戦国スローライフで楽しみます。



ドリーム小説

直政の前で泣いてしまったことは後々考えると、恥ずかしいとか照れ臭さを感じたが。

が寂しくならないように、気に留めておこう」

などと結局直政が気に留めてくれたこともあるから、思い切って割り切る事にした。
直政だけでなく、直虎や稲にも心配をかけたようなので。

「と言うわけで、七夕です!」

ドンと直政の前には仁王立ちした。





【5】





「…何がだ?」

「もうすぐ七夕なんです。直政さんは七夕を御存知ですか?」

「…あまり詳しくは知らないが…」

「私の居たところでは一般的なイベントなんですよ。家庭的な、庶民も楽しめる」

ここではどちらかと言えば、貴族達が行うような宮中行事らしい。
それを当初は寂しく感じたが、先日の出来事からある意味吹っ切って。
どうせなら自分のやりたいように楽しんでしまおうと考えたのだ。
まずは、即反対するであろう直政を引っ張り込むことにした。

「その七夕をどうしろと?」

「大きな笹が欲しいです。それに飾るんです。色んな物を」

「どこに飾るのだ?まさか、屋敷内に?」

「外に決まっているじゃないですか。門の前でもいいし。庭でもいいし」

「何のために?」

流石にすぐに賛成してはくれないか。

「えーと…習い事の上達とかを願うんです。元々はそんな感じらしいのですが。
この際なんでもいいんです。願い事を書きましょう!」

「願い事など」

「些細なことでもいいんです!楽しんだもの勝ちです!とりあえず、笹を取りに行きましょう!!」

「誰が」

「私と直政さんです!」

何故自分がと言いたくなるが、先日少し落ち込んでいたが、やる気を見せているようなので。
水を差すのもどうかと思い、気が済むまで付き合うことにした。
がまずは笹だと言うので、一緒に屋敷を出て歩き始めるが。

「その笹はどこで手に入れるのだ?」

「……山?」

「今からか?そしてどこの山だ!?」

「さぁ?私より直政さんの方が詳しいんじゃないですか?私近場の事しかまだ知らないので」

「いや、そうだとしても…」

直政も笹の生えている場所など知らない。

「家康様のお屋敷とかに生えていませんかね?」

「やめろ」

「この際、家康様も巻き込んでしまおうかと考えているのですが」

「絶対にやめろ」

「ダメですか」

は笑った。
ただ運がいいのか、二人は本多忠勝に途中出会い、笹の話をしてみたのだが。
誰某の屋敷に群生していたような覚えがあると聞いたので、行ってみた。
誰某さんは直政も知っている人だったので、突然の訪問も受け入れてくれた。

「珍しい物を欲しがる娘さんですな」

「俺もそう思います」

「家康様とご縁のある娘さんだとは聞いていますが」

どの笹がいいか物色しているを置いて、直政は主と縁側で茶を頂いていた。
笹をくださいと言われて主は当初は面食らった様子だが。
別に価値あるものでもないので、遠慮なくどうぞと言ってくれた。

「そう…聞いているのですか」

確かに家康と出会えたのがきっかけでは井伊家で世話をしているが。
何も知らない人達には、変な噂とならなければ良いがと、少しばかり直政は不安に感じた。

「娘さんは笹で何を?」

「七夕をやりたいそうですよ」

「七夕…星合ですか。それはそれは」

「…何か?」

「いえ。そう言うのを大事にされる娘さんなのかと思いまして…」

「直政さん!あれにしましょう!あれくらいがちょうどいいです!」

があれくらい。と指さしたものは正直直政の背丈よりも大きく。
あれを一人で運んで帰るのかと若干面倒くさく感じてしまった。
それを主が見て感じたのか、苦笑しながら。

「あとで家人に届けさせましょう」

と言ってくれた。
こちらから突然押しかけたのに、結局手を借りることになってしまった。
と何度も主に頭を下げてから屋敷をでた。





笹を届けてもらったはご機嫌で庭先に笹を立ててもらい、飾りつけをし始めた。
女中達にも手伝って飾りを用意したらしく、彼女らはあれこれ言いながら楽しんでいるようだった。
直政は飾りつけを手伝うわけでもなく、なんとなくその様子を眺めていたのだが。

さん、すっかり元気になって安心しました」

直虎が顔を出し、の顔を見て笑みを浮かべていた。

「義母上」

「これも虎松のお蔭ですね」

「いえ、俺は別に…ただ、もそこらにいる娘と変わらないのだなと…」

「それはそうですよ?何を今更」

「いや、何と言うか…時代が違うと言うだけで、どこか変わった奴だと勝手に思い込んでいたから」

「もう!それはさんに失礼ですよ!」

「反省しています」

直政は一度は苦笑するも、すぐに真面目な顔をし。

「ですが…少し危うい気もします」

「え?」

「俺はが遠い先の時代から来た者だと知っているから、変わった奴だと単純に思いましたが。それを知らない者達がを見ると、浮世離れした存在に見えるらしいです」

「それは…」

本人にはその気はなくても、周囲はあいつを高貴な目で見るかもしれないと」

がやろうとしている七夕まつりと言うのは、今は庶民の間で広がりを見せていない。
一般化するのはもう少し先の、戦が終わった時代になってからだ。
それまでは貴族たちの間で行われる宮中行事としてのものだった。
だから、それをが知っていると言うだけで、さらには家康と縁があると知られていると。
妙な勘繰りをする者が現れるかもしれない。
笹をくれた主は、家康の家臣の一人なので、家康を裏切る真似などはしないだろうが。

