口閉ざす馬鹿、拗ねる馬鹿。



ドリーム小説
【2】





最近周囲が以前にも増して賑わっている。
色んな者達が秀吉の下を訪れるからだ。

、久しぶり」

「稲ちゃん!」

久しぶりに再会できた子
徳川家康公に親子で仕える本多忠勝の娘稲姫。
年がそう変わらないが、すでに稲は上田の大名真田家に嫁いでいる。
会える回数はそう多くはないが、にとって数少ない同性の友だ。

「あー。稲じゃない、久しぶりね〜」

稲姫が清楚な青を基にした衣装に対し、燃えるような赤を基にした衣装の子がやってきた。

「甲斐。あなたこそ、元気そうで何よりだわ」

一言で言うと立ち振る舞いがカッコイイ。
そんな女性だ。

。こちらは成田氏長殿のご息女甲斐殿よ」

北条家に仕えている人だと言う。
北条と聞いて三成たちが言っていた事を思い出した。

「はじめまして」

「あたしは甲斐。よろしくね!」

北条にと聞いて、秀吉に帰順を申し入れたとはいえ敵意でも向けられたらどうしようかと
思ったが、そう心配することもなかったようだ。
呼び方も好きなように、呼びやすいようにと気軽に言ってくれる。

「じゃあ。稲ちゃんと同じ。甲斐ちゃんって呼ぶね」

甲斐姫にはどこの子?と聞かれて、どう答えようか迷った。
二人とは違って家族はいない。
家族と呼べるような人たちはいるのだが。
だが、それを答えたのは稲姫だった。

は秀吉様やおねね様のお子よ」

「え?そうなの?天下人の娘なんだ、あんた」

「ち、違うよ。稲ちゃん」

「そう否定しなくても。が言いたい事はわかる。血の繋がりの事を言っているのでしょう?」

「・・・・・うん。お二人には可愛がってもらっているけど」

「よくわかんないけど、ならいいじゃない」

甲斐姫には大して気になる要素でもないようだ。
それが返って、以前三成たちが言っていた「すごい女」が甲斐姫ではないかと確信しつつあった。

「おやおや〜みんなで何の集まりですか〜」

また一人の少女がやってきた。
木の枝からスッと降りてきた。

「あんた」

「くのいち」

その身のこなしから彼女が忍びであるのは想像がついた。

「あたしも仲間にいれて欲しいな〜」

別に何かをしていたわけではないが、それを断る理由はない。
は忍びの彼女、くのいちにも自己紹介をした。

「あたしのことはくのいちって呼んでくれればいいよー」

本名は明かせないと言うのだろうか?だがわからない以上はそう呼ぶしかない。

「あんた、幸村様はいいの?一応護衛なんでしょ?」

「一応は余計だっての。幸村様は幸村様でお友だちと楽しくやってるよー」

急に場が賑やかになったなとは少しだけ緊張してしまう。
彼女達と仲良くなれるのかと。
そう言えば、三成たちが言っていたことがあったじゃないか。

「あの。甲斐ちゃんも稲ちゃんみたいに戦に出たりした?」

「ん?うん。出たわよ。そこらの男より強いわよ、あたしは」

「そうそう。怪力が自慢なんだよね〜」

「あんたね!」

「甲斐はあちこちで活躍したものね。小田原城でも忍城でも」

稲姫も甲斐姫の活躍には感服したようだ。
だがその話で、やっぱり彼女が三成たちの言っていた子だとわかる。
は手を叩いて喜んでしまう。

「みっちゃんの言ってた子が甲斐ちゃんだ!」

「「「みっちゃん?」」」

「え?」

3人が声を合わせて言うのでは何か可笑しな事を言ったのか焦る。

「みっちゃんって誰?」

「えと・・・・」

「もしかして、石田三成殿のこと?」

「う、うん。そうだけど・・・」

