琴瑟相和




ドリーム小説
「もう!やっと顔を見せに来たね、この子は」

再会した三成に対して、ねねの開口はそれだった。
これは説教に入られてしまうか?と思ったが、それも杞憂で。
ねねにしては珍しく少し泣きそうな顔で三成を出迎えた。





【3】





「少し痩せたかな?ちゃんとご飯は食べているの?三成は放っておくと食事を疎かにするんだから」

説教ではないが、軽い小言が始まってしまったようだ。
ただ、反論しようにも三成自身が反論できる要素を持ち合わせていないのでそれも叶わず苦笑しか出なかった。

「でも…こうして会いにきてくれただけでも十分なのかもね」

ねねは穏やかに笑う。

「おねね様…」

ほら。説教はないね。とは三成に笑いかける。
別に説教が怖いわけではないが、ねねにもかなり心配をかけたから、叱られるぐらいの事は覚悟していたのだが。

「清正や正則にも言ったんだけどね…皆が一番苦しんでいる時に、何もしてあげられなくてごめんよ。本当ならうちの人に代わって、私が間に入るべきだったのに…」

「いえ、それは…」

それに秀吉が存命だったならば、あのような事は起こらなかったはずだ。
家族は家族のままでいられたかもしれない。
それだと、亡くなってしまった秀吉が悪いとなるが、秀吉が病にかかった時何も気づけなかった自分達が悪いのだろう。

も…本当にごめんよ」

ねねはにも謝罪する。

「おねね様!いいんです!もう…あれは…終わったことだし、あれで戦が無くなるならばって思ったからで…でも、軽々しい考えだったとも思うし…」

「それは俺も同じです。こいつに…一番苦しい思いをさせてしまったから」

「みっちゃん…」

ねねは苦笑する。

「本当に皆いい子だね。清正や正則も同じように言うんだ。自分達が悪かったって…」

誰もがあの時は正しいと思っていても、どこがで後ろめたさがあって、自問を繰り返したことだろう。

「誰が悪いわけじゃないのに…」

なんだかしんみりしてしまう。
だけど、その空気を打ち破ったのはだった。

「でも、もう大丈夫です!今は、馬鹿兄貴達はまた一緒ですから!」

一瞬ねねは瞠目するもすぐさま笑った。

「そうだね。バカ息子達は元の鞘に収まったね」

バカ息子と言われて三成は否定しようかと思ったが、今までを思うとねねに面倒を見て貰ったのは事実であり、そういう風に見られても仕方ないとやめにした。

「今度は4人で遊びに来てちょうだいね」

「はい!あ…」

「ん?どうしたの?

「あの…4人で来た時は…その…またおねね様の作ったご飯が食べたいです」

子供みたいな事を言ってしまったが、ねねが作ってくれたものはどれも美味しかった。
母親の味なんだなって思えて。

「そうだね。腕によりをかけて作ろうか」

ねねも悪くは思わなかったようで約束してくれた。

「その時はもちゃんと手伝っておくれよ?」

「は、はい!頑張ります!」

「以前みたいな泣きべそは掻くなよ」

ぼそりと三成に言われては顔を赤くしつつ三成に食って掛かる。

「みっちゃん、いつの話!それにべそなんて掻いてないもん!!」

「そうだったか?清正に泣きついていただろう?」

「泣きついていません!」

本当に兄妹みたいな喧嘩だなとねねは微笑ましくそのやり取りを眺めていた。
もしかしたら、この光景は二度と見られないものだったかもしれない。
そんな事にならずに済んで良かった。
ねね自身。
二つに分かれた勢力で、子供たちが争う事になった時、覚悟は決めていた。
きっとどちらが勝っても何かを失うのだろうと。
そして以前のような光景は見られなくなるのだろうと。
すでに表舞台から背を向けてしまっていた自分にはそれをどうする事もできなくて。
秀吉の世がもう少し長く続き、秀頼が立派に成長していたならば良かったが。
結果的に秀頼はまだ幼すぎ家をまとめられなかった。

だから、今一度この光景が見られて心底安心した。

「本当。変わらないね。二人とも」

「おねね様?」

「おねね様。こいつはともかく。俺も成長していないと言われるんですか?」

「なんで、私はともかくなのよ!」

「事実そうだろう」

「ふふふ。うん。変わらないでいてくれて良かったよ」

ねねは終始笑んでいた。





「ねぇ。そろそろ嫁ぐ気はあるかい?」

ねねが急に言いだした事にの鼓動が跳ねる。

「え!?」

「私の所に、どうですか?って話が来るんだよ。まぁ、以前からもいくつかはあったんだけどね。あの人が片っ端から断ったんだよ」

秀吉に自身の息子などを薦めてくる大名などがいたが、秀吉は頑として受け入れなかった。
最初からそんな話などなかったかのように、の耳には一切入れるようなことはなかった。
だから縁談が来ていたと言うのは初耳だ。