「…まぁ…見た目でが貴族だとか姫だとか、そう言う風に見えるとは思いませんが」

「それは余計な一言ですね、虎松」

不安が広がりそうだったが、直虎は息子の言葉に呆れてしまった。

「確かに私達はさんの事情を知っているので、なんとも感じませんが。
さんの事を知らない方々には、これからさんの事を知ってもらえばいいんじゃないですか?」

「それは、すべてを明らかにと?」

「いえ。余計な事は言わずとも。さんのお人柄を知れば。不安要素など消えると思いますよ」

「………」

「虎松?」

「それは義母上も、が貴族には見えないとおっしゃっているのですよね?」

「ち、違いますよ!」

まさか息子に揚げ足を取られるとは思わなかったようで。直虎は慌てて否定する。

「直虎さま!直政さん!お二人も書きましょう!短冊に願い事を」

が一段落した飾りつけを終え、二人の下へ駆け寄って来た。

「短冊にですか?」

「はい。そう言うものなんです。基本的には学問とか裁縫とかの上達を願うのを書いたらしいのですが、私流なので、思った願い事を書いちゃいましょう!」

色んな意味があるが、そう言うのを抜きにしてただみんなと楽しみたい。
それだけだと、は言った。

「そうですね。じゃあなんでもいいのなら、私も…」

直虎は書いてみると室に戻っていった。

「直政さんも。なんでもいいよ。まぁ多分家康様か、直虎さまのことを書きそうなんだけど」

図星でしょ?とに言われて、直政は少し面白くなさそうな顔をした。
渡された短冊をしばし見つめるも、言われてみれば確かに二人の事しか思い浮かばない。
なんでもいいと言うのならば、素直にそれを書けばいいのだろうが。
なんとなく癪だ。

「逆に聞くが…の書いた願い事はなんだ?」

「えー?乙女にそれ聞いちゃいます?」

「誰が乙女だ」

は怒ることなく笑っている。
自然と笑ってくれていると思うと、それだけでも直政には安心できる。
先程少しだけ不安がよぎったので余計に。

「まぁこれと言って難しい事は書いていませんよ」

そう言ってが見せてくれた短冊には。

「毎日楽しく過ごしたい!」

と書かれていた。

「とりあえず、後悔になる様な事はしないで、楽しく過ごせたらいいなって。この先の事わからないし」

「…そうか」

それはこの先、が元の時代に帰る事を意味するのかもしれない。
だけど、の言う通り、誰にも先の事はわからない。
が親元に帰れるようになればいいと思うし、もしかしたら一生帰れないかもしれない。
にはどうしようもできないことで、ならばと。
彼女なりに出した答えなのだろう。

「前にも言っていたな、しばらくは楽しむと」

「はい。なので、しばらく遊び相手になってくださいね。直政さん」

「遊び相手と言うと…聞こえが悪い…」

「あ、あ〜深い意味はないのですが」

は言葉選びが難しいと頭をかいた。

「まぁいい。お蔭で俺も書く願い事が決まった」

「え?なんですか?」

用意してくれた筆で、さらっと願い事を書いた直政。
はそれを覗き込むと。

「直政さん、それは恥ずかしい!」

「どこがだ!」

「そうやって、周囲の女性落としているんでしょ!?」

「失礼な奴だな」

は恥ずかしいと赤い顔をして逃げていく。

「まったく…それでこれをどうすればいいんだ」

折角願い事を書いた短冊なのに、どうしたらいいのか直政にはわからなかった。
見ていた女中が笹に着けると教えてくれたので、適当な場所に直政は短冊をつけた。





「はぅ〜願い事がいっぱいなってしまって…欲張りですかね」

直虎は短冊を数枚手にして庭に出た。
すでにや直政の姿はなく、笹につけられた飾りが時折風に揺れていた。

「見事ですね」

直虎にとっても、初めての出来事なのでマジマジと笹の葉飾りを見てしまう。
屋敷の者達の短冊に混じって、の書いたものを見つけ微笑んでしまう。

「本当。さんが元気になって良かったです」

息子も思った以上にを気にかけてくれるので安心だ。

さんが来てから、毎日が楽しいです。私も」

最初は笑っていても、まだぎこちなさを感じていたが、最近では直政相手なら素直に話すようだし。
直政も、しっかりとの面倒をみてくれている。
直虎がそこまで感じていなかった不安を、直政の方が感じ取っていたし。
周囲の目に映るの姿など、直虎は考えもしなかった。
まだそれに関しては楽観視できないだろうが、きっと大丈夫だ。
直政がそばで見てくれているならば。
勿論自分もの味方であることには変わりない。

「直虎さまーご飯の用意できましたよー」

が直虎を呼んだ。

「はーい。今いきます!」

眺めているだけで、まだ自分の短冊をつけていなかった直虎は慌てて短冊を笹につけた。

「これでよし」

全部が叶うとは思っていないが、そうなればいいなと思って願ったことだ。

「あ」

その場を離れようとしたが、ふと目に入ったのは息子の短冊。

「どういう顔をして書いたのですかね。あの子にしてはすごいです」

妙に感心してしまった。
直政の書いた短冊には。

が笑顔でいられるように」

とあった。

さんが笑顔でいられるように、頑張りましょうね。虎松」

「直虎さま〜?」

「す、すみません!行きますから!」

に再び呼ばれて直虎は慌てて戻るのだった。








19/12/08
19/12/30再UP