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戦国スローライフで楽しみます。
割と何も考えていなかったようだ。 【4】 所謂戦国時代での生活は割とのんびり満喫できていると、は思っていた。 ただ、与えられた目的などはないので、毎日何をしていいものかと思う事もある。 武家の姫様のような生活は性に合わないし。 元々居候している井伊家に姫様なような人はいない。 あくまで居候。そんな感じ。 なので、以前直政に言った通り、軽いお手伝い程度しかできていない。 それでもいいかと思っているこの頃だが。 「え?違うんですか?」 「そう言うやり方はしたことないねぇ」 井伊家の女中さん達に混じっていた。 ふとした時に、もうじき七夕ですね。なんて話をしたのだが。 「元々宮中行事だからね、乞巧奠とか星合とか呼ぶようだけど」 私達にはあまり関係ないのかも。と女中達は笑っていた。 「そうなんだ…イベントとしてないんだ…」 わかりきったことではあるが、ここは戦国時代。 が知っているイベント事の大半はまだ広まっていないものだ。 「ちゃんの言う、その七夕まつりはどんなことをするの?」 「え?…えーと…これと言って珍しいってものでもないですよ」 女中達にはは井伊家の遠い親戚の子のような伝わり方をしているようで。 流石に違う時代から来たと言うのは話していないらしい。 なので、うかつに変な事は言えないとは口ごもってしまう。 が気にするほど、女中達は七夕への興味はないらしく。 話もあっさり違うものへと移っていった。 (異世界から来ました!…ってなれば多少変わった事を言っても許されるような気がするんだけど…) ここからもっと後の時代から来ました。と言っても普通は信用しない気がする。 割とあっさりが井伊家に落ち着いたのは、徳川家康と言う大物に出会えたからだ。 それも家康にしっかり事情を説明できたこともあって。 出なければ家康に目通りが叶う前にしょっ引かれて牢行きだろうと思った。 (だけど…同じ戦国だとは思えないんだよなぁ…ここは) 授業で習う、テレビで見たような状況とは少し違うように感じたのだ。 だが、それをあれこれ悩んでも仕方ないので考えるのはやめた。 実際、自分がいる場所、自分がいてしっかり腹は空くし、眠くもなる。 不可思議なことなど起きないのだから。 ここで自分は生きているのだと思うから。 (でも、少し寂しいな…) 案外日本の歴史は思った以上に短いのかと。 七夕なんて大昔からあっただろうなと思ったし。 色々すでに他国から伝わっているものがあるのだろうとか。 だが、が思うほど進歩していないようだ。 (七夕飾りなんてごく一般的だと思っていたのになぁ) 最近では自宅で笹飾りなどしなくなったが、どこかへ行けば目に入るそれらに。 あぁ、そう言う時期なんだなぁと思って。 たまに店の中に笹があって、好きな願い事を書いてください。なんて短冊が置いてあるから。 友達と好きな事書いて笹に吊るしたこともあった。 (今年はそれができないんだ…) そして、あまり考えないようなことを今更になって考えてしまった。 (……私がいなくなって、家族はどうしているのかなぁ…) 変な事件として扱われていなければいいが。 こちらへ飛ばした張本人がいるのならば、そいつがうまいこと処理してくれればいいが。 その辺記憶が曖昧なのだ。 元々すごい力を持っているわけでもなく、かといって目覚めるわけでもなく。 本当にただの一般人なので。 (みんなどうしているのかな…) 友達は今の自分の生活を知って羨ましいとか思う?ズルいって思う? それとも、元々なんて知らないって事になっている? 確認のしようがないのでわからないが。 (まぁ…不自由がない生活をしているから、文句なんかないけど…) ちょっと気分が滅入りそうになった。 「虎松。少しいいですか?」 「義母上?はい、なんでしょうか?」 出仕しようとした直政の所へ、義母直虎が呼び止めた。 急ぎの用件などないので、先に義母の室へ行った。 「何かありましたか?」 