戻らない時間。




ドリーム小説
夢を見た。

嫌な夢だった。

関ケ原で戦う馬鹿兄貴達がいた。
三成と清正が戦って、清正が勝った。
三成はそのまま戻って来なかった。

嫌な夢だった。

翌日も夢を見た。
嫌な夢だった。

関ケ原で戦う馬鹿兄貴達がいた。
三成と清正が戦って、三成が勝った。
清正はそのまま戻って来なかった。

嫌な夢だった。

さらに翌日も夢を見た。
嫌な夢だった。

関ケ原で三成は負けた。
徳川についた清正と正則だったけど、豊臣の為に家康と戦う事を選んだ。
でも、二人は結局戻って来なかった。

どれもこれも嫌な夢しか見なかった。

自分が知っている歴史。
歴史は変わらずそのまま流れるのだろうか?
だとしたら、自分はこの先どうなるのだろうか?
どう流れても、大好きな家族はそこにいない。

適当に誰かに嫁いでそれなりの人生を送るのか。
出家でもして尼僧にでもなって散った家族を弔うのか。
それともただ一人、何もできずにのたれ死ぬのか。

どれでもいい。
そこに家族がいないのならば、この先どんな事が起ころうがどうでもよかった。





【4】





。顔色が悪いわ…具合が悪いならちゃんと言ってちょうだい」

松が心配しての顔を覗き込む。
はかぶりを振る。

「大丈夫です、お松様。悪い所はどこもないです」

「そうは見えないわ」

でも。と松は目を伏せる。

「色々不安なのね…」

「………」

利家も出陣した。
関ケ原で豊臣と徳川はぶつかる。
各地で起きている戦も一進一退の状況らしい。
二人のもとに吉報と呼べるものはまだ来ない。

「不安…です。けど、覚悟は決めました…色んなことに」

利家に言われた。
色んなものに覚悟しておけと。

その覚悟は馬鹿兄貴達の事だろう。
誰も欠けず戦が終わるとは思わない。
引き分けなんて事もないだろうし。
史実通りならば、三成は負け処刑されるのだ。
わかっていても、きっと、この先清正と正則と顔を合わせることはないだろうとも思った。
欠けてしまう馬鹿兄貴達に、以前と同じような顔はできない。
できたとしても、それはそう繕っただけだ。

三成に負けて欲しくない。
居なくなって欲しくない。
だけど、それは清正達にも言える事で。

(それでも覚悟しないとダメなんだ…もう…)

あの時間は戻って来ないのだから。

「お松様。今日って何日でしたっけ?」

「今日?今日は…9月15日よ。何かあるの?」

「………そうですか、今日…なんだ」

時間も待ってはくれなかった。
今日、関ケ原ですべてが終わるんだ。



***



「殿!」

深い霧はいつの間にか晴れた。
あちこちから聞こえる喊声、悲鳴。
何がなんだか三成にはわからなかった。
三成の横を兵士たちが駆けていく。

「ぐずぐずしないで!西軍が勝ったんですよ、急がないと」

「無理だ。左近…俺は…」

夢なのかと疑ってしまう今の状況。
呆けているような三成に左近は馬上からその体を引っ張り上げた。

「左近!」

左近は有無を言わさず馬を走らせた。
関ヶ原で豊臣が徳川に勝った。
もともと数では互角と言われても、勝因に繋がる要素が徳川に比べたら少なかった。
いつ裏切りが出ても可笑しくない状況で。
それでも勝てたのは利家が前線で戦ってくれたこと。
左近が敵の策を見破り撃破してくれたこと。

それでも。

失ったものも大きいのだと身に知らされた。




「大将だったら、憮然とした顔で本陣でどんと構えてな。覚悟ぐらい決めてンだろ?お前も」

戦が始まる前、利家がそう三成に言ってきた。
家康と戦う事に恐怖などない。
負けてなるものかと強気な自分がいた。
兵士たちを鼓舞し、士気を高めて決戦に望もうとしていたのだ。
だけど、利家にはそうは見えなかったらしい。

「そうお思いになるのでしたら、前田殿が本陣で」

「そうじゃねぇよ。大将云々の話じゃねぇよ。あいつらとやり合う事に覚悟してンだろ?って話だ。清正は腹をくくったなンて言ってやがったがな」

「……清正が…」

「あと。

「…っ…」

その名を聞いて胸が痛んだ。
最後に会ったのは何日前だ。
出陣する時も会わなかった、いや、顔を合わせられなかった。
忙しいこともあった。
だけど、のした事に腹を立てた自分が居て。
にそうさせてしまった自分が情けなくて。

「家出る前に、にも話した。色んなものに覚悟しとけって。
お前もわかってんだろ?あいつは天下なんかより、一番にお前ら馬鹿兄貴達を心配している」

「そう言われても、俺には、あんな」

「あンな事されちゃあ、立つ瀬ねぇってか。泣いてたぞ、…」

「………」

唇を噛みしめる三成。
が泣く理由などわかりきっている。
自分が泣かしたようなものだ。
だけど、許せなかったのだ、あれは。

「俺にもっと力があればと思いましたよ…」

「いらねぇよ、力なンざ」

「けど」

の気持ちもわかってやれ。一番自分が何もできないと嘆いたのはだ」

「秀吉が築いたもンを守りたいって気持ちは俺もわかる。嬉しいさ。
けどよ、秀吉が大事にしていたもンを泣かすなよ。守ってやれよ、大事な奴だろ?」

「前田殿」

利家は三成の胸拳を当てた。

「勝つぜ、三成。お前は勝ってに会わなきゃならねぇンだ。だからお前も腹くくれ」

戦に勝つと言う事は。
自分の前に立ちふさがるだろう友を倒すと言う事だ。



腹をくくった結果がこれだ。
伝令兵からの報告で加藤清正撃破と聞かされた。
勝って豊臣の世は守られたけど、そこに誰よりも「家」を守ろうとしていた友はいないのだ。
これで本当に良かったのかと三成は自問する。
に会えと言われても、清正がいなくなったことを彼女に責められるだろうか?
いや、だけではない。
ねねにも会す顔がないように思えた。