『お前様。なんでに話もせずに断ってしまうのさ』

『あ〜えぇんじゃ。にはまだ早い』

その話はしたくない。とばかりに夫は煙に巻こうとする。

『早いって…遅いって言われてもおかしくないのにねぇ…あ!まさかお前様!自分がを側室にとでも思っているんじゃないだろうねぇ!?』

自分より年若い側室は何人もいる。
今に始まったことではないが、流石にどうかと思うが、夫は慌てて否定した。

『何、バカなことを言っているんじゃ!そんなことせんわ!!はわしらの大事な娘!そこらの小童なんぞに嫁がせてたまるか!』

『そこらのって…話に来たどの子も将来有望でいいと思うけどねぇ』

『……そりゃそうだが…ダメじゃ。はやれん』

の旦那になる人は大変だね、これは』

などとねねは苦笑したのだった。



今でも覚えている夫婦の話。
結局、秀吉は誰からの薦めも受けなかった。

『それによ。秀吉がにそんな話を一度でも持って来なかっただろ?あいつ自身、をそんな風に嫁がせようと思っていなかったんだ』

『それは…私が秀吉様の実子じゃないから』

『違うな。ま…秀吉の命令で嫁がされた妹さんには悪いけどな。あいつは本当に大事なもんは手元に置いておきたいんだよ』

『よく秀吉からはが可愛い、自慢の娘だって聞かされたもんだぜ』

そう言えば、そんな話を利家から聞いたなとは思い出す。
妹さんだって秀吉には大事な家族であっただろうが、政略的に有効な縁談だったのだろうと思う。
政の事はにはよくわからない。
自分にそんな価値があるのかわからないし、ない方だと思っていた。
だけど、利家はそうじゃないと言った。
秀吉はを大事に大事にしてくれていたからだと…。

?」

思い出してしまって、は少し目元を拭う。

「大丈夫です。ちょっと思い出して…」

ねねに笑顔を向ける。

「あの、おねね様。おねね様は私を心配してくださっているのはわかります。いつまでもって気持ちもわかります。けど…」

は三成に目を向ける。

「もうしばらくは…馬鹿兄貴達と一緒に居たいです」

日ノ本が分裂して戦になった。
西軍が勝ち歴史が変わったが、まだあれからそんなに時間は経っていない。
豊臣の地盤を固めるのに三成達は頑張っている。
だから、まだそれを近くで見ていたいのだ。

「そうかい。私がとやかく言う事じゃないからね。の好きにするといいよ。けど、その時が来たらちゃんと報告はしておくれよ」

「はい!……あ〜でも、今の私は利家様にお世話になっているから、そのどうなるかわからないですけど…」

一応利家はの気持ちを知って、勝手に縁談を持ってくるような事はしないと言ってはくれた。

「利家もお松ちゃんもを可愛がってくれているみたいだしね」

ねねは笑う。

「最近、お松ちゃんが自慢ばかりしてくるんだよ」

「い、いえ。あの」

「それに。だけの話ではないね。三成!あんた達もだからね!」

話は三成に向けられる。

「は?」

も心配だけど。あんた達も心配なんだよ。いまだに誰もお嫁さんがいないんだから。まったく何をやっているんだい」

三成にしてみれば、話の矛先が自分に向けられ、しかも結婚話ときた。相当嫌に違いないとは思えた。
また何かしら悪態でも付くのだろうなって。
清正や正則も同じように言われたのだろうか?
正則辺りは笑ってごまかしそうだし、清正は軽く落ち込むのだろうなと想像する。

「あぁ。その辺は問題ないです」

「そうなのかい?」

「はい。に貰い手がない場合は、俺が貰ってやることになったので」

「み、みっちゃん!?」

あれは冗談話だろう?とは慌てる。
自分も軽いノリで言っただけに過ぎないのだが。

「三成が…を?…ふーん」

ねねは二人をじーっと見る。

「うちの人がその話を聞いてどう答えるのか気になるものだね」

「あ。それは…」

「三成ならば合格点を貰えると思うけどね」

三成でもダメと言われたならば、いったいどんな人が自分の結婚相手にふさわしいのだろうか?とは逆に気になるものだ。

「それがいつの話になるのかも気になるけど。そんなに長い事時間をかかせないで欲しいものだね」

何せ貰い手はない場合だから。





「もう!おねね様の前で急に言いだすから驚いたよ」

帰り道、は三成に先ほどの事を口にする。

「そうか?」

「そうだよ」

帰り際。また来ておくれね。とねねがいつまでも二人の姿を見送ってくれた。
今度は絶対4人で来ようとは思った。

「だが、行きにそのような話をしたからな。おねね様に余計な事を言われる前に先手を打っただけだ」

「もっと別の話題を振ればいいのに」

「まぁいいさ。おねね様の許しを得たんだ。何も問題あるまい…いや、まだいたな。許しを請う相手が」

「は?」

「前田殿の方が厳しそうだ」

だが三成にしては珍しく楽しそうに言った。

「…遊んでいるでしょ?みっちゃん」

「わかるか?」

珍しく表情明るく言う三成に、は呆れるもきっとねねに対しての気遣いなのかな?と思った。
からかわれている感じがしなくもないが、三成なりにねねに心配をかけたことを気にしているだろうし。
あのようなやり取りは、ある意味秀吉が居た頃にもあったから。
はトンと軽く跳ね、三成の一歩先を歩く。
これはこれで良いか。とは深く考えるのをやめた。

「別に冗談というわけでもないのだがな」

「え?何?みっちゃん」

は振り返る。三成の呟きはの耳には届いていない。

「なんでもない」

「?」

三成は小さく笑い、は首を傾げたのだった。








16/03/20
19/12/30再UP