ここ最近穏やかなもので、戦になりそうなことも起きていない。 だが、直虎はどこか悩んでいるように見える。 「何か。と言うわけではないのですが…さんが…」 「?」 が何かしでかしたのだろうか? 他所様に喧嘩を吹っかけたとか、暴れたとか?壊して弁償しろと要求されているとか? 「何か義母上に御迷惑が?」 ちょっとだけ脳裏に浮かんだ事を口にしてしまう。 「ち、違います!さんはとってもいい子です。他所に御迷惑をかけるような子じゃないです!!」 直虎は小さく息を吐く。 「あなたは何も気づきませんか?」 「気づく?」 「なんだか、ここ最近さんの元気がないようで」 「そうでしょうか?俺にはいつも通りに見えますが」 食事のとき、は会話を楽しみながらすると言っていたので、ここ最近では直政も。 少しずつではあるが、自分なりにその会話に耳を傾けている。 直虎はとの話が楽しいようで、今朝も普通に会話をしていたではないか。 「さん、おかわりしなかったんですよ!」 「………別に、いいんじゃないですか?」 「良くないです!さんはいつもご飯が美味しい〜ってお茶碗2杯は食べるんですよ!!」 今朝はそれがなかったから直虎は心配になったらしい。 「それはどうかと思うのですが…」 「けど!何か病気なのかな?とか思うじゃないですか。咽喉も通らないような悩みがあるとか」 いつもと違う事だから余計に直虎は心配になるらしい。 確かに、毎日それだけ食う奴がと思えば…。 「わかりました。俺も気にかけてみます」 「私もそれとなくさんに聞いてはみますけど…」 直虎は視線を落とす。 聞いたが、直虎が納得するような返事ではなかったようだ。 本当にはいつもと違うようで。 稲に会えた直政が、先日と同じように稲からの話をきいてくれないか。と頼もうとしたのだが。 「がいつもより元気がなくて…何かあったのですか?」 と逆に聞かれてしまった。 いつも阿呆な独り言が多く、能天気な事を口にする奴だと思っていたが。 それが周囲を心配させるほど大人しくしているらしい。 流石に変だと直政も思い、直接に聞くことにした。 「は?」 「だから……何か悩みでもあるのか?皆が、義母上がとても心配なさっている…」 屋敷では話しづらいだろうかと、外に連れ出してみた。 甘いものが好きなようだから、茶屋へ連れて行ってみたのだが。 「何もないですけど?」 とが不思議そうに首を傾げた。 「何も、ないのか?」 「はい。ないですけど」 「だが、義母上は。が通常茶碗2杯食うのに、ここ最近おかわりがないと騒いで」 「………朝から茶わん2杯って結構食べ過ぎですよね…」 元々そんなに大食いでもないので、おかわりはやめた。とは言った。 「だから、元に戻っただけなのでそんなに心配する事は……あ、直虎様にはそうちゃんと自分で伝えます」 でも炊き立てのご飯は美味しいですね。などとは笑っている。 だったら心配はないのか?と直政も思うも。 やっぱり、どこか変だと思い始めた。 「だが、いつもより大人しいと感じるのだが、俺は」 「私、そんなに暴れん坊じゃないですよ」 「極端すぎる答えだな…」 茶屋の縁台で、二人並んで座っているのだが。 なんとなく、からはあまり構わないで欲しいと言っているように感じた。 直政は嘆息しつつ。 「以前も言ったが、何かあったならばちゃんと話してくれ。言ってくれないと俺にはわからん。それに、は自分で思う事があればちゃんと俺には言ってくれただろう?」 「………」 「食事のこととか」 は何も話さない。 これは思った以上に深刻なのか、それとも本当に何もないのか。 だがの反応を見ていると、何かありそうだと思うのだが。 「俺には話せないか?義母上や稲殿にならば話せるのなら」 だが、稲にも話していない所を見るとどうだろうか? 「お父ちゃん!早く早く!」 幼子が父親の手を引き走っている。 「こらこら、そんなに慌てるんじゃないよ」 「わかっているけど、早く、早く〜!」 困惑しているような父親だが、その表情は楽し気で。 幼子も息を弾ませながら嬉しそうだ。 何か待ちきれない出来事が親子にはあるのかもしれない。 