あ!その前に。みんなでおねね様の所に行こうね。新年のご挨拶に行かないと。おねね様待っていると思うし…」 「それはそれで煩そうな。色々と」 いつもの説教か?などと三成は言うが。 4人で行けばねねが喜んでくれるのは目に見える。 「夏は夏でね、お祭行きたい。京までわざわざ行くんだよ」 「前田殿はお前の我がままを聞きそうだな」 「聞いてくれるかなぁ?もちろん、みっちゃんも一緒だよ」 「俺も?拒否権はないのか?」 「ないよーみっちゃんだから」 酔いって怖いなと思う。 くだらない事だろうが、すらすら言葉が出てくる。 「秋になったら、んーと…んーとね…紅葉かな」 「言う割にちゃんと考えていないな、お前は」 三成が笑う。 「考えているよー」 「では、冬は何をする?」 「冬?冬は〜…温泉にでも行く?前にくのちゃんが言っていたかなぁ、甲斐には信玄さまの隠し湯があるって」 「お前、遭難しに行くのか?地元の者でも行きにくそうな場所へ行くなど」 「大丈夫だよ、きっと」 「根拠がわからん」 は三成によりかかったまま、目を瞑る。 「あとね…あとはね。利家さまとお松さまに沢山親孝行もするの。私の事をすごく大事にしてくれるから」 「そうだな。それはいいだろう。前田殿はお前に対して甘やかしすぎだと思うな。秀吉様といい勝負だ」 「えへへ。利家さまは秀吉さまと同じお父さんの手なんだよ〜私には3人のお父さんがいるんだぁ」 血の繋がった本当の父。育ててくれた秀吉。そして今大事にしてくれる利家。 そう考えると母も3人いるのだなと思う。 贅沢な話だ、そして秀吉と出会えて運が良かったのだろう。 沢山楽しい事もあったが、沢山泣いたこともあった。 だが、すべて過去だ。 今、笑っていられるから、そんな泣いたことなど大したことにはならない。 「楽しいよ、きっと楽しい一年になるよ〜」 「そうだな。遊んでばかりの一年だな、お前にとっては」 「違うよー意味があるんだよー」 「意味?」 「………」 眠い。 三成の隣は心地よいから、三成の声音に安心して眠くなってくる。 「一年…たくさん、楽しんで…いっぱい思い出作るのー…そしたら、そうしたらね………」 は眠りに落ちながらぼそぼそと呟く。 「?」 「………」 「そうか…」 寝てしまったを抱きかかえ立ち上がる三成。 「こんなところで寝たら、馬鹿でも風邪は引くと言っただろうに…」 どこか温かい室で寝かせてやろうと歩き出す三成だった。 「は?」 宴の席に戻った三成を清正が問うた。 「あぁ。縁側で寝ようとしていたから、室に運んできた」 「この寒さの中をか?しょうがない奴だな、は」 清正は笑う。 「普段飲みもしない酒を口にしていたからな」 「そうだな。珍しいことだ」 「清正」 「ん?」 「今年は忙しくなりそうだぞ。が色々言っていた。どこぞに連れて行かれる覚悟ぐらいはしておけ」 「なんだそりゃ」 短い時間とはいえ、外に出ていた三成は体が冷えた。 酒はあえて遠慮し、熱い茶を所望する。 出された茶を口にし、小さく息を吐く。 「が願ったことだ。叶えてやろうと思っただけだ」 「ほぅ。三成がそんな事を言うとはな…まっあいつが自分の事を願うなど滅多にないしな。いいさ、考えておくか」 「そうしてやれ」 正則にもその辺話さないと、黙っていたら煩そうだと二人は笑いながら言った。 16/12/11
19/12/30再UP
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