「へぇ。みっちゃんかぁ〜幸村様のお友だち君はそう呼ばれているんだー」

「あぁ。あいつかぁ・・・・なんかみっちゃんって言うと印象変わるわね」

「え?え?」

稲姫はともかく、甲斐姫とくのいちは口元を緩めてニヤニヤと笑っている。
三成の事をそう呼ぶのはよくないのだろうか?
今まであまり気にした事はなかったのだが。

「へ、変なのかな?」

「変って言うか・・・・一応軍を率いる立場でしょ?威厳があまり感じられないわね」

「・・・・・あ」

思えば三成にも度々言われていた。

「その呼び方をいい加減やめろ」

と。
三成が強く言わないのをいい事に、気にしないと「みっちゃん」と呼んでいたが。
もしかして、周囲からあまり好ましく感じられていないのだろうか。
築き上げた印象がガラリと変わるのは確かだ。
は三成に嫌な思いをさせていたのではないかと不安になる。

?」

「・・・・・みっちゃんに、あ。えと三成に嫌な思いをさせたかと思って・・・」

元気をなくしたを心配した稲姫。
だけど、その理由に稲姫は大丈夫と言葉にした。

にとって、三成殿は大事な家族。好きに呼べばいいと思うけど」

「稲ちゃん・・・」

別に甲斐姫やくのいちもそれがダメとは口にしていない。

「それで?そのみっちゃんがあたしの事をなんて言っていたの?」

「え、えと」

「恐怖の怪力熊女〜!とか?」

「そんなこと言っていたなら、ボッコボコにしめるわよ」

「うわ、こわ〜い」

漫才のようなやり取り。
甲斐姫とくのいちは終始こんな風に付き合っているようだ。
一通り言い合ってから、改めてに「それで?」と甲斐姫は問うた。

「あ、うん。甲斐ちゃんと私は気が合いそうだって」

「へぇ」

「珍しく人を褒めてた。甲斐ちゃんのことを」

「そう。なら仲良くなれるんじゃない、あたし達」

ニコっと笑みを浮かべる甲斐姫。
小さい事は気にしない、さっぱりした性格のようだ。

「よし。なら改めて親睦を深めるために、何か食べに行こう!」

「お。いいですな〜餡蜜とか善哉とかいいよね〜」

甲斐姫の一声にくのいちも乗り気のようだ。
確かに甲斐姫は裏表のない人柄のようで、嫌いじゃない。
ただ、甲斐姫の事を熊だ猪のようだと言っていたのは黙っておこう。

「・・・・・・」

「行くわよ。!」

「あ、うん!」

女4人で楽しい時間を過ごせそうだ。
だけど、少し前に感じた。心に穴が開いたような寂しさがまた広がった。
彼女達と仲良くなれそうで嬉しいはずなのに。



***



甲斐姫達と出かけた茶屋。
同じ年頃の子達と遊ぶことがなかったから、最初は緊張しつつも段々と慣れていった。
だけど、少しだけくすぶっている事があり、それを悟られまいとした。
茶屋で土産として団子を買った。
美味しかったから、三成達にも食べてもらおうと思って。
その足で三成の室へ向かった。

「みっ・・・・あ」

三成の室へ行くと、彼一人ではなかった。

「どうした、

「あ、うん。お客さんが居たんだね」

見知らぬ男性が二人居た。

「お前にも紹介しよう」

真田幸村と直江兼続。
二人共三成の大事な友だそうだ。

「二人には北条攻めの際随分助けられた」

三成が前に言っていた「あいつら」のことか。
他にも頼れる御仁たちが居るようだが、彼らは今はここにはいない。
三成が随分頼りにしているのだと、その顔を見てわかる。
清正や正則とも信頼はしているだろうが、あの二人とは違う。
あの二人とは競い合って高めあっているような感じがする。