直政の目にもその親子が映る。 なんとなく見送ってしまった。 だが、は逆で顔を伏せてしまった。 「?」 「なんでもないです」 「あの親子に何かあるのか?」 「ないですよ、あるわけないし。どこの人か知らないですし……」 ならばそれ以上問う必要はないのかと直政は思い始めるが。 隣に座るの顔を見て、数回かぶりを振った。 「何を我慢しているのだ?」 「我慢?」 直政から見えたの表情は、いつも見せる顔ではなく、ずっと何かに耐えているような。 我慢して口を閉ざしているように見えた。 「そうか、親が恋しくなったか」 「ち、違い…」 が直政に反論しようとしたが、直政の顔を見て少しだけ息をのんだ。 「子供みたいって思いますよね」 「子供だろうが、大人だろうが。親を恋しく思う事は普通だろう」 「………いつもの直政さんなら、甘ったれるな!とか言いそうなのに」 自分はそんなに手厳しい奴に思われていたのか、心外だ。 直政は苦笑いしてしまうが、今のは誰にも弱音を吐けなかったのだろう。 「思えば、そうだな。はたった一人で知らない場所に来たのだから、心細く感じるのも仕方ないだろう」 いつも可笑しなことを口にして、笑って元気でいるが。 「仕方ない、ですかね?井伊家のお世話になっている身なのに」 「深く考える事ではないと思うが…」 直政は茶を少し飲んだ。 「があまりにここに馴染んでいたから、こっちも深く考えなかった。すまない」 直政がの方に顔を向け頭を下げた。 「そ、そんな直政さんが謝ることでも…ただ、単に私が今の今まで気にしなかっただけで…」 鈍感だったんです。と少しだけは笑った。 「私が…いなくなったことで、家族や友達はどうしているのかな?ってちょっと考えちゃって。こっちじゃ良くしてもらって、稲ちゃんて友達もできたし寂しい事ないのに。 だけど、今まで何も考えないで当たり前だったことが、案外こっちじゃそうじゃなくて。 違う世界なんだなって思ったら…寂しいような…気にしないようにしていけど」 は軽く手を握る。 「友達同士で楽しくやっている子達とか、さっきの親子とか。今まで気にならなかったものがすごく気になって…寂しいなって…」 「がいた時代と、ここは極端に違うのだろうな…俺には到底想像もつかないような。 だが、人はそんなに違うものか?自分で稲殿のような友ができたと言っていただろう?」 「………」 「俺や義母上もいる。そう寂しい事はないと思うんだが…まぁそうだな。一人で我慢して偉かったな」 直政は何を思ったのか、の頭を数回撫でた。 「は、はあ!?直政さん!!?」 「我がままを言えと言っているわけではない。だが、寂しいなら寂しいとちゃんと言えばいい。義母上などはきっとを嫌がるぐらい構うだろうに」 幼子扱いされたようで、は反論しようとしたが、直政の言葉に。 反論などできず、それどころか。ぷっつりと糸が切れたように涙を零した。 「泣いたってどうしようもないって…わかっていたのに…」 「そうか?」 「だって、泣いたからって元の時代に帰れるわけでもないのに…」 「帰りたいか?」 「か、帰りたい気持ちはあるけど…」 はしゃくりあげるも、数回目元を拭った。 「まだ…当分はいいです。戦国ライフを楽しむって決めたので」 「なんだそれは」 直政は笑った。 だけど、がそう答えねばならない気持ちはわかる。 元の時代に戻る方法など誰にもわからない。 方法を探すにもどうしていいのか誰にもわからない。 だから。 「が寂しくならないように、気に留めておこう」 と直政がの頭をくしゃりと撫でた。 「な、泣かさないでくださいよ〜」 「と言われてもな」 直政は笑うが、ふといくつかの視線を感じる。 「お姉ちゃん、お兄ちゃんに泣かされたの?」 「何されたの?」 「叱られたの?」 と子供が数人話しかけてきた。 「な!俺が泣かしたわけでは、なく、だな」 直政にしては珍しく慌てた。 それを見ては涙を拭いながら笑った。 19/07/07
19/12/30再UP
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