広い戦場で、左近に連れて行かれた場所に多くの兵士が倒れていた。
左近が馬を止めると三成は咄嗟に飛び降りる。
その先に利家がおり、そばで清正が倒れていた。

「清正!」

三成は思わず駆け寄る。
倒れている清正の前に膝をついた。

「清正…俺は…!」

もっと他に道はなかったのだろうか?
守りたいものは同じだったのに。選んだ道が別々で。
悔やむ気持ちが嫌なほど湧き出るくらいならば、我慢してでも清正と同じ道を選ぶべきだったのか?
できない、そのような事。義に反するようなことなど。
己の想いに嘘を吐いて共に歩むことなどできるはずがない。
もし、そんな事をしても、周りは気づかずとも、清正にはすぐに見透かされ軽蔑されるに決まっている。
だから、今、違う道を進んだんだ。
あぁ、覚悟ってのは本当に重い。重すぎるものだ。

「……?」

だけど、倒れていた清正の体が動いた。
指が、肩が、そして、意識があった。
三成は瞠目する。
それは倒れていた清正の同じだったようで。
三成は言葉がすぐに出ない。
清正は体を起こす。
すると二人の間に影ができる。

「三成…清正…」

強い力で押さえ込まれたと思ったが、その強い力は正則で。
正則は二人を強く抱いたのだ。

「なんだ、突然。やめろ馬鹿が!」

三成は放せとその場から逃げようとする。

「正則、苦しいからやめろ」

清正も正則の頭を手でどかそうとしている。
だけど、正則は二人の言う事なんか聞く気がないのか、泣きながらただ二人抱える。
その様子に左近は笑い、利家がやって来る。

「間に合ってよかったな」

「そうですね。俺もやはりあの3人が揃っている方がいいんで」

利家は万が一清正の首が討ち取られないようにそばにいたようだ。

「あいつらは大丈夫だろ」

「でしょうね。あとは嬢ちゃんだ…」

「なンか、あれだな」

利家が笑う。

「戦に勝ったのも、清正達を生かしたのも、全部の為っぽいな」

その為に左近が頑張ったんじゃないかと利家が言う。
左近はただ不敵に笑う。

「そりゃあ。俺は嬢ちゃんの味方ですからね。嬢ちゃん含めて四馬鹿を見るのが楽しいんですよ」

利家にもそうではないか?と左近は言う。

「そうだな。俺もの味方だな。小さい体で頑張ったからな、も」

天下なんてどうでもいい、馬鹿兄貴が仲違いする姿を見たくないとは泣いていたのだから。

「早くに知らせてやンねぇとな。俺も脅かすような事を言って出てきちまったからな」

覚悟をしろ。などと。

「あぁ、それと。俺なりにできる限り、あいつらの処遇軽くするようにしてみっから」

「えぇ、頼みますよ。あなたならばそれも可能だ。折角三馬鹿が揃っても、また欠けるような事になれば困りますんで、色々と」

「そうだな、色々と」

利家と左近はすでに先の事を考えている。
壊れかけた豊臣の家を建て直すには、一度は違ったとはいえ、清正と正則の力は必要なのだ。
だが、まずは戦勝報告だ。



「これで…よかったのか…?」

久方ぶりに顔を見合わせた三人。
何を言ったらいいのかわからず、最初に三成の言葉はそれだ。

「…俺にもわからん…」

清正の困惑気味だ。
お互い袂を分かったからだ。
だけど。

「いいに決まってんだろ!ガツンとやり合った結果なんだからよ!喧嘩の後は素直に仲直り、これ基本!!」

正則だけはこれでいいと言い切る。
そしてあれだけの大戦を「喧嘩」と言い切れる性格が羨ましい。

「喧嘩は三成の勝ち!俺と清正は三成の言う事を聞く!それでいいだろ」

「……単純な奴…」

「こいつはそう言う奴だ」

三成と清正は呆れつつも、思わず笑ってしまった。
そして清正は穏やかな顔で言い切った。

「そうだな…お前に従うよ、三成」

「清正…」

「どんな罰も受けるさ。俺は徳川についたんだからな」

「それは…」

三成が判断を下すわけにはいかない。
今回の戦、あくまで陣頭指揮を執ったのは三成だが、豊臣方の総大将は毛利家の者であり、利家などの五大老もいる。
それでも私情を挟むまいと思っても、三成が思うことも一つであり。

「前田殿に掛け合ってみる。俺はもう一度お前達と共に歩みたい」

違えた道だが、願っていたものは同じだから。

「よっしゃあ!これからんとこに行こうぜ!」

「「………」」

途端、三成と清正の顔が曇った。

「なんだよ、どうしたんだよ」

「い、いや…なんでもない」

「そ、そうだな…の所へ行かないとな…」

戦前の事を思うと、少々気まずいと感じているのだ。
大事にしてきた妹分を沢山不安にさせ、沢山泣かせてしまったのだから。
しかも、清正、三成共にに対しバツが悪いのだ。

「いいから、行って喜ばせてやろうぜ!」

正則の性格が羨ましいと本気で二人は思うのだった。








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12/10/21
19/12/30再UP