真田と聞いて稲姫とくのいちを思い出す。
確かくのいちの主人の名前が幸村だったし。
その事を聞いてみると、幸村がそうだと答えた。

「稲殿は私の義姉です。義姉上とお付き合いがあるのですね」

「はい」

くのいちを含めて今後もよろしくお願いします。などと幸村に頭を下げられた。
自分の周りに居た人達とは変わって穏やかな人だなと言う印象を持った。

「それで?用件はなんだ?」

「え?あ、うん。さっき稲ちゃん達と茶屋に行ってきたの」

三成の隣にちょこんと座りこんだ。

「お土産に団子買ってきたの。みっ・・・・」

いつもみたいに「みっちゃん」と呼ぼうとしたのだが、甲斐姫達との会話が引っ掛かった。

?」

「三成にも食べてもらおうかと思って。清正達と一緒かなと思ったけど・・・これは幸村さんと兼続さんと食べてね」

包みを広げると串団子が姿を見せる。
幸村も兼続も美味そうだと喜んでくれた。

、お前」

「ごゆっくりどうぞ」

は邪魔をしちゃ悪いと思って室を出た。
少し離れたところで、3人の笑い声が聞こえた。
三成が声を出して笑うなんて珍しい。
三成にとってあの二人は本当に代えがたい大事な友なのかと思った。
思うと、心に開いた穴が少し広がったような気がした。



***



あれから、三成が幸村達と過ごしている姿を何度も目撃した。
幸村と兼続だけでなく、他にも数人一緒に居て。
楽しげなその姿に、は寂しさを感じてしまう。
自分も稲姫達と行動を共にするも、どこかで甲斐姫に引っ掛かる部分があって少しばかり壁を作ってしまいがちだった。
それに。

(約束・・・・ダメなのかな)

小田原へ出陣する前の約束が叶っていない。
その暇がないと言うより、忘れられているのかな?と不安に思う。
秀吉が天下を取ったからと言って、暇になるわけでもないし。
やる事は沢山ある。
その中で、空いた時間は有意義に使いたいだろう。
その相手には友を選んでいるという事だろうか。
あの場に行くと、自分の知らない三成が出てくる。

(つまんない・・・・)

それは三成だけでなく清正達にも言えた。
三成が友を得たように彼らも付き合いが増えたようだ。
見知らぬ人達と一緒に居る姿を何度も見た。

「・・・・・」

は縁側の柱によりかかって足をぶらりとだらしなく出している。
ただの子どもの我がままみたいなものか、となんとなく自分ではわかっているつもりなのだが。

「お前は本当に大馬鹿だな」

頭に重みが感じるも、すぐさま軽くなる。

「清正」

「おねね様がくださった。食え」

皿に盛られた豆大福。
コトっと置いた清正はそのまま隣に腰を下ろした。

「あ。もしかしておねね様が作った奴?」

「らしいな」

の顔は綻び姿勢を正す。

「いただきまーす」

そしてひとつ手にとりかぶりついた。

「んまーい。おねね様の豆大福大好き」

「そりゃあ良かったな。大馬鹿」

「なんで、馬鹿から格上げしてんのよ」

「馬鹿じゃ収まらないからだ。良かったな、お前の大好きなみっちゃんとお揃いだ」

そう言って清正も豆大福をとった。
はひとつ食べ終えるも、二つ目には手を出さない。
清正の言葉に面白くなさそうに唇を尖らせるだけだ。

「まだ何か隠しているなとは思ったが。やっぱりだ・・・・大馬鹿」

「な、なによー」

清正に見透かされていたかと思うとなんか悔しい。
悔しくて顔を歪ませてしまう。

「なんで清正は気づくの・・・」

「なのに三成は気づかないかって?そりゃ違うな」

「?」

「あの馬鹿も薄々お前が可笑しいことには気づいているさ。けど、そういう時に限って俺の方が見つけるのが早い」

この前のお握りもそうだったろ?と清正は言う。

「お前にしてみれば放っておいて欲しいかもしれないが。生憎俺自身が放って置くことができない」

「・・・・・・・・」

「ほら。吐いて楽になれ」

じゃないとせっかくの豆大福も堪能できなくなるぞ。
清正は食べる手の止まったに、その豆大福を示して笑った。

「ただの・・・・拗ねとか、我がままだと思う。みっちゃん達が色んな人達と楽しくやっているから、つまらなくて」

「けど、お前も友達できたって喜んでいただろう?あの猪女とか」

「甲斐ちゃんに告げ口するよ?」

「それは勘弁だな。つーか、猪女であいつだって通じるお前もどうかと思う」

「あ」

は笑う。

「うん。稲ちゃんだけでなく、甲斐ちゃんともくのちゃんとも仲良くなれたよ。
けどね・・・・なにかな・・・・・甲斐ちゃんに・・・・なんか・・・・みっちゃんが・・・・」

上手く言えない。
どう説明すればいいのかと。
だけど、清正には通じたみたいで笑われた。

「な、なに!?」

「本当、三成の言葉に左右される奴だな。あれか、三成があの女を褒めたのが面白くないのだろう?
あいつが誰かを褒めるなどまずしない。褒めたかと思えばにしてみれば会ったこともない女だった。
だから面白くないんだろう?それはただの嫉妬じゃないか」

「・・・・・・う」

嫉妬と聞いての顔が赤くなる。
図星だったのと、言われたことで恥かしくて。

「俺にしてみりゃ、言うほど褒め言葉にも聞こえなかったけどな。
普通にあの女とならばいい友人になれるだろうと、三成は言っていたと思うんだが」

「そ、そうかな?」

「そうだ。これで一つは解決だな。次にあの女と会う時はもっと楽しめるだろう」

「うん・・・・」

甲斐姫にしてみれば、一方的な理由で呆れられてしまいそうだ。

「それで。もう一つは三成自身がほかの奴らと楽しくやっているのがつまらないんだろ?」

「それは・・・みっちゃんだけじゃないよ。清正も正則もそうだよ・・・・」

「は?」

「私は言ったよ。みっちゃん達がって・・・・帰って来たら色々好きなことさせてくれるって言ったのに・・・」

「あ・・・・」

清正は参ったと頭を掻いた。
戦に一緒に行きたいと強請ったに、安全な地で待っていて欲しくて。
秀吉が天下を取り戻ってきた時に、に付き合うと3人で言ったこと。

「・・・・・・忙しいこともあるから、仕方ないってわかっているけど・・・」

「あぁ。そりゃ俺達が悪いな」

悪かったとわしわし頭を撫でられた。

「こ、子どもみたいって・・・・わかっているけど・・・・」

今も子供扱いされているようだが、気持ちを正直に吐き出したことですっきりするどころか。
寂しさを再確認してしまったようで、すごく悔しい。
悔しくて、寂しくて、涙が出そうだ。

「いっつも4人で馬鹿やっていたからなぁ・・・・急にバラバラになったように見えたんだろ?」

「・・・・・・」

「あと。三成が盗られて面白くないか」

「・・・・・幸村さんと兼続さん、ずるい・・・・みっちゃんを独占して」

「独占って言うのか、あれは・・・・」

清正は苦笑する。

「だけど、そう思っているのはお前だけじゃねぇよ」

「?」

「口にはしないが、正則の奴も似たような感じだったな」

「え?」

「三成がまったく構ってこないから面白くないみたいでな」

普段は頭デッカチと突っ掛かる正則だったが。

「・・・・・」

「どうした?」

「たまに正則って可愛いことするよね・・・・」

悔しさとか寂しさとか、負の感情が湧いたのに。
正則も自分と一緒。
寧ろ自分よりも可愛いことをするなと思うと自然と笑みが零れた。

「馬鹿だからじゃねぇのか」

「あははは。うん、馬鹿だ。どうしようもない馬鹿だ」

「ちゃんと時間を作るから。もう拗ねるな。こう言っちゃなんだが、待つのは得意だろ?」

「嫌な特技だね。それは・・・・・。でも、うん。もうちょい待ってる」

そしたら4人で沢山遊べたらいいなと思った。








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19/12/